本稿で紹介するのは、ハンガリーのファクトチェック機関Lakmuszが2026年2月20日に公開した調査報道「若くて魅力的、フットボールとオルバーンの熱烈なファン、そして恋愛ドラマ:Facebookで最も精巧な親フィデス偽プロフィールネットワークの内側」である。Lakmuszはハンガリー・デジタル・メディア観測所(HDMO)の加盟機関であり、HDMOはEU出資のファクトチェック・偽情報研究ネットワークEDMO(欧州デジタルメディア観測所)の国別ハブ組織として機能している。EDMOはフィレンツェの欧州大学院(EUI)を拠点とし、EU全域のファクトチェック機関・メディア研究者・プラットフォームを連携させており、本調査はそのEDMOウェブサイトにも転載・公表されている。
調査が公開された背景には、2026年4月に予定されるハンガリー総選挙がある。Fidesz(フィデス)党を率いるヴィクトル・オルバーン首相が2010年の政権奪取以来構築してきたデジタル動員インフラに、研究者やジャーナリストは以前から注目してきた。本調査は、そのインフラの最新形態——人間が操作する偽プロフィール87件から構成された協調的偽装行動ネットワーク——を実証的に記述した最初の詳細報告である。
スノーボール調査の方法と87件の輪郭
Lakmuszはネットワーク発見の端緒を読者からの情報提供に求めている。読者が「不審」と判断した3つのFacebookページを起点に、スノーボール・サンプリング手法を用いて接続を展開した。疑わしいアカウントの公開投稿へのコメント・いいね・シェアを辿り、同様の行動パターンを示す別アカウントを特定する方法で、最終的に構築されたデータベースには87件のプロフィールが含まれている。それらは以下の5基準のうち最低3つを満たしている。
- 2025年に作成され、公開投稿を開始したのが直近2ヶ月以内
- プロフィール写真および投稿画像がAIで生成されている
- 党派的トピックに関し、定型的な内容を短時間に連続して投稿・コメントする過活動行動
- フレンドリストに同ネットワークの他メンバーが含まれている
- 「戦士クラブ」のサポーターグループに所属している
Lakmuszはこの87件の詳細をGoogleスプレッドシートで公開しており、各プロフィールはアーカイブURLとともに記録されている。ネットワーク全体の平均フレンド数は1,000件を大幅に上回り、特定の主要アカウントはフォロワー1,200件(Cintia)や1,800件(Mihály)に達する。
「戦士クラブ」との接続と実在人物の混在
ネットワークの49件(全体の約56%)は「Harcosok Klubja(戦士クラブ)サポーターグループ」という公開Facebookグループに所属している。このグループはオルバーン首相が自ら立ち上げたとされる非公式の組織の支持者コミュニティとして、タポルツァ市の元Fidesz=KDNP党支部長バラージュ・サコニが2025年3月に設立した。グループの投稿は同氏と、2019年のラーツァルマーシュ市長選挙に出馬した元Fidesz=KDNP候補イシュトヴァーン・パーリンカーシュが交互に執筆している。管理者20名の中には保守系地方ニュースサイト「Vidék hangjai」創設者のガーボル・ナジ、2023年にMegafonのソーシャルメディア研修プログラムを修了したアッティラ・フダークも含まれる。
このサポーターグループはフォロワー約25,000人に達しており、偽アカウントに混じって実在の人物も参加している。国家抵抗運動のベンツェ・アパーティ、国会議員ミクローシュ・セスタークとEP議員アンドラーシュ・ラースロー、政府系シンクタンク「ネゾーポント・インスティテュート」のアナリストらがメンバーとして確認された。実在の政治家・活動家と偽プロフィールが同一のグループ空間に並存する構造は、偽装行動の検知を困難にするとともに、グループ全体に「公式性」の外観を与える効果を持つ。母体の「Harcosok Klubja」本家はFacebook上にメンバー約50,000人の非公開グループとして存在し、デジタル市民サークル(Digitális Polgári Körök)は専用ウェブサイト上でメンバー104,000人と公表している。
コンテンツ増幅の機械的作動:リール再配布と削除行動
ネットワークの運用パターンを最も鮮明に示すのが、2025年11月7日のオルバーン=トランプ会談報道への反応である。「Cintia」は同日18時30分から22時30分の4時間に25本の短動画を投稿し、「Mihály」はその同じ日に39本を投稿した。投稿間隔が2分しかない場合でも、Zsombor Erdős、Ferenc Juhász、Zsolt Debreceniら同じネットワークメンバーが一貫してコメントを継続した。こうした投稿は最大で2,000〜4,500件の反応を集め、2週間で1,000件以上の政治的投稿がネットワーク全体から生成されたとLakmuszは推計している。

支持者たちの反応。わずか2分間隔の投稿にも同じメンバーが絶え間なくコメントを続けた。出典:Facebook / Lakmusz
特筆すべきはコンテンツの再加工工程である。ネットワークのメンバーは国営テレビ、Fidesz政治家のライブ動画、YouTubeの「パトリオータ」チャンネル(Megafonが運営)、外交・安全保障分析番組「Ultrahang」、さらには「Narancskommandó(オレンジ部隊)」といった政府系メディアエコシステム全体のコンテンツを再加工して配布している。オリジナルのページから直接シェアするのではなく、一度ダウンロードして再編集し、キャプションを加えて自らのプロフィール上に投稿する。Magyar Nemzet誌のTikTok投稿とネットワーク参加者が流通させた版を比較すると、後者はより直接的・扇情的なトーンに仕立て直されていた。
重要な行動として、政治的コンテンツの事後削除がある。「Sándor」のフィードは10月28日から11月7日まではフットボール関連投稿のみだったが、ギョール開催のデジタル市民サークル集会関連リールを17本まとめて投稿した後、キャンペーン終了とともにそれらを削除した。こうした削除行動はネットワーク全体に共通するパターンとして観察されている。最も活発な4名(Mihály、László、Eliza、Lajos)はいずれも10月中旬〜下旬に公開投稿を開始後、それぞれ120〜140本の投稿を行っている。
ペルソナ設計:フットボール・釣り・性的魅力による段階的浸透
87件のプロフィールを個別にみると、ペルソナ設計には体系的なテーマ分類が存在する。最も多用されているのがフットボールで、Ferencváros(通称Fradi)のサポーターが多数を占め、Honvéd、Diósgyőr、MTK、さらにLazioやLiverpoolのファンを演じるプロフィールも含まれる。チームロゴや選手ジャージ、スタジアムがカバー写真・プロフィール写真に使われ、フィードはサポーターグループのインサイダー情報や応援コンテンツで埋められる。この手法が有効なのは、オルバーン首相自身が「フットボールはハンガリー人のアイデンティティの一部」と公言してきた文化的文脈と不可分であり、ゴール時の歓喜や敗戦の悲嘆を見ず知らずのユーザーと共有する感情的紐帯が友人申請の受諾率を高める。

Kiaraの投稿。三色旗カラーのミニスカートはブルガリア国旗の配色だが、「本物のハンガリー人女性だ」としてフレンド申請を受け入れたコメントも届いた。出典:Facebook / Lakmusz
フットボールに蓄積された感情的基盤のうえに政治的コンテンツが流入するという「漸進的構築」のパターンがSándorのフィードに典型的に記録されている。フットボール投稿7本の後にギョール集会の関連リールを17本一括投稿するという切り替えは、フレンド獲得フェーズと増幅フェーズの役割分担を明確に示している。釣りも同様の機能を果たすテーマで、「Patrik」は「釣り好きが多そうだからFBを始めた」と自己紹介し、「Tibor」は「Fradi、釣り、そしてSNSなし。今まで🙂」と投稿したが、プロフィール写真の右下にGoogle Geminiの星型透かしが確認された。FacebookのデフォルトのCircleトリミングでは隠れるが、フルサイズ表示で露呈する。
加えて、thirst trap(性的な関心を引く意図で投稿される誘惑的な写真)を使ったフレンド獲得戦術も文書化されている。プラチナブロンドの「Tamara」「Vanessza」「Fanni」らは外見的魅力を前面に出した写真を投稿して友人申請の成功率を高め、Tamaraはそのネットワークを使って11月7日にオルバーン=トランプ会談関連の動画を13本流通させた。「Bertalan」は木々と犬の写真によって実在ユーザーの申請受諾を引き出した事例として記録されている。婚活目的の公開グループ(3万3,000フォロワー)への投稿も確認された。別の「Zoltán」がAI生成と見られる写真に「友達申請してくれたら話しかけます!」と添えて投稿し、1,100件のいいねと200件近いコメントを獲得したが、同アカウントが別のネットワークメンバーと同一のプロフィール写真を過去に使用していたことも判明している。Facebookでは近年こうした婚活グループが急増しており、プラットフォームのアルゴリズムは加入していないユーザーにもグループのコンテンツを推薦するため、意図せず偽プロフィールのコンテンツに触れる入り口として機能している。
実在するユーザーを巻き込んだ事例としてもう一つ記録されているのが、文学関係の共通フレンドを持つネットワーク内の人物「Vincze」による浸透である。Lakmuszの情報源は「文学関係のフレンドが100人近く共通していたので、創作活動をしている人だと思い込んで承認した」と語り、後に関係を断ち切った。この事例は、特定のコミュニティ内にすでに構築された信頼のネットワークを入り口として利用するソーシャルエンジニアリングの精巧さを示している。また、「András」というアカウントはブダペスト経営大学(BGE)の学生が2025年10月に起こした抗議運動の情報拡散を目的とした匿名Facebookページ「Free BGE」の関係者として別のユーザーから連絡を受け、友人関係を構築した後に活動の性格を親政府的なコンテンツ配布へと切り替えた。このアカウントが当初から偽プロフィールとして設計されていたのか、それとも既存のアカウントが乗っ取られた後に別の目的で運用されるようになったのかはLakmuszの調査では確定できていない。
「新規参入」の偽装工作とアカウント年齢の隠蔽
ほぼすべてのプロフィールが2025年に作成されており、公開投稿の開始は「平和行進」と「オルバーン=トランプ会談」に挟まれた2025年10月に集中している。FacebookのURLに含まれるユニークID番号をMarketplaceで検索することで登録年を確認できるという技術的手法によりこの集中が体系的に確認された。「Rókus」の最初の公開投稿はティハニ半島のカバー写真を投稿した10月15日で、ハンガリーでFacebookが普及して15年以上が経過しているにもかかわらずなぜ今になって投稿を始めたかの説明はない。
アカウント年齢を隠蔽するために複数の言い訳が使われている。「以前のアカウントがハッキングされた」「ブロックされた」「ログインできなくなった」「誰かに乗っ取られた」がその主なパターンで、「今までSNSをやっていなかった」という主張も多く見られた。ハンガリーでFacebookが普及してから15年以上が経過していることを考えると、こうした説明は文脈として極めて不自然である。Tibor(釣りとGemini透かし)の場合は後者の言い訳を採用したが、そのプロフィール写真に残るAIツールの痕跡が言い訳の信憑性を決定的に損なわせる。
AI画像生成の世代交代と検出困難化
本調査が技術的に重要な論点として提示するのが、AI生成画像の世代交代である。2019年にNvidiaのオープンソースStyleGANを利用したThisPersonDoesNotExist.comが示した第一世代技術は、正面向きのID写真スタイルに限定され、瞳が一点に収束するなど繰り返し出現するアーティファクトにより判定が比較的容易だった。2年前にLakmuszが報道したウーイペシュトの野党候補支持アカウントでもこの技術が使われていた。
現在ネットワークで観察されているのはMidjourney、ChatGPT、Grok、Google Geminiといった第二世代ツールによる画像であり、テキストプロンプトや視覚的な参照例から任意の場面を生成できる。顔だけでなく背景を含む全景が作成可能なため、ミスマッチな耳輪や歪んだ眼鏡フレームを探す従来の手法は機能しない。むしろ、第二世代AIの破綻は「過度な完璧さ」と「地理的・建築的知識の欠如」として現れる。

上段が元の写真(レマン湖のスポーツフィッシング講師)、下段がAIで改変されたÁgostonのプロフィール写真。髪の色・長さが変えられている。出典:Facebook / Lakmusz
「Ágoston」のプロフィール写真の一枚についてGoogleのAIはGemini製と判定した。問題が粗さにあるのではなく、プロのスタジオで撮影されたような過度の完成度が逆に不自然さを生む。同アカウントの別の写真についてLakmuszが顔認識ツールで調査したところ、4年前にレマン湖でスポーツフィッシング講師として撮影された実在スイス人男性の写真が元画像と判明した。AIはその男性の顔を改変し(髪を長く茶色くするなど)、設定されたペルソナに適合させていた。
地理的・建築的エラーはAI生成の典型的な痕跡として機能する。「Emma」の投稿では実際には自由橋ではなく鎖橋がブダ城方向に向かって描かれており、「Kiara」のプロフィール写真は国会議事堂・鎖橋・自由の女神像という互いに視野内に収めることが地理的に不可能な3つのランドマークを一枚の画像に圧縮している。自由の女神が手にしているのは元の像の銅製の花ではなく、勝利と平和を象徴する棕梠の枝に差し替えられている。

国会議事堂・鎖橋・自由の女神像が同一のフレームに収まるこの構図は実在しない。鎖橋は事実上議会に突き刺さる形で描かれており、女神像は銅の花ではなく棕梠の枝を手にしている。出典:Facebook / Lakmusz
「Lili」のプロフィール写真ではネオゴシック様式の国会議事堂の細部が改変され、広場中央に三体の群像彫刻が幻出し、デモ参加者が持つ横断幕の国名スペルも誤っている。こうした誤りが目立ちにくい構図上の工夫として、多くの画像で人物がカメラに背を向けて立っている。正面の顔を映さないことで顔の不自然さへの注意を逸らす実践的な効果がある。また調査報道作業中にアカウントが国会議事堂・王冠・笏・国旗などの国家的シンボルにプロフィール写真を切り替えるという適応行動も観察されており、監視への気づきと即時対応の能力を示している。
ボットではなく「人間による偽装」という位置づけ
Lakmuszは本ネットワークを純粋な自動化(ボットネット)でも単純な偽アカウントでもなく、「デジタル人的労働と純粋な技術的解決の中間」として位置づける。各プロフィールは実在する人物が操作していると見られるが、その人物はFacebook上でAI生成のペルソナとして呈示している「Cintia」「Zoltán」「Kiara」とは別人である。一人の操作者が複数のプロフィールを同時管理している可能性も排除できない。投稿の時間帯分析によれば、プロフィールの操作は平日の午前9時から午後7時に集中しており、「勤務時間帯のデジタル労働」という仮説を支持する。
これはFacebookが禁止する「協調的偽装行動(Coordinated Inauthentic Behavior)」の定義に合致する。実際、調査収集期間中にすでにいくつかのプロフィールが削除されており、データ収集中に「Benedek」のアカウントも消えた。しかし誰がネットワークを指揮しているかは本調査の時点では不明であり、Lakmuszはこの点について確定的な帰属判断を示していない。従来の研究者やジャーナリストが「戦士クラブ」と「デジタル市民サークル」が自動化技術の隠れ蓑になり得ると予測していたのに対し、実際に文書化されたのはその「予測」の一形態——人間による組織的な偽装行動——だった。
2026年選挙に向けた構造的含意
本調査の時事的文脈として重要なのは、EUの選挙透明性規則(2024年政治広告規則)に基づきFacebookが2025年7月からEU域内の有料政治広告を停止したという制度的変化である。これにより政治コンテンツを有機的にユーザーに届けるためには個人ネットワーク経由の拡散が以前にも増して重要になった。偽プロフィールが実在ユーザーと友人関係を結ぶことで、政治的コンテンツは本来そうしたコンテンツを能動的に探さないユーザーの内輪フィードにも表示される。Megafonのストラテジスト・マゴル・ドゥカーシュは2025年10月のバラトン湖畔での戦士クラブ合宿でFacebookリールの爆発的成長を強調し、「2026年の選挙キャンペーンはリールを軸に展開される」と明言した。本ネットワークのコンテンツ生産がまさにリールの再編集・配布に特化していることは、この戦略と整合的である。
従来型の「偽プロフィール発見手法」が機能しなくなっていることも本調査の重要な教訓である。第一世代AIの顔の破綻(余分な指、歪んだ眼鏡)を探す方法はもはや無効で、フレンド数が少ないことを疑いのシグナルとする経験則も1,000〜1,800人のフレンドリストを持つプロフィール群の前では機能しない。「ネコの写真を時々投稿して信憑性を演出する」程度でなく、独立した人格・関係・物語を持つペルソナが構築されており、本調査が記録した87件のネットワークは、標準的なメディアリテラシー教育における「偽アカウント識別」の知識体系が更新を必要とする現状を直接的に示している。本調査の公表時点でもネットワークの背後にある指揮系統の同定は完了しておらず、87件という数字自体も「スノーボール手法で到達できた範囲」にすぎない。実際の規模はより大きい可能性がある。


コメント
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