混沌を渡る:2026年のイスラム国オンライン生態系——ISD多プラットフォーム調査が示すモデレーション失敗の構造

混沌を渡る:2026年のイスラム国オンライン生態系——ISD多プラットフォーム調査が示すモデレーション失敗の構造 情報操作

 2026年1月下旬、シリア北部の拘留キャンプからイスラム国の収監者が脱走したとの情報がオンライン上に流れ始めると、IS支援エコシステムは即座に反応した。複数のSNSプラットフォーム、メッセージングアプリ、フリンジアプリケーション上のアカウントが一斉に動き出し、脱走者を支援する方法についてフォロワーへの呼びかけを始めた。「姉妹たちからの」音声メッセージが「ジハードの獅子たちよ行動せよ」と各プラットフォームで転送され、脱走に成功した場合に連絡すべき電話番号が共有され、「ピックアップトラックを持つ兄弟」に移送協力を求める投稿が連なった。この一連の動きは、IS支援のオンライン生態系がプラットフォームをまたいで緊密に接続されており、支援者・アウトレット・グループが公然と行動していることを図らずも可視化した。

ISDと本報告書について

 Institute for Strategic Dialogue(ISD)は、テロリズム・過激主義・外国干渉・権威主義の検出・解明・対抗を専門とする国際的な非営利シンクタンクである。2006年設立で、ロンドンを本部とし、ワシントンDC、ベルリン、パリ、アンマン、トロントに拠点を持つ。「Coordinating Through Chaos: The State of the Islamic State Online in 2026」は、ISD-USのMoustafa Ayad(グローバル・イスラム主義・対テロリズム研究部門長)が著し、2026年2月26日に公開された。本報告書はISDが継続してきた年次マルチプラットフォーム調査の最新版であり、2025年版でISオンライン生態系の10年を評価したのに続く位置づけとなる。分析期間は2025年12月から2026年1月の約1カ月間で、Facebook・TikTok・Instagram・WhatsApp・Telegram・Element・SimpleX、および公開ウェブ上の3サイトを対象に、合計500のアカウント・チャンネル・サイトを分析した。ISDが蓄積してきた非公式IS支援アウトレットおよびグループのカタログは、本報告書時点で944件に達しており、多くが摘発後に新名義で再生している。

生態系の構造:永続的再生の力学

 ISエコシステムの基本的な論理は、IS自身が公開した映像の中の言葉に集約されている——「1つのアカウントが閉じられれば3つ開く。3つが閉じられれば30を開く。」この言葉は現在、ミームとしてオンラインで流通するほど広く認知されているが、その内容は2026年においても組織の実際の行動様式を正確に反映している。報告書は、IS支援エコシステムを機能の異なる三つの層として整理している。第一層は非公式の「支援アウトレット」で、ISのメディアコンテンツの制作・配布を専業とする。第二層は「支援グループ」で、メディア生産以外の複合的な機能を担う。第三層は「インフルエンサー」で、個人ブランドのもとにISの中核的イデオロギーを平易化して拡散し、公式・非公式双方のコンテンツを中継する役割を果たす。ISはその公式ニュースレターal-Nabaの2022年号で「信仰に戦争を仕掛けるメディアの巨大な塊に立ち向かう大きな責任がメディア兵士の肩にある」と呼びかけており、この動員構造はオフィシャルの要請として機能している。生態系の柔軟性は「飛行中に方向を変える鳥の群れ」に例えられており、摘発への即時対応・バックアップ形成・再命名・他プラットフォームへの移行が同時並行で進む。

Facebook:プロフェッショナルモードの悪用とベンガル語格差

 本報告書で最もデータが密集しているのがFacebookの分析であり、同プラットフォームがIS支援エコシステムの主要ハブであり続けていることが改めて示された。ISD研究者は350のIS支援アカウントをFacebook上で特定した(分析の上限として設定した数であり、実際の生態系はこれを大幅に超えると報告書は注記している)。これらのアカウントはアラビア語、パシュトー語、ベンガル語、アムハラ語、ソマリ語、スワヒリ語で運用されており、単純なキーワード検索によって発見可能であった。研究者はIS関連キーワードで支持アカウントを特定した後、そのコンテンツに反応したユーザーをマッピングし、エコシステム全体のつながりを可視化した。

 このFacebook分析で特に注目を集めた観察が「プロフェッショナルモード」の悪用である。Facebookが提供するこの機能は、ユーザーが「デジタルクリエイター」「写真家」「公人」「宗教団体」「ブロガー」などとして自己申告することで、より詳細なエンゲージメント指標へのアクセスや、条件を満たした場合のコンテンツ収益化を可能にする。ISDが発見したプロフェッショナルモード利用アカウントは105件に上り、そのうち96件が主として「デジタルクリエイター」を自称し、累計フォロワー数は338,000以上に達していた。IS関連コンテンツが同機能を通じて実際に収益化されているかどうか研究者は確認できなかったが、Facebook自身のポリシーによれば地域とオーディエンス規模によっては収益化が可能であり、構造的リスクとして存在する。

 個別の数値を見ると、その規模は際立っている。ベンガル語圏のIS支持者が運営する「wilayat Bengal(ベンガル州)」を名乗るプロフェッショナルモードアカウントは13,000以上のフォロワーを持ち、わずか1カ月間に公式ISビデオのスニペット8件で359,000ビューを生成した。そのうち高齢の自爆テロ実行犯を映した映像1本は18時間で71,000ビューを記録した。ベンガル語アウトレット「Loyalty and Disavowal Media(名称は改変)」と連携した別のアカウントは7,300フォロワーを持ち、ISIRシリア時代のスポークスマンであった故Abu Muhammad al-Adnaniの音声が重ねられた動画を投稿し、17,000ビュー・1,100いいねを獲得した。4,200フォロワーを持つ別のアカウントはプロフェッショナルモードを活用し、イエメン属州の捕虜処刑動画をミーム形式で投稿して7,800ビューを記録したが、警告ラベルは付与されていなかった。悪名高い処刑映像から切り取られたシーンを「この男はこんな重さをどうやって運んでいるんだ?」というテキストと組み合わせたミーム動画は74,000ビューを獲得し、261件のコメントの大半がグループへの賞賛であった。6,000フォロワーのアカウントはモザンビーク属州の公式ISビデオを無加工で5本投稿しており、ブランドロゴもぼかしていない状態のまま2,300ビューを集めた。

 これらのコンテンツに共通する問題は、プラットフォームのポリシーを明確に違反しているにもかかわらず、一部のアカウントが数カ月にわたって活動を継続できていた点にある。報告書はベンガル語コンテンツが他言語(特にアラビア語・英語)に比べてモデレーションの適用が薄いことを観察しており、この言語別格差が高エンゲージメントの一因であると示唆している。

TikTok:ゲーム化されたジハードと若年層ターゲティング

 ISDはTikTok上で50のIS支援アカウントを特定した。これらのアカウントは公式ISニュースを共有するニュースアカウント、メディア支持者(munasireen)、そしてビデオゲームの美学をジハード宣伝と融合させる「オルトジハーディスト」が混在している。この分析で特に注目を集めたのが、RobloxおよびMinecraftを用いたゲーム化ジハード宣伝の実態である。

 過去5年間にわたり、一部の支持者はRobloxにISの「仮想カリフ制」を構築し、そのゲームプレイ映像をTikTokおよびDiscordに投稿し続けてきた。シンプルなキーワード検索によって、これらのアカウントは容易に発見可能であった。あるアカウントはRoblox上のジハード戦士のデジタル表現にアラビア語の音声を重ね、ISスポークスマンの語調を模倣しながらムスリムのRobloxプレイヤーに対して「不信仰者と交わるな、排除せよ」と呼びかけた。この動画は26,700ビューを記録した。同アカウントの別の動画では、Roblox上で捕虜に「ナイフか銃弾か」を迫るシーンが公式IS処刑映像のパターンを明確に模倣しており、そのコメント欄には実際の処刑映像のミームが流入していた。イタリアのカトリック聖心大学社会学部TEAM(Team for Security, Terroristic Issues & Managing Emergencies)研究センターが発表した先行報告はTikTok上のプロIS Robloxエコシステムを「過激化プロセスの出発点」と位置づけており、本報告書の観察はこれを追認する形となっている。

 モデレーション回避の戦術として特筆すべきは、言語の選択による検出逃れである。「Knights of Translation(Fursan al-Tarjama)」を名乗る翻訳専門グループはIS公式コンテンツをクルド語に翻訳し、2つのTikTokアカウントで配布していた(フォロワーはそれぞれ3,000と800)。このグループが傘下に持つ組織がクルド語アカウント計4件をTikTok上で運用しており、al-Nabaニュースレターとal-Amaqの公式コンテンツを中継していた。これはIS支援アカウントが、アラビア語・英語と比較してモデレーションリソースが手薄な言語を意図的に選択していることを示す具体例である。ISのレガシーコンテンツが新たな視聴者を得ているという観察もある。IS建国期の映像スニペットを専門に投稿するアカウントは、10年以上前のコンテンツによって283,000ビューを蓄積していた。

Instagram・WhatsApp:Metaエコシステムの横断的搾取

 ISDはInstagram上で50のIS支援アカウントを特定した。そのうち多数がFacebook上の同一アウトレット・グループ・インフルエンサーに属しており、両プラットフォームでほぼ鏡像の活動を展開していた。Meta傘下の両プラットフォーム間の移行コストが極めて低い構造が、IS支援者によって意図的に活用されている。あるアカウントは自身のバイオにミラーアカウントへのリンクを貼り、90本のIS支援動画を投稿して累計709,000ビューを獲得した。そのうち最も人気を集めたのは故Abu Muhammad al-AdnaniおよびAbu Musab al-Zarqawiの音声録音を重ねた動画で、77,600ビューを記録した。Instagramでも「プロフェッショナルモード」が活用されており、カスタムハッシュタグによるリーチ拡大と組み合わせて運用されていた。

 報告書が特に注目する戦術の一つが「ソーシャルメディアレイド(raids)」グループの存在である。これは分散した支持者を組織化してニュースメディア・政府機関・NGOのアカウントのコメント欄をIS支持コンテンツで一斉爆撃する活動で、Facebook・Instagram・Telegramにまたがって運用されている。あるレイドグループはフォロワーをプラットフォーム別の「大隊」として編制し、X・Facebook・YouTube・フォーラムを標的にした月次作戦を展開して、「攻撃」成功をインフォグラフィック(国別内訳付き)で記録・共有していた。このグループはal-Nabaの記事を英語に翻訳・リデザインして配布した実績も持ち、FacebookではプロフェッショナルモードでリーチタLを最大化しながら、Instagramでは「成果の記録」に専念するという機能分担を行っていた。

 WhatsApp上ではISDが15のチャンネルおよびグループを分析した。最大の事例は「Lion Network(名称は改変)」と呼ばれる支援グループで、5,000以上の登録者を持つ公開チャンネルを通じて公式IS映像・al-Nabaニュースレター・ニュースブレティンを配信している。2024年7月から稼働しており、摘発に備えたバックアップチャンネル(約2,000登録者)を並行運用している。このグループはTelegramの複数チャンネル(英語・アラビア語・クルド語・フランス語の公式ニュースをbotが自動配信)にもリンクし、さらにSimpleXへの接続も提供している。FacebookおよびInstagramのアカウント管理者がWhatsAppのチャンネル・グループ管理者と重複するケースが多数確認されており、MetaのFacebook・Instagram・WhatsAppが単一エコシステムの回路として機能している構造が浮かび上がる。

TelegramからElement・SimpleXへ:暗号化空間の機能分担

 Telegramにおけるタは引き続きIS公式コンテンツの最重要配布基盤である。毎週木曜、al-Naba新号の配信に合わせてスタンドアロンチャンネルが新規作成されるという動きが観察されており、公式ビデオがISの各属州から公開される都度、同様のパターンが繰り返される。ISDが分析した15のチャンネル・グループの中で特に規模が大きかったのが「Worldwide News(名称は改変)」を名乗る代替ニュースアウトレットで、286,000を超える登録者を抱えていた。このチャンネルは2025年10月以前は、2人のムスリム夫婦の日常生活を記録するアカウントとして運用されていたが、10月以降IS支援アウトレットによる乗っ取りが確認され、IS公式リリースから複製したコンテンツを独自ブランドのニュースとして配信し始めた。摘発に備えた複製ページを事前に構築し、個人プロフィールを保険として活用するという手法は、ISDが2022年以降継続的に観察してきた既知のモデルである。このアウトレットはIS支持者が「kill」「bomb」などのキーワードに割り当てた47種類の絵文字コードリストも配布しており、キーワードフィルタリングの回避手段を組織的に共有している。

 IS支援生態系において最も深刻な懸念を示しているのが、Element・SimpleXという新興の暗号化メッセージングアプリへの移行である。Elementは分散型・オープンソースの暗号化メッセージングアプリ、SimpleXはメールアドレスも電話番号も不要で登録できるオープンソース・暗号化アプリであり、いずれも既存の規制・監視の射程が及びにくい。ISDが分析した15のチャンネル・グループには、IS攻撃計画マテリアルの配布、メディアグループへのリクルート活動、OpSecに関する情報交換(マルウェア検出法・「スパイ」の排除方法など)が含まれていた。これらのプラットフォームはTelegramやWhatsAppが摘発された際の「ライフライン」として機能しており、支援者・グループ・アウトレットのコミュニティが再生する場となっている。

 報告書が実名を伏せた特定のアウトレットは、Element・SimpleX上で「次世代ローンウルフ」の育成を専業とし、実際のテロ関連事件を詳細に解説する教材を提供していた。そこで教材として取り上げられたケースには、Ammar Abdulmajid-Mohamed SaidによるミシガンのLexington Charter Township陸軍予備役センター上空でのドローン飛行偵察(その後IS支援テロ計画容疑で逮捕)、Shamsud-Din JabbarによるMetaのARグラスを使ったニューオーリンズ・バーボンストリートの事前踏査(その後元日に車両突入テロを実行)、そしてKyse Abushanabによる自爆ベスト・起爆装置・タイマー・即席爆発物の製造手順のオンライン配布が含まれる。これらの事件はいずれも「孤独な実行者」として個別に扱われがちだが、IS支援エコシステム上では戦術的な学習事例として体系的に共有・分析されていた。

モデレーション設計への含意と提言

 報告書はIS支援エコシステムが単にプラットフォームの取締りに抵抗しているだけでなく、モデレーション縮小という現在の業界潮流を追い風として規模を拡大している可能性を指摘する。Wall Street Journalの2025年1月報道(「ソーシャルメディア企業がコンテンツモデレーションをトレンドダウンと判断」)を参照しながら、モデレーション強化の時期と比較してIS関連コンテンツのエンゲージメント率が上昇していることを観察している。ただしこの上昇がモデレーションの空白によるものか、プラットフォームのアルゴリズム変化によるものか、あるいはIS支援者自身の戦術的調整によるものかは、本報告書の分析では判別できていない。

 報告書が示す4つの提言は、ISDが継続的に主張してきた立場を再確認する形となっている。第一に、専門家による人力モデレーションへの追加投資を求めており、特に利益率の低い市場・言語(ベンガル語の事例が典型)においてこの必要性が高いと指摘する。アカウント再犯(摘発後の再登録)に対抗するための戦略も専門的知識なしには機能しない。第二に、個別アカウントや単発行動を対象とした摘発から、クロスプラットフォームのネットワーク協調型アプローチへの転換を求めている。Europolが2019年および2024年に実施した広範なマルチプラットフォーム同時摘発を成功例として挙げ、Global Internet Forum to Counter Terrorism(GIFCT)などの業界横断組織を通じた継続的な協調を求めている。第三に、「ブロークンテキスト」(文字を意図的に分断して記述するモデレーション回避手法)のようなシンプルな回避策をAIが検出できるよう能力強化を求めている。第四に、IS支援者・アウトレット・グループが形成するナラティブバンクを各国政府の戦略コミュニケーションに活用することを提言している。IS支援者が繰り返し使うフレーム——アフリカ・アジアのムスリムが直面するグローバルな不正義、それに対する解決策としてのIS加入——に対して、具体的な行動で応答する戦略的コミュニケーションが必要だと論じている。

 2026年時点でIS支援エコシステムが有するプラットフォームの悪用能力は、IS本体の物理的地理的衰退とは独立して機能し続けている。生態系は縮小しておらず、むしろ規模と到達範囲の点で拡大の兆候を見せている。944件のカタログ済みアウトレット・グループという数値は、生態系の全貌の一部にすぎない。プラットフォームが単独で取り得る措置の限界を本報告書のデータは示しており、法執行・プラットフォーム・研究機関の継続的な協調なしには、この生態系の解体が構造的に困難であることを裏付けている。

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