「怒っているが正しい」――COVID-19誤情報への反論投稿はなぜ感情的なのか

「怒っているが正しい」――COVID-19誤情報への反論投稿はなぜ感情的なのか 論文紹介

 南カリフォルニア大学(USC)アネンバーグ・コミュニケーション校のEun Cheol Choi氏とトーマス・ロード計算機科学科のEmilio Ferrara氏による共著論文“Angry but Accurate: Detecting and Profiling the Counter-Misinformation Ecosystem on Twitter”は、Twitter(現X、ただし本稿の対象期間はリブランディング以前であるため論文中では一貫してTwitterと表記される)上でCOVID-19の誤情報に反論・訂正する投稿群、すなわち著者らが「対抗的誤情報エコシステム(counter-misinformation ecosystem)」と呼ぶ集団を大規模に分析した実証研究である。ACM Hypertext 2026に採択されたプレプリントで、2026年8月7日にarXiv(2607.02900v2)で公開された。中心的発見は、誤情報に反論する投稿の方が誤情報を拡散する投稿よりも感情的に強く、特に怒り・嫌悪・悲しみといった負の感情スコアが高いという結果であり、「負の感情は虚偽情報のシグナルである」という定説と正面から矛盾する。

研究の背景と問い

 誤情報対策の研究は長らく拡散側、つまり虚偽の主張がどのように広がるかに焦点を当ててきたが、SNS上では専門のファクトチェック団体だけでなく一般ユーザーも能動的に誤りを訂正している。著者らが引用する先行研究では、COVID-19関連の誤情報に対する反論投稿の96%が一般市民によるものであり、ファクトチェック機関によるものではないことが示されている(Micallef et al., 2020)。また、Bode and Vraga(2018)のランダム化比較実験は、一般ユーザーによる訂正が誤った信念を実際に低下させることを示しており、この種の訂正行動をどう捉えるかは実務的にも重要である。

 一方、誤情報とその訂正を分ける特徴、とりわけ感情のトーンに関する研究では、「虚偽の内容は真実の内容よりも感情的に強く、道徳的な怒りや恐怖といった感情価を帯びやすい」という知見が積み重ねられてきた。この構図のもとでは、感情的な強さそのものが誤情報の代理指標として扱われがちである。しかし、Micallef et al.(2020)はCOVID-19の少数のトピックについて、一般ユーザーによる意見ベースの反論投稿の方が対象となった誤情報よりも負の感情や怒りを強く帯びていたことを報告しており、Lee et al.(2022)も銃乱射事件をめぐる誤情報と訂正投稿の手動分析で訂正側に怒りが目立つことを確認している。ただしこれらの先行研究は扱う主張の数が限られ、辞書ベースの感情分析または手動コーディングに依拠しており、この逆転パターンが大規模に、かつ離散感情の精密な計測のもとでも成立するかは未検証だった。本論文はこの空白を埋めることを狙う。

手法:3段階パイプライン

 著者らはCOVID-19の誤情報について、収集(retrieval)・検出(detection)・プロファイリング(profiling)の3段階からなるパイプラインを構築した。

 まず偽言説の収集では、Google Fact Check Tools、PolitiFact、Poynter、Snopesなど複数のファクトチェック関連データセット(FACT-GPT、COVID-Fact、FaCov、FakeCovid、CoAID、FibVID、COVID-19 Rumor、COVERT、CMU-MisCov19の計9種)を統合し、虚偽または捏造とラベル付けされた主張を抽出、重複を除去したうえで15,374件のユニークな偽言説を得た。

 次に、Chen et al.(2020)が公開した大規模なコロナウイルス関連Twitterデータセット(2020〜2021年を対象範囲とする)から、各偽言説についてBM25検索アルゴリズムで関連度の高い上位100件のツイートを取得し、1,537,400件の「主張とツイートのペア」を候補として構築した。

 検出段階では、著者ら自身の先行研究(Choi et al., 2025)で用いたNLI(自然言語推論)分類器を適用した。ベースモデルはDeBERTa-v3-baseを用いた汎用NLIクロスエンコーダで、SNLI・MNLI・FEVER-NLIで事前学習した後、COVID-19特化のNLIデータセット(COVIDLiesなど)でファインチューニングした。学習データの不足を補うため、著者らは「制御可能な誤情報生成(controllable misinformation generation, CMG)」という手法を用いている。これは偽言説と目標ラベル(含意・矛盾・中立)を指定してLLMに合成ツイートを生成させ、ファインチューニングデータに加える手法で、GPT-4oで拡張したデータセットを用いた最良モデルはF1マクロ=.805、正解率=.828を記録した(ラベル別ではF1含意=.779、F1矛盾=.745、F1中立=.885)。

 この分類器を1,537,400件の候補ペア全てに適用し、重複ツイート・中立判定・矛盾する判定(同一ツイートがある主張には支持、別の主張には反対と判定されたケース)を除外した結果、最終的な分析対象は264,737件のツイート(誤情報を支持する投稿195,922件、反対する投稿68,815件)、投稿者は201,334人のユニークユーザーとなった。

 プロファイリング段階では、この264,737件を対象に23種類のユーザー・テキスト特徴量を比較した。感情はDemuxモデル(Chochlakis et al., 2023)でEkmanの基本6感情(怒り・嫌悪・恐怖・喜び・悲しみ・驚き)をスコア化し、有害性はDetoxifyで7種のスコア(有害性、重度有害性、卑猥、アイデンティティ攻撃、侮辱、脅迫、性的表現)を算出、ボット的傾向はBotometer X APIで測定した。これに加えて、フォロワー数・フォロー数・リスト掲載数・いいね数・ツイート/リツイート数・アカウント年齢といったユーザー属性、およびツイート長・ハッシュタグ数・メンション数といったテキスト属性を、元のTwitterデータセットから直接取得した。

結果1:怒れる訂正者たち――感情パターン

 分析の中心的発見は、誤情報に反対する投稿が、誤情報を支持する投稿よりも感情的に強く、特に負の感情で顕著な差を示すことである。著者らはCliffのδ(ノンパラメトリックな効果量指標)を用いて両群を比較し、絶対値0.05を超える特徴量を次のように報告している。

変数種別Cliffのδ
悲しみテキスト−0.125
怒りテキスト−0.098
嫌悪テキスト−0.097
リスト掲載数ユーザー−0.072
ツイート長テキスト0.067
フォロワー数ユーザー−0.058
驚きテキスト0.058
アカウント年齢ユーザー−0.052
ツイート+リツイート数ユーザー−0.051

 δの符号が負であることは、その特徴量が誤情報に反対する投稿でより高い値を取ることを意味する。悲しみ(δ=−0.125)、怒り(−0.098)、嫌悪(−0.097)の3つの負の感情はいずれも反対投稿側で高く、効果量自体は絶対値で0.1程度と大きくはないものの、3つの感情全てで方向が一貫している点を著者らは強調する。対照的に、誤情報を支持する投稿は驚き(δ=0.058)でわずかに高いスコアを示し、文章もやや長い(δ=0.067)傾向があった。

 この結果は、「虚偽の主張は道徳的怒りや恐怖といった強い感情を帯びやすく、真実の情報は比較的中立的である」とする従来の想定(McLoughlin et al., 2021、Solovev and Pröllochs, 2022などが代表例)と真っ向から対立する。著者らはこれを、Micallef et al.(2020)やLee et al.(2022)が限られたトピック数・手動または辞書ベースの手法で示唆していたパターンを、より広範な主張セットと離散感情の直接計測のもとで大規模に確認したものと位置づけている。

結果2:誰が訂正しているのか――ユーザー特性

 投稿内容だけでなく、投稿者の属性にも一貫した差が見られた。誤情報に反対する投稿の投稿者は、支持する投稿の投稿者と比べてフォロワー数が多く(δ=−0.058)、Twitterのリストに掲載される頻度が高く(δ=−0.072)、アカウントの作成時期が古く(δ=−0.052)、ツイート・リツイートの活動量も高い(δ=−0.051)。著者らはこれを、対抗的誤情報エコシステムがプラットフォーム上での可視性や社会的資本を蓄積したユーザー層によって支えられていると解釈する。この傾向はMicallef et al.(2020)が2つのトピックについて示した「訂正側アカウントの方が古くフォロワーが多い」という観察と整合的であり、本論文はこれをより広範な主張セットのもとで再確認した形になる。

 一方、Botometer Xで測定したボット的傾向のスコアは、支持・反対の両群を有意に弁別する特徴量としては浮上しなかった。誤情報の増幅にボットが関与するという知見は複数の先行研究(Ferrara et al., 2020、Yang et al., 2022など)で蓄積されているが、少なくとも本データにおいては、自動化アカウントが誤情報の支持・反対いずれか一方に偏って集中している様子は見られなかったことになる。

結果3:予測モデリングとSHAP分析

 著者らはさらに踏み込み、23個のユーザー・テキスト特徴量のみ(ツイートの意味内容には一切アクセスしない)を用いて、あるツイートが誤情報を支持するか反対するかを予測する複数の機械学習分類器を訓練した。支持195,922件・反対68,815件という不均衡なクラス構成のため多数派クラスをアンダーサンプリングし、偶然正解率0.5を基準とした。結果はRandom ForestがF1=0.632、正解率=0.620で最良となり、XGBoostはこれに匹敵する性能(適合率0.622、正解率0.620)を示した一方、ロジスティック回帰などの線形モデルは明確に劣った(正解率0.567前後)。線形モデルの不振は、特徴量とスタンス(支持/反対)の関係が単純な線形関係ではないことを示唆している。

 Random Forestの予測根拠を解釈するため、著者らは1,000件のツイートを対象にSHAP(SHapley Additive exPlanations)値を算出した。その結果、最も影響力の大きい特徴量はツイート長であり、短いツイートほど「反対」と予測されやすい。感情特徴量では悲しみと嫌悪が顕著で、これらのスコアが高いほどモデルは「反対」と予測する方向に傾き、Cliffのδによる分布比較の結果と符合する。逆に驚きのスコアが高いほど「支持」と予測される方向に働いた。ただしF1=0.632という性能自体は偶然を上回るものの決して高くはなく、著者らはこれを、意味内容を見なくても支持・反対を分ける実質的なシグナルは存在するが、個々のツイート単位では弱いものだと位置づけている。

考察と含意

 本論文が最も強調する含意は、感情的なトーンを誤情報の代理指標として扱うことの危うさである。もし内容モデレーションのシステムが「感情的に強い投稿は誤情報である可能性が高い」という想定のもとで負の感情を帯びた投稿にフラグを立てたり表示順位を下げたりすれば、それは誤情報そのものよりもむしろ、誤情報に反論する正当な訂正言説――そして、フォロワー数やアカウント年齢の面で対抗的誤情報エコシステムを下支えしている確立されたユーザー層――を抑圧するリスクを伴う。著者らは、人々が誤った主張に反論する際にはフラストレーションと憤りを伴うのが通例であり、「怒っているが正確(angry but accurate)」という論文タイトルの表現はこの構図を端的に示したものだと位置づけている。

 研究方法論の面では、著者ら自身のNLIベースの検出手法と大規模な人口プロファイリングを組み合わせるアプローチが、誤情報の拡散側だけでなく反応側を体系的に研究するうえで有効であることを示した点を成果として挙げている。今後の課題としては、政治や気候変動関連の誤情報でも同様の感情パターンが再現するかの検証、誤情報に反論する投稿がなぜ感情的に強くなるのか(純粋なフラストレーションか、戦略的なフレーミングか、想定読者への訴求効果か)の解明、そして誤情報と対抗言説の集団が時間とともにどう共進化するかを追う縦断的研究の必要性を挙げている。

限界と今後の課題

 著者らは複数の限界を明示している。第一に、分析対象は2020〜2021年のCOVID-19関連のTwitter投稿に限定されており、他のトピック・プラットフォーム・時期への一般化可能性は不明である。観察された感情パターンには、パンデミック期特有の不安や政治的分極化が反映されている可能性もある。第二に、感情はDemux、有害性はDetoxify、ボット判定はBotometerという既存の事前学習済みモデルに依拠しており、これらのモデル自体が内包するバイアスや測定誤差を引き継いでいる。第三に、NLI分類器自体も完全ではなく、誤分類が比較結果にノイズとして残っている可能性がある。加えて、著者らが引き継いだ先行研究(Choi et al., 2025)のCMGパイプラインには、商用LLMが機微なコンテンツの生成を拒否する頻度に起因して特定の内容が拡張データで過小に表現される問題、およびLLMが要求と逆のスタンスの文章を生成してしまう「タスクの反転」がラベルノイズとして残る問題が指摘されている。さらに、ユーザーの人口統計や政治的立場を直接観測できるデータがないため、「対抗的誤情報エコシステム側のユーザーがより確立されている」という結果が、訂正行動そのものではなく両集団間の人口統計・政治的傾向の違いを部分的に反映している可能性も排除できない。最後に、データセットは公開されているツイートに限られ、削除済み・非公開・凍結されたアカウントのコンテンツは含まれておらず、これらが系統的に異なる特徴を持つ可能性がある。

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