投稿は消え、ネットワークは残る:EDMO「Lessons Learned from Six National Elections」が示すDSA選挙ガイドラインの空白

投稿は消え、ネットワークは残る:EDMO「Lessons Learned from Six National Elections」が示すDSA選挙ガイドラインの空白 民主主義

 European Digital Media Observatory(EDMO)は、2026年10月21日に報告書 Lessons Learned from Six National Elections: Inputs for the Review of the DSA Election Guidelines を公表した。全23ページである。EDMOは欧州連合の資金で運営される偽情報対策ネットワークの中核機関で、フィレンツェの欧州大学院トランスナショナル・ガバナンス大学院に拠点を置く。EU加盟27か国にモルドバ、ノルウェー、ウクライナを加えた地域を、15の国別・地域別ハブで分担している。本報告書の内容を提供したのは4ハブである。BROD(Bulgarian-Romanian Observatory of Digital Media)はブルガリアとルーマニアを担当する。FACTはウクライナとモルドバを担当し、2025年7月に15番目のハブとして発足した。HDMO(Hungarian Digital Media Observatory)はハンガリーを、MedDMO(Mediterranean Digital Media Observatory)はギリシャ、キプロス、マルタを担当する。対象は6つの選挙で、2025年5月のルーマニア大統領選、同年9月のモルドバ議会選、2026年4月のハンガリー議会選とブルガリア議会選、同年5月のキプロス議会選とマルタ総選挙である。報告書の目的は、欧州委員会がデジタルサービス法(DSA)第35条3項に基づき2024年3月に策定した、超大規模オンラインプラットフォーム向け選挙ガイドラインの改訂に材料を提供することにある。

 報告書の背後には二つの制度がある。一つは、偽情報に関する実践規範の署名企業が選挙前後に起動するRRSと呼ばれる迅速対応システムである。実践規範はその後、DSAの枠組みのもとで行動規範に移行した。RRSは、ファクトチェッカーや研究機関がプラットフォームの担当者に優先経路で通報できる仕組みである。もう一つは、2026年4月末に稼働したEDMOの選挙・危機関連偽情報タスクフォースである。EDMO.euは同年3月に第3期に入っており、ハンガリーとブルガリアの選挙ではハブに対してRRSの運用支援を行った。ルーマニアとモルドバの選挙はタスクフォース発足前だが、BRODとFACTが知見を共有したため収録された。同じくタスクフォースが扱ったデンマーク、スウェーデン、ラトビアの選挙は除外されている。ソーシャルメディア上の偽情報キャンペーンの影響が大きくなかったという理由である。

 冒頭には、報告書全体の読み方を規定する但し書きが置かれている。EDMOネットワークの通報に対し、プラットフォームはしばしば削除で応じる。EDMOはこの慣行を支持しない。虚偽や誤解を招く点とその理由を示すラベル付けの方が望ましく、理由を説明しない削除は削除そのものをめぐる陰謀論を生む、というのがEDMOの立場である。さらに、コンテンツを標的にするよりアカウントを標的にする方が有効だと述べる。ボットは人間ではないため保護すべき人権を持たず、法と規約に組織的に違反する実在の人物のアカウントはオフラインと同様に制裁されるべきだ、という論理である。

 読む上で押さえておくべき立ち位置もある。EDMOはEU資金(プロジェクト番号300141274)で運営されている。各ハブはRRSの通報者として、評価対象である仕組みの内部にいる。報告書に出てくる「削除率」は、ハブ自身の通報にプラットフォームがどれだけ応じたかの比率である。通報の正確性を第三者が検証した数値ではない。

ルーマニア:無効化された選挙の基盤が残った再選挙

 2024年の大統領選は憲法裁判所によって無効とされ、2025年5月4日と18日に再選挙が行われた。BRODの報告の出発点は、2024年の選挙を歪めた操作基盤がほぼ無傷で残っていたという認識である。プラットフォームは個々の投稿には対処したが、投稿を生産し増幅するネットワークは解体しなかった。BRODはルーマニアの市民団体Funky Citizensと共同で監視を行った。

項目内容
監視期間2025年3月25日〜5月20日
対象プラットフォームTikTok、Meta、X
問題ありと判定した投稿26,613件
分析したコメント決選投票に進んだ2候補の92投稿に付いた69,529件
RRS通知4,773件
通報投稿のうち措置(削除)が取られた割合68.4%
不正行為の疑いで通報したTikTokアカウントのうち停止されたもの251件中6件(2.4%、5月29日時点)
公表物週報11本と最終報告

 投稿への対応率68.4%と、アカウント停止率2.4%。この差が報告書全体の主題を先取りしている。TikTokが削除したのは、違法な投票所内映像1,000件超、不正選挙の主張323件、反ユダヤ的投稿228件、中傷投稿177件である。それでも類似の投稿はオンラインに残った。Metaの是正措置は最小限で、Xはほぼ無反応だった。疑わしいアカウントには、言語上の不自然さ、ありえない地理的発信元、候補者へのエンゲージメントの同期的な増加が見られた。極右政党「ルーマニア人統一同盟」党首ジョルジェ・シミオンを増幅するTikTokアカウントが286件、当選して大統領となったニクショル・ダンを増幅するものが135件特定されている。報告書は、推薦アルゴリズムがこうした人工的エンゲージメントを適切に割り引いた形跡はないと指摘する。増幅アカウントが両陣営で確認された点は、報告書が一方の陣営だけの問題として扱っていないことを示している。

 政治的宣伝の隠蔽も記録された。FameUpを介したものを含むインフルエンサー網や、所有者を明かさないページが、広告表示も選挙資金の監督もないまま政治的コンテンツを流した。調査報道は、選挙戦の最初の1週間で匿名のFacebookページ群が6万ユーロ超を表示なしの政治広告に投じたことを明らかにしている。物語はTelegramのグループからTikTok、Facebook、周縁的なウェブサイトへと移動した。監視対象には陣営系Telegramグループ35個の9,000件超の投稿が含まれるが、プラットフォームは自社の範囲しか評価しなかった。ダンに対してはディープフェイクと偽造卒業証書が使われた。ルーマニアの公的機関や報道機関を装った複製サイトは、AI生成コンテンツと、過去にロシアの影響工作との関係が指摘されたネイティブ広告サービスを利用していた。ルーマニア語のモデレーション能力が限られていたため、モルドバの有権者や在外ルーマニア語話者に向けた物語は手薄なまま残った。プラットフォームは4,773件の通知すべてに応答しており、2024年からは改善している。しかし、数百万の「いいね」や再生数を伴うネットワークや人工的な押し上げについての報告には、具体的措置も説明もなかった。

 ガイドライン改訂への提言は5点ある。第一は長期的な聴衆の下地づくりへの対処である。「並行国家」、EUの干渉、差し迫った戦争といった物語は何年も前から流通していた。このため、リスク評価は公式の選挙期間よりずっと前に始め、低強度の持続的増幅も対象にすべきだとする。第二は、措置の内訳、応答時間、協調的不正事案へのフィードバックを含む選挙別の執行報告の義務化である。第三は、DSAと国内選挙法の関係の明確化である。ルーマニアでは緊急政令1/2025と中央選挙局による178件の削除決定が出され、その一部は「政治的アクター」と分類された私人に向けられた。報告書はこれを表現の自由上の懸念として挙げ、過剰執行のリスクを減らす指針を求めている。偽情報監視機関が国家による削除命令の行き過ぎを指摘している点は注目に値する。第四は越境協力である。工作者はルーマニア、モルドバ、ブルガリアを一つの作戦空間として扱っている。第五は監視者の保護である。Funky CitizensとFactualは、RRSへの参加を「検閲」と描く攻撃を受けた。この攻撃は2026年2月の米下院司法委員会報告によって増幅された。報告書は、通報者は分析を提供するだけで執行を決めるのはプラットフォームであると明記し、監視者の正当性を損なう動きをシステミックリスクとして認めるよう求めている。

モルドバ:9か月放置された協調的ネットワーク

 FACTの節は短い。実際の内容はモルドバに限らず、FACTがモルドバ、ルーマニア、ハンガリーで観察した事例の横断的整理になっている。モルドバの選挙そのものの経過や監視規模は記載されていない。

 指摘は五つある。第一に、通報したTikTokのアカウントや投稿の多くは、選挙戦の終盤になってようやく削除された。ハンガリーでは、Alliance4Europeの支援を受けて通報した大規模な協調的不正のデータセットに、TikTokが応答しなかった。第二に、ルーマニアでは協調的不正の通報が削除につながらなかった。その一方で、この事案を報じた監視団体自身の報道・情報コンテンツをFacebookが削除し、復元と回答に数日を要した。第三に、FACTはモルドバで、選挙の少なくとも9か月前から協調的不正を続けていたTikTokアカウント100件超を記録した。受益者である政治家のアカウントは同じパターンを示し続けたが、措置は取られなかった。第四に、プラットフォームは協調的不正の調査は難しいと説明し、個々の投稿の手作業審査に頼る例もあった。ところが、FACT自身のコンテンツの削除は自動化されているように見えた。工作網の調査は手作業で遅く、監視者の投稿の削除は自動で速い。この非対称が具体例として示されている。第五に、流出データから、一部のTikTokインフルエンサーや政治家のアカウントでは、フォロワーの50%超がモルドバ国外のIPアドレスに結びついていた。FACTはTikTokがルーマニアで4億ユーロを処理した例を挙げ、財務活動の透明性が不十分だとした。そのうえで、DSAとRRSのもとでハブが利用者データと財務データにアクセスできるよう求めている。RRSについては、選挙日の少なくとも6か月前に開始すべきだと提言する。

ハンガリー:政治広告禁止の迂回とAI生成広告の有料リーチ

 2026年4月12日の議会選では、HDMOの構成組織であるシンクタンクのPolitical Capitalとファクトチェック媒体のLakmuszが、政治広告、AI生成コンテンツ、協調的不正を監視した。疑われる規約違反とDSA違反は、Meta、Google、TikTokに通報された。前提となる状況として、主要プラットフォームは2025年秋にEU全域で政治広告を停止していた。それにもかかわらず、親政府系のアクターと関連組織は分類と執行の弱点を突いて政治的コンテンツを宣伝し続けた。主要野党指導者を標的にしたAI生成動画やディープフェイクは、有料配信によって数百万人に届いた。

通報者と通報先対象件数結果
Political Capital → Metaプロフィール1,11082%削除
Political Capital → Meta広告62961%削除
Political Capital → Meta合計1,73973%削除、審査は概ね1日未満
Lakmusz → Meta政治広告50、既知の偽プロフィール31、ページ586 URL66件削除、政治広告19件は残存
Political Capital → Google政府の「国民請願」キャンペーン広告15削除0、求めない限り書面回答なし
Political Capital → TikTok協調的不正ネットワーク105アカウント「現時点で違反なし」

 迂回の手口は具体的である。MetaとGoogleは、間接的な言及を用いたり明示的な政治的識別子を省いたりした広告を、非政治的なものとして配信させ続けた。Googleは政治広告を「Arts and Entertainment」「Finance」「Internet and Telecom」といった無関係なカテゴリに分類した。同一または類似の広告に異なるラベルが付いたり、途中で分類が変わったりすることもあった。政敵を攻撃する政府広告はGoogle、Meta、屋外看板に同時に現れたが、Meta版だけ欧州委員会委員長ウルズラ・フォン・デア・ライエンの顔が省かれていた。報告書はこれを不整合の一例として挙げるにとどめている。ただ、媒体ごとに素材を変えた事実は、出稿側が各プラットフォームの審査基準を把握して調整していた可能性を示唆する。

 AI生成コンテンツについては、政府系メディア、政治家、政府組織型の非政府組織が画像と動画を多用した。政府系の代理組織である国民抵抗運動(NEM)は、アニメーションの政治広告と野党指導者を貶めるディープフェイクを公開した。人口1,000万人に満たない国で一部の動画が数百万のFacebook利用者に届いた一方、広告配信されなかった動画の再生は2万8,000回にとどまった。報告書はこの差を、有料配信の役割と、合成コンテンツが政治広告フィルターをすり抜ける能力を示すものと解釈している。

 Metaの対応は速いが断片的だった。削除された広告は差し替えページや複数の識別子を使って繰り返し再掲載され、ある時点では同じ動画の広告が17本同時に配信されていた。監視対象の4つのFacebookページでは、再アップロードと差し替えページによって約50日間ほぼ途切れずに露出が続いた。キャンペーン単位で措置を引き上げた明確な形跡はない。Lakmuszが通報したページには、ロシア系の偽ニュースサイトを宣伝する2ページと、表示なしで写実的なAI生成動画を流す3ページが含まれていた。暗黙の選挙目的を持つ広告が政治広告と認識されないことがあり、操作されたメディアに関する規約も一貫して適用されなかった。TikTokに通報された105アカウントのネットワークは、FACTのルーマニア側パートナーである調査報道機関Contextが特定したものである。TikTokは集団として調べたのかを示す情報を出さなかった。Metaの応答時間は通常1日以内だったが、週末の通常通報は月曜まで審査されなかった。一方、投票日の週末には1〜2時間で応答が返ることが多かった。HDMOは最大の弱点を個別対応の質ではなく体系的な問題だと結論づけている。繰り返されるキャンペーン、連結されたアカウント、反復的な迂回に、どのプラットフォームも対処しなかったという意味である。広告ライブラリのデータが限られていることも、DSA第34条・第35条が求めるリスク評価と軽減の実効性に疑問を投げかけるとしている。提言は、広告単位ではなく広告主とキャンペーンを調べること、国内の文脈から選挙目的が明らかな間接的宣伝を政治広告と扱うこと、分類と再分類の基準を公開すること、週末と投票日を含めて継続的に執行することに集約される。

ブルガリア:Telegramを起点とする増幅と研究データの欠落

 BRODのブルガリアの節は、自らの監視に加え、他の調査を組み合わせている。ソフィアのシンクタンクである民主主義研究センター(CSD)の研究、アトランティック・カウンシルのデジタル・フォレンジック研究所(DFRLab)が2026年3月に行ったネットワーク分析、BRODによる行動規範報告の評価枠組みMVIである。

 DFRLabが記録したネットワークは、2つのページ、合計21万1,600人超が参加する9つのグループ、6つのアカウントで構成されていた。目的は、収益化された架空のニュースサイトに読者を送り込むことである。グループの売買や転用も活動を支えていた。Metaは2025年10月からEUで政治・選挙・社会問題に関する広告の受け付けを停止したが、グループ網は同等の透明性なしに活動を続けた。報告書は、規制が宣伝をより帰属の難しい経路に移した可能性を指摘している。TikTokでは欺瞞的なAI生成政治コンテンツが十分なラベルなしに流通した。ロシア国営メディアのコンテンツはTikTokとFacebookに現れた。TikTokはブルガリア国内で地域制限をかけたが、他の加盟国からは閲覧できる状態だった。

 研究データの欠落も定量化されている。2026年4月12日から19日の間、それぞれ1万回以上再生された291件の投稿(投稿者210)が、研究者向けのMeta Content Libraryに含まれていなかった。これらの合計再生数は少なくとも1,272万回で、20万〜80万回に達したものもある。3月30日から4月5日には、条件に合致した7,000件超の投稿のうちダウンロードできたのは3分の1未満だった。報告書は、ライブラリの閾値が小言語市場の可視性を不釣り合いに狭めていると結論づけている。

 CSDの分析で特に目を引くのは、ブルガリア版Pravdaネットワークの指標である。このネットワークは月に約6,000本の記事を公開し、その96%が人間の活動のピーク時間帯に集中していた。一方、月間平均訪問数は1,500未満にすぎない。CSDはこれを、人間の読者ではなく検索順位とAIによるインデックス化を狙ったものと評価している。Facebookでは、フォロワーやトップファンへのタグ付け、協調したハッシュタグ、コメント欄へのリンク投稿によってリーチが維持された。Telegramについては、2026年1月7日から3月31日までに42のブルガリア語チャンネルが投稿した48,685件を分析している。56.2%がチャンネル横断的なクラスタに属していた。月間投稿量は2月から3月にかけて75%増加し、クラスタ内投稿の平均再生数は4,059回と、それ以外の1,450回を大きく上回った。ゲートウェイ的なメディア、アグリゲーター、Facebookページが、超大規模プラットフォームの規制枠外にあるTelegramのコンテンツを外部に運んでいた。ブルガリア語のモデレーションは人員と文化的専門性を欠き、信頼できる通報者制度は機能していなかった。

 報告書は2026年秋の大統領選の初期観察も含む。CSDの10月の予備的監視によると、親クレムリン系ネットワークは候補者や投票手続きではなく、地政学的事件と「トランプ・プーチン間のディーゼル取引」に焦点を当てていた。物語はTelegramからFacebook、主流の議論へと数時間で移り、政治的アクターに採用された。ロシアに批判的な投稿や、EUとウクライナを支持する投稿には、数分で数百件の敵対的コメントが付いた。しかしコメント単位のデータがないため、協調性を立証することも執行の一貫性を評価することもできない、としている。CSDはこの事件駆動型の活性化について他ハブとの比較を呼びかけている。

 MVIは、超大規模プラットフォームと検索エンジンの行動規範報告を評価する枠組みである。名称はMateriality、Verifiability、Impactの頭文字で、それぞれ実施状況、手法の透明性と国別・言語別内訳による検証可能性、定量化された成果を指す。各指標を0〜3で採点する。国別データが期待されるのにEU全体や世界全体の集計しかない場合は、上限規定により検証可能性と影響度が1に制限される。評価対象の約束は二層に分かれる。第1層は収益化停止、政治広告、研究者支援、第2層は利用者向け透明性、利用者のエンパワーメント、ファクトチェッカーである。2025年9月に公表された2025年上半期報告(Meta、Google検索、YouTube、TikTok、LinkedIn)に試行適用したところ、実施状況の評価は概して高かった。一方で、検証可能性と影響度は上限で抑えられるか0点になる例が多く、ブルガリア固有の数値はほぼ存在しなかった。13項目の提言には、DSA第40条1項に基づき欧州委員会がデータを直接要求できることの確認や、Telegramが報告するEU利用者数の継続的監視が含まれる。

キプロス:自己申告で通過する入口審査

 キプロスの議会選は2026年5月24日に行われた。その前年10月には、政治広告の透明性とターゲティングに関するEU規則(TTPA)が適用されている。MetaとGoogleは同月EUでの政治広告受け付けを停止し、TikTokは2019年から全世界で有料政治広告を禁じている。MedDMOはMeta、Google、TikTokの透明性ツールを毎日監視し、RRSで通報した。Xは無料の研究者アクセスが撤回されたため対象外とした。プラットフォームは選挙期間中の会合に建設的に参加し、通報されたほぼすべての投稿を削除した。それでも根本的な執行の弱点は残った、というのがMedDMOの総括である。

 MedDMOは、2025年10月以降に配信された選挙関連のMeta広告を約2,500件特定した。広告主は、政治的コンテンツかという質問に「いいえ」と答えるだけで審査を通過できた。約半数は後に削除済みと表示されたが、削除は通常、公開から約2か月後だった。TikTokでは7か月間に約900件の有料政治広告が特定されたが、自動システムが削除したのは1件だけである。MedDMOが通報し、欧州委員会の行動規範担当チームを通じてエスカレーションした後、TikTokは1週間以内に大半を削除した。ただし、その時点で有料リーチの多くはすでに消化されていた。Googleでは身元確認の厳格化によって政治広告は抑えられた。しかし、MedDMOが特定した唯一の認証済み政治広告主の動画の大半は「Arts & Entertainment」に分類されていた。5つの匿名事業者は、主に選挙戦の最終週にFacebook広告を450件以上配信した。そのうち1ページは、選挙区単位の世論調査公表禁止期間中に捏造した世論調査を流した。Metaがその広告を削除したのは投票日前夜で、それまでに最大約12万インプレッションに達していた。削除された広告は同日に差し替えられ、無効化された後に新しいページを作る事業者もいた。対照的に、TikTokの一斉排除は通報されたアカウントを超えて及んだように見えたと記されている。

 RRSの通報ツールそのものにも欠陥があった。Metaには政治広告の通報カテゴリがなく、通報したリンクや理由が記録に残らない。TikTokは自社の広告ライブラリへのリンクを受け付けず、Googleは案件番号のないメールでやり取りした。データアクセスでは、Metaの支出データは政治広告と分類されたものしか対象にしない。Googleは削除された広告と期間満了の広告を区別せず、TikTokのAPI割り当てはすぐに尽きた。MedDMOのTikTok研究APIの利用申請が承認されたのは選挙後だった。提言には、公式の候補者名簿による出稿前の広告主確認、スポンサーなしと申告するページや投票直前に選挙区で広告を始める新規ページの精査、選挙期間中のすべての政治広告の支出開示、削除広告の選挙後1年以上の保存、DSA第40条のデータアクセスに選挙日程に合わせた応答期限を設けることが並ぶ。RRSは応答時間を改善したが、実効的な措置はしばしば欧州委員会を経由した臨時のエスカレーションに依存した。そのため、投票日までの定期会合と選挙後の振り返りを標準化すべきだとしている。

マルタ:与党関係者による差し替え広告とRRS期間外の沈黙

 マルタの総選挙は2026年4月27日に5月30日投票として前倒しで決まった。労働党政権の任期満了より約1年早い。MedDMOのマルタ班は、キプロス班と新設のタスクフォースと調整し、急遽RRSの利用を始めた。監視対象はFacebook、Instagram、Google広告である。RRSでの通報には1〜2日、時には数時間で応答があり、大半が削除された。報告書は同時に、平時との落差を強調している。一般利用者が明らかに有害な投稿を通報すると、通常数週間待たされ、措置は取らないと告げられるだけだという。

 TikTokの専用通報窓口への登録は、チームがRRS用にGmailアドレスを使っていたことが原因で難航し、利用できたのは投票週になってからだった。通報した296 URLのうち290件、約97%が政治広告である。Googleの広告透明性センターには、「Arts and Entertainment」「Books and Publications」と誤分類された政治広告が数百件掲載されていた。マルタの主要ウェブサイトに出たGoogle広告の多くはスポンサーを表示していなかった。そのため透明性センターで該当広告を検索できず、同じ広告主の他の広告もたどれなかった。差し替えが最も顕著だったのは二つの広告主である。首相府内のClive Farrugiaと、与党労働党が所有・運営するメディア企業ONE Productions Ltdで、いずれもGoogle広告で労働党の選挙運動を宣伝していた。Googleに削除された広告をほぼ即座に、しかも大規模に差し替えた。特定可能な政治的アクターが違反を繰り返したにもかかわらず、広告主単位の措置は取られなかった。報告書はこれを、ヒュドラをモグラ叩きで相手にするようなものだと表現している。もう一つの事例として、選挙前の公共的議論を歪め政治的支持を煽る工作の一部とみられる3つのFacebookページと関連Instagramプロフィールがある。トロールファームの明確な兆候を示しており、RRSで通報されてMetaが削除した。ところが、Instagramプロフィールの一つは間もなく復活したようだという。

六つの選挙に共通する構造と報告書の結論

 各ハブの記述を横に並べると、国も選挙制度も異なるにもかかわらず、同じ型の失敗が繰り返されている。以下の整理は報告書の個別記述を本稿が対応づけたものである。

共通パターン報告書に記録された具体例
投稿は消えるがネットワークは残るルーマニアの対応率68.4%に対しアカウント停止2.4%、モルドバで9か月活動したアカウント100件超、ハンガリーの105アカウント網に「違反なし」
政治広告の無関係なカテゴリへの分類Googleの「Arts and Entertainment」等(ハンガリー、キプロス、マルタ)、「Finance」「Internet and Telecom」「Books and Publications」
削除後の即時差し替えハンガリーの同一動画17本同時配信と約50日の継続露出、キプロスの同日差し替え、マルタの首相府関係者と与党系企業
自己申告に依存する入口審査キプロスで「いいえ」と答えれば通過、TikTokの自動検出は約900件中1件
研究データの構造的欠落Meta Content Libraryの再生数閾値、TikTokのAPI割り当て枯渇、Xの無料アクセス撤回、コメント単位データの不在
RRS期間と平時の応答格差マルタの数週間待ちと「措置なし」、ハンガリーの週末遅延と投票日週末の1〜2時間応答
規制枠外のサービスからの越境増幅ルーマニアの陣営系Telegram35グループ、ブルガリアの42チャンネルで56.2%がクラスタ化

 結論部は、改訂ガイドラインが取り組むべき事項を7つ挙げる。協調的操作と常習違反者への体系的対処、直接・間接の政治的宣伝の一貫した特定と広告主単位の説明責任、公式選挙期間と個別通報を超えたリスク軽減、AI生成選挙コンテンツの検出と扱いの明確化(小言語市場への特段の配慮を含む)、RRSの早期化・標準化と説明責任、加盟国別・言語別に分解された比較可能な成果データと研究者アクセス、越境協力と独立した監視者の保護である。最後に報告書は、ガイドラインを実証可能な成果で評価すべきだと述べる。削除件数ではなく、プラットフォームがシステミックリスクを特定し、反復的な迂回を防ぎ、協調的工作の操作能力を低下させたかどうかを見るべきだという主張である。フィルタリングが迂回可能で、繰り返しの違反がより広い措置につながらない限り、形式的な制限は不十分だという指摘が結論の核にある。

評価:指標と立ち位置をめぐる論点

 以下は本稿の分析である。第一に、報告書が扱う通報の中身は「偽情報」よりも「政治広告規約の執行」に大きく偏っている。マルタでは通報の97%が政治広告で、キプロスとハンガリーでも中心は禁止された政治広告の流通である。冒頭の但し書きが退けるのは虚偽コンテンツの削除であり、プラットフォーム自身の広告禁止規約に違反する有料配信の削除とは性質が異なる。報告書はこの区別を明示していない。しかし、両者を分けて読むと、高い削除率を記録しつつ削除に反対するという一見の矛盾は解消される。

 第二に、TTPAの適用を前にMetaとGoogleが政治広告から全面撤退したことで、皮肉な状況が生じている。政治広告と分類された広告にしか支出や配信先の開示が及ばないため、誤分類された政治広告は透明性の枠外に落ちる。キプロスのMeta支出データとブルガリアのグループ網の記述は、規制強化が可視性をかえって下げた可能性を示している。この点は改訂論議における実質的な論点になりうる。

 第三に、指標の比較可能性と検証の問題がある。各ハブは異なる単位、期間、プラットフォームで集計しており、6選挙を同じ尺度で比べることはできない。通報の誤り率を示すデータもない。プラットフォームに国別・言語別の検証可能な成果を求める報告書自身が、通報者側の精度については同水準の開示をしていない。

 第四に、モニター保護の論点には緊張がある。報告書は「通報者は分析し、決定はプラットフォームが行う」と強調する。他方で、キプロスではTikTokの削除が欧州委員会の行動規範担当チームを通じたエスカレーションの後に進んだと自ら記録している。米下院司法委員会報告に代表される批判が問題にしているのは、まさにこの公的機関の関与である。改訂ガイドラインが監視者の正当性を守るには、RRSにおける欧州委員会の役割と手続きを透明化することが、提言されている応答の追跡可能性と同じ程度に重要になる。

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