近年、偽情報が私たちの生活に深刻な影響を与えていますが、特に非拡散(核、化学、生物兵器など)に関する国際的な規範を脅かす影響は見過ごされがちです。
今回は、Atlantic Councilが2024年10月4日に発表した報告書「Countering Russian Information Influence Activities Against Nonproliferation」を取り上げ、ロシアによる情報操作活動がスロベニア、スロバキア、セルビアに及ぼした具体的な事例と、その対策についての戦略を紹介します。
ロシアの情報操作活動の具体例
報告書では、ロシアがどのように情報操作を通じて非拡散規範を弱体化させているか、以下のような具体例を挙げています。
スロベニア:核廃棄物画像を使った「汚い爆弾」キャンペーン
- 事例の詳細
2023年、ロシア外務省はTwitter上で「ウクライナが汚い爆弾を製造している」とする虚偽情報を拡散しました。その際、証拠として提示された写真は、実際にはスロベニアの放射性廃棄物管理局が2010年に公開した教育用画像でした。これにより、ウクライナだけでなく、スロベニアの信頼性も損なおうとする試みが見られます。 - スロベニア政府の対応
スロベニア政府は迅速に声明を発表し、写真の出典を明らかにするとともに、国内での核廃棄物が安全に管理されていることを強調しました。また、ソーシャルメディアを活用して、虚偽情報に対する正確な情報を即座に広めました。この対応により、虚偽情報の拡散を一定程度抑えることに成功しました。
スロバキア:放射線漏れとバイオ兵器デマ
- 事例の詳細
2023年5月、ロシアはウクライナのフメリニツキー市にある弾薬倉庫の爆発を利用し、「放射線漏れが発生し、スロバキアにまで影響を及ぼす可能性がある」というデマを広めました。この偽情報は、地元住民に恐怖を与えるだけでなく、ウクライナ支援を躊躇させる狙いがあったと考えられます。さらに、ロシア大使館は、米国とウクライナが「スラブ系民族をターゲットとした生物兵器を開発している」とのデマを流布しました。この主張は、民族間の対立を煽るとともに、米国やウクライナへの信頼を損なおうとする典型的な情報操作の手法です。 - スロバキア政府の対応
スロバキア気象庁や専門機関が、放射線に関する事実を明らかにし、デマを否定する科学的データを発表しました。また、政府はメディアと協力し、虚偽情報を打ち消すための教育キャンペーンを展開しました。
セルビア:親ロシア的ナラティブの浸透
- 事例の詳細
セルビアでは、ロシア国営メディア(Russia TodayやSputnik)が現地メディアやプロクシページを通じて、「米国がウクライナと共謀して生物兵器を開発している」との虚偽情報を拡散しました。また、セルビア国内のメディアがロシアの主張を再発信することで、情報が地域全体に拡散される結果となりました。特に注目すべきは、ウクライナが「コウモリを用いた生物兵器をロシアに対して使用する計画を立てている」という虚偽情報です。このような内容は、感情に訴えかけることで多くの市民に拡散されました。 - 影響と対応の遅れ
セルビア国内ではロシアのプロパガンダを信じる人々が多く、政府や市民社会の間で偽情報への対応が遅れることもありました。この事例は、地元メディアが偽情報を取り込むことで、ロシアのナラティブが強化されることの危険性を示しています。
対策:報告書が提示する実践的な戦略
報告書では、情報操作活動に対処するための3つの柱を提案しています。
1. 認識する(Recognize)
情報操作を特定する能力を高めるため、以下のポイントが推奨されています:
- 情報の出典を確認し、信頼性を検証する。
- 記事の公開日や著者を確認する。
- マルチメディアコンテンツが操作されていないかを検証する(例:AI生成の深層偽造画像の確認)。
2. 対応する(Respond)
虚偽情報に迅速かつ正確に反応することが重要です。
- 正しい情報を提供し、虚偽情報を否定する。
- デジタルリテラシー向上のための教育プログラムを実施する。
- メディアや政府機関間での迅速な情報共有を確立する。
3. 強化する(Reinforce)
プラクティスコミュニティ(専門家や関係者のネットワーク)を構築し、以下を実現します:
- 他国や組織のベストプラクティスの共有。
- 地域間での共同対策の強化。
まとめ
ロシアによる情報操作活動が非拡散規範を弱体化させる事例は、スロベニア、スロバキア、セルビアといった国々で明確に示されています。これらの国々は、虚偽情報に対抗するための迅速な対応や正確な情報発信、地域社会を巻き込んだリテラシー向上策を講じてきました。しかし、これらの対策は普遍的であり、他国においても有効とされる手法であり、参考になるでしょう。
コメント