英国の中道左派系独立シンクタンクIPPR(Institute for Public Policy Research)は2026年4月、ソーシャルメディアのアルゴリズム設計が民主的公共圏に与える構造的影響を分析した報告書『Stuck on You: How to Make Social Media Good Again』を公表した。執筆者はIPPR民主主義・政治担当シニアリサーチフェロー、Sofia Ropek HewsonとリサーチャーのJasmine Jinadu。Survationとの共同世論調査(英国ユーザー1,000人)、2025年12月に実施したフォーカスグループ2回(計10名)、Ofcom・Pew Research Center・Gartnerの統計データ、MetaのFTC独禁訴訟判決文、EU DSA執行事例などを実証基盤とする。報告書の中核命題は「商業アルゴリズムが生み出す粘着的ゲートキーピングによって、ソーシャルメディアはもはや社会的でも接続的でもなくなった」というものであり、プラットフォームガバナンス・情報環境規制・民主的公共圏の再設計という三軸で政策提言を構成している。IPPRが明確にBBC強化と公共プラットフォーム創設を支持する進歩主義的シンクタンクであることは、本報告書を読む際の前提として留意が必要である。
ゲートキーピングの三段階変遷
報告書の分析的骨格は「強いゲートキーピング」「弱いゲートキーピング」「粘着的ゲートキーピング」という三段階の歴史的変遷モデルである。ゲートキーピングとはニュースや文化を構成する情報がいかに選別・濾過されるかを説明する概念であり、誰がその「門」を操作するかが問題の核心となる。
強いゲートキーピングが支配した時代の具体像として報告書が示すのが、英国デヴォン州の海岸沿いの都市トーキー(人口6万人)の地方紙Herald Expressである。同紙は2010年に日刊2万1,000部を記録しており、読者数は部数の約2.5倍と推計されることから、トーキー市民のほぼ全員が同一の新聞を読んでいた計算になる。強いゲートキーピングは共有された公共生活・ジャーナリズム倫理・ファクトチェックへのコミットメントと結びついていたが、同時に排除の構造でもあった。1950年、David Manning Whiteが米国中西部の地方紙のワイヤーエディター「Mr Gates」の記事選択行動を観察し、何がニュースになるかは「高度に主観的」であり編集者の先入観・経験・価値観に規定されると指摘した研究は、ゲートキーパーの中立性神話を早くから解体している。英国では一部の政治的立場、移民、LGBTQ+コミュニティが主流報道から排除されるか、センセーショナルな文脈でしか登場できなかった。哲学者Nancy Fraserが「対抗的公共圏」と呼ぶ、主流メディアの外側に自律的なコミュニティを形成する集団——Claudia JonesのWest Indian Gazette、第二波フェミニズム誌Spare Rib、ロンドン・レズビアン・アンド・ゲイ・スウィッチボード——が存在し続けたのは、強いゲートキーピングへの構造的応答である。
2005〜2015年の間、ソーシャルメディアの台頭が強いゲートキーピングを弱体化させた。Herald Expressの部数は2025年時点で週刊2,500部まで落ち込んでおり、この縮小が象徴するように、誰がニュース・文化・情報の流通を管理するかの構造が根本的に変化した。#BlackLivesMatter、#MeTooといった運動や、ガザにおける市民の声の増幅は、弱いゲートキーピングが多元的な公共言論を可能にする実例として機能した。ただしこの時期のソーシャルメディアが楽園だったわけではない——ユーザーが持ち込むバイアスや党派性は既存メディアのそれを再生産・強化することもあった。それでも、ユーザー主導のメディア空間、新たなコミュニティ形成、支配的なメディア言説への異議申し立てという可能性は、少なくとも構造的には開かれていた。
この可能性が短命に終わったのは、2009年にアルゴリズム推薦システムが導入されたからである。
「粘着性」という概念の内実
stickiness(粘着性)はもともと1990年代のマーケティング用語であり、ユーザーをできるだけ長時間プラットフォームに留まらせることを意味する。初期の粘着性は技術的障壁に依存していた——デジタル写真アーカイブとしての機能、アカウント削除の困難さ、データとソーシャルグラフの持ち出し不可能性がユーザーをロックインした。Cory Doctorowが「enshittification(クソ化)」と名付けたこの構造は、プラットフォームの競争力がユーザーの移行コストに依拠している段階の特徴である。
2026年時点で粘着性はより洗練された形態をとる。プラットフォームはユーザーをコンテンツパーソナライゼーションとインフルエンサーとの擬似的な親密関係の構築によって留めようとする——これが報告書の言う「粘着的ゲートキーピング」である。競合プラットフォームが増殖した結果、各社は差別化の手段として「個人化された親密な繭」の構築に注力するようになった。Ofcomの2015年データと2025年データの比較が示すように、2015年時点でFacebookが英国の70%以上のリーチを誇っていた構図から、2025年にはYouTube・Facebook・Instagram・Reddit・TikTokなどが多極的に競合する状況に移行している。
粘着性と依存の概念的区別も報告書は明確にしている。2025年にNature誌に掲載されたAnderson & Woodの研究は、Instagramユーザーが自らの依存度を過大評価する傾向を実証し、「依存している」と自己規定するユーザーほどプラットフォームへの責任帰属ではなく自己責任帰属を強める逆説を明らかにした。米国のニュース・メディアが「ソーシャルメディア習慣」より「ソーシャルメディア依存」という言語フレームを好んで使用する傾向も同研究は指摘しており、このフレーミング自体がユーザーの自律感を低下させる効果を持つ。粘着性という概念は習慣的・親密的な不快感を記述しつつ、同時に「unstick(剥がれる)可能性」も含意しており、報告書の政策的楽観主義の基盤ともなっている。
現在のプラットフォーム地形
報告書はソーシャルメディアを現在三類型に分類している。
| 類型 | 代表例 | ゲートキーピングの様式 | 論理 |
|---|---|---|---|
| メッセンジャー型 | WhatsApp、Messenger、Signal | ユーザー制御型 | プライバシーと直接性 |
| 放送型(ブロードキャスト型) | TikTok、YouTube、Instagram Reels | 粘着的・アルゴリズム的 | 受動的観客性 |
| 特化型スペース | Reddit、LinkedIn、Discord | ユーザー制御型+アルゴリズム | コミュニティ形成 |
報告書が分析の焦点を放送型プラットフォームに絞るのは、Ofcomの2024/25年Online Nationレポートが放送型プラットフォームがユーザーの時間を最も多く占有することを示しているからである。YouTubeが1日あたり約50分強と断トツで首位であり、Facebook/Messengerが約45分でそれに続く。WhatsAppが約35分、TikTokが約30分という順位で、X・Reddit・LinkedInは10〜20分の水準にとどまる。放送型プラットフォームにおいてはユーザーが専門化されたコンテンツ制作者の投稿を閲覧し、リアクションや返信という形で反応するのが基本様式であり、ユーザー間の水平的なやりとりは構造的に後退している。
フィード構成の実測:IPPR/Survation調査
報告書が独自に実施したIPPR/Survation調査(2026年)は、英国ユーザー1,000人にYouTubeとプライベートメッセージングを除くソーシャルメディア(Instagram、Facebook、X、Bluesky、TikTok)の直近フィードの上位4投稿を分類させた。結果は以下のとおりである。
| カテゴリ | 割合 |
|---|---|
| インフルエンサー・公人・推薦コンテンツ | 35% |
| 広告・ブランド | 29% |
| 知人からの個人的投稿 | 18% |
| 組織・メディア | 約13% |
| その他 | 約5% |
注目すべきは「コンテンツのすり替え」と報告書が呼ぶ現象である。知人のコンテンツはフィードの1番目の投稿では24%を占めるが、4番目では14%まで低下する。逆にユーザーが2番目のフィードアイテムで広告を目にする確率は1番目の約2倍である。プラットフォームは友人コンテンツを入口に見せてユーザーを引き込みつつ、スクロールが進むにつれて商業コンテンツへの露出を増やしていく。
この構図に対し、MetaのFTC独禁訴訟(2025年)でBoasberg判事は明確な判断を示した。同判事はMetaプラットフォームにおける友人関連コンテンツの乏しさと、ユーザーが友人のコンテンツをより多く求めていることの両方を確認したうえで、「ユーザーが何を望むと言おうと、Metaのアプリに彼らを引きつけているのは、取るに足らない友人の些細な投稿ではなく、彼らのために選ばれた無関係な動画だ」と記し、これは利益を最大化する企業が顧客の求めるものを提供しているにすぎないと結論づけた。この判決文の論理は、ユーザーが「選んでいる」のか「選ばされている」のかという問いに対する法廷からの回答として機能している。
「ソーシャルグラフ」から「インタレストグラフ」へ
報告書は2025〜2026年の間にプラットフォームの基本設計思想が「ソーシャルグラフ(誰を知っているか)」から「インタレストグラフ(何を買わせられるか)」へ移行したと分析する。Metaは「人類の接続」を使命の中心に置くと公言しながら、その推薦システムが実際に最適化するのはユーザー対プラットフォーム接続とユーザー対高価値コンテンツ接続であり、友人同士の相互接続ではない。Zuckerbergは2025年にMetaプラットフォームがもはや真にソーシャルなものではなく「エンターテインメント」と「世界で何が起きているかの発見」に軸足を移した、つまりテレビ視聴に近い体験になっていると認めた。
この移行が商業的に正当化される理由はデータに明らかである。英国の18〜34歳はTikTokに月間1,470分を費やすのに対し、WhatsAppは510分にとどまる(Ofcom 2025)。TikTokはトラッキングピクセルによってユーザーのウェブ上の行動全体を追跡し、表示コンテンツのパーソナライゼーション精度を高める。この構造の帰結としてTikTok Shopの成長がある——2025年のブラックフライデーには英国で毎秒27品が販売され、Marks & Spencer・Sainsbury’sを含む英国事業者20万社がTikTokで商品を販売している。英国のソーシャルコマース市場規模は2025年に£90億に達しており、これは英国の書籍出版産業(£70億超)も音楽産業(約£76億)もともに上回る。「social(社会的)」な動画が最も効率的な購買漏斗になるとき、コンテンツの社会的機能は商業的機能に完全に従属する。
パラソーシャル関係の支配と「沈黙する公衆」
報告書がインタレストグラフへの転換と並行して分析する現象が、プラットフォームのパラソーシャル化である。パラソーシャル関係とは直接の面識がない他者——セレブリティ、テレビの登場人物、AIチャットボット——に対して感じる親密感を指す概念で、1956年の論文に起源を持つ。2016〜2020年の5年間にパラソーシャル関係に関する研究論文は、それ以前の60年分を超える数が発表されており、この概念への学術的関心の爆発がプラットフォーム上での現象の拡大と連動していることを示す。
インフルエンサーコンテンツが粘着性と収益性の双方で最適解となる商業的論理は明快である——閲覧者はインフルエンサーに長時間を費やし、着用商品の購入やYouTube Super Chat(ライブ配信コメントを際立たせるための有料機能)といった形で金銭的にも関与する。Pew Research Centerの2024年調査は、米国ユーザーがフォローするアカウントの大半がインフルエンサー・クリエイター・セレブリティであることを確認している。報告書のIPPR/Survationデータではインフルエンサー等が35%を占めるのに対し知人の投稿は18%である。この非対称の中でユーザーが「見られる側」になる動機は失われていく。フォーカスグループの若い参加者は「ソーシャルメディアは大きなキャリアになった。今は誰かがそれでお金を稼いでいるから、無意識のうちに投稿の頻度が下がった——今の時代に享受できる恩恵を得られないなら、コンテンツを出す意味があるのか」と語っている。
この変化の統計的証拠は複数ある。米国では「公開で自分の生活を記録することが好き」と答える成人の割合が2020年の40%から2024年には28%に下落した(Gartner 2024)。英国ではOfcomが「オンラインよりオフラインのほうが自分らしくいられる」と感じる成人の割合が2024年の30%から2025年には25%に低下したことを確認している(Ofcom 2025)。Metaの自社データによれば、写真をパブリックに投稿するより直接メッセージで送ることが多数派になった。2025年の調査では全ソーシャルメディアユーザーの約3分の1が1年前より投稿頻度を下げており、Z世代では特にその傾向が顕著である。報告書のフォーカスグループ参加者のうち、定期的に投稿しているのは10名中1名のみだった。
この「沈黙する公衆」が持つ政治的帰結を、報告書はHenry Farrellの「malformed publics(歪んだ公衆)」概念を援用して分析する。プラットフォームアルゴリズムは世論の集合的な像を、実際の人口構成とは乖離した形で生成する——一部の可視的な投稿者が公衆全体を代表しているかのように政治家・ジャーナリストの目に映る構造である。この問題の実証として報告書が挙げるのがGauthier, Hodler, Widmer, Zhuravskaya(2026年2月、Nature)によるXのアルゴリズム効果研究である。同研究はXのアルゴリズムが保守系インフルエンサーのコンテンツを優遇し、伝統的メディアの投稿を相対的に下位に置くこと、そしてアルゴリズムによって保守系政治活動家アカウントへと誘導されたユーザーが時系列フィードに切り替えられた後もそれらのアカウントをフォローし続けることを示した——アルゴリズムがユーザーの政治的態度に持続的効果を持つことの証拠である。英国では政治家・ジャーナリストがXを主要情報源として使用する頻度が高く(Reuters Institute 2023)、この歪みが政策課題の優先度認識にも影響しうる。MetaはXに続く形でサードパーティのファクトチェックを廃止し、Zuckerbergは「より多くの悪いコンテンツをキャッチできなくなる」と認めており、FacebookがLGBTQ+コミュニティグループを削除したとの報告もある(ABC 2025)。
規制環境の現状と英EU格差
プラットフォームの設計がもたらす構造的問題に対して、英EUの規制アプローチは大きく乖離している。EU DSA(デジタルサービス法)第25条は「ダークパターン」を明示的に禁止する——オンラインプラットフォームが利用者の自由で情報に基づいた意思決定を実質的に歪める形でサービスを設計・運営することは禁じられている。DSAはさらに大規模プラットフォームに対し、プラットフォームの設計・利用に関するシステミックリスクの評価と、研究者へのデータアクセス提供を義務づける。
これに対し英国のOnline Safety Act(OSA)は有害設計の規制に集中しており、欺瞞的設計の規制には射程が及んでいない。欧州委員会はこの広権限を積極的に行使している。2025年12月にはXに対して€1億2,000万の制裁を科した——青バッジがアカウント所有者を「意味のある形で」認証していないにもかかわらずユーザーを欺くとの判断に基づく。2026年2月にはTikTokの無限スクロール・自動再生・パーソナライゼーション推薦システムがDSA違反と認定された。TikTokのリスク評価がこれらのダークパターンと設計が有害または依存性をもたらしうることを検討していなかったことが問題とされた。英国の2024年デジタル市場・競争・消費者法もnudges(過速意思決定を誘発するもの)とsludges(望ましい行動を困難にするもの)を規制するが、その文脈は消費者の意思決定保護であり、民主的公共圏の保護には届いていない。
提言の構造と射程
報告書は三つの柱のもとに5つの具体的提言を構成している。
| 提言 | 対象 | 手段 | 参照モデル |
|---|---|---|---|
| プロミネンス要件の拡張(公共サービスコンテンツの露出確保) | ソーシャルメディア各社 | Media Act改正 | ドイツ州際メディア協定(2020年) |
| 操作的アルゴリズム設計の禁止(OSA改正) | 同上 | OSA改正+ダークパターン規制 | EU DSA第25条 |
| BBC「Open Door」復活(1973〜83年の参加型番組の再創設) | BBC | チャーター更新 | — |
| 公共SNSプラットフォーム創設(BBC・欧州公共放送連合主導) | BBC・欧州公共放送 | 連合形成→実現可能性調査→政策立案 | Mastodon、Front Porch Forum |
| 公共放送への競争政策適用除外(公共デジタルインフラ免除) | 競争当局・BBC新チャーター | Public Value Test簡略化+適用除外 | Project Kangaroo教訓 |
第一の提言はOfcomが2025年7月の公共サービスメディアの将来に関する報告書でニュースコンテンツへのプロミネンス規制拡張を政府に勧告したことを起点に、報告書はその射程をニュース以外の公益コンテンツ——自治体、登録慈善団体、コミュニティ利益会社、法定機関——まで拡大することを求める。ドイツの2020年州際メディア協定はすでに報道機関コンテンツを「不公平に不利な扱い」することを禁じており、英国の2024年Media Actが公共放送をコネクテッドTVで目立たせることを求めているのと合わせて、ソーシャルメディア上のプロミネンス規制の法的・政策的実績はすでに存在する。
Open Door復活の提言が参照するのは1972年、後のデイヴィッド・アッテンボローが当時BBC番組ディレクターとして提唱した参加型放送の実験である。1973〜1983年の10年間運営されたOpen Doorは、詩のグループ、学生団体、老齢年金合同委員会、黒人労働者の権利団体、「家事に賃金を」キャンペーンなど多様な集団が編集への外部介入なしに放送時間を掌握することを認めた。現在BBCはYour Voice, Your BBC Newsというユーザー参加型の議題設定プログラムを運営しているが、Open Doorの復活はそれをさらに進め、主流報道でカバーされない集団が自ら発信を管理する仕組みの創設を意味する。
公共SNSプラットフォーム構想の根拠として報告書が示す参照事例は二つ。Mastodonは分散型・クラウドファンディングベース・オープンソースのプラットフォームであり、Front Porch Forumはバーモント州民の過半数が利用するアルゴリズム不使用・広告最小化のローカルSNSで、2024年の研究はこれが米国のオンラインスペースでほぼ唯一「より情報を得られ、周囲の人々とつながっていると感じさせる」場であることを確認している。ただし報告書はBBC主導の公共プラットフォームを純粋な市民的討論空間として設計することを明示的に退け、ニュース・エンターテインメント・ソーシャル機能の統合を求めている。
競争政策改革の必要性を示す最も鮮明な事例がProject Kangarooである。2008年にBBC・Channel 4・ITV が共同で提案した動画ストリーミングサービスは、Sky等の商業競合他社のロビー活動を受けて競争委員会が「競争を脅かす」として却下した。Netflixが2007年に創業し現在の企業価値が1,500億ドルに達したことを念頭に置けば、競争政策が公共放送の連携を阻止することで民間プラットフォームの独占を事実上後押しした構図が浮かび上がる。報告書は新BBCチャーターにおいてPublic Value Testを簡略化し、公共放送間の協力に対する「公共デジタルインフラ適用除外」を競争審査に導入することを求める。
評価と留保
本報告書の分析的強度はゲートキーピングという単一の概念軸で20年間の構造変化を整理する枠組みの明快さにある。「社会グラフ→インタレストグラフ」の移行、「弱いゲートキーピング→粘着的ゲートキーピング」という逆行、インフルエンサーの拡大と一般ユーザーの沈黙という三つの同時進行する変化を一貫した論理で接続する構成は、プラットフォームガバナンス論の実践として参照価値がある。Boasberg判決文とGauthier et al.のNature論文という外部の実証を組み込んでいる点も報告書の信頼性を高めている。
ただしIPPRが進歩主義的シンクタンクであり本報告書がBBC強化・公共プラットフォーム創設・OSA改正という明確な政策目標に沿って設計されていることは、分析の焦点に非対称性を生んでいる。XのアルゴリズムによるRight-leaning amplificationはGauthier et al.の詳細な実証研究を根拠に具体的に論じる一方、Metaの政治的偏向についてはComparable studyの必要性を留保として述べるにとどまる。フォーカスグループ10名という定性サンプルの限界、世論調査1,000人という規模、英国単一市場への分析の限定も、一般化の範囲を画する要素である。EUのDSAを規制の参照モデルとして積極的に参照する一方、プラットフォームの非線形な反応(規制回避・アルゴリズム変更)については論じていない。これらの限界を踏まえた上で、商業アルゴリズムが民主的公共圏に与える構造的影響の分析フレームとして、本報告書は政策・研究双方に有効な参照軸を提供する。

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