ウガンダの首都カンパラに拠点を置く市民テック団体Pollicyは2026年7月、アフリカ4カ国の選挙期にディープフェイクが女性政治家への偽情報にどう用いられたかを整理した報告書を公表した。原題は The Evolving Role of Deepfakes in Shaping Gendered Disinformation Targeting Women in Politics in Africa で、本文は22ページ、著者はBonnita NyamwireとPollicy創設者のNeema Iyer、査読者としてPeace Olive AmugeとBonaventure Saturdayが名を連ねる。Pollicyはデータ、テクノロジー、デザインの専門家で構成されるフェミニスト系の集団であり、テクノロジーを介したジェンダーに基づく暴力を中心的な活動領域とし、同じ公開ページではタンザニアとコートジボワールで被害者支援チャットボットを共同開発した報告も並ぶ。本報告書は被害の可視化と政策提言を目的としたアドボカシー文書であり、中立的な計測研究として書かれたものではない点を前提に読む必要がある。対象はウガンダ、カメルーン、コートジボワール、タンザニアで、いずれも2025年から2026年にかけて選挙を実施した。報告書の主張は、ディープフェイクが既存のジェンダー化されたオンライン暴力を増幅し、性的言説、道徳、容姿、家族役割、私的関係を軸に女性の信用を毀損していること、その究極の目的が女性を公共の議論と政治参加から退出させる「沈黙化」にあること、そしてプラットフォームの対応が遅く一貫しないために偽コンテンツが長期間流通し被害を深めていることに集約される。
4カ国を選んだ理由とAI統治の空白
報告書は序論で、アフリカ全域で各国政府や地域機関がAI国家戦略を相次いで公表し、AIスタートアップも増加している一方、整備状況の不均衡、現地言語のデータセットや言語資源の不足、ガバナンスとプライバシーの欠落、執行能力の偏りが残ると指摘する。引用される推計では、アフリカ諸国の約80%が、ディープフェイクのような生成技術の悪用を含むAIリスクを管理するための規制枠組み、人材、制度能力を十分に備えていない。大陸はAIの導入初期段階にあり、現地の文脈を想定せずに作られた技術を使う「顧客」の立場に置かれているため、操作されたコンテンツの検知と対応が難しいという認識が議論の出発点になっている。
そのうえで報告書は、4カ国を検討対象とした理由を4点挙げる。第一に、4カ国がいずれも2025年と2026年に選挙を行い、政治的操作や中傷が激化しやすい時期に当たったこと。第二に、アフリカの女性政治家がオンライン上の虐待とジェンダー化された偽情報に不均衡にさらされ、ディープフェイク画像や捏造発言が女性指導者の正統性を奪い家父長制的規範を武器化する手段として使われているという先行研究の蓄積があること。第三に、4カ国が政治動員とコミュニケーションをSNSに強く依存し、AI統治の枠組みが限られ、デジタル被害への執行が弱いという共通の脆弱性を抱えていること。第四に、ディープフェイク研究が米国や欧州の選挙を中心とするグローバル・ノース偏重であり、アフリカの政治生態系での機能、とりわけ女性政治家がほぼ不可視になっていることである。報告書は自らを、今後の実証研究を導くための「基礎的なエビデンス基盤」と位置づけている。
| 国 | 対象選挙 | AI関連の規制状況(報告書の記述) |
|---|---|---|
| ウガンダ | 大統領・議会選挙。2025年11月に選挙運動開始、2026年1月投票、2026〜2030年任期 | AIガバナンス枠組みの策定に着手、データ保護法あり、AI固有の包括規制なし |
| カメルーン | 大統領選挙、2025年10月12日投票。9月に選挙運動開始 | AI固有の枠組みなし、データ保護法とサイバーセキュリティ法に依拠 |
| コートジボワール | 大統領選挙、2025年10月 | 専用の枠組みなし、一般的なデジタル戦略を策定中 |
| タンザニア | 総選挙、2025年10月 | AI固有の枠組みなし、データ保護法とサイバーセキュリティ法に依拠 |
報告書は、4カ国のいずれも選挙運動でのAI利用を規制する法律、たとえばAI生成コンテンツ使用時の表示義務を制定していないことを、規制空白の具体例として示している。
資料の成り立ちと手法
事例部分の根拠は、各国の現地パートナーが行ったSNSモニタリングの発表内容と、オンラインで実施した文献レビューの二つである。パートナーは、ウガンダの女性ICTネットワークであるWOUGNET、カメルーンの環境・生活の質向上技術を掲げるNGOであるPROTEGE QV、コートジボワールの女性リーダーシップ団体LeadAfricaines、タンザニアのデジタル権利団体Zaina Foundationの4団体である。報告書はこれらの発表から得た知見を「統合」したと記述しており、監視期間、対象アカウント数、収集した投稿数、分類基準、コーディング手順といった手法上の情報は示されていない。事例の多くは、ウガンダの学生向けニュースサイトCampusbeeやNile Post、ファクトチェック団体のAfrica Check、AFP通信のファクトチェック部門、FactCheckAfrica、アフリカ・デジタル民主主義観測所などの報道や検証記事を出典としている。タンザニアについてはZaina Foundationが2026年に単独報告書を公表しており、本報告書の記述はその要約的な引用に近い。したがって本報告書は、定量的な監視研究というより、複数国の事例を同じ問題意識のもとに並べた質的な事例集として読むのが適切である。
ウガンダ:顔のすげ替え、病気の捏造、合成音声
WOUGNETのモニタリングは、著名な女性政治家を標的にしたAI生成の動画、画像、音声が、性的な言説、虚偽の健康情報、不道徳と不忠の非難という形で現れ、主にXとTikTokで流通したパターンを記録した。報告書が取り上げる3事例は、手法と狙いがそれぞれ異なる。
| 事例 | 手法 | 標的 | 内容と帰結 |
|---|---|---|---|
| 若手議員候補の性的動画 | 顔を他人の身体に合成した動画 | 青年代表議員枠を目指す若い女性 | 支持者はディープフェイクと非難、批判者は本人による意図的流出説を流布 |
| 高齢女性指導者の病気説 | 加工した動画と画像 | 上級の女性政治指導者 | 重病・寝たきりとして描写、HIV末期で服薬していないとの書き込み。本人が認証済みアカウントで否定 |
| アニタ・アモン国会議長の音声 | 声を模倣したAI生成音声 | 国会議長 | 大統領批判を捏造。2025年5月にTikTokで拡散。作成した大学生が有罪答弁 |
第一の事例では、動画がディープフェイクだという反論と、本人が知名度目当てに流出させたという逆方向の噂が同時に広がった。報告書はこれを、ディープフェイクが候補者個人の尊厳を脅かすだけでなく、真実を憶測の対象に変えて選挙の言説そのものを不安定化させる例として位置づける。性的な疑惑が選ばれる理由について、報告書は道徳的保守主義が強い社会ではこの種の物語が浸透しやすいことを加害者が理解しているためだとし、有権者の評価と投票判断に影響すると述べる。第二の事例では、画像に「死ぬべきだ」「寝たきりでいい気味だ」といったコメントが添えられた。報告書はこれを偽情報の域を超えた有権者への扇動と捉え、標的の非人間化、オンライン暴力の正当化に加え、政治参入には重い評判上・個人的代償が伴うという合図をほかの女性に送る抑止効果を指摘する。第三の事例の音声は、大統領がブガンダ王国に対して行った公的謝罪を議長が「選択的」だと非難し、他地域での残虐行為を無視していると告発する内容だった。議長は自分の声ではないとして中傷工作だと否定した。報告書が重視するのはタイミングで、音声は議長が与党内の上級ポストに立候補するための指名書類を受け取る数日前に流通しており、政治的動機が示唆されるとする。報告書はウガンダの節を、議会や個人による公的な反論と否定が偽情報への制度的な認識を示している一方、顔の合成という手口の広がりはさらなる研究を要すると締めくくっている。
カメルーン:情報の霧と「侵入者」としての女性
カメルーンでは、2025年9月の選挙運動開始から10月12日の投票、緊迫した投票後の数週間まで、SNS上の偽情報が政治状況を増幅した。報告書が引くFactCheckAfricaの分析によれば、偽のメッセージ、食い違う映像、捏造された選挙結果が本物の政治的メッセージと混ざってWhatsAppグループやFacebookページで広がり、数百万人にとって現実を曖昧にする「情報の霧」を生んだ。偽の通信のスクリーンショットは怒りの論評や失望のミームとともに数千回共有され、選挙ポスターや短尺動画の一部にはAI生成の画像が使われていた。報告書は、ディープフェイク型の偽情報がカメルーンで初めて主流の政治コミュニケーションに入り込み、規制当局、記者、ファクトチェッカーの検知能力が問われたと記述する。
PROTEGE QVのモニタリングは、こうした従来型の偽情報とは別に、女性政治家を標的とした持続的な性差別的偽情報の波を記録した。攻撃は女性のアイデンティティ、道徳、身体に向けられ、有権者の関心を政策から私生活へ移す機能を果たした。監視対象の事例では、女性候補が資金横領の嫌疑をかけられ、大統領府の高官と性的関係にあると主張されたが、いずれも根拠のない主張だった。女性候補は一貫して男性支配の政治空間への「侵入者」として描かれ、2人の女性候補は生来的に国家を運営する資質を欠くと言われた。そのうちの一人である起業家のBijoは、政治に不向きで国民を代表できないとするネット上のいじめを受け、攻撃の継続を避けるため選挙戦から撤退した。Kahwallaのような女性は婚姻状況と服装を理由に攻撃され、家族構造を損なうと非難された。未婚女性は家庭すら管理できないのだから国家は無理だと描かれ、既婚女性は手に負えない存在と描かれるという、どちらの属性でも攻撃が成立する二重拘束の構図が記録されている。報告書はこの国の攻撃の目的を、女性に自己検閲か撤退を強いることと、参加を尊厳と安全への脅威として描いてほかの女性の参入を思いとどまらせることの二つに整理した。男性政治家を無能や指導者不適格として描く偽情報も報告されたが、ジェンダー規範、道徳、容姿、家族役割を軸にした構造は男性への攻撃には見られなかったとしている。
コートジボワール:可視性そのものが標的の条件になる
2025年10月の大統領選挙前後、コートジボワールでは多数のFacebookアカウントが未検証の主張をコピー・アンド・ペーストで増幅し、別のアカウントは過去の出来事の画像を再利用して新たな根拠のない主張に信憑性を与えた。LeadAfricainesは選挙前期間に複数のプラットフォームを監視し、3人の著名な女性への攻撃を記録した。
1人目は元大統領の元妻で、報告書が出典とするAP通信の記事から、シモーヌ・バグボ元大統領夫人であることが示されている。オンライン上の言説は彼女を今も一定の支持を集める前夫と繰り返し比較し、前夫の指導力を持ち上げながら彼女の資質を貶めた。さらに、コートジボワールでは女性が大統領を務めた例がないことを根拠に候補者としての正統性を疑う言説が広がり、報告書は同様の枠付けが選挙運動を取材する報道関係者の記事にも見られたと指摘する。加えて、彼女の画像に本人が発言していない主張を組み合わせた投稿が確認され、中西部で起きた暴力を彼女と所属政党が扇動したとする虚偽の主張が繰り返し流通した。政党はこれを否定している。2人目の女性候補は報告書で名前が示されていないが、カリスマ性に欠け、大統領に不適格で統治能力がないとする攻撃を受け、政策、指導力、立候補という憲法上の権利ではなく、容姿と人柄が批判の対象になった。3人目は候補者ではない若い女性で、表現の自由の制限と若者の機会不足を公に批判していたが、与党から若者関連事業への協力を打診されて受け入れた後、真剣さと誠実さを欠くとする激しい反発を受けた。報告書は、意思決定の場に入ることも改革への正当な道でありうるという認識が乏しかったと述べ、年齢、性別、政治関与の選択が交差した偏見として位置づける。
この国の節で報告書が引き出す横断的な観察は、標的の範囲である。女性候補、女性記者と番組司会者、SNS上の影響力ある女性、女性活動家、初めて投票する層を含む若い女性が攻撃され、公共の場や政治空間で目に見える存在であることそれ自体が攻撃されやすさの条件になったとする。攻撃はFacebookとTikTokで観察され、未婚、離婚、家族の放置を理由とした非難や、政治ではなく家事に専念せよという言説を通じて、女性の自信と自尊心を削ぎ議論への参加を抑える方向に働いた。
タンザニア:合成音声と文脈偽装の検証過程
Zaina Foundationは2025年10月の総選挙期に、Facebook、WhatsApp、TikTok、Xを監視した。同団体の知見によれば、女性は家庭にとどまるべきだという主張、なぜ夫を置いて政治に出るのかという問い、上級の女性指導者が家族を顧みていないという噂が広く流通し、検証するとその多くが虚偽だった。女性が個人的関係によって地位を得たとする捏造も見られ、能力や指導力よりも私生活が語られた。報告書は、国家元首が女性であり、議会選挙でも多くの女性が立候補した状況が攻撃を増やしたとし、AIツールで捏造した画像の利用が増えたと記述する。大統領を標的とした事例は2件記録されている。
第1の事例は、サミア・スルフ・ハッサン大統領が、タンザニアでの抗議に伴う死者を報じたケニア人記者ラリー・マドウォを称賛する様子を示すとされた動画で、FacebookとInstagramで流通した。動画の大統領は、マドウォを嫌ってはいない、才能ある優れた記者だ、独身だと聞いたので娘を嫁がせてもよい、という趣旨の発言をしている。これに続いて報告書は、大統領を嘲笑的に描き、あるいは国内の混乱を誇張する偽動画2本をXから取り上げている。検証の経緯は次のとおりである。
| 投稿 | 主張 | 判明した実際の出所 | 検証主体と手法 |
|---|---|---|---|
| マドウォ称賛動画 | 大統領が記者を称賛し娘を嫁がせると発言 | 2021年9月の国連総会演説の実映像にAI生成音声を合成。原演説に記者への言及なし | Africa Check。舞台設定の不自然さに着目し、元映像を特定して原演説と照合 |
| 「Idi Amin Mama」動画 | タンザニアの街頭を抗議者が行進 | 2024年6月20日のTikTok投稿。ケニアの増税反対デモ、ナクルのムブル・ギチュア通りで撮影 | AFPファクトチェック。キーフレームの逆画像検索 |
| 10月29日の「炎上」投稿 | Z世代の抗議でタンザニアが炎上、大統領の批判者逮捕が原因 | 10月14日にTikTokで公開された映像で、元はAl Jazeeraが2025年9月9日にYouTubeで公開したネパール議会放火の映像 | AFPファクトチェック。キーフレームの逆画像検索 |
第1の動画について報告書は、国際的な場で職業人として不適切な発言をしたかのように描くことで判断力と指導力への信頼を損ない、外交関係と国際的評価に影響しうると評価する。第2の動画のキャプションにある「Idi Amin Mama」は、大統領をウガンダの故独裁者イディ・アミン・ダダになぞらえる蔑称である。報告書はこれらの動画が、政治的緊張の局面で大統領を弱く混乱した統治不能な存在として描き、男性の独裁者との比較というジェンダー化された嘲笑によって権威を失わせ、男性指導者が受けにくい形で信用を損なっていると述べる。タンザニアの節は、女性の指導的地位への参加がある程度改善したものの進展は限られ、継続的な啓発が必要だという認識で閉じられている。
4カ国の横断比較
報告書は国別の記述を並べる構成をとっており、横断的な比較表は示していない。以下は報告書の記述をもとに筆者が整理したものである。
| 国 | 監視主体 | 主な流通媒体 | 記録された加工の形式 | 攻撃の主な軸 |
|---|---|---|---|---|
| ウガンダ | WOUGNET | X、TikTok | 顔の合成動画、声の合成音声、加工画像 | 性的言説、健康、不道徳と不忠 |
| カメルーン | PROTEGE QV | WhatsApp、Facebook | ポスターや短尺動画のAI生成画像、偽の結果・通信 | 横領と性的関係の捏造、「侵入者」、婚姻と服装 |
| コートジボワール | LeadAfricaines | Facebook、TikTok | 画像と虚偽発言の組み合わせ、過去画像の再利用、コピペ増幅 | 前夫との比較、女性大統領の前例不在、容姿、年齢 |
| タンザニア | Zaina Foundation | Facebook、Instagram、WhatsApp、TikTok、X | 実映像とAI音声の合成、AI加工画像、他国映像の文脈偽装 | 家族の放棄、縁故による地位、独裁者との比較 |
この表から、4カ国で共通するのは加工技術の種類ではなく攻撃の軸である点が読み取れる。道徳、性、家族役割、容姿という軸は4カ国すべてで繰り返され、媒体はウガンダのXとTikTok、カメルーンのWhatsAppとFacebookのように国ごとに異なる。AI生成と検証で確定した女性標的の事例はウガンダとタンザニアに集中し、カメルーンとコートジボワールの記録の中心は文字による言説と画像の文脈操作である。
報告書の結論と提言
結論部で報告書は、ディープフェイクを含むジェンダー化された偽情報が、アフリカの政治における意図的で進化するテクノロジー介在型のジェンダーに基づく暴力であり、設計と意図の両面でジェンダー化されていると総括する。女性活動家も忠誠と道徳をめぐる非難の標的になっていること、男性政治家を標的としたディープフェイクの記録は相対的に少なかったが、性別に分けた体系的なデータがないため直接の比較には限界があることも明記している。さらに、4カ国すべてで偽情報が事実より速く広がり、一般のファクトチェックと検証への意識が低いこと、プラットフォームの対応が遅く一貫せず、特に自動モデレーションが正確に解釈できない現地語で拡散された場合に顕著だったこと、法的・専門的支援へのアクセスが限られ支援体制が弱いことを挙げる。時系列については、偽情報の大半が選挙前と選挙運動期に集中し、選挙後も道徳的非難と女性の参加を「象徴的なもの」として退ける言説が続くとした。提言は項目の短い列挙で、5つの主体に向けられている。
| 対象 | 提言の要点 |
|---|---|
| 政府・議会 | 選挙の枠組みと工程表にジェンダーの視点を組み込む。AIと合成メディアによるものを含む組織的偽情報の通報、捜査、責任追及の制度を整備する。AIガバナンス枠組みに偽情報とジェンダーに基づくオンライン暴力のリスクを明記する |
| 選挙管理機関 | 候補者、記者、活動家を含む選挙に関わるすべての女性の保護手段を設ける。身体的暴力の通報に使う無料電話番号などを活用した迅速な通報窓口を公表する。市民社会やファクトチェック団体と連携し、選挙後まで訂正を継続する |
| 政党 | 地位にかかわらず女性の尊厳を守る文化を制度化し、女性への攻撃を党への攻撃とみなして公に擁護する。全党員にジェンダー平等とデジタル安全の研修を義務化する |
| 市民社会・女性ネットワーク | 継続的なデジタル安全研修、被害者中心の心理社会的支援と紹介経路、一般向けメディア・リテラシー、記者のジェンダーに配慮した報道の強化、偽情報拡散の実害に関する啓発 |
| SNSプラットフォーム | 現地語を含む検知とモデレーションへの投資、選挙期に自動システムを人間の審査で補完、選挙機関やファクトチェッカーとの積極的な連携 |
評価:何が新しく、何が足りないか
本報告書の価値は、グローバル・ノースの選挙を中心に語られてきたディープフェイク研究に対し、2025年から2026年の同時期に選挙を迎えた英語圏とフランス語圏をまたぐ4カ国の事例を、女性政治家という視点で一枚に並べた点にある。とりわけ、ウガンダの事例で観察された「ディープフェイクだという否定」と「本人が流出させたという逆流言」の同時発生は、合成メディアが真偽の判定そのものを政治的な争点に変える機制を具体的に示しており、Vaccari と Chadwick が2020年に論じた不確実性の増大という効果の、アフリカの選挙での実例として位置づけられる。アモン議長の音声が党内の指名手続きの数日前に出回った事例も、ディープフェイクが投票日だけでなく党内の昇進の関門を狙いうることを示している。タンザニアの検証過程は、国連総会という舞台設定の不自然さから元映像を特定する手法と、キーフレームの逆画像検索で他国の映像を割り出す手法が並んでおり、合成音声と文脈偽装という異なる手口に異なる検証手段が対応している構造が読み取れる。
一方で、報告書の射程と表題の間には距離がある。女性を標的にし、AIによる生成が検証で確定した事例は、ウガンダの3件のうち少なくとも議長の音声と、タンザニアのマドウォ称賛動画に限られ、タンザニアの抗議動画2本は実写映像の文脈偽装であり、カメルーンとコートジボワールの記録の多くは言説と画像の組み合わせである。報告書はこれらを区別せずに「ディープフェイクを通じたジェンダー化された偽情報」として統合しているため、読み手の側で、合成、加工、文脈偽装、言説という層を分けて読む必要がある。さらに、監視期間や件数の記載がないため、「偽情報は事実より速く広がる」「選挙前に集中する」といった結論の多くは、提示された事例から直接検証できる形にはなっていない。報告書自身が男女比較の限界を認めているように、今後の研究には性別を分けた体系的な収集と、選挙後期間まで含めた継続的な監視が求められる。本報告書は、その設計の出発点となる類型と仮説を、現地の監視団体の知見から具体的に提供した資料として読むのが妥当である。


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