2026年3月18日、オランダ登録の非営利テックポリシー法人WHAT TO FIXは、「De-Risking Social Media Monetisation: Rating Platforms’ Coverage of Monetisation-Related Risks(Year 3 DSA Risk Assessment Reports)」と題する評価報告書を公開した。DSAのデジタルサービス委員会(Board of Digital Services)への提出文書としても位置づけられるこの文書は、YouTube・Facebook・Instagram・TikTok・Snapchat・X・LinkedInの超大規模オンラインプラットフォーム7社が提出したYear 3リスク評価報告書を、収益化リスクという単一の軸から横断的に採点・比較した独自分析である。
WHAT TO FIXという機関について
WHAT TO FIXは2019年から社会的メディアの収益化システムに起因するリスクを研究・政策提言してきた専門組織であり、プラットフォームの収益化設計を批判的に検証することを明確な組織的使命とする。本報告書が採用する分析枠組みとスコアリングはWHAT TO FIX独自のものであり、同組織の問題意識に基づく評価基準である点は理解した上で内容を読む必要がある。ただしDSAへの提出文書として規制当局の参照に耐える形式を持ち、プラットフォーム自身の公式報告書および公開情報を一次資料として使用している点で、単なる主張文書ではない。
DSAにおける収益化ガバナンスの論理的位置づけ
報告書の出発点は、VLOPsが提供するサービスを3つの統治領域に分解するフレームにある。コンテンツガバナンス(誰がアカウントを持ち、何を投稿でき、どのように推奨されるか)、広告ガバナンス(誰が広告を購入でき、何が拡散されるか)、そして収益化ガバナンス(誰が報酬を得られ、どのようなコンテンツが金銭的に報われ、どのようにカネが流れるか)の三層である。
DSA第34条はVLOPsに対し、サービスの設計・機能・利用から生じる体系的リスクを勤勉に特定・分析・評価することを義務付けており、第35条は比例的・実効的な緩和措置の実施を求める。報告書はこの義務が収益化領域において著しく不履行であると主張する根拠として、7社の報告書を精査した結果を示す。
収益化サービスはブランド資金型(ブランドパートナーシップ)、ファン資金型(サブスクリプション・チップ)、プラットフォーム資金型(ボーナス・収益再配分プログラム)の3形態を組み合わせており、収益化条件・ポリシー・自動化された執行コントロールの総体がリスクの温床となる、というのが報告書の基本認識である。
収益化固有の3リスク軸
報告書はリスクをINTENCIVE(インセンティブ)・PAYMENT(支払い)・RESTRICTION(制限)の3軸に整理する。
INCENTIVE軸は、エンゲージメント連動報酬が低品質コンテンツ・GenAI生成コンテンツ・盗用コンテンツや、感情的・論争的・違法性ぎりぎりのコンテンツ、および大量の再アップロードや複数アカウント・自動化ツールの活用を経済的に促進するという問題領域を指す。
PAYMENT軸は、不十分なビジネスデューデリジェンスに起因する違法アクターへの資金供与、資金洗浄の促進、未成年の経済的搾取への関与、および違法・ポリシー違反コンテンツへの経済的報酬(執行不足)を対象とする。
RESTRICTION軸は、不公正・乱用的な収益化条件による経済的依存やNDAを通じた自己検閲の強制、アルゴリズム主導の収益化停止決定による政治的発言・マイノリティ声・メディアへの恣意的・差別的抑圧(過剰執行)、そして報酬の欠如による経済的困窮と「経済的検閲」を含む。
収益化リスクが偽情報・FIMIと接続する経路は本報告書において明示的に記述されている。具体的には、衝撃的・感情的・論争的なコンテンツ(ヘイト・レイジベイティング・偽情報・詐欺)への報酬付与、GenAI利用・複数アカウント・自動化ソフトウェアなど非本物活動産業の育成・資金供与、選挙・戦争・抗議・環境危機などの高エンゲージメントイベントへの文脈認識なき参入の奨励、そしてFIMIと政治宣伝活動への補助金的機能である。
方法論とスコアリング
評価は各プラットフォームのYear 3 DSAリスク評価報告書の精読と、同期間中に公開された情報とを突き合わせる2段階で構成される。スコアリングは0〜20点満点で5基準をそれぞれ0〜4点で評価する方式(収益化機能の記述・インセンティブリスク評価・決済リスク評価・制限リスク評価・緩和措置の記述)。評価対象はあくまで「報告書に何が書かれているか」であり、プラットフォームの実態そのものではない点に注意が必要である。
7プラットフォームの採点結果
全7社において主要な欠陥が確認された。総合スコアはLinkedInの1/20を最低値、Xの7/20を最高値とするきわめて低い水準に集中した。
| プラットフォーム(親会社) | 収益化機能記述 | インセンティブリスク | 決済リスク | 制限リスク | 緩和措置 | 合計 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| YouTube(Alphabet) | 1 | 1 | 0 | 0 | 1 | 3/20 |
| Facebook(Meta) | 1 | 0 | 0 | 0 | 1 | 2/20 |
| Instagram(Meta) | 1 | 0 | 0 | 0 | 1 | 2/20 |
| TikTok(ByteDance) | 2 | 0 | 0 | 0 | 2 | 4/20 |
| Snapchat(Snap) | 2 | 1 | 0 | 0 | 1 | 4/20 |
| X(X Corp.) | 1 | 2 | 2 | 0 | 2 | 7/20 |
| LinkedIn(Microsoft) | 1 | 0 | 0 | 0 | 0 | 1/20 |
制限リスク評価は7社全社がゼロ点である。これは報告書のなかで最も重要な構造的発見の一つであり、収益化条件・ポリシーおよびその(大部分が自動化された)執行に関連するリスクを認識しているプラットフォームが皆無であることを意味する。
プラットフォーム別分析
YouTube(3/20、対象期間:2024年7月〜2025年6月)
YouTubeはクリエイターへの経済的機会の提供という収益化の機能を明示し、低品質コンテンツ・信頼性の低いクリックベイト・誤解を招く動画・ヘイト・ハラスメント・境界線上のコンテンツへのインセンティブが生じるリスクを一定程度認識している。収益化コンテンツに対して「より高い基準」を設けていること、YouTube Partner Programmeへの参加者を三振制度で管理することも記述している。一方、決済リスク・制限リスクへの言及はゼロ点である。
報告書に記載されていないが公開情報から確認される変更として、2024年8月にロシア拠点のAdSenseアカウント全停止、「反復的コンテンツ」ポリシーの非本物・大量生産コンテンツへの拡張(2025年7月)、収益化動画の下品な言語規制の緩和などが含まれる。2025年11月には仮想アイテムの収益化機能を新設し、2025年12月にはAI生成の合成的性的コンテンツの制作方法を教示・促進するコンテンツへの収益化を制限するアダルトコンテンツポリシーの更新も実施している。前者は新たな収益化機能の導入としてリスク評価を要するが、報告書には記載がない。Partner Programmeの参加アカウント数は最後の公表値(300万以上)から更新されておらず、過去4年間でクリエイター等への収益分配総額が1,000億ドルに達したとしながら現状規模の開示はない。デモネタイゼーション決定への先制的異議申立て制度と、エラー削減のための人間によるレビューの追加という2つの緩和措置は、リスクの存在を認めるものではなく報告書への記載も簡略にとどまる。
Facebook(2/20、対象期間:2024年9月〜2025年8月)
Metaのブランドコンテンツツール(ペイドパートナーシップラベルの付与)の説明と、脅威アクターが絵文字・スラングを用いた迂回や、有料コンテンツを有機的投稿として偽るラベル回避を実際に行っていると記述している点は評価に値する。ただしこれはインセンティブリスク・決済リスクの認識としては不十分である。
最も注目すべき変更は、ファクトチェッカーをCommunity Notesに置き換えることに伴い、米国でのコンテンツへの偽情報デモネタイゼーションを停止したことである。これはYEAR 3期間中に行われた変更であるが、リスク評価報告書に開示されていない。Platform-funded partnersは210万アカウントから860万アカウントへ拡大し、複数のアフリカ市場へも展開されたが、これらもリスク評価上は不開示である。
Instagram(2/20、対象期間:2024年9月〜2025年8月)
FacebookとInstagramはMetaとして一括されたリスク評価を提出しており、ブランドコンテンツツールに関する記述文はほぼ同一である。注目すべき変更として、収益再配分プログラムをすべて停止し、Platform-funded partners数を45,000アカウントからゼロに減少させた。2024年4月時点で200万以上の加入が報告された証言型パートナーシップ広告(Testimonials)や、ロック付き投稿(subscriptionモデル)の新機能ローンチが行われたが、これらに伴うリスク評価は報告書に存在しない。
TikTok(4/20、対象期間:2024年8月〜2025年7月)
TikTokのYear 3報告書でとくに注目されるのは、TikTok ShopのEU5市場(フランス・ドイツ・アイルランド・イタリア・スペイン)へのローンチ(2024年12月)が、違法・安全性を欠く製品リスクおよびIP侵害コンテンツリスクのモジュールとしてリスク評価に組み込まれた点である。また政治コンテンツの広告およびブランドコンテンツへの使用禁止も明示的に記述されている。これらが相対的に高いスコア(4/20)の根拠となる。
開示されていない事実として、毎日40万以上のユーザーがLIVE配信を行い、LIVEギフト収入は1日1,000万ドル超に達するという規模感がある。収益化サービスの利用アカウント数は不明のままである。
Snapchat(4/20、対象期間:2024年7月〜2025年6月)
SnapchatはINTENCIVE軸で唯一の得点を記録した3プラットフォームの一つであり、偽情報・FIMIに対して報酬を提供しないという目的で広告配置ポリシーが設計されていると明示している。また2024年後半のEUIPO-Europolの報告を引用し、インフルエンサーがIP犯罪の触媒として機能していることも認識している。これは7社のなかで最も実質的な偽情報・FIMI言及の一つである。
2025年2月に収益化参加要件をフォロワー1,000人から50,000人へと大幅引き上げ、60秒未満の動画の収益化停止を実施したことは緩和措置として記録されているが、Snapがクリエイターに支払った金額(2024年6億3,500万ドル、2025年6億2,100万ドル)の規模は報告書に開示されていない。
X(7/20、対象期間:2024年7月〜2025年6月)
Xが7社中最高スコアを記録した主因は、収益化をPremiumユーザーに限定するという設計と、それに伴う制裁リスト照合スクリーニングの実施、そしてCommunity Noteが付いた投稿を自動的にデモネタイゼーションするという仕組みの明示的記述にある。「ユーザーが収益化機能にアクセスするためにはPremiumユーザーである必要があり、Xは全Premiumユーザーを制裁対象リストと照合する」「Community Noteが付いた投稿は収益が発生しないようデモネタイゼーションされる」という記述は、7社のなかでPAYMENTリスク認識として唯一実質的な内容を持つ。CSAMについて「悪意ある行為者が強い金銭的インセンティブを持つ高度に対抗的な領域」と認識していることも記述されている。
報告書に記載されていない変更として、2024年10月〜11月にCreator Revenue Sharingプログラムの報酬算定基盤を「返信内の広告収入」から「Premiumユーザーのエンゲージメント」へ全面改訂し、2024年12月にはCreatorサブスクリプションツールの利用資格をPremiumフォロワー2,000人以上に引き上げた。2025年7月には全クリエイターへのID確認義務化を実施し、収益分配プログラムを悪用したベトナム人詐欺師グループへの法的手続きを開始した。これらは実施済みの変更として公開情報から確認されているが、Year 3報告書には記載されていない。
逆説的なのは、DSAのもとで最初に制裁(1億2,000万ユーロの罰金)を受けたのがXであり、にもかかわらず収益化に関する開示量が7社中最も充実しているのもXであるという関係である。7/20というスコア自体が著しく低い水準であり、これは相対的な比較優位に過ぎない点に改めて注意が必要である。
LinkedIn(1/20、対象期間:2024年8月〜2025年7月)
評価期間中にローンチされたBrandlink(信頼できるパブリッシャー・クリエイターと特定ブランドを結ぶインストリーム動画広告プログラム)の機能説明のみが記載されており、収益化に関連するいかなるリスク認識も緩和措置の記述も存在しない。参加はインバイテーション限定で収益分配率も非公開であり、7社中最低の1/20となった。
報告書が記録する開示の空白
「What’s Missing」と題されたセクションは、プラットフォームが認識すべきであるにもかかわらず開示していないリスクと緩和措置を体系的に列挙する。
INCENTIVE軸の空白として、多数アカウントの組織的利用・自動化アカウント管理ソフトウェア・電話ファームの産業的使用、GenAIの工業的活用といった非本物コンテンツ製造基盤への収益化サービスの機能が挙げられる。偽情報研究の文脈でとくに重要なのは、これらが単なる規約違反行為ではなく、プラットフォームのエンゲージメント連動報酬設計によって経済的に持続可能な産業として育成されているという指摘である。PAYMENT軸では、インフルエンサー偽情報代行業(disinformation-for-hire)への補助金供与、政治キャンペーンおよびFIMIへの資金供給、本人確認・財政・金融・選挙詐欺の促進と資金洗浄への関与が開示されていない。いずれのプラットフォームも顧客認識(KYBC:Know Your Business Content)審査や高リスクアクター・高リスク支払いに対する強化デューデリジェンスを開示しておらず、収益化関連の記録保存・アーカイブも存在しない。
RESTRICTION軸については認識ゼロの状態が続いており、恣意的収益化制限・差別的収益化制限・経済的苦境・「経済的検閲」・編集的自己検閲といったリスクが完全に不開示である。これは一方向の開示構造として機能している。すなわちプラットフォームは収益化を拡大するインセンティブについては部分的に認識する一方、収益化を制限・停止する権力から生じるリスク——政治的活動家・マイノリティメディア・批判的ジャーナリストへの経済的抑圧——については沈黙を保っている。これらに対する緩和措置として期待されるものとして、収益化条件の改善、収益化停止決定への人間によるレビューの制度的保証、プラットフォームの判断ミスへの金銭的補償、報酬計算・手数料・源泉徴収等に関する透明性の向上が挙げられる。
勧告の構造
報告書が求めるのはリスク評価・緩和措置・透明性の3点である。リスク評価については、新機能の導入時に体系的なリスクアセスメントが行われ、その結果が開示されることを要求する。緩和措置については、特定されたリスク全体に対する合理的・比例的・実効的な措置の実施と開示を求める。透明性については、収益化サービス・システム(ポリシーとコントロール)・パートナーシップに関する情報開示を通じ、収益化ガバナンスの実効性について第三者による独立した監督を可能にすることを求める。

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