RAND Europeが2026年2月に発表したPerspective “Countering Russia-style autocracy in Georgia”は、Georgian Dream(GD)政権下でのジョージアにおける情報操作の制度化プロセスを、2012年から2026年までの14年間にわたって追跡した分析である。著者のWilliam Dunbarは20年以上の南コーカサス経験を持ち、ジョージアでの情報完全性プロジェクト、アルメニアでのメディア持続可能性支援、民主的アカウンタビリティとEU統合を推進する全国キャンペーンを主導してきた偽情報対策・メディア開発の専門家である。共著者のHarper Fine、Hanna Hodgetts、John Kennedyはいずれもロシア・ユーラシア地域研究、ハイブリッド戦争、偽情報分析を専門とする。
本レポートの特徴は、政治的権威主義化と情報操作戦略を一体的に分析している点にある。GDによる権力掌握の各段階—連立パートナーの排除、司法の政治化、選挙不正の組織化、市民社会の窒息—において、情報操作がどのような役割を果たしたかを具体的な所有関係、放送内容、陰謀論の構造分析を通じて明らかにしている。レポートは最終的に、英国とEU加盟国に向けた3カテゴリの政策提言を提示するが、その中核にFIMI(Foreign Information Manipulation and Interference)対策が位置づけられている。
メディア所有構造の掌握と親ロシアコンテンツの組織的配信
GDによる情報空間の掌握は、メディア所有構造への浸透を通じて実現された。2022年のロシアによるウクライナ全面侵攻後、政府系テレビ局ImedとPosTVは親ロシア的コンテンツと陰謀論を組織的に放送し始めた。Imediはビジネスパートナーが所有し、PosTVはGD国会議員が所有している。この所有関係の詳細をレポートが明記している点は重要である。ジョージア政府は形式的には国連でのウクライナ支援決議を支持していたが、政府と直接的利害関係を持つメディアは正反対のメッセージを流す二重構造が確立されていた。
この情報操作インフラは、2024年の「外国影響力の透明性に関する法律」(いわゆる外国エージェント法)と2025年の補助金法修正によって制度的に強化された。外国資金を受け取る組織は制限的な監督下に置かれ、「外国エージェント」として申告することが義務づけられた。レポートは、ジョージアの口語では「外国エージェント」が「スパイ」を意味することを指摘している。この法律の目的は、1990年代以降国際支援に依存し権威主義に対する防波堤となってきたジョージアの市民社会とメディアを解体することにあった。2024年には当時のガリバシヴィリ首相が大規模抗議を受けて法案を撤回したが、後任のコバヒゼ首相が議会選挙の数ヶ月前に再提出し強行採決した。
技術的側面では、中国からの監視技術導入が親EU抗議行動の弾圧に活用された。ジョージアと中国は2023年に戦略的協力協定に署名したが、実質的経済利益は得られておらず、二国間貿易は減少している。北京は国連でアブハジアと南オセチアからの国内避難民の帰還に関するモスクワ側の立場に賛成票を投じた。レポートは、中国との関係が実利ではなく地政学的シグナリングの手段として機能していると分析している。
「Global War Party」陰謀論の三層構造
2022年以降、GDとIvanishvili自身が推進する「Global War Party」(または「深層国家」)陰謀論が政府コミュニケーションの中心的特徴となった。この陰謀論の中核的主張は、西側の影の勢力がジョージアにウクライナ戦争の第二戦線を開かせようとしており、その中にはロシアが占領するアブハジアと南オセチアの奪還も含まれる、というものである。GDがこの紛争への参加を拒否したことが西側からの批判とEU加盟交渉の停止を招いたとされる。
レポートは、Peter Pomerantsevによるロシアに関する分析を引用し、この種の情報操作の目的を理論的に説明している。Pomerantsevの枠組みによれば、「ロシアの情報操作の目的は大衆に政府が正しいと説得することではなく、水を濁すこと(muddy the waters)である」。この観点から「Global War Party」陰謀論を分析すると、三層の認知操作メカニズムが浮かび上がる。
第一層は、ロシアがウクライナに対して無謀な戦争を開始したという証拠を疑わせることである。西側の「影の勢力」が戦争を引き起こしたという物語は、ロシアの主体的責任を曖昧化する。第二層は、ジョージア自国領土の20%を占領している責任もロシアにはないと暗示することである。陰謀論の論理では、2008年の戦争も「Global War Party」が引き起こしたことになっており、実際Ivanishviliは2024年の選挙キャンペーン演説で「グルジア領土をロシアに引き渡した」責任者を逮捕すると予告し、すべて「Global War Party」のせいだと主張した。第三層は、西側がジョージアをEU加盟交渉停止で「罰している」理由を、第二戦線への参加拒否という架空の理由で説明することである。
この陰謀論は「第二戦線」ナラティブと結びついている。レポートによれば、このナラティブの目的はジョージア国民の意見を西側に対抗するように転換させることにあり、西側がジョージアをロシアとの戦争に引きずり込まなかったことで罰していると示唆する。2024年11月、コバヒゼ首相はGDが4年間EU統合努力を停止すると発表し、公衆の反発と抗議を引き起こした。これに対し欧州議会は「ジョージア国民の欧州大西洋志向を支援し続け、市民社会と民主主義運動が国を民主的で欧州的な道に戻すのを支援する」と表明した。しかし2025年、ジョージア外務省はEUとNATOに関する情報センターを閉鎖し、EU統合停止決定を批判する公開書簡に署名した数十名の外交官を解雇した。
Pomerantsevの「水を濁す」理論の実証例として、このナラティブは事実認識そのものを攪乱する。ジョージア国民の大多数がEU加盟を支持しているという世論調査結果があるにもかかわらず、陰謀論は「真の敵」を西側に転嫁する認知的枠組みを提供する。
選挙キャンペーンにおける視覚的プロパガンダと行政資源の動員
2024年の議会選挙と2025年の地方選挙は、多くの有権者によってジョージアの外交政策の軌道—西側かロシアか—を決定するプロセスとして認識された。選挙キャンペーンは陰謀論と視覚的メッセージを統合した。両選挙のキャンペーンバナーは、ウクライナの破壊とGD下で美化されたジョージアの街並みを対比させ、「戦争拒否:平和を選べ(No to war: choose peace)」というスローガンを掲げた。
Ivanishviliは選挙の都度政治に復帰し、権力確保後は再び引退して代理人を通じて統治する慣行を続けている。2024年選挙では名目上は親EUの綱領で選挙運動を行いながら、選挙演説では野党政党の非合法化、「LGBT宣伝」の禁止、2008年に「ジョージア領土をロシアに引き渡した」として非難する人物の逮捕を予告し、すべて「Global War Party」のせいだと非難した。分断された野党に対してGDは選挙に勝利したが、監視団は一連の違反を特定した。
International Society for Fair Elections and Democracyは、GDが勝利を確保するためにすべての行政資源を動員したと結論づけた。具体的には、強制的措置、規制的措置、制度的措置、メディア的措置、財政的措置が含まれる。欧州議会も、選挙結果はジョージア国民の意思を反映していないとして国際監督下での新選挙を求める声明を出した。OSCEの選挙監視報告書とHans Gutbrodによる分析”A Dozen Daggers: How Georgia’s 2024 Elections Were Systematically Rigged”は、選挙が組織的に不正操作されたことを文書化している。レポートは、GDの長期にわたる権力強化が国家掌握の段階に達したことを選挙が実証したと分析している。
選挙後、ジョージアのロシア式権威主義への転換は加速した。コバヒゼのEU統合停止発表は前述の通りだが、2025年には反西側路線がさらに進んだ。副外相Alexander Khvtisiashviliは、イラン大使館で「イスラエル政権によるイランの領土完全性に対する武装攻撃で死亡した殉教者の追悼」に署名した。これは2024年にコバヒゼがイラン大統領Hasan Rouhaniの葬儀に出席し、当時のハマス指導者Ismail Haniyehとヒズボラ副司令官Naim Qassemと並んで撮影された後のことである。
GONGOsによる市民社会空間の汚染
レポートは、GONGOs(政府主導NGO)の増殖による独立系非営利組織の排除戦略を指摘している。GONGOsが増え続ける中、マッピングと認識向上努力が必要であり、そうしなければ独立系非営利組織がドナー資金から排除されると警告している。この戦略は二重の目的を持つ。第一に、外国エージェント法と補助金法によって制約された独立系市民社会組織が資金調達できなくなった空間を、政府系組織が占拠する。第二に、GONGOsは不正選挙を正当なものとして偽装する機能を果たす。
レポートの政策提言でも、独立系選挙監視ミッションやダイバーシティと多元主義を促進するイニシアチブを通じてジョージアの民主主義努力を支援する機会に警戒を怠らないよう求めつつ、「独立したマッピングと認識向上努力が必要であり、GONGOsが不正選挙を正当なものとして偽装できないようにしなければならない」と明記している。市民社会空間の系統的破壊は、情報操作と並行して進行する権威主義化の制度的側面である。
FIMI対策の政策提言:実践的構成要素と実効性の課題
レポートは英国とEU加盟国に向けて3カテゴリの政策提言を提示している。第一は標的型金融制裁とビザ禁止で、偽情報を拡散するメディア組織の所有者、外国エージェント法に賛成票を投じたGD国会議員、権限を濫用する判事と警察官を対象とする。EUと英国はGD当局者とその家族に対する欧州渡航のビザ禁止も課すことができる。
レポートは米国のMEGOBARI法(Mobilizing and Enhancing Georgia’s Options for Building Accountability, Resilience, and Independence)に相当する立法をヨーロッパも導入すべきだと提案している。MEGOBARI法は「ジョージアにおける中国共産党、イラン政権、ロシア連邦の影響力に対抗する」ことを目指し、「ロシア式外国エージェント法を支持する、または合法的な大衆や市民社会の反対を弱体化・抑圧する」政府当局者への制裁を求めている。同法は民主的後退が逆転すれば二国間協力とジョージア人へのビザ政策を改善する条項も含む。ただしレポートは注釈で、MEGOBARI法が2025年に共和党上院議員Rand PaulとMarkwayne Mullinによって阻止されたことを記録している。
第二カテゴリはジョージアの市民社会組織と独立メディア組織への支援強化である。EUの現在の地域焦点はモルドバとウクライナとのEU加盟交渉にあるが、USAIDが撤退した状況下でジョージアの市民社会組織への支援を拡大できると提言している。これには、より困難で敵対的な条件下で活動できる手段の開発が含まれる。ドナーは人権と民主主義テーマ別プログラム、外交政策手段サービス(FPI)、EUの近隣・開発・国際協力手段の緊急対応の柱などのプログラムを強化できる。
独立した報道を維持するための資源も配分できる。ジョージアで依然として活動する独立系オンラインメディアは、専用信託基金またはEuropean Endowment for Democracyを通じて資金提供され、暴力的弾圧の場合に備えてジャーナリスト移転とリモート作業の緊急計画を策定できる。レポートは、European Endowment for Democracyの2024年年次報告書を参照している。
第三カテゴリがFIMI対策である。レポートは「ロシアの偽情報戦術に適応する堅固なカウンター偽情報キャンペーンと外国情報操作・干渉(FIMI)活動を展開し、ジョージアの情報エコシステム内にレジリエンスを構築すべきである」と提言している。具体的構成要素は以下の通りである。
まず、ジョージアにおける偽情報の課題への理解を深化させ、EUの主力FIMI対策プログラムであるEUvsDisinfoの可視性を促進する。次に、メディア専門家、市民社会組織、地方政府、公的機関の間でより広範な協力ネットワークを育成する。第三に、ステークホルダーグループの偽情報を特定・対抗し事実に基づく対話を促進する能力を強化する。第四に、公的フォーラム、キャンペーン、ソーシャルメディアエンゲージメントなどを通じて大衆を認識向上活動に参加させる。
レポートはまた、課題にもかかわらず欧州の同盟国はジョージアの民主主義努力を支援する機会に警戒を怠らないべきだとし、国際選挙監視ミッションやダイバーシティと多元主義を促進するイニシアチブを挙げている。前述の通り、GONGOsが不正選挙を正当なものとして偽装できないよう独立したマッピングと認識向上努力が必要である。
これらの提言の実効性については、EU加盟交渉が停止され、GDが欧州大使の追放まで検討している状況下での実施可能性という根本的課題がある。ドイツは2025年10月に大使Peter Fischerを召還し「非常に明確な外交的シグナル」としたが、Fischerはトビリシ・ベルリン間の協議後に職務に復帰し、外交関係は緊張したままである。
情報操作研究への示唆:「水を濁す」戦略の実証的検証
本レポートは、Peter Pomerantsevの「水を濁す」理論をジョージアの14年間のケーススタディを通じて実証的に検証している。情報操作は、大衆を特定の立場に説得することではなく、因果関係の認識そのものを攪乱し、複数の矛盾する物語を流通させることで判断を不可能にする。「Global War Party」陰謀論は、ロシアの侵略責任、領土占領の責任、EU統合停止の責任を同時に曖昧化し、西側への敵意という感情的反応だけを残す。
レポートが提示するデータからは、権威主義的情報操作の段階的進化モデルが抽出できる。第一段階はメディア所有構造への浸透(2012-2019)、第二段階は陰謀論の製造と体系的配信(2022-)、第三段階は選挙キャンペーンへの統合(2024-2025)、第四段階は法的・制度的手段による反対勢力の抑圧(2024-)である。各段階は累積的であり、前段階の成果を基盤として次段階が構築される。
ジョージア事例が情報操作研究に提供する最も重要な教訓は、情報操作が単独の戦術ではなく権力掌握の包括的戦略の一部として機能するという点である。メディア掌握、陰謀論、選挙不正、司法の政治化、市民社会の窒息は相互に強化し合う。この統合性は、FIMI対策の限界も示唆している。情報操作への対処と政治的権威主義への対処は分離できない。EUvsDisinfoのような情報空間でのカウンター措置は、独立メディアと市民社会組織が物理的に存在し活動できる環境がなければ機能しない。逆に言えば、FIMI対策は情報技術的介入だけでなく、市民社会保護、メディア支援、法の支配強化という包括的民主主義支援の一部として設計されなければならない。


コメント
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