AI searchという「統治の継ぎ目」――配置が変える規制の入口

AI searchという「統治の継ぎ目」――配置が変える規制の入口 AI

 AI Forensics が2025年12月に公表した『From “Googling” to “Asking ChatGPT”: Governing AI Search』は、検索エンジン規制と生成AI規制が別々に整備されてきた結果として生じている「統治の継ぎ目」を、AI searchという対象に絞って可視化する報告書である。本報告書が扱う AI search は、検索エンジン的な情報仲介を、大規模言語モデルを介して行う製品・機能・配置の総体として定義される。従来、検索エンジンは知識へのアクセスを仲介する装置として、情報の可視性、順位付け、信頼性付与を通じて社会的影響力を持ってきた。報告書が問題に据えるのは、その知識アクセス機能が「生成」を組み込んだ形で再編されるとき、説明責任の所在、権力集中の仕方、規制を適用する際の分類と論理が、従来の検索規制の前提からずれていく点である。
 分析の中心はEUの規制枠組みに置かれている。デジタルサービス法(DSA)とAI Act(報告書ではAIA)は、それぞれ異なる設計思想に基づくため、AI search のように検索・プラットフォーム・AI製品の境界にまたがる情報仲介を前にしたとき、対象の切り分けと責任配置が噛み合いにくい。報告書はこの噛み合わなさを、概念整理とケーススタディで具体化する。ケースは Microsoft Copilot(検索エンジンに埋め込み)/Google Gemini(Googleサービス群に組込み)/ChatGPT(スタンドアロン) の3つで、同じ検索的機能が、どのようなデプロイ形態で提供されているかによって規制の入口が変わり、制度上の空白が生まれるという筋を、制度部品のレベルで追う構成になっている。

検索と大規模言語モデルの収斂

 報告書は、検索と大規模言語モデルの関係を、対立図式ではなく統合の進行として捉える。統合は大きく二つに整理される。
 第一はバックエンド統合である。検索のランキング、品質評価、クエリ理解、スパム対策、要約・抽出といった内部工程に大規模言語モデルが組み込まれ、ユーザーに見えない層で検索の判断がモデルに依存する比重が増える。検索が従来から持っていた可視性の権力(何を上位に出すか)に、生成モデル特有の判断・整形・圧縮が重なり、結果として、情報の取り回しを行う主体と基準の輪郭が見えにくくなる。
 第二はフロントエンド統合である。検索結果をリンクの束として返すのではなく、複数情報を統合した要約結果を先に提示する形が、検索の利用体験を規定し始める。参照先へ送る機能が相対的に後景化し、検索サービスそれ自体が結論を提示する装置として前面に出る。知識アクセスの場が「リンクの集計」から「統合された提示」へ移行すると、誤り・偏り・出典・責任の配置は、従来の検索が前提としてきた構造からずれる。報告書はこのずれをAI searchの統治課題の出発点に置く。

AI searchの利用を「知識アクセスの実践」として捉える

 報告書は、ChatGPTを含むAI searchの利用を、情報探索、オンライン知識の取得、結論の取得、意思決定支援といった目的語彙で整理する。会話一般や創作一般ではなく、知識へのアクセスと判断の補助を目的にした使用形態が分析の対象になる。
 このときAI searchが担う機能は、検索が歴史的に担ってきた情報仲介の機能群として分解される。報告書の整理は、(1) 情報を探し/取り出す、(2) 候補を選別し整理する、(3) 統合・要約して一つの回答として提示する、の三つの役割を中心に据える。従来の検索では、結果の並置の後にある比較・統合は利用者側に委ねられていたが、AI searchでは統合と要約がサービス側の中核機能として前面化する。その結果、AI searchは検索の代替として論じられる以前に、知識アクセスのゲートキーピング(何を知識として前に出すか)を別の形式で引き受ける情報仲介主体として位置づけられる。
 この定義の置き方によって、検索規制の論点は、検索企業の独占やランキング操作といった争点だけでは捉えきれない領域に広がる。知識アクセスの規範(どのような根拠で知識を提示するか)と、アクセス可能性(何が到達可能な知識になるか)それ自体が統治対象として浮上する。

既存リスクの「増幅」ではなく「変形」としてのリスク構造

 報告書は、AI searchを検索の延長として単純に理解せず、情報仲介の形式が変わることでリスクの現れ方が変形する点を中心に論じる。提示されるリスクは、個別事件の列挙ではなく、知識提示の形式が変わることで問題がどこに出現するかの再配置として示される。
 第一に、合成による権威化である。リンク集合としての検索結果は、複数視点や不一致を「並置」しうるが、AI searchは統合・要約を通じて一つの答えへ収束する方向の利用体験を作る。対立、不確実性、条件付き知識は要約過程で折り畳まれやすく、生成物それ自体が代表的回答として受け取られやすい。これにより誤りや偏りが目立ちにくくなる。
 第二に、出典・根拠・経路の不透明化である。検索は参照先を明示し、検証の動線を残す構造を持つが、AI searchでは、どの情報がどのような基準で選ばれ、統合・圧縮の過程で何が捨てられたかが外部から把握しにくい。出典が添えられる場合でも、出典提示そのものは選択・統合の過程の可視化にはならない。報告書はこの点を、知識アクセスの規範が生成物の設計と運用に依存する度合いが増す問題として捉え、規制上の課題へ接続する。
 第三に、市場集中の再編である。検索の入口がチャットに置き換わるという単線的な理解ではなく、情報アクセスの入口が再び少数主体に集約されうる点が強調される。集中の根拠は検索インデックスだけに限定されず、モデル、配信チャネル、統合先サービスといった複数層にまたがるため、競争政策と統治の論点が複雑化する。

モデレーション概念の再設計:行動形成と出力制御

 報告書は、AI searchにおけるモデレーションを、従来のプラットフォーム論が前提としてきた「既存コンテンツの流通管理」から切り出し、介入点の異なる二領域として整理する。
一つはモデルの振る舞いを事前に形成する介入である。学習データの選別、ファインチューニング、強化学習(RLHF)、評価・フィードバックに基づく調整といった工程によって、モデルがどの範囲の応答を適切とみなすかの輪郭が形成される。もう一つは生成内容を運用段階で制御する介入で、分類器、コンテンツフィルタ、ブロッキング、ルールベース制約、プロンプト層での誘導などが列挙される。重要なのは、介入が単一地点に集約されず、生成の前後にまたがる複数レイヤーとして実装される点である。
 この二分法は、責任論と透明性論の前提を組み替える。問題の発生点は検索結果ページや投稿単位に限られず、モデルの設計・運用・統合レイヤーへ広がる。したがって、どのレイヤーで何が調整されているかが区別されなければ、誰が何に責任を負うか、何を透明化すべきかという議論が立ちにくい、というのが報告書の整理である。

規制枠組みへの接続:DSAとAI Actの噛み合わなさ

 報告書が「統治の継ぎ目」と呼ぶ問題は、EUの二つの主要枠組みの設計思想の差から生じる。DSAはオンライン仲介サービスの運用に伴うリスクを対象にし、システムとしてのリスク評価と緩和を求める。VLOP/VLOSEの枠組みは、社会的影響を持つサービスに対して体系的リスク評価と対応を課す設計である。
 一方、AI Actは製品安全法的な構えを持ち、AIシステムを市場投入される製品として捉え、設計段階・提供段階の要件(リスク分類、適合性評価、文書化、監督、品質管理など)を中心に据える。両者の差は、運用中のリスク管理と市場投入前の安全要件という時間軸の差として整理される。
 AI searchは、生成物が既存コンテンツでも単なる製品出力でもなく、検索の知識アクセス機能と結びついた情報仲介として現れるため、運用時の影響力と設計時の判断が同時に問題化する。DSAが前提とする流通責任の概念と、AI Actが前提とする製品安全の責任概念の間に、合成による権威化、出典経路の不透明化、介入点の多層化といった主要論点が落ち込みやすい。報告書が提示する課題は、どちらか一方への回収ではなく、両者の論理を前提にした統合的な捉え直しである。

ケーススタディ:配置が規制を決める

 報告書は、AI searchがどのような規制分類に乗るかが、機能そのものだけでなく、どの提供形態で配置されているかによって左右される点を、三例で示す。

Copilot:検索エンジンに埋め込まれたAI search

 Copilotは検索エンジンに埋め込まれたAI searchとして扱われる。検索の一部として統合されているため、検索サービスに対して構築されてきたDSAの枠組みが適用されやすい。ここで重要なのは、規制上の入口が既存分類により確保されやすく、リスク評価、透明性、是正措置といった運用統治の議論を制度上で組み立てやすい点である。他方で、統合・要約が前面化することに伴う新しい体系的リスクが、従来の検索枠組みの延長だけで十分に捕捉されるとは限らないという留保が併置される。

Gemini:Googleサービス群の一部としてのAI search

 GeminiはGoogleサービス群の一部として扱われ、配置の曖昧さが論点になる。AI searchの機能が特定の検索サービスに固定されず、サービス群の中に分散的に組み込まれる場合、規制対象の切り出しが難しくなり、規制の当て方が不透明になる。AI Actは生成AIをリスク要因として広く扱うが、特定製品名を名指しする設計ではなく、適用が分類に依存する側面が強い。サービス群に溶け込む配置は、検索・プラットフォーム・AI製品の境界線を曖昧にし、統治の継ぎ目を拡大する可能性がある。

ChatGPT:スタンドアロンが生む規制上の空白

 ChatGPTはスタンドアロン提供のAI searchとして位置づけられ、規制分類上の不確実性が焦点になる。DSAの概念装置に照らすと、ホスティングサービスとして整理されるのか、オンライン検索エンジンとして整理されるのかといった解釈可能性が争点になりうる。報告書は、該当性を断言するのではなく、どの定義に依存して曖昧さが生じるかを制度部品レベルで示す。さらに、VLOP/VLOSEの指定や閾値の問題とも絡め、検索的機能を理由に規制対象として切り出す場合でも、対象範囲(検索機能部分のみか、他機能も含むのか)の射程設定が再び曖昧になる点を指摘する。提供形態が統治の入口を左右し、企業がデプロイ形態を調整することで規制への露出を変えうる構造が、ここで露わになる。

「プラットフォーム・モデレーション」拡張の射程

 報告書は、AI searchをプラットフォームモデレーションの延長として扱う際に、取り込める統治部品と取り逃がしやすい論点を並行して示す。DSAの運用統治の仕組み(体系的リスク評価、透明性、是正措置、研究者アクセス等)は、情報流通の統治として重要な部品になりうる。しかしAI searchでは、介入点がデータ・モデル・統合レイヤーへ広がり、設計・調整が出力を決定的に規定するため、運用段階の削除・制限モデルだけでは十分でない。DSA的枠組みを拡張するだけでなく、AI Act的な設計・提供段階の責任論を統合しなければ、統治の継ぎ目は残る、という構図が示される。

統合的ガバナンス:接続点を制度部品として列挙する

 報告書の結論は新法制定ではなく、既存枠組みの接続に置かれる。提示される接続点は、抽象的スローガンではなく制度部品として列挙される。

  • AI searchを、学習・調整・統合・提供・運用にまたがる連続した工程として捉え、どの段階にどの規制論理を当てるかを明確化する。
  • AI ActとDSAの間で重複や空白が生まれる箇所、特に検索的な知識仲介がスタンドアロンとして提供される場合の扱いについて、定義と適用指針を整備する。
  • 透明性要件を出典表示にとどめず、データ選別、ファインチューニング、RLHF、システムプロンプト、分類器、コンテンツフィルタ等の介入点に沿って、説明可能性・監査可能性として設計する。
  • 研究者アクセスを制度化し、ブラックボックス化した知識仲介の実態(リスク、是正の有効性、変化)を外部から検証可能にする。

 これらの提案は、AI searchを検索市場の競争問題としてのみ扱うのではなく、知識アクセスとその規範の統治問題として扱う視角に基づく。報告書は、中心的リスクを誤情報や不適切発話へ単純化せず、知識の提示形式の変化によって社会の知識秩序を形作る力がどう移動するかを論点化し、その統治設計へ議論を接続している。

結語

 報告書が示す到達点は、AI searchを検索でもプラットフォームでも単純に置き換えず、新しい情報仲介主体として扱う必要性である。生成モデルが知識アクセスの前面に立つことで、情報が提示される形式は「参照の束」から「統合された提示」へ移り、同時に、モデレーション介入点は学習から運用まで多層化し、配置によって規制の入口が変わるという統治上の脆弱性が生じる。したがって、統治の課題は利便性評価ではなく、知識アクセスの権力と責任をどの枠組みで捉え直し、どの制度部品で接続し直すかに置かれる。報告書はこの方向を、AI searchの定義、モデレーション二分法、DSA/AI Actの時間軸と責任論理、Copilot/Gemini/ChatGPTの配置差という複数の部品で具体化し、統合的ガバナンスを政策課題として立てている。

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