ClientEarth『Digital distortion』(2025年11月)――プラットフォーム設計が気候偽情報・誤情報を増幅する

ClientEarth『Digital distortion』(2025年11月)――プラットフォーム設計が気候偽情報・誤情報を増幅する 気候

 環境法NGO ClientEarthは2025年11月にブリーフィング「Digital distortion: How social media platforms are driving climate disinformation in Europe and beyond」を公表した。ClientEarthは、環境問題を「法と制度の履行」というかたちで追い詰めてきた組織で、この文書も同じ筋道にある。狙いは、気候をめぐる偽情報・誤情報を、投稿者の悪意や利用者の無知だけで説明しないことにある。広告の売り方、推薦の仕組み、検索順位の付け方、収益分配の制度が、偽情報・誤情報にとって有利な環境をつくり、結果として量と到達範囲を押し上げている――文書はこの因果関係を中心に据える。

 対象となるのはFacebook/Instagram(Meta)、TikTok、YouTube(Google)、X(旧Twitter)で、いずれもEUのデジタルサービス法(DSA)上の「超大型オンライン・プラットフォーム」に当たるという前提で議論が進む。文書の最終目的も明確で、各社がDSAの枠組みで公表しているリスク評価や対策説明が、気候偽情報・誤情報を十分に「システム上の重大リスク」として扱っていない、と批判する点にある。

何を「気候偽情報・誤情報」と呼ぶのか:否認だけではなく、危機対応と制度信頼まで含める

 文書はまず、気候危機がすでに人命や資産、社会機能の損失を伴う局面に入っているという前提を置く。そのうえで「気候偽情報・誤情報」を、気候変動への緩和・適応・被害対応を脅かす、欺瞞的または誤導的な情報として整理する。ここで範囲が意図的に広い。気候変動の存在や原因を否定する言説だけが問題なのではない。極端気象の直後に、救援組織や行政、科学者、専門家に対する不信を煽る虚偽が流通し、救命や復旧の行動を妨げるなら、それも同じ問題領域に入る、という立て方をする。

 意図の違いも区別する。意図的に誤導するものを「偽情報」、誤りと知らずに拡散するものを「誤情報」としつつ、実務上は両者をまとめて扱う。意図が推定できる場合だけ「偽情報」と呼ぶ。ここで重要なのは、意図の有無にかかわらず、プラットフォームの設計が「目立つもの」を選び、見せ、広げることで、結果として偽情報・誤情報が増える、という説明につなげる点にある。悪意ある発信が偽情報を投下し、推薦に押し上げられ、それを利用者が誤情報として再共有する――文書はこの連鎖を、個別の心理ではなく構造として描く。

「否認」から「不信の製造」へ:気候言説の現在形

 文書は、化石燃料産業が長期に展開してきた否認キャンペーンを起点に置く一方、現在は単純な否認が中心ではない、と強調する。目立つのは、対策そのものを攻撃する言説、科学や専門家への不信を広げる言説である。典型として、温暖化の影響は有益・無害だ、解決策は機能しない、気候科学や気候運動は信用できない、といった型が挙げられる。温暖化そのものを否定できなくても、対策への支持を削れれば目的が達成される、という戦術が「気候偽情報・誤情報の現在形」だとされる。

 さらに、気候政策が直接のテーマでなくても、陰謀論や「エリートが仕掛ける支配計画」といった語り口でグリーン移行を攻撃し、結果として緩和・適応を遅らせるなら、気候偽情報・誤情報として扱う、という線引きが示される。科学の真偽をめぐる争いに閉じず、政策形成と社会的信頼の領域まで含めて議論が組み直されている。

影響の現れ方:救命の妨害、政治的支持の侵食、政策実装の摩耗

 文書は影響を短期・中期・長期に分け、何がどの局面で壊れるかを具体に並べる。

 短期で焦点となるのは危機対応である。2025年1月のロサンゼルス山火事の最中、著名な陰謀論者のX投稿が4億回以上閲覧され、主要ニュース10社と緊急対応機関10組織の関連投稿を合算した視聴を上回った、という調査が引かれる。そこでは「災害対応機関が食料を没収している」といった虚偽が流れ、当局が否定したとされる。ここで文書が言いたいのは、虚偽があることの確認ではなく、危機時にそれが圧倒的な可視性を獲得し、正確な情報の流通を押しつぶす、という点である。

 欧州の事例として強調されるのが、2024年のスペイン・バレンシア洪水である。237人の死亡が確認された災害後、原因を陰謀化する言説や、救援組織や支援配分をめぐる虚偽が流通し、緊急対応を難しくしたと記述される。さらに、検証報道機関と調査組織の分析として、洪水一般の情報よりも、気候偽情報・誤情報を含む、あるいはそれを扱うコンテンツの方が反応が高かった、という示唆が置かれる。危機時の情報競争で、有用情報が自然に勝つとは限らない、という観察がここにある。

 中長期で焦点となるのは政治社会の支持基盤である。国連や政府間科学組織が、オンラインの偽情報・誤情報が気候リスクの誤認を生み、支持を分極化させ、緩和策を妨げていると述べている点が引かれる。さらに、気候政策支持の多数派を人々が過小評価し、少数の否認的言説が「社会の多数派」に見えてしまうことで集団行動が阻害される、という研究も参照される。偽情報・誤情報は、単なる誤解の増加ではなく、支持形成の見え方そのものを歪める、という位置づけになる。

 政策実装の具体例も挙げられる。ドイツでヒートポンプ支援をめぐる制度が偽情報・誤情報の環境下で弱体化したこと、EUの自然再生法が広範な誤情報の拡散で「ほぼ否決」されかけたことなどである。ここで気候偽情報・誤情報は、科学争点ではなく、制度を摩耗させ、実装速度を落とす政治技術として描かれる。

供給側は誰か:産業、政治、擬装組織、国家、そして「憤怒経済」

 文書は、気候偽情報・誤情報の供給源を五つの類型に整理する。ここでの狙いは、個別アカウントを追跡することではない。供給が「誰でも」「偶然」起きているのではなく、制度的・経済的な条件のもとで成立していることを示す点にある。文書が提示する入口の整理は次の五つである。

  • 化石燃料企業と周辺産業:否認/責任回避/対策遅延と、環境配慮を装う情報発信が併走し、広告投資と透明性欠如が組み合わさる。
  • 政治家・政党:気候科学に反する言説や政策正統性の攻撃が、動員と敵の設定に結びつく。
  • ロビー団体・シンクタンク:独立・中立を装い、資金源の不透明性と権威の模倣を通じて政策遅延の語りを供給する。
  • 国家・国家関連アクター:国際会議などの節目で話題を押し上げ、否認や分断を運用する。
  • オンラインの「憤怒経済」:怒りや不信を煽るコンテンツが伸び、外部収益と結びついて供給が増える。

 化石燃料産業については、「否認/責任回避/対策遅延」と「環境配慮を装う情報発信(グリーンウォッシュ)」が併走してきたという整理が置かれる。さらに、ソーシャルメディア広告への投資が大きい一方で、広告透明性に欠陥があり、支出の全体像を把握しにくいことも強調される。インフルエンサーへの直接支払いのように、広告と一般投稿の境界が崩れる経路も示され、広告枠だけを見ても問題の全体が見えないことが示唆される。

 政治アクターについては、欧州で右派ポピュリスト政党が気候科学に反する言説を発し、気候政策の正統性を攻撃する、という研究が引かれる。具体名としてスペインVox、ドイツAfD、フランス国民連合などが挙げられ、英国Reform UKやオーストリア自由党などの報告も併記される。ここでは、偽情報・誤情報が「支持者の動員」と「敵の設定」を担う道具として政治に組み込まれる様子が描かれる。

 ロビー団体やシンクタンクは、「独立・中立」を装いながら産業利害と重なり、政策遅延の言説を供給する組織形態として描かれる。米国の例としてHeartland Instituteが参照され、否認から政策・経済・道徳論へ軸足を移しつつ、欧州でも拠点や政治家との連携が報じられていることが述べられる。資金源の不透明性と、学術的権威の模倣が、討議空間を汚染するという含意が示される。

 国家アクターについては、気候政策や科学を直接攻撃するだけでなく、国際会議などの節目に否認的な話題を押し上げる運用が描かれる。湾岸地域の事例として、アラビア語圏で「気候変動はでっち上げ」といった趣旨の話題が特定のイベント期に盛り上がり、多数アカウントが関与し、一部は公職者アカウントも含まれたという調査が参照される。ロシアについても、同盟圏で気候否認を押し、再生可能エネルギー投資や緩和政策を妨害するという指摘、国営メディアが供給源になるという指摘、影響工作の資金提供をめぐる米国の起訴事例などが挙げられる。矛盾する立場ですら状況に応じて使い分けられる、という見立ても付随する。

 最後の「憤怒経済」は、怒りや不信を煽るコンテンツが伸び、外部収益(物販など)や知名度獲得につながる条件として描かれる。反ワクチン/反ロックダウン領域から気候否認へ移行し、Xで短期間に急成長した発信主体の例が挙げられ、正体不明性や外部収益との結合が示される。後段では、この「憤怒経済」が、プラットフォーム内部の収益分配によって、より直接的なビジネスへ変わるという説明につながる。

プラットフォームは何をしているのか:広告と推薦が二つの増幅回路になる

 文書の中心にあるのは、偽情報・誤情報の広がりを「有料の拡散」と「有料ではない拡散」に分け、そのどちらも同じ収益モデルに支配されている、と整理する点である。広告では、標的に配信して報酬を得る。有料ではない拡散では、滞在時間を伸ばして広告在庫を増やすために、推薦と検索順位が最適化される。二つの回路は別物ではなく、どちらも広告収益の最大化に組み込まれている。偽情報・誤情報が伸びるとき、それは「勝手に広がった」だけではない、というのが文書の基本姿勢である。

有料の拡散:標的広告が「狙った層」に偽情報・誤情報を届ける

 デジタル広告が世界の広告投資の大半を占め、ターゲット広告が利用者データ(プロフィール、行動、閲覧)で精密化されていることを前提に、文書はこの精密性が偽情報・誤情報の「最適配布」を可能にすると述べる。政策に揺らぎやすい層、政治的に要衝となる層、地域的に被害が顕在化している層へ、広告として届けることができるからである。

 ここで核になるのが監視団体の調査である。反気候団体がFacebook広告とターゲティング能力を使い、気候科学への疑念や混乱を植え付けたこと、別の調査では複数主体からFacebookが2020年に合計ほぼ1000万ドル規模の広告費を受け取り、数万本の広告が数億回表示されたことなどが示される。文書はこれを、偽情報・誤情報の存在確認ではなく、プラットフォームが広告料として直接利益を得るという利害の可視化として使う。

 さらに、石油企業のSNS広告が誤認を誘うとして消費者保護の観点から問題視された調査が参照され、広告が「企業広報」ではなく「対策遅延や責任回避の情報戦」として機能し得ることが示される。ただし、広告透明性の欠陥が大きく、外部から支出の全体像を掴みにくいことも繰り返し指摘される。透明性が乏しいにもかかわらず、複数の調査が同じ方向を示し、しかもプラットフォームはそこから収益を得る。文書はこの一点を重く見る。

「有料ではない拡散」は中立ではない:推薦と検索が「誤導的な方が伸びる」条件をつくる

 有料ではない拡散について、文書は時系列表示から「関連性」表示への転換を大きな前提として置く。クリック、反応、コメント、視聴時間といった指標を入力に、「関与されやすい投稿」を予測し、フィードや「次の動画」の推薦、検索結果の上位表示として提示する。狙いは滞在時間を増やし広告収益を最大化することにある。推薦の仕組みは「好みを反映する便利機能」として語られがちだが、文書はそれを、可視性配分の自動システムとして扱う。

 この点を補強するため、文書は外部研究や調査を連続して参照し、推薦・検索が偶然に中立を失うのではなく、設計上そうなり得ることを示そうとする。観測点は次のように整理される。

  • 正確情報より誤導的情報が反応で勝つ、という反復観測:複数プラットフォームの大量投稿を分析した研究で、信頼できない情報の方が相対的に反応が高かったという結果が参照される。国連機関や気象機関などの発信と比べ、気候懐疑の発信者の平均反応が桁違いに大きかった、という比較も同じ論点に置かれる。権威情報ハブを用意しても、通常の推薦の世界では到達で圧倒的に負けるというギャップを、文書は「利用者の嗜好」の問題としてではなく、可視性配分の問題として扱う。
  • 検索順位は中立ではなく、話題を押し上げる局面がある:気候を否定する趣旨の話題が急増し、一定期間で数十万件規模の言及を集め、関連語の検索で上位に推薦された一方、活動量がより大きい対抗話題が上に出ない、といった事例が参照される。原因は断定されないが、外部要因だけでは説明しにくく、アルゴリズムによる押し上げの可能性が示唆される。検索も推薦と同じく可視性配分の入口であり、ここが歪むと「何が重要か」の入口が変わる。
  • 推薦が「次の誤導」を連鎖させる:誤導的主張を含む動画の相当割合で、さらに誤導的なコンテンツが推薦として付随していた、という報告が参照される。信頼できない情報から遠ざけるのではなく、誤導の連鎖へ誘導しているように見える、という評価がここで強まる。懐疑的な利用者行動を模した操作で、少数のクリックで「人為起源を否認」「対策を攻撃」するコンテンツへ進んでいくことが示された、という調査も同じ文脈に置かれる。
  • 災害局面で視聴実数の差が出る:バレンシア洪水関連で、偽情報・誤情報を含む動画がYouTubeとTikTokでそれぞれ数百万〜千万規模の視聴を獲得し、YouTubeでは平均視聴数が一般動画の数倍だったため、プラットフォーム側の増幅が疑われる、という分析が参照される。危機時に「役立つ情報」が自動的に勝つわけではない、という点を、ここでも同じ方向から補強する。危機対応が争点である以上、この差は単なる人気の問題として処理しにくい。
  • 偽装アカウントや自動化が話題を押し上げ、推薦の入口をつくる:国際的な重要局面で、気候変動関連投稿の相当割合が自動化された疑いのあるアカウントによって供給されていた、という研究が並べられる。話題の盛り上げが推薦システムを攻略する足場になり得る、という示唆がここに置かれる。推薦は「偶然の流行」だけでなく、「操作された盛り上がり」も拾い上げる可能性がある。

 この一連の観測が示すのは、誤導が単に「拡散する」ことの再確認ではない。関与の最大化という目的に沿って可視性を配分する以上、誤導が有利になる条件が繰り返し出現し得る、という構造である。

流通だけでなく生産も変わる:少数の発信主体が「伸びる型」を固定する

 文書はさらに、プラットフォームが流通経路であるだけでなく、コンテンツの作られ方そのものを変える、と述べる。推薦が好むトーンや題材が広まり、投稿者は反応を取りにいくために語り口を過激にし、結果として少数の発信主体が高頻度投稿と高反応で不均衡な影響力を持つ。そうした主体が、何が話題になり、どの型の言説が「勝つ」かを規定し、偽情報・誤情報の形を固めていく。短期間でフォロワーが数百から数十万へ増えた例が挙げられるのは、この「少数が支配する」構図を直観的に示すためである。

収益分配が決定的な点:偽情報・誤情報が「投稿すれば儲かる」市場になる

 決定的に踏み込むのが収益分配である。文書は、主要プラットフォームの多くで広告収益の一部を投稿者に分配する仕組みが中核機能になっていると述べ、巨大な分配市場が形成され、数百万規模のアカウントが参加しているという推計を紹介する。地域によっては平均賃金を上回る支払いが成立し得ること、高所得市場を狙う動機が強いこと、EU市場が標的として魅力的であることも述べられる。ここで「憤怒経済」は、外部収益だけでなく、プラットフォーム内部の制度として固定される。

 さらに、極端気象をめぐる誤導動画の相当割合に広告が表示されていたという観測、偽情報・誤情報が収益化されているという指摘、バレンシア洪水では収益分配参加の指標とされる認証バッジ付きアカウントがバイラルな偽情報の中心にいたという観測が並べられる。透明性不足のため厳密な全体像は掴みにくいが、「誤導が伸びやすい」環境と「伸びれば儲かる」制度が組み合わされれば、供給が内側から増えるのは自然だ、という含意が示される。

文書の中心命題:コンテンツではなく、収益モデルと設計が増幅を作る

 ここまでの議論が指し示すのは、気候偽情報・誤情報を「投稿の問題」に押し込めない、という文書の骨格である。利害アクターは広告で標的配布できる。推薦は反応を稼ぐ投稿を押し上げ、検索順位もその延長で働く。投稿者は伸びる型へ寄せ、過激化する。収益分配は参入を促し、供給を増やす。対策をラベルや注意喚起に限定すれば、増幅装置の設計は残り、結果も残る――文書はこうした見取り図を前提に、法制度パートへ進む。

DSAの考え方:重大リスクを見つけ、減らし、その説明を公開する義務

 法制度パートでは、DSAが超大型オンライン・プラットフォームに課す義務の中心が「重大リスクの把握」と「緩和」にあると説明される。サービスの設計や機能、関連システム(推薦、広告、モデレーションなど)から生じる重大リスクを、EU域内で継続的に特定し分析する義務がある。自動化や偽装アカウントなど、意図的な操作がリスクにどう作用するかも分析対象になる。文書がここで言うのは単純で、外部研究がすでに重大リスクを示している領域を、プラットフォームが重大リスクとして扱わないなら、それ自体が義務の履行として不十分になり得る、という点である。

 文書の説明に沿えば、義務の骨格は次の三つに整理される。

  • 重大リスクを特定し、分析する義務がある。設計・機能・関連システムがもたらすリスクを継続的に洗い出し、どこで何が増幅されるのかを説明可能な形にすることが求められる。
  • 同定した重大リスクに対し、合理的で比例的で効果的な緩和策を実装する義務がある。推薦システムのテストと調整、広告システムの調整など、原因が設計由来であるなら設計へ触れることが求められ、対策は効果が追跡可能である必要がある。
  • リスク評価と対策の内容を報告し、公表する義務がある。年次の公開資料そのものが外部検証の対象になり、説明の薄さや論点の欠落が、そのまま責任の空白として読まれる。

 偽情報対策の行動規範がDSA枠組みに統合され、主要プラットフォームが参加していることにも触れられる。Xは離脱しているが、それでも「どの水準を対策と呼ぶか」という参照点として、広告の悪用防止、資金遮断、急速拡散のリスクを減らす安全設計といった方向性がすでに示されている、という形で扱われる。

気候偽情報・誤情報は「重大リスク」か:被害規模と増幅構造を結びつける

 文書は、気候変動が欧州にとって実存的脅威であることを前提に、気候偽情報・誤情報が公衆の安全、基本権、民主的討議、危機対応に影響し得る点で、DSAの重大リスク枠に入ると主張する。その主張を具体化するため、欧州域内の損害規模の数値が置かれる。1980〜2023年の欧州で極端気象により24万人が死亡し、資産損失が7380億ユーロに達したという推計、洪水損害や影響人口の増加見込み、熱波による死亡の増加推計などである。ここでの論点は、危機時の偽情報・誤情報が救命や復旧を妨げ、長期的には政策実装と支持形成を崩し、結果として被害を増やし得る、という点にある。

 そのうえで、広告、推薦、収益分配という増幅の仕組みが外部研究で繰り返し示唆されている以上、プラットフォームは気候偽情報・誤情報を重大リスクとして扱い、設計に踏み込む緩和策を講じる義務がある、という結論が導かれる。

どこが不十分だとされるのか:リスク評価で「気候」が見えない、対策が薄い、後退もある

 文書は、各社がDSAの枠組みで公表しているリスク評価を検討対象にし、気候偽情報・誤情報が重大リスクとして十分に扱われていない、と述べる。Facebook、Instagram、YouTube、Xでは、気候偽情報・誤情報が重大リスクとして同定されていない、あるいは一般的な偽情報対策の例として短く触れる程度で、リスクの性質、設計の寄与、包括的対策の説明がない、と整理される。Xについては気候変動への言及が全くない、とされる。

 TikTokについては、重大リスクの一部として気候誤情報に言及し、定義や施策例、禁止方針を記載しているとされるが、文書はそれでも、広告・推薦・収益誘因という「仕組み」への対応が不十分だという方向で評価を置く。

 さらに外部分析を参照しながら、対策の「不在」「不整合」「後退」が列挙される。Xは気候偽情報・誤情報の正式な方針が欠け、定義、執行指針、検証機関との連携、広告管理がないとされる。YouTubeは科学的合意に反するコンテンツの広告収益を禁じるとしながら、否認や対策攻撃の言説が多数視聴され、収益化されていたとする調査が挙げられる。TikTokは主要プラットフォームで唯一、存在否認や原因の歪曲などを禁じる明示方針を持つとされるが、執行の透明性がなく、災害後も否認動画が多数残っていたという報告が参照される。Metaについては、気候に関する情報ハブを説明なく削除し、気候に特化した執行や可視性施策の根拠が乏しい、と整理される。

この文書が残す含意:安全設計は「ラベル追加」ではなく、広告・推薦・収益の設計変更にある

 この文書は、個別のアルゴリズム改修レシピを提示するタイプではない。代わりに、義務の焦点を「設計由来の重大リスク」に固定し、対策は広告審査と透明性、検索や推薦での押し上げ抑制、収益分配の統治と監査、危機時の情報の優先順位づけ、偽装操作への耐性といった領域へ進まなければならない、という方向性を明確にする。気候偽情報・誤情報を、言論の自由とモデレーションの争点だけで扱うのではなく、情報環境を設計し収益化する産業装置の安全設計として扱うべきだ、という主張がこの文書を貫いている。

結論:気候偽情報・誤情報は「コンテンツ問題」ではなく「設計問題」として立ち上がる

 広告は標的配布の回路として働き、推薦と検索は可視性配分の回路として働き、収益分配は供給のインセンティブとして働く。そこに政治・産業・擬装組織・国家・憤怒経済という供給側の条件が重なれば、誤導が増えるのは偶然ではなく構造になる。DSAの枠組みで問われるのは、まさにこの「設計由来の重大リスク」を、各社が特定し、緩和し、説明しているかどうかであり、ClientEarthは現状の自己報告がそれに足りていないと指摘している。

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