YouTubeとファクトチェック: レポートから見る議論の行方

YouTubeとファクトチェック: レポートから見る議論の行方 ファクトチェック

 2025年1月16日のAxiosの記事「Google won’t add fact checks despite new EU law」では、GoogleがEUの新しい誤情報対策規制に従わず、ファクトチェックを導入しない方針を示していることが報じられました。

 Googleの主張によれば、ファクトチェックの導入は「Googleのサービスにとって適切でも効果的でもない」としており、その理由として「現在のコンテンツモデレーションが十分に機能している」ことを挙げています。また、その例として「昨年の選挙期間中に成功したコンテンツモデレーション」を引用し、ファクトチェックを導入しなくても既存の手法で対応可能だとしています。

 これに対し、スペインのファクトチェック団体Maldita.esは、YouTubeの誤情報対応の不備を指摘するレポート「Simply isn’t appropriate」を発表しました。本記事では、そのレポートの内容を紹介します。


Maldita.esのレポート内容

 このレポートでは、YouTube上で発見された具体的な誤情報コンテンツを4つの事例として挙げています。以下にその概要を紹介します。

1. 「ビートジュースでがんを治療する」

  • 動画は「赤カブジュースでがんが2日で治る」と主張し、「これまでに5万人以上を治した」という根拠のない情報を発信しています。
  • コメント欄には、がん患者やその家族がこの治療法を試そうとしている投稿が800件以上寄せられています。
    例: 「私は子宮がんと診断されました。このジュースを試してみます」「病気の父にこれを飲ませます」など。
  • 動画は7年間放置されており、1.5万回以上の視聴を記録しています。
https://maldita.es/alimentacion/20240126/curcuma-no-cura-cancer/ より

2. 「フォンデアライエン辞任と暗号資産購入」

  • 動画では、欧州委員会のフォンデアライエン大統領が汚職スキャンダルにより辞任したという虚偽情報を発信しています。
  • 同時に暗号資産への投資を促し、視聴者を特定のプラットフォームに誘導する内容です。
  • この動画は26万人以上の登録者を持つチャンネルから公開され、30万回以上の再生回数を記録しています。
https://correctiv.org/faktencheck/2024/11/08/youtube-clickbait-hunderttausende-sehen-falschmeldung-ueber-ruecktritt-von-der-leyens/ より

3. 「中国がロシアと戦う準備ができている」

  • 動画では、中国国防省の報道官が「中国はロシアを軍事的に支援する準備ができている」と発言したと主張していますが、この発言に関する記録は存在しません。
  • 動画には過去の中国の軍事関連映像が使われており、YouTubeの「誤解を招く内容」に関するポリシーに違反しています。
  • 視聴回数は3万回を超えています。

4. 「公共電力会社を装った詐欺」

  • ポーランドの公共電力会社「PGE」を装った詐欺動画で、視聴者を偽の投資サイトに誘導しています。
  • この動画は76人の登録者しかいないチャンネルから公開されましたが、40万回以上の再生回数を記録しています。
  • 詐欺行為にはプロキシサーバーなどの技術が使われ、YouTubeの広告システムを悪用して拡散されました。
https://demagog.org.pl/analizy_i_raporty/reklamy-scamow-przed-filmami-na-youtube-uwaga-na-oszustow/ より

レポートの主張

 レポートは、YouTubeがこれらのコンテンツに適切に対応しておらず、自社のコミュニティガイドラインに違反する誤情報が長期間放置されていると指摘しています。特に、健康や詐欺に関する情報はユーザーに深刻な被害を与える可能性があり、ファクトチェックの導入が必要不可欠だと強調しています。


検討と結論

 Googleは選挙モデレーションで成功したことを例に挙げ、既存のモデレーション手法で十分対応できると主張しています。一方、レポートは健康や詐欺における誤情報対応の重要性を具体例で示しています。

 しかしながら、レポートの反論は、Googleの「既存手法が十分である」という主張に直接的に答えているわけではありません。そのため、健康や詐欺の分野で本当にファクトチェックが最適な解決策となるかどうかは、なお検討の余地があると言えるでしょう。

コメント

  1. Explore now より:

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