偽情報は真実より早く広く拡散するというのは本当なのか?

論文紹介

 情報がソーシャルメディア上でどのように拡散するかについて、「偽情報は真実の情報より早く、広く拡散する」という通説があります。この言説の背後には科学的研究がありますが、その内容や前提条件を深く理解することが重要です。ここでは、2つの重要な研究を比較しながら、情報拡散について考察します。


1. 「The Spread of True and False News Online」:偽情報は真実よりも速く、広く拡散する

 Vosoughiら(2018年)はTwitter上での情報拡散を調査し、次のような結果を示しました:

  • 拡散速度: 偽情報は真実の情報より 6倍速くリツイート されます。たとえば、偽情報は平均で 約2時間以内 に多くの人に共有されますが、真実の情報はその3倍以上の時間を要します。
  • 拡散範囲: トップ1%の偽情報は、真実の情報よりも 10倍広範囲に拡散 されます。具体的には、偽情報は数万から数十万人に届く一方、真実の情報はそれよりも小規模な範囲に留まる傾向があります。
  • 感情的影響: 偽情報は「驚き」や「恐怖」などの感情を誘発しやすく、これが拡散を加速させる要因とされています。

 この研究は、「偽情報は新規性が高く、共有されやすい」という理論的背景を示しており、現在の偽情報対策の基盤となっています。


2. 「Measuring Receptivity to Misinformation at Scale on a Social Media Platform」:真実の記事は偽情報よりも広く届く

 一方で、2024年に発表されたこの研究では、真実の情報が偽情報を上回る範囲で拡散すると結論付けています:

  • 拡散範囲:
    • 真実の記事は 4億9200万人 に届き、そのうち 約3億7500万人が内容を信じた と推定されています。
    • 一方、偽情報は 1650万人 にしか届かず、そのうち 560万人 が信じたとされています。
  • 拡散速度: 調査データによれば、記事の 公開から2時間以内 に、真実の記事は50%以上の受容的ユーザーに届きました。一方、偽情報では 約3時間 を要しました。
  • 影響範囲: 真実の記事は、より広範囲にわたるユーザー層にリーチしやすい特性があり、主流のニュースソースに支えられています。一方、偽情報は特定のコミュニティやグループ内での拡散が多い傾向があります。

 この研究は、「真実の情報は、広い範囲に届き、より信じられる」という結果を示しており、従来の通説と対照的です。


3. なぜ結果が異なるのか?前提条件と統計の影響

 これら2つの研究の違いは、単に調査対象や統計の取り方に起因します。研究者がどのデータを取り出し、どのように分析するかで結果は大きく異なります。

  • データ選定の影響: 「The Spread of True and False News Online」は、Twitterのデータセットを使用しており、短いメッセージ形式やリツイート文化が拡散速度を加速させる可能性があります。一方、「Measuring Receptivity to Misinformation at Scale on a Social Media Platform」は、Facebookデータを基にしており、プラットフォームの特性が結果に影響しています。
  • 情報内容の違い: 拡散される情報は、その「ニュース性」や「感情的インパクト」によって広がり方が異なります。たとえば、「コロナワクチンが危険」という偽情報は反ワクチン派の間では急速に拡散するでしょうが、それ以外の人々には届かない可能性が高いでしょう。一方、真実であっても災害速報のようなニュース性の高い情報は急速に拡散します。

4. 単純化された情報への注意

 最後に重要なのは、これらの研究結果がいずれも 前提条件に基づいた統計データ である点です。どのデータを取り出し、どう分析するか次第で、結論は大きく異なります。

 しかし、世の中に流れる情報は、こうした複雑な前提条件が省略され、単純化される傾向があります。たとえば、「偽情報は真実より速く広がる」という雑学的な言説は、特定の研究結果に依存しており、すべてのケースに当てはまるわけではありません。

 私たちが情報を受け取る際には、「このデータはどんな前提条件で得られたものか?」を考えることが重要です。統計データや研究結果をそのまま鵜呑みにするのではなく、その背景を理解することで、より正確な判断ができるようになります。


結論

 情報がどのように拡散するかは、その内容や状況、対象とするコミュニティに大きく依存します。「偽情報は真実の情報よりも速く広がる」という言説が成立する場合もあれば、真実の情報が優勢な場合もあります。こうしたデータの解釈には慎重であるべきであり、流れてくる単純化された情報に対しても、常に批判的な視点を持つことが求められます。

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