選挙をまたいで再利用されるCIBインフラ――オランダからハンガリーへ、Xの推薦アルゴリズムを標的とした偽アカウント網の解剖

選挙をまたいで再利用されるCIBインフラ――オランダからハンガリーへ、Xの推薦アルゴリズムを標的とした偽アカウント網の解剖 情報操作

 本稿が紹介するのは、Alliance4Europe(A4E)のMaria VoltsichinaとオランダのCIB調査専門組織TrollrensicsのRobert van der Noordaaが共同執筆した「Persistent Infrastructure and Cross-Border Influence Operations Targeting European Elections on X」である。調査はHybrid Election Integrity Observatory(HEIO)が主導し、オランダのインターネットレジストリ財団SIDN fondsとDemocracy and Media Foundationが資金提供した。

 報告書の中心的発見は次の通りである。2025年10月29日のオランダ議会選挙期間中にTrollrensicsとRTL Nieuwsが共同特定した550件超の偽アカウントCIBネットワークが、2026年3月末から4月にかけてのハンガリー選挙期間中に同一の手口で再稼働し、今度は親オルバーン・親ロシアのハンガリー語コンテンツを増幅していた。インフラの物理的な再構築は不要であり、プロフィール・バイオ・プロフィール画像の更新のみで別の選挙に向けて転用されたとみられる。

 バイアス開示として先に明示しておく。A4EはEU資金を受ける市民社会ネットワークであり、本報告書はCIB対策および選挙介入への規制強化を明示的に求めるアドボカシー性の文書でもある。ロシアへの帰属については複数の独立専門家が「可能性が高い」と評価した一方、オランダの国内情報機関AIVDはオランダを特定標的とした大規模国家主導キャンペーンの証拠はないと声明している。この差異は記事を通じて念頭に置く必要がある。


オランダ選挙における初期発見:550アカウントと2つの増幅手法

 発端はTrollrensicsとRTL Nieuwsがオランダ議会選挙(2025年10月29日)前後の高エンゲージメント投稿のリツイートパターンをマッピングした調査である。この手法により550件超の偽アカウントが特定され、2025年10月以降に生成された23,000件超の投稿の大多数がオランダ語政治コンテンツのリツイートであることが確認された。コンテンツの傾向は右傾・反体制ナラティブに強く偏っており、最も多く増幅されたのはForum for Democracy(FvD)、次いでGeert WildersとPVVであった。

 このネットワークが採用した増幅手法は2種類に整理されている。第一は大量リツイートである。上記550件のアカウントが選挙関連コンテンツを組織的にリツイートすることで、特定の投稿のエンゲージメントを人工的に引き上げ、Xの推薦アルゴリズムへの入力信号として機能させる。第二は小規模・過活動アカウントへの大量フォローである。高プロファイルの政治家や政党の公式アカウントではなく、強く分極化したコンテンツを発信する匿名の小規模アカウントを集中的にフォローすることで、それらアカウントの見かけ上のフォロワー数とソーシャル信頼性を人工的に膨らませ、Xのレコメンダーがそのコンテンツをより広いオーディエンスに表示する可能性を高める。

 RTL Nieuwsは、50件以上の偽アカウントにフォローされている204アカウントを特定し、そのうち161アカウントについてはフォロワーの過半数が偽プロファイルで構成されていることを確認した。調査チームは、同様の行動パターンを示す数百件の未特定アカウントが存在するとみられ、ネットワークの実際の規模はこれを大幅に上回るという見解を示している。


アカウントの偽装手法と地理的分布

 特定されたアカウントの所在地データは西アフリカとアジアに集中しており、少なくとも225件がナイジェリアに帰属し、残余はガーナ・ベナン・コートジボワール・ガンビア・タイ・香港・ベトナムなど9か国以上に分散していた。

 これらのアカウントはオランダ人ユーザーを模倣する偽装設計を施されていた。オランダ語のバイオ・オランダ風の名前・オランダ語コンテンツのリツイートが表面的な特徴だが、非真正性を示す複数の指標が調査で確認された。実在しないオランダ語の名前、不自然な大文字表記、数分以内に数十件のリツイートが集中するアクティビティバーストがその代表例である。一方、英語プロファイルに米国所在地を設定しながらオランダ語コンテンツに特化した活動をするアカウント群も存在し、非均質な構成がネットワーク全体の非真正性を示唆している。

 著名人なりすましの事例として、ミュージシャンのAndré Rieu、女優のKarin Bloemen、スピードスケーターのJutta Leerdam、元政治家のHenk Ottenが偽プロファイルに流用されたことが確認された。調査中にアカウントが名前・ユーザー名・プロフィール画像を変更するケースも観察されており、背後に能動的な運用管理が存在することを示唆する。個別事例として最も際立つのはLaurine Hayvenへのなりすましで、同一の名前・バイオ・投稿内容を持つアカウントが数十件同時に稼働していた。


CIBインフラの再利用:ハンガリー選挙への転用

 ハンガリー選挙(2026年4月)が近づいた時期に、Trollrensicsはオランダ選挙で特定した偽アカウント群の挙動変化を検知した。同一アカウント群がハンガリー語の選挙関連コンテンツへ焦点を移し、親ロシア・反体制・親オルバーン的なコンテンツの増幅を開始していた。

 転用を確認する直接的な証拠として、オランダ選挙介入時に特定されたLaurine Hayvenなりすましアカウントの複数がハンガリー語プロファイルを大量にフォローしていたことが挙げられる。これは、オランダ向けに設計されていたアカウントが同一の運用者によってハンガリー向けに再方向付けされたことを示す行動的な連続性の証拠である。

 この転用プロセスが持つ構造的意味は重大である。偽アカウント網の再利用にあたって必要な変更はプロフィール・プロフィール画像・バイオのみであり、インフラの再構築・新規アカウントの大量生成・言語別のコンテンツ生産体制の整備はいずれも不要である。2025年10月にオランダ語の選挙コンテンツをリツイートしていたアカウントが、最小限の変更を施すだけで2026年4月にはハンガリー語コンテンツの増幅装置として機能する。この「最小コスト再利用性」こそが、報告書が「operational reusability」として強調する構造的特徴である。


3フェーズ調査方法論とハンガリーの標的アカウント群

 ハンガリーでの調査はTrollrensicsが設計した3段階の段階的データ収集手法に基づいている。Phase 1では、オランダで特定されたネットワーク(ナイジェリア等に帰属するアカウント)のうちハンガリーアカウントをフォローしているものと、それらネットワークに組織的にフォロー・リポストされているハンガリーアカウントの双方について、フォロワー・フォロー先リストをマッピングした。Phase 2ではPhase 1で収集したデータセットからナイジェリア帰属アカウントを抽出し、それらのフォロワー・フォロー先リストを追加収集した。Phase 3では、ハンガリーアカウントをフォローしていることが確認された21件のナイジェリアアカウントのフォロワー・フォロー先データを集積し、これらのアカウントが最も頻繁にフォローしているハンガリーアカウントを特定するクエリを構築した。

 21の標的ハンガリーアカウントに対する地理別フォロワー内訳は次の通りである。

地域・国フォロワー数
ナイジェリア1,040
アフリカ(地域表記)222
ガンビア55
ガーナ59
ベナン31
コートジボワール28
ベトナム98
香港79
パキスタン56
タイ27
シンガポール26
カンボジア25
西アジア24
合計1,770

 21件すべてのハンガリーアカウントが、ナイジェリアに帰属するボットアカウントにフォローされていることが確認されている。


フォロワー重複分析:CIB帰属の統計的根拠

 A4EがTrollrensicsの提供データに基づいて実施したフォロワー重複分析は、CIB帰属の統計的根拠を提供する。21のハンガリーアカウントにわたる総ユニークフォロワーは22,082件で、うち3,701件(16.8%)が2アカウント以上に同時出現するオーバーラップフォロワーである。

指標
全アカウントにわたる総ユニークフォロワー22,082
2アカウント以上に出現するフォロワー3,701
重複率16.80%
10アカウント以上に出現するフォロワー155
15アカウント以上に出現するフォロワー41

 特定イデオロギー的コミュニティ内では有機的なフォロワー重複が一定程度発生するのは自然であるが、この分布の極端さは注目に値する。10アカウント以上に同時出現するフォロワーが155件、15アカウント以上では41件存在し、最極端の事例として@Pppimreというアカウントがデータセット内の21アカウントのうち19アカウントを同時フォローしていた。

 個別アカウントの重複率では、JuditJanosneが86.3%と最高値を記録し、kosFarag260673が75.6%、BollerLeoが70.0%、sookyが69.9%、DettiBernadette・NmethTa1974がともに65.9%と続く。コアクラスターとして機能するUrogdiG・RNascal・DettiBernadette・SzakacsPisti82・Jeszy661937の5アカウントはペアワイズ重複が特に高く、RNascal–UrogdiGペアで887件、DettiBernadette–UrogdiGペアで835件の共通フォロワーが確認された。

 huxit2026の事例はこの操作の規模を個別に示す最も極端な例である。総フォロワー6,461件のうち約50%にあたる3,207件がMAGA系アメリカ人スタイルのアカウントであり、ハンガリー語アカウントと識別できるフォロワーはわずか744件にとどまる。このハンガリー国内での実際の支持基盤と見かけ上の到達力の乖離は、国外からの組織的な偽アカウントによるフォロワー数水増しの典型的な構造を示している。


アカウント類型別の自動化指標

 ハンガリーアカウントをフォローするCIBアセットは地域別に異なる類型的特徴を持つ。

 ナイジェリア系の最大クラスターでは著名人なりすましが支配的な類型である。イーロン・マスクを騙るアカウントが@elonmusk_x0150・@Ceo_Of_AllTesla・@CEOTESLA112399・@elonmuskspavex・@c_e_o_T_musk26など多数確認され、その母親Maye Musk(@maye9533・@MayeX_500・@mayeprivate2926・@officialmaye178など12件超)、子のSaxon Musk・Vivian Jenna Wilson・Griffon Muskを騙るアカウントも存在する。その他ドナルド・トランプ一族、Jason Momoa、Robert Plant、Keith Richards、Brad Paisley、Matteo Bocelliなどが標的となっている。「パロディアカウント」「公式バックアップアカウント」などの免責表示を掲げるものから正規アカウントを装うものまで手口は多様である。

 ベトナム系の特徴は均一な命名規則である。「Anglo-American風の名+一般的英語姓+数値サフィックス」のパターン(@AaliyahJoh90602・@AbigailJon3398・@HaileySmit77279・@GraceJones41143・@NatalieJon38348・@ValentinaW43965等)が整然と並び、投稿数は一様に低く、フォロー数は中程度という、増幅目的での一括生成の痕跡が明確である。

 香港系では79件のアカウントのうち20件が「Gods determine what you’re going to be。」という同一バイオを持ち、中国語の句読点(。)が末尾に付く特徴的なテキストが共通している。投稿数はゼロで全て2025年3月から9月の間に生成され、一部は同日作成である。フォロー数は1,400から3,900件に達するにもかかわらずフォロワーはほぼ存在しないという逆転した比率が、単一テンプレートから一括展開されたアカウント群であることを示す。

 Azara/Yucilというネーミングクラスターも注目される。@AzaraYucil70847・@azara_yucilI・@AzaraYcil162292・@YucilAzara55966など6バリアントが確認され、いずれもナイジェリアまたはアフリカ地域表記の帰属を持ち、投稿数2〜12件という極めて低い活動水準とフォロー数>>フォロワー数という非対称な比率を示す。このネーミングパターンはオランダ選挙時にも同様の手法が観察されており、同一の運用ロジックを持つバッチ生成の証拠として機能する。全地域クラスターに共通するのは「投稿数ほぼゼロに対して数千件のフォロー」という比率であり、これらアカウントがコンテンツ生産ではなくプラットフォームの推薦アルゴリズム操作を目的として設計されていることを端的に示している。


レコメンダーアルゴリズム操作というベクター

 このCIBネットワークの運用上の最も重要な特徴は、主要な活動がリツイートではなく「大量フォロー」であるという点である。Xのレコメンダーシステムはフォロワーグラフを推薦コンテンツ選択への入力信号として使用しており、多数のアカウント(非真正であっても)が特定のアカウントをフォローすると、システムはそれを関連性・人気度のシグナルとして解釈し、そのアカウントのコンテンツをより広い真正ユーザーに表示する可能性がある。ハンガリーで標的とされた21アカウントが受け取っているフォロワーの人工的な水増しは、まさにこのメカニズムを利用したものである。

 この介入ベクターが持つ検知上の困難性は、コンテンツを一切生成しないという点にある。従来のCIB分析は偽情報コンテンツの特定・拡散追跡・ナラティブ分析を中心に設計されることが多いが、大量フォローによるアルゴリズム操作はコンテンツを媒介せずにプラットフォームの推薦機能に直接作用する。投稿の内容ではなくフォロワーグラフの構造を標的とするこの手法は、コンテンツベースのモニタリング手法では捕捉しにくい。

 Xがいいね数の公開表示を廃止したことにより、研究者がCIBネットワークと増幅操作を文書化するための利用可能なデータと証拠の幅が狭まっている。リポートでは、この変更が操作実行アクターには何ら影響を与えない一方で研究者の検知能力のみを低下させるという非対称性の問題が明示的に指摘されている。


プラットフォーム対応の限界と構造的含意

 調査報告への反応として、Xは特定されたアカウントの一部を数週間後に停止した。しかし二次調査の時点で特定アカウントの大多数は依然として稼働しており、オランダとハンガリーの両データセットに出現したアカウントの一部は偽情報工作への関与を指摘された後も活動を継続している。Xの対応パターンは「一部ノードの削除・ネットワーク全体の温存」という構造であり、これは脅威アクターの運用能力を実質的に妨害しない部分的・事後的な対応にとどまる。

 オランダ消費者市場局はXに対する監督責任を欧州委員会に委ねており、欧州委員会は欧州選挙の完全性保護においてXが十分な措置を取ったかどうかについての調査継続を確認している。

 報告書が最終的に強調する構造的リスクは明確である。このインフラはEU各国の選挙サイクルにまたがって最小コスト・最小リスクで繰り返し再利用可能であり、オランダとハンガリーが最初で最後の標的であることを示す根拠は存在しない。偽アカウントが言語別の地元アカウントを模倣し、地域の政治的文脈に最適化されたコンテンツを増幅させるという手口の精巧さは、訓練を受けていない観察者には有機的なローカル世論の形成と区別しがたい人工的な情報圏を作り出す。親EU懐疑・親オルバーン・反NATO的コンテンツが真の民意を反映しているかのように見える環境が意図的に構築される中で、一般ユーザー・ジャーナリスト・政策立案者のいずれもが、意図的に歪められたデータに基づいて世論の動向を判断するリスクにさらされている。


書誌情報 Maria Voltsichina and Robert van der Noordaa, Persistent Infrastructure and Cross-Border Influence Operations Targeting European Elections on X, Alliance4Europe / Trollrensics, April 2026. URL: https://alliance4europe.eu/report/persistent-infrastructure-and-cross-border-influence-operations-targeting-european-elections-on-x

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