「狂気の三角形」:米国務省・マスク・ADFはいかにしてDSA=検閲法という物語を作ったか

「狂気の三角形」:米国務省・マスク・ADFはいかにしてDSA=検閲法という物語を作ったか プラットフォーム

 ブリュッセルに本部を置き、EUの政策決定に対する企業ロビー活動を監視するNGOのCorporate Europe Observatory(以下CEO)は、2026年10月14日に報告書「The ‘Triangle of Madness’: the MAGA coalition defending online hate speech in Europe」を公表した。執筆はKenneth Haar、編集はKatharine Aingerである。報告書が追うのは、米国務省、イーロン・マスクとX、米国の宗教保守系法律団体Alliance Defending Freedom(以下ADF)の三者の動きである。三者は「言論の自由の防衛」を掲げ、EUのデジタルサービス法(DSA)と英国のオンライン安全法に反対するキャンペーンを続けており、報告書はこれを資金、人脈、訴訟、欧州議会内の動きの四つの面から整理している。分量は本文約18ページで、調査報道型の長文である。定量的なデータセットは用いていない。CEOはEU機関や企業からの資金を受け取らず、助成財団の資金で運営される団体で、反企業ロビーの立場を明確にしている。本報告書も題名の「狂気の三角形」が示すとおり、対象の主張を「荒唐無稽」「ヒステリックな偽情報」と形容する論争的な語調で書かれている。事実関係の根拠の多くは、The Guardian、The New York Times、The Washington Post、Tech Policy Press、デジタルヘイト対策センター(CCDH)などの報道や調査に依拠している。CEO自身の一次的な分析として読めるのは主に二つの部分である。ADFの文書と米議会での証言をDSAの条文と突き合わせた部分と、ADFの欧州での活動を人脈と時系列でつなぎ合わせた部分である。

「文明的同盟者」という戦略と国務省の資金

 報告書の出発点には、第2次トランプ政権が欧州政策を政府間の交渉だけで進めるつもりはない、という認識がある。CEOが根拠として引くのは、2025年12月に公表された米国の国家安全保障戦略である(報告書はこれを「National Security Strategy 2026」と表記している)。同文書は、欧州諸国の内部で「欧州の現在の軌道」への抵抗を育て、欧州の「政治的同盟者」に「精神の再生」を促すと述べている。さらに「愛国的な欧州政党の影響力拡大」を「大いに楽観すべき理由」と評価している。国務省の若手職員Samuel Samsonが国務省のSubstackに寄稿した「The Need for Civilizational Allies in Europe」も、同じ語彙を用いている。この論考は、言論の抑圧、大量移民の促進、宗教的表現の標的化に対抗するために、米国は欧州で「文明的同盟者」を見つける必要があると論じている。CEOはこれらの文書を次のように読む。米国とMAGA運動は欧州の極右を同盟者として組織し、シンクタンク、NGO、企業、個人を通じて欧州の政策を変えようとしている。その経路はメディアキャンペーン、訴訟、団体間の連合形成の三つである。報告書によれば、移民問題でも働きかけは進んでいるが、これまで最も目立っているのは言論の自由とDSAをめぐるキャンペーンである。

 2026年夏以降、このキャンペーンには国の資金が加わった。報告書が整理する助成の流れは次のとおりである。

時期内容金額
2026年夏国務省の公募「Developing Civilizational Bonds, Democratic Resilience and Rule of Law in Europe」(市民社会レベルの介入に向けた最初の公式資金)500万ドル
同時期移民問題向けの公募約200万ドル
同時期「表現の自由、政治的多元性、国家の自己統治」を守る欧州の国家・機関の能力強化を目的とする公募約200万ドル
2026年9月初め右派メディア向けの配分(Reuters報道)400万ドル
今回の総額うち英国向けが1,200万ドル(The Guardian)2,500万ドル

 公募には、国務省または米大使館の「実質的関与」を受け入れることが条件として付されている。公募の目的は次のように書かれている。国家権力が「過度に広範で曖昧なヘイトスピーチ法やオンラインコンテンツ規制」を使って言論を取り締まり、政治参加を抑圧し、民主的自己統治の原則を損なっている。こうした動きへの対処が目的である。公募はあわせて、政治的動機による訴追、恫喝訴訟、刑事名誉毀損法、異論への規制制裁を挙げている。CEOが執筆した時点で応募期限は過ぎていたが、EUでの受給者は公表されていない。CEOはこの資金が三者のキャンペーンを支えるために使われうると推測しているが、これはあくまで推測として書かれている。報告書の結びは、この資金が「下からの」政治変化をNGOや企業を通じて実現するものであり、他地域での米国の秘密工作を想起させるという評価である。ここでいう「欧州での活動」は英国とEUの二つの舞台に分かれており、ADFはその両方で以前から活動してきた。

ADF:法廷を主戦場とする宗教保守団体

 ADFは米国で長年、中絶の権利、性的少数者の権利、同性婚、トランスジェンダーの権利に反対してきた。主な手段は訴訟であり、長い時間をかけて権利を切り崩し、覆していく戦術をとる。米連邦最高裁が中絶の権利を否定した判決でも、中心的な役割を果たした。欧州では少なくとも2010年から活動しており、ブリュッセル、ウィーン、ロンドンに拠点を持つ。近年は欧州での支出を大きく増やしている。The New York Timesの報道によれば、ADFはナイジェル・ファラージ率いる英国のリフォームUKに反中絶の主張を持ち込むうえで重要な役割を果たした。ファラージが中絶を論点として語り始めたのは、ごく最近のことである。

 ADFは米政権の中枢とも強く結びついている。2020年には当時のADF代表Michael Farrisが、トランプが敗れた大統領選の結果を争う上訴に関わった。現代表のKristen Waggonerは、トランプによって宗教の自由委員会の諮問委員に任命されている。下院議長のマイク・ジョンソンも、かつてADFの弁護士だった。ADFは、トランプ政権の最初の100日間に向けた政策計画であるProject 2025の策定にも参加している。報告書によれば、ADFは2020年に南部貧困法律センター(SPLC)から「ヘイトグループ」に分類された(SPLCがADFを最初にこのリストに載せたのは2016年である)。

 CEOの見立てはこうである。欧州の大半では、急進的な反中絶の主張は周縁の立場にすぎず、性的少数者への攻撃的な発言も足場づくりの妨げになる。そこでADFは、主流から遠く「時代錯誤で宗派的」とみなされる自らの立場を、受け入れられやすい言論の自由の言説で包んだ。2023年までにADFは、欧州で「言論の自由」を掲げる複数のキャンペーンを展開していた。中心にあったのは、中絶クリニック周辺の緩衝地帯への異議申し立てと、性的少数者に対するヘイトスピーチをめぐる裁判の支援である。これらのキャンペーンがやがてDSAと英国オンライン安全法への反対運動へと発展し、ADFはMAGA連合の結節点の位置を占めるようになった、というのが報告書の構図である。

二つの看板事例と「言論の自由」への翻訳

 ADFがキャンペーンで繰り返し持ち出す事例は二つある。一つ目は、フィンランドの元内相でキリスト教民主党の国会議員Päivi Räsänenの事件である。ADFはRäsänenの法廷代理を務めてきた。Räsänenは2004年に冊子を書き、その中で同性愛を「心理性的発達の障害」と記述していた。フィンランド最高裁は2026年3月26日に3対2で彼女を有罪とした(判決番号KKO:2026:27、英語版の発表は4月7日付)。罰金は20日分の日数罰金で、フィンランドの公共放送Yleによれば約1,800ユーロにあたる。一方、2019年に彼女がXに投稿した、プライドパレードの「罪と恥」は「教会の教義」と相容れないとする内容のツイートについては無罪だった。二つ目は、英国のAdam Smith-Connorの事件である。彼は中絶クリニック周辺の緩衝地帯で、ADFの言い方では「無言の祈り」をして有罪となった。報告書はこれを「9,000ポンド(1万500ユーロ)の罰金」と記述している。ただし判決時の報道によれば、実際の処分は2年間の条件付き放免であり、9,000ポンド超は訴訟費用と被害者付加金の支払い命令である(この点は本稿による補足)。

 CEOが注目するのは、この二つの事例がどう使われているかである。ADFはこれらを、欧州で「言論の自由と信教の自由の危機」が深まっている証拠として示し、さらにDSAがその危機を世界規模に広げると主張する。ADFのDSA解説は、DSAを「基本的自由への極端な脅威」と呼んでいる。しかし、どちらの事件も各国の刑法や公共秩序の規定をめぐる裁判であり、DSAとは関係がない。CEOはADFの語法にも注目する。ADFは「ヘイトスピーチ」や「民主主義の保護」という語を常に引用符に入れて書き、それらをあたかも架空の懸念であるかのように扱っている。報告書はここに、ADFがDSAを脅威とみなす本当の理由を読み取る。それは、性的少数者の権利への攻撃を制約しうる法律への警戒である。

ADFのDSA解釈と条文の突き合わせ

 報告書のなかで最も検証しやすいのがこの部分である。ADFはDSAについて、まとまった分量の文書を二つ出している。一つは「A Guide to Understanding the Digital Services Act」である。もう一つは、2025年9月の米下院司法委員会公聴会「Europe’s Threat to American Speech and Innovation」で、アイルランド出身のADF法律顧問Lorcán Priceが行った証言である。Priceは書面で、DSAの下ではサービス提供者が「いわゆる違法コンテンツ」を能動的に探して削除する義務を負い、それを怠るか、欧州委員会から見て不十分であれば処罰される、と述べた。CEOはこれを誇張にとどまらず、DSAを実態とまったく別のものとして描く主張だと批判し、条文を示して反論している。

ADF・米政府側の主張報告書が示す条文・事実
プラットフォームは違法コンテンツを能動的に探し、削除する義務を負う第8条は、仲介サービス提供者に「一般的な監視義務」や違法行為を示す事実を「能動的に探す義務」を課さないと明記している
欧州委員会が検閲基準を押しつける第34条が求めるのは、基本権、表現の自由、消費者保護、プライバシーなどへの影響の「リスク評価」である。違法性の判断基準は各国法とEU法であり、オフラインで違法なものはオンラインでも違法という原則にとどまる
DSAは新たな言論規制を創設するコンテンツ管理は依然としてプラットフォームに委ねられている。DSAが加えたのは、削除決定に利用者が異議を申し立てる手続きである
DSAは米国内でも同じ規則を強制する域外適用の規定はない。コンテンツ管理は地域単位で行うことができる

 CEOはDSAを擁護する一方で、その限界も認めている。欧州議会は監視型広告の禁止をDSAに盛り込もうとしたが、大手テック企業のロビー活動によって骨抜きにされた。その結果、利用者の追跡とプロファイリングに依存するビジネスモデルは手つかずのまま残り、DSAは「仕事半ば」の法律だというのがCEOの評価である。それでもCEOは、DSAと英国オンライン安全法は世界でも例外的な規制であり、米国の動きとは対照的だと位置づける。その対照を示すために引用されるのが、フランス国際関係研究所(IFRI)のMathilde Vellietが2026年4月にまとめた報告書である。同報告書によれば、米国ではAI規制から偽情報への言及が削除され、プラットフォームにはモデレーションの縮小を求める圧力がかけられた。連邦通信委員会のブレンダン・カー委員長は、利用者投稿に関する訴訟免責を失わせると示唆して圧力をかけた。その結果、Meta、Google、Microsoft、Appleはモデレーション方針を「トランプ政権と保守的見解に有利な方向へ」調整した。

 コンテンツ管理が必要だという主張の根拠として、報告書は具体的な被害事例を並べている。ロヒンギャ虐殺やエチオピア内戦の民族間暴力。2026年6月のベルファストの暴動では、マスクの投稿が反移民デモの呼びかけを増幅し、CCDHはマスクの役割を「決定的」と評した。2024年のサウスポート事件後の暴動について、アムネスティ・インターナショナル英国のSacha Deshmukhは、Xのアルゴリズムが誤情報の拡散を止めなかったばかりか増幅した可能性が高いと指摘した。米国では、Xが放置していた反LGBTQのアカウントの持ち主がプライドフラッグをめぐって商店主を射殺した事件も報じられている。選挙の文脈でも事例が挙げられている。CCDHは、マスクが2024年の米大統領選で、ファクトチェックによって虚偽または誤解を招くと判定された投稿を少なくとも87件行い、それらが計20億回閲覧されたと集計している。またXは2023年に、選挙に関する誤情報を報告する機能を停止した。

国務省とマスクの合流

 報告書によれば、政権側の関与はADFが敷いた導線に沿って広がった。2025年2月、ミュンヘン安全保障会議でJ・D・ヴァンス副大統領は欧州の言論の自由への脅威を非難し、Smith-Connorの事件を詳しく紹介した。ヴァンスは彼を51歳の理学療法士で退役軍人と説明し、中絶クリニックから50メートルの場所で3分間黙って祈っただけで起訴された、と語った。2025年9月には先述の下院公聴会が開かれた。2026年2月の続編公聴会には、Räsänen自身が証人として招かれた。前出のSamsonは欧州を訪問した際、Smith-Connor本人と面会している。2025年に公共外交担当国務次官に就任したSarah Rogersは、就任直後に欧州を2度訪れ、ドイツのAfD、オルバーンの党、スペイン、フランス、ポーランド、イタリア、英国の極右政党と接触した。さらにSmith-ConnorとRäsänenとも面会した。報告書に掲載されたRogers自身のX投稿によれば、Räsänenとの面会はワシントンでの議会証言の機会に行われたものである。Tech Policy PressのDean Jacksonは、米政権のDSAへの対応を見ると、Project 2025を主導したヘリテージ財団とADFが非政府側の調整役として浮かび上がると分析しており、報告書もこの分析を引いている。Rogersは、DSAの目的を「米企業から搾り取ること」と「左派NGOが通報した言論を抑圧すること」の二つだと述べている。2026年2月には欧州の言論の自由関連事業への資金提供を予告した。あわせて、欧州で検閲された内容を示すウェブサイトfreedom.govの開設も発表したが、2026年10月時点でこのサイトは空白のままである。

 三角形の三つ目の頂点であるマスクとADFの関係は、少なくとも2023年10月にさかのぼる。ADFが主導した公開書簡には、MAGA系の人物を中心に50人が署名した。書簡はマスクに対し、「国家主導の検閲」に対抗する訴訟の支援と、X Spacesを検閲事例の周知に充てることを求めた。その後マスクは、2025年のドイツ連邦議会選挙を前にAfD党首アリス・ヴァイデルとの長時間の対談をX上で行った。2025年7月1日には、行動規範のDSAへの組み込みを批判して「DSAは廃止されねばならない」と書いたADFの投稿に、「Yes」と応じている。

 2025年12月5日、欧州委員会はDSA違反としてXに1億2,000万ユーロの制裁金を科した。DSAに基づく初の制裁金である。理由は三つあった。広告リポジトリの透明性の欠如、研究者による公開データへのアクセスの拒否、そして有料で取得できる認証バッジを「認証済み」と表示したことである。報告書は、いずれも言論の自由とはかけ離れた問題だと指摘する(報告書はこれを「European Court of Justice fine」と書いているが、制裁金を科したのは欧州委員会である)。Xは2026年2月、ADFの支援を受けてEU一般裁判所に不服を申し立てた。ADFはXが「言論の自由を重んじる姿勢ゆえにブリュッセルに狙い撃ちされた」と主張した。同じ時期に、XのAI「Grok」が1か月で数百万枚の性的画像を生成し、そのうち2万3,000枚が子どもを描いたとみられることが明らかになった。ADFはこの件からは距離を置いたが、Xを検閲の被害者として描く主張は変えなかった。2026年7月、Xは日々の履行強制金を避けるために是正措置に合意した。しかし9月には米政権がこの訴訟でXの側に加わる意向を示した。政権の報道官は、EUが「管轄内に存在も事業もしない米企業に規制権限を広げようとしている」と非難した。報告書は、他の大手テック企業はマスクと対照的だと指摘する。マーク・ザッカーバーグは2025年1月、欧州が「検閲を制度化する法律」を増やしているとして、トランプ大統領と組んで反撃すると表明した。それでもMetaは従来型のロビー活動にとどまり、DSAに組み込まれた偽情報に関する行動規範にも参加している。主要事業者のうちこの道を選ばなかったのはXだけであり、Xの対決姿勢はMAGAキャンペーンと一体化している、というのが報告書の評価である。

各国での「勝利」と欧州議会への浸透

 CEOは、DSAによるコンテンツ管理は現時点で危機にはないとしつつも、ADFの成果は、ADF自身が米国の中絶問題で示したような長期戦の視点で測るべきだと述べる。そして、ヘイトスピーチや偽情報に関する法律が実際に書かれるのは各国の議会だとして、各国レベルの動きを並べている。ドイツでは、ADFが支援した中絶反対派が、2023年6月にライプツィヒで緩衝地帯をめぐる裁判に初めて勝訴した。2025年11月にはバイエルン州レーゲンスブルクで、100メートルの緩衝地帯の制限が撤回された。オーストリアでは2026年1月、中絶施設近くでの祈りを警察に禁じられた団体「生命のための青年」が、ADFの支援を受けて処分を覆した。アイルランドでは、2023年末にADFがヘイトスピーチを規制する刑事司法法案2022に反対するキャンペーンを展開した。マスクは同国メディアのX Spaceに出演し、法案が成立すれば裁判で争い、起訴された市民の弁護費用を負担すると約束した。これは2023年10月の公開書簡でADFがマスクに求めた支援そのものである。2024年9月、アイルランド政府は法案からヘイトスピーチの部分を削除した。フィンランドではRäsänenが最高裁で有罪となったが、判決後には閣僚を含む真のフィン人党の政治家たちが、同じことが起きないよう法改正を求めた。CEOはこれを、裁判では敗れながら政治では勝ったケースとして描いている。

 EUレベルでは、DSAは改正されておらず、欧州委員会が議会の多数派から方針転換を迫られているわけでもない。それでもCEOは、MAGA連合と同じ言葉を話す勢力が、多くの人が考えるより強い位置にあると見る。Tech Policy Pressの調査は、DSAを大規模な検閲の道具とみなす文書を9件見つけた。これらの文書を支持した欧州議会議員は計55人にのぼり、調査はこれを「議会内の少数派ブロック」の存在を示すものとしている。9件の大半は、政治的な主張を添えた欧州委員会への質問である。そのうち2件は、DSAの変更や廃止を求める米国の要求に呼応したもの、4件はザッカーバーグとマスクのDSA批判を支持するものである。最も多くの支持を集めた1件は、すべての極右会派と中道右派の欧州人民党(EPP)の議員36人が支持した。この文書はマスクの「EUの左翼かぶれのシュタージ委員」という表現を引用し、Xへの制裁金を激しく批判している。CEOは、ADFが特に強い接点を築いた相手として、極右の欧州保守改革グループ(ECR)を挙げる。ECRは2022年のプレスリリースでDSAを「デジタル市場の公正を促す大きな前進」と評価していた。ところがADFのキャンペーン以降は、DSAを「検閲」と呼ぶようになった。

 ブリュッセルでの連合形成も、段階を追って記述されている。2025年5月、ADFは欧州議会でDSAと検閲をテーマにした会議を共催した。ADF欧州代表のPaul Colemanはこの会議で、Räsänenの事件を「DSAの下での検閲の痛ましい実例」と紹介した。CEOは、この事件がDSAとは無関係であるうえ、結果的にツイートは無罪となったことを指摘している。2025年10月には、ADFが「100人の専門家」の署名による公開書簡を組織した。署名者には、ADFのWaggonerとColeman、英国の言論自由団体Free Speech UnionのToby Young、そしてメキシコ、アイルランド、スリランカ、米国の聖職者が含まれる。その1年後には、極右会派のECRと欧州のための愛国者(PfE)が共催し、保守派と極右の対話の場である政治的価値ネットワーク(PNfV)が運営する会議「Free speech vs regulated speech」が開かれた。CEOの結論は、ADFはすべての極右会派と良好な関係を保ちつつ伝統的保守のEPPにも食い込んでおり、欧州議会で多数派を構成しうる範囲の議員たちと接触している、というものである。

「検閲産業複合体」という物語とFIMIをめぐる攻防

 三者の言説に共通する骨格として、報告書はMike Benzの「グローバル検閲産業複合体」論を挙げる。Benzについて、陰謀論を監視するフランスのConspiracy Watchは「極右の陰謀論者」でありながらマルコ・ルビオ国務長官に思想的指導者として迎えられている人物だと評している。この理論によれば、政府機関、大学、大手プラットフォーム、NGOが連携して保守派の言論を抑圧しており、その連合はバイデン政権を支配していた。BenzはADF Summit 2026での講演で、トランプ政権の発足後、この連合はEU、NATO、英国外務省に拠り所を移し、世界規模で米国を包囲するキャンペーンを組み立てたと語った。報告書は、この物語が三者それぞれの利害を一つにまとめると分析する。プラットフォームにとっては規制への抵抗、政府にとっては自国企業の擁護、ADFにとっては性的少数者や女性の権利に反対する闘いを、言論の自由のための闘いに言い換えることである。

 しかし、この物語を裏づける証拠は示されていない。The Washington Postの報道によれば、ヴァンスはミュンヘン演説の頃に、DSAの下で起きているオンライン検閲の証拠を集めるよう国務省の部署に求めた。その結論は、EU加盟国がDSAを濫用してオンラインコンテンツを検閲・犯罪化している証拠はない、というものだった。同時に報告書は、国務省がこの議論を偽情報対策の側にも持ち込んでいることを記録している。2026年10月、ブリュッセルのNGOであるEU DisinfoLabが、ジャーナリスト、研究者、政策担当者を集める年次会議を開いた。そこで米国を外国による情報操作・干渉(FIMI)の脅威として論じる議論が予定されていたため、国務省は会議を攻撃した。Rogersを含む米側が各国政府とEUに圧力をかけた結果、リトアニア政府、カナダ政府、EUが会議への支援を撤回した。

 報告書は、逆方向の検閲には三者が関心を払っていないことも指摘している。2023年10月のハマスによる攻撃の後、当時の欧州委員Thierry Bretonはマスクに書簡を送り、法執行当局やユーロポールと連絡を取るよう求めた。それ以前、マスクはDSAを「非常に理にかなっている」と評していた。このときXは全面的に協力し、数百のアカウントを削除した。複数のプラットフォームでパレスチナ関連コンテンツが過剰に削除されたという人権団体の訴えには根拠があった、と報告書は見ている。ADFについても、米国で学校図書館の書籍の禁止や「Don’t Say Gay」法の策定に深く関与していることを挙げ、その矛盾を突いている。なお、CEOはADFに質問を送ったが、回答はなかったと記している。

報告書をどう読むか(本稿の分析)

 ここからは本稿の分析である。この報告書の価値は、「DSAは検閲法である」という言説が誰の手で、どの順序で、どの経路を通って米国政府の公式の立場にまで押し上げられたかを、具体的に追跡できるかたちで示した点にある。公開書簡、公聴会、面会、共催イベント、議員の質問、訴訟支援、公募と、どれも公開記録から検証できる結節点が時系列に並べられている。とりわけ有用なのは、2023年10月にADFがマスクに求めた二つの支援、つまり訴訟支援とX Spacesでの周知が、同年末のアイルランドで実際に行われ、2024年9月の法案修正につながったという連鎖の記述である。DSAの条文との突き合わせも検証可能な形で書かれており、第8条の一般的監視義務の不存在は、Priceの証言に対する決定的な反証になっている。一方で、「ヘイトスピーチを擁護する連合」という題名の規定や、資金を秘密工作になぞらえる結論は、CEOの規範的な評価である。受給者が判明していない段階での推論も含まれており、検証された事実とは区別して読む必要がある。

 偽情報研究の観点から重要なのは、EU DisinfoLabの件が示す概念の争奪である。EUの外交当局が整備してきたFIMIの枠組みは、ロシアや中国を主な対象として作られた。米国をその分析対象に含めようとする議論が出たこと自体が、米政府による圧力の引き金になった。国務省の公募は公開された助成であり、それ自体が隠密性や欺瞞を要件とするFIMIの定義にそのまま当てはまるわけではない。しかし、「実質的関与」という条件の付いた外国政府の資金が欧州の市民社会や右派メディアに流れ込み、しかも受給者が公表されていないという状態は、透明性の観点から追跡すべき対象である。外国の影響を追跡してきた研究コミュニティが、同盟国の政府に対しても同じ基準を適用できるかどうかが問われている。

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