アメリカ議会によるコロナウィルスパンデミックの報告書は偽・誤情報か?科学的議論と政策形成の在り方を考える

議会報告書は偽・誤情報か?科学的議論と政策形成の在り方を考える ファクトチェック

 2024年12月4日、アメリカ議会の「コロナウイルスパンデミックに関する特別小委員会」が最終報告書を発表しました。この報告書は、COVID-19パンデミックに関する包括的な調査結果をまとめたもので、政府や国際機関、科学界の対応に関する洞察を提供し、将来のパンデミック対策を議論するための基盤となる文書です。

  • 公式文書の意義
    議会の公式文書として、この報告書は記録に残り、政策形成や議会での議論に影響を与える可能性があります。ただし、法的拘束力はなく、報告書の内容がそのまま政策に反映されるわけではありません。
  • 政治的背景
    報告書は共和党が主導して作成されており、バイデン政権や民主党の対応に対する批判が多く含まれています。そのため、内容には一定の政治的偏りがある可能性があります。

科学的議論への影響

 報告書は、特に以下の点で既存の科学的コンセンサスと異なる主張を提示しており、新たな議論を呼び起こす可能性があります。

  • (1) パンデミックの起源
    ARS-CoV-2が武漢ウイルス研究所での「機能獲得研究」によるものであり、この研究にはアメリカからの資金提供が関与している可能性が高いと指摘しています。特に、ファウチ博士が所長を務めたNIAIDを通じて提供された資金が、エコヘルス・アライアンスを経由して研究所に渡ったとされています。関連するPolitifactのファクトチェック(2021年2月1日)では、「アンソニー・ファウチ博士は、COVID-19の「創造」に関連する研究に資金を提供しなかった」、としています。
  • (2) 公共政策への批判
    報告書は、マスク着用やロックダウン政策の科学的根拠が弱く、経済的・社会的悪影響を大きく引き起こしたとしています。しかし、これらの政策が感染拡大を抑える上で一定の効果をもたらしたという研究も多く存在します。関連するPolitifactのファクトチェック(2021年3月16日)では、「マスクはソースコントロールとして最も効果的で、感染した人が他の人にウイルスを広めるのを防ぐことを意味する」としています。
  • (3) 自然免疫とワクチン政策
    自然免疫がワクチンに匹敵する、またはそれ以上に効果的であるとする主張が含まれています。しかし、感染そのものが重症化や死亡のリスクを伴うため、ワクチン接種がより安全で効果的であるというのが主流の医学的見解です。関連するPolitifactのファクトチェック(2021年10月12日)では、「私たちは、COVID-19のワクチンを接種するよりもワクチンを接種しない方が安全であるという主張をFalseと評価した」としています。
  • (4) 国際機関や科学界の透明性への疑問
    WHOや一部の科学者がパンデミック初期の情報を隠蔽または操作した可能性を指摘しています。これに対し、国際機関は情報公開と科学的根拠に基づいた対応を行ったと主張しています。

この報告書をどう捉えるべきか

 報告書が提示する議論の中で、科学的コンセンサスと異なる主張をどのように評価するかは重要です。「コンセンサス」を「真実」とする考え方が、さまざまな形で利用されてきました。ロジャー・ピールキー・ジュニアによる「The Weaponization of “Scientific Consensus” Only science offers a path to truth, not surveys of expert opinion」の翻訳記事には、

「コンセンサス」を「真実」とする考え方は、さまざまな形で利用されてきた。例えばジャーナリスティックな「ファクトチェッカー」、学術的な「偽情報」 を発する研究者、ソーシャル・メディア・プラットフォームの投稿への検閲などである。

とあります。ファクトチェックでは「コンセンサス」とされる意見をどこまで「真実」として扱っていいのでしょうか。さまざまな議論を経た上で作成された公式文書に対するファクトチェックは、どのようになされるべきでしょうか。

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