本稿が扱うのは、英国を拠点とするシンクタンク兼非営利法人(Community Interest Company, CIC)であるBloomsbury Intelligence and Security Institute(BISI)が2026年7月31日に公開した報告書「East Africa: Eritrea, Ethiopia, Kenya and Somalia — Disinformation Report」である。BISIは会社番号16255943で英国に登記された組織で、法律上「Institute」としての登録機関ではないが、そのトレーディングネームとして活動し、Social Enterprise UKの認証団体でもある。報告書の執筆はHossamaldeen Ibrahim(政治経済研究者、アフリカ・中東の平和・ガバナンス・安全保障を専門とし、欧州連合やハルツーム大学政党研究所での勤務歴を持つ)、Sarah Ambrose(LSEで国際関係学修士を修めたシニアアナリストで、テロリズムと政治的暴力、対テロと人権侵害の交差領域を研究)、Carlotta Kozlowskyj(BISIテクノロジー部門所属、LSE国際関係学部3年在籍で人工知能とサイバーセキュリティを専門とするシニアアナリスト)、Stephen Nkrumah(ガーナ・アクラ拠点、貿易・エネルギー移行とAfCFTAの下でのアフリカの地域統合を専門とするアナリスト)の4名である。
報告書はDISARMフレームワークを分析枠組みとして採用している。DISARMは「Disinformation Analysis and Risk Management」の略で、サイバーセキュリティ分野で標準的に用いられるMITRE ATT&CKフレームワークに範を取り、偽情報・影響工作の戦術・技術・手順(TTP)を体系的に分類するために設計されたオープンソースの枠組みである。その起源は2018年のハイブリッド戦争に関するワークショップに遡り、2019年にMisinfoSec Standards Working GroupとCredibility Coalitionの支援を受けてAMITT(Adversarial Misinformation and Influence Tactics and Techniques)として構築された後、MITREが並行して開発していたSP!CEフレームワークと統合され、2021年設立のDISARM Foundationが管理する単一のマスターフレームワークとなった経緯を持つ。本報告書は「Control Information Environment(情報環境の統制)」「Leverage Existing Narratives(既存の物語の活用)」「Content Fabrication(コンテンツの捏造)」といったDISARMの各因子を用いて、エリトリア、エチオピア、ケニア、ソマリアという4カ国の偽情報動員の手口を横断的に比較できる形で整理している。
報告書全体を貫く見立てはこうだ。東アフリカにおける偽情報の主体は政府、対立政党、ディアスポラ集団、反政府武装勢力、非国家主体と多岐にわたり、その舞台はソーシャルメディア、オンライン掲示板、国営メディア、外国の政治コンサルタント企業やNGOにまで及ぶ。目的は物語の統制、政治・軍事的大義への支持調達、ナショナリズムの増幅、正当性の構築、そして構成員の勧誘である。そしてこれらの作戦が高い効果を持つのは、地域全体に共通するデジタルリテラシーの低さ、コンテンツモデレーションとファクトチェック体制の脆弱性、極端な政治的分極、民族対立という土壌があるからだと報告書は位置づける。以下、4カ国それぞれの構造を報告書の記述に沿って再構成する。
エリトリア――独立メディアが存在しない国家における情報統制
エリトリアの情報空間は、イサイアス・アフェウェルキ大統領政権による徹底したメディア支配の下にある。独立系メディアは2001年以降禁止され、国内外を問わずいかなるメディアも国内での活動を許されていない。唯一流通する公式メディアは情報省が規制しており、あらゆるニュースを検閲した上で政府プロパガンダの発信媒体として活用している。2021年にはエリトリアが北朝鮮を含む世界で最も報道の自由度が低い国と評価された。
インターネット利用率は2025年1月時点で人口の20%にとどまり、その主因は未発達なデジタルインフラと、国営EriTelが唯一のインターネットサービスプロバイダーであるという構造にある。ソーシャルメディア利用者は推計13,800人で、主にFacebookに集中する。政府は定期的にソーシャルメディアへのアクセスを遮断し、市民はVPNやプロキシサーバーを使ってこれを回避している。インターネットおよびソーシャルメディアの遮断はしばしば抗議行動の発生と時期を合わせて実施され、反政府的な組織化を妨げるとともに、事件の扱われ方についての物語を統制する機能を果たしている。
主体は3層構造として描かれる。第一に、エリトリア政府自体が親政府的な物語とプロパガンダの発信、対抗勢力の信頼性の毀損、反体制活動の抑止を目的として動く。第二に、ティグライ戦争をはじめとするエチオピアとの紛争をめぐってソーシャルメディア上で活動するナショナリスト集団が、反エチオピア感情を煽ることを狙って偽情報を拡散している。第三にロシアが、エリトリアに対する国連制裁と国連監視団への不満を背景に、国連の信頼性を毀損する方向で限定的に関与している。ロシアはエリトリア政府にとって数少ない国際的パートナーの一つであるため、その関与は抑制的である。
具体的な事例として、米上院外交委員会による東アフリカ公聴会に対応したエリトリア政府の声明が、エリトリアとエチオピアの緊張の高まりに関する懸念を「誤解」と断じ、エリトリアの軍事動員に関する報道を「偏った報道」に由来するものだと主張したケースが挙げられている。この種の声明は、国内で不穏を招きかねない事象への対応として、一般市民に向けて親政府的な物語を発信するために用いられる。より組織的な事例としては、NGOを標榜しながら実際にはエリトリア政府の支援を受けているNew Africa Instituteが挙げられる。同機関が2021年に公表した報告書「Disinformation in Tigray: Manufacturing Consent For a Secessionist War」は、国際メディア、NGO、西側諸国政府がエリトリアによるティグライ人への加害を偽って主張する偽情報を流布していると訴える内容だが、その主張の大半について信頼に足る根拠をほとんど提示していない。著者のSimon Tesfamariamは米国在住のエリトリア系人物で、この報告書は親エリトリア筋によって広く共有されただけでなく、女優ティファニー・ハディッシュによって再投稿され、有名人の後押しを得てより広い層にエリトリアの物語を届ける結果となった。
ソーシャルメディア上ではAI生成画像を用いた偽情報が頻繁に確認されている。エリトリア支持者はFacebook上で、エチオピアのアビィ・アハメド・アリ首相がエリトリア兵に拘束された様子、エチオピアの船舶が紅海で沈没する様子、エチオピア軍が投降する様子など、架空の出来事を描いたAI生成画像を投稿している。一方エチオピア側のナショナリストも、係争地であるエリトリアの港湾都市アッサブをエチオピア軍の戦車が制圧したとする画像などをAIで生成し対抗している。両陣営の投稿は相互に連動しており、一方の投稿がもう一方からの暴力的・攻撃的な反応と追加のAI投稿を誘発する循環構造を成している。報告書は、視聴者が内容を事実だと信じた場合はもちろん、たとえ非現実的な内容だと分かっていてもナショナリスト的な感情や攻撃的反応を誘発しうる点を指摘している。
対抗言論としては、亡命エリトリア人ジャーナリストが運営するパリ拠点のラジオ局Radio Erena(アラビア語とティグリニャ語で毎日放送、国内の推計聴取者数520,000人)、米国拠点のERISAT(Eritrean Satellite Television)、英国拠点のAssenna TV、2000年設立のニュースサイトAwate.comが存在する。しかしこれらはいずれも国内での検閲の厳しさとインターネット普及率の低さに阻まれ、リーチが限定的である上、Radio Erenaは資金不足によって放送継続そのものが危ぶまれている状況にある。報告書はエリトリアにおける偽情報の実効性を、報道統制と独立メディア禁止という構造的要因によって国民が代替的な情報源にほぼアクセスできない点に帰している。
エチオピア――ティグライ紛争が生んだ大量動員型の情報戦
エチオピアにおける最も重大な偽情報キャンペーンは、武力紛争、民族対立、主権をめぐる物語と密接に結びついてきた。目的は国内的支持の獲得、対立勢力の信頼性の毀損、紛争の国際的な見え方への働きかけである。主体は連邦政府ないし国家寄りの発信者、ディアスポラのアドボカシーネットワーク、親ティグライキャンペーン団体、民族ナショナリスト系インフルエンサー、そしてエリトリア国家と関係を持つか、その拡散を受ける発信者にまで及ぶ。
報告書が強調するのは、これらのキャンペーンの多くがボットではなく実在のユーザーと組織化されたボランティアネットワークに大きく依存していた点である。ティグライ紛争をめぐる偽情報キャンペーンでは、協調的なクリック・トゥ・ポスト行動と多数の新規または休眠アカウントの利用が主な手口として採用された。これらのキャンペーンが効果を発揮した背景には、インターネット遮断、情報アクセスの制限、広範な恐怖によって生じた情報の空白がある。アムハラ語、オロモ語、ティグリニャ語といった現地語でのコンテンツモデレーションは事態の展開速度に追いつけず、現地のファクトチェック団体は圧力、資金不足、深刻なアクセス・安全上の課題に直面し続けている。
国内主体としては、連邦政府・国家系メディア・ボットネットワークが、Facebook、Instagram、X、国家系オンラインページ、従来型放送メディアを通じて政府支持の世論形成と野党勢力の弱体化を図る。もう一方の極には民族ナショナリスト系インフルエンサーとファノ民兵関連のアウトレットがあり、エチオピア国内とディアスポラコミュニティの双方で活動し、Facebook、X、YouTube、大規模な再投稿ネットワークを通じて対立を煽る物語を拡散する。国外に目を向けると、Unity for Ethiopia、Rising Ethio、GLEANといった親政府系ディアスポラネットワークが、X、クリック・トゥ・ツイートのプラットフォーム、ディアスポラのSNSコミュニティ、記者・NGO・米国当局者への直接的な働きかけを通じて親ティグライの物語に対抗し、国際的な批判を「外国の干渉」として枠づけようとする。対するStand With TigrayやOmna Tigrayといった親ティグライアドボカシーネットワークは、多言語のアドボカシー資料と協調的なディアスポラネットワークを用いて人権侵害疑惑を記録し、国際社会の関心を紛争に向けさせようとする。さらにエリトリア国家系ないし国家増幅型の発信者が、エリトリアの紛争関与を否定し、国際報道に異議を唱え、反西側の物語を広める役割を担っている。
DISARMに基づくモード分析では、親政府系アクターが既存の不満や恐怖という物語を活用する段階(TPLFを実存的脅威として描き、西側の圧力を新植民地主義的干渉として描く二本立ての語り口が2025年の調査で確認されている)、エチオピア政府・INSA関連ネットワーク・ディアスポラボランティアがクリック・トゥ・ツイートのウェブサイトを構築する段階(DFRLabは米国在住のエチオピア人が運営する複数のクリック・トゥ・ツイートプラットフォームを特定し、Metaは INSAと関係する人物に連なる偽ネットワークを削除した)、事前に用意された投稿文や加工画像・編集動画を用いてコンテンツを制作する段階(Insecurity Insightは世界食糧計画のロゴを改ざんし、支援機関がTPLFに武器を供給していると主張する偽情報を報告している)、そしてハッシュタグの大量投稿と記者・外国当局者へのタグ付けによって増幅・調整する段階(DFRLabは#TigrayGenocide、#AxumMassacre、#UnityForEthiopiaといったハッシュタグが組織的な投稿とディアスポラ動員を通じてトレンド化したと確認している)が段階的に整理されている。
象徴的な事例として、Amnesty Internationalが記録したMeareg Amare教授の事件がある。同教授の写真、勤務先、TPLFとの関係を疑う投稿がFacebook上で繰り返し共有され、複数回通報されたにもかかわらず削除されないままだった。教授は2021年11月3日に殺害され、目撃者証言によれば襲撃者はその際にFacebookの投稿に言及したという。この事例はオンラインの憎悪言説がオフラインの暴力に直結した最も明確な例の一つとして広く認識されている。また2022年には、世界食糧計画(WFP)、米国国際開発庁(USAID)、世界保健機関(WHO)がTPLFを支援しているとする虚偽の主張がオンライン上で拡散し、Insecurity Insightは加工されたロゴや編集画像を用いた協調的な偽情報キャンペーンの証拠を確認している。
規模を示す定量データも報告書は具体的に提示している。2020年11月4日から2021年4月7日の間に#TigrayGenocideを使用したオリジナルツイートは73,277のユニークアカウントから430万件投稿された。2021年2月26日単日だけで#AxumMassacreを使用したオリジナルツイートは5,850アカウントから9万件近くに達した。Metaは国内の偽ネットワークに関連する62のFacebookアカウント、49のページ、26のグループ、32のInstagramアカウントを削除したが、それらのページには合計約110万人のフォロワーがついていた。Metaは2021年5月から10月の間にエチオピア国内で92,000件を超えるコンテンツに対処し、そのうち約98%はユーザー通報より先に検出されていた。紛争後も操作された映像は流通し続けており、2024年10月にアムハラでの戦闘に関連して改ざんされたAFP検証済み動画は18万回以上視聴され、同年11月にオロミアでの殺害に関連する改ざんクリップは4,400回以上共有された。
対抗策としては、政府が2020年に憎悪言説及び偽情報防止・抑止布告を導入し、有害コンテンツの削除とプラットフォームへの迅速な対応義務化の法的根拠を設けたが、人権団体からは法の適用範囲が広すぎ批判者・記者・野党の声を封じるために利用されうるとの懸念が示されている。Metaはアムハラ語、オロモ語、ソマリ語、ティグリニャ語でのモデレーション体制を拡充し、Xは2021年11月にエチオピア国内のトレンド機能を一時的に無効化した。市民社会レベルではEthiopia Checkなどのファクトチェック団体が複数の現地語で検証済みコンテンツを発信しているが、治安上のリスク、信頼できる情報へのアクセスの乏しさ、資金制約、政治的に機微な問題を扱う際の圧力に直面し続けている。総じて対応の多くはコンテンツが既に広く拡散した後に実施されており、報告書はこの点を対抗策の限界として指摘している。
ケニア――選挙戦略として制度化された偽情報産業
ケニアの偽情報の特徴は、その主たる駆動要因が国内的かつ産業的、選挙サイクルに紐づいている点にある。偽情報はもはや逸脱行為ではなく、政党の選挙戦略の一構成要素として定着している。目的は民族・党派の線に沿った有権者動員、対立候補と選挙制度の正当性の毀損、そして歴史的・民族的・宗教的な分断線を利用した抗議行動への公衆の反応形成である。
主体の中核は国内政治連合とそのデジタル戦略担当者、有償インフルエンサー、党派的ブロガーであり、これに2013年と2017年のケンブリッジ・アナリティカをはじめとする外国の政治コンサルタント企業の支援が加わり、その手法は現在では国内で自前で再現されるようになっている。Kenya Kwanza連合とAzimio la Umoja連合は同等の偽情報インフラを運用しており、そのメッセージングはイデオロギーよりも「誰が権力を握っているか」によって規定される。Kenya KwanzaはHustler Nation Intelligence Bureau(HNIB)という党所属のデジタル部隊を設立し、「内部情報」や独立系報道を装った党寄りのプロパガンダを制作・流布している。Azimio la Umojaは国家寄りのブロガーを動員し、現職政権の正当性を毀損しつつ外国干渉の陰謀論を増幅させている。これらに加え、WhatsAppグループを通じて調整される有償インフルエンサーネットワークがトレンドハッシュタグの形成と記者・裁判官・活動家・批判的政治家への攻撃を担い、キクユ語・ルオ語・カレンジン語・ルヒヤ語・カンバ語など現地語で活動する党派的ブロガーが民族ブロックの動員と2007年選挙後暴力の画像の再利用を行い、オフラインの暴力リスクにつながっている。テレビ局を含む主流メディアは、未検証の報道を通じてソーシャルメディア上の偽情報を公共の言説へと正当化する装置として機能している。
外国主体としては、2013年と2017年にウフル・ケニヤッタのジュビリー党に雇われたとされる英国のケンブリッジ・アナリティカが有権者のプロファイリングとターゲティング型偽情報を実施し、2017年には米国のHarris Media LLCと共同で、2007年選挙後暴力の映像を用いてオディンガ野党党首を暴力的な独裁者として描く「Real Raila」キャンペーンを制作し、数百万回の視聴を記録した。2022年選挙ではイスラエルのTeam Jorgeが偽アカウントを用いたハッキング、妨害工作、偽情報キャンペーンへの関与を指摘されている。ロシアはロシア大使館の公式SNSチャンネルを通じてロシアの外交方針と反西側の物語を発信する程度の低強度の関与にとどまり、2024年のGen Z抗議運動がロシア・ワグネルの資金援助を受けているとする主張についてはDFRLabの分析により、実際にはロシア系主体ではなくケニア国内の親政府系工作員が発信源であったことが特定されている。
事例としては、2022年に「Ruto hates Kikuyus and wants revenge come 2022」と主張するTikTok動画が445,000回視聴され、階級対立を煽る「ハスラー対王朝」という枠組みが顕著な訴求力を持った。2021年の憲法改正案(BBI)をめぐる2カ月間には、11件の偽情報キャンペーン、23,000件超のツイート、3,700件超のアカウントがトレンドアルゴリズムを標的とした形で確認されている。2022年のルト氏マニフェスト発表当日には偽のKenya Kwanzaマニフェストが流通し、CNNやBBCのロゴを偽造した偽動画も確認された。2022年選挙時には#RutoTheEnemyや#UhuruMustGoといったハッシュタグがX、Facebook、TikTok、WhatsAppを横断する形で協調的にトレンド化した。2024年のGen Z抗議運動に対しては、抗議者がロシアの資金提供を受けている、LGBTQ+的アジェンダを推進している、野党が抗議運動を乗っ取っているといった対抗物語がAI生成画像とインターネット遮断、実力による弾圧とともに展開された。この抗議運動は既存の民族・政治の枠組みを崩す形で若年層が中心となり、TikTokとXを主戦場として組織化された点が特徴的である。
規模の指標として、HNIBのXフォロワー数は200万人を超え、2022年選挙前にはケニアの政治関連TikTokハッシュタグが合計2,000万回以上視聴された。2017年選挙前に実施されたGeopoll調査によれば、ケニア人の87%が偽情報に遭遇したと回答し、35%は「十分な情報に基づいた投票判断ができなかった」と回答している。この数字は偽情報キャンペーンが有権者の選好を変えるというより、混乱を生み出す機能を果たしていることを示唆する。2022年以降ケニアで最もダウンロードされているアプリであるTikTokは若年有権者を狙う主要な媒体として台頭したが、現地語における煽動的表現へのモデレーションは一貫して機能していない。オフラインへの波及も深刻で、2024年のGen Z抗議運動の期間中、デジタル活動家を含む82名の政府批判者が拉致・失踪した。
対抗策としては、2018年制定のComputer Misuse and Cybercrimes Actが虚偽の公表行為を犯罪化し、最大500万ケニアシリング(約5万米ドル)の罰金と最長10年の禁錮刑を科す。同法はジュビリー政権下で制定され現在はKenya Kwanza政権下で運用されているが、Bloggers Association of Kenya(BAKE)が同法の抗議組織者やブロガーへの武器化を法廷で問題視している。プラットフォーム側は概して事後対応にとどまり、2021年にはMozillaの調査を受けてTwitterが100以上のアカウントを凍結し、2022年にはTikTokがいくつかの動画を削除した。市民社会側にはPesaCheck、Africa Check、ケニアメディア評議会のiVerifyといった比較的発達したファクトチェック・デジタル権利団体のエコシステムが存在するが、そのリーチは限定的で、虚偽の物語による評判上の損害はファクトチェック後も残存する傾向にある。
ソマリア――アル・シャバーブの高度なメディア機構と国家脆弱性の連鎖
ソマリアの情報環境は、数十年に及ぶ国家の脆弱性、クラン(氏族)に基づく社会組織、活発な反乱という条件が重なり合い、アフリカの角地域の中でも偽情報にとりわけ寛容な環境を成している。国内主体、とりわけアル・シャバーブがこの領域を支配し、外国主体は新たな物語を作り出すというより既存の国内の分断線を増幅させる形で複雑さを加えている。報告書はソマリアにおける偽情報を「中程度から高い露出と部分的な戦略的成功」と評価する。戦況そのものを左右することは稀だが、公的機関への信頼を着実に蝕み、アル・シャバーブの人員勧誘の供給源を維持し、統治と選挙過程を複雑化させているという。
アル・シャバーブは報告書中で最も高度かつ影響力の大きい主体として描かれる。同派のメディア機構であるAl-Kataib Media Foundation、Shahada News Agency、Radio Andalusは、ジハード主義組織のプロパガンダ活動の中でも最も洗練された部類にあると広く見なされており、2023年のCode for Africaの調査はAl-KataibとShahadaの間の組織的なつながりを直接的に追跡し、両者がプラットフォームを横断してリーチを拡大するために連携している構造を明らかにした。Shahadaはコンテンツモデレーションポリシーを持たないプラットフォームChirpwireを主に利用しつつ、Facebook・Xにミラーアカウントを維持し、Al-Kataibは複数言語のチャンネルを運営するTelegramを主戦場としている。この機構は連邦政府の正当性の毀損、自らの戦果の誇張、離反の抑止、若年層への勧誘のために用いられ、「外国に支えられた体制」に対抗する「ソマリの主権とイスラームの価値の守護者」という自己像を築いている。
ソマリア連邦政府(FGS)と関連機関は、対テロの成果を強調し、後退を最小化し、批判を非正当化する形で物語を積極的に管理する。国家情報治安庁(NISA)は過激主義コンテンツをオンライン上で監視しテック企業に通報する専従チームを構築しており、当局者はこのプロセスが訓練・技能構築・専従部署の設置を経て相当に成熟してきたと説明している。プントランド、ジュバランド、ソマリランドといった準国家的行政区を含む政治・クラン派閥は、氏族間の緊張を煽り、選挙にまつわる中傷や敵対勢力を標的とした憎悪言説を拡散するキャンペーンを常態的に展開しており、モガディシュとソマリランドの間の緊張は捏造された話に基づく相互非難という形で頻繁にエスカレートしている。ソマリアのディアスポラネットワークは、海外から国内の物語に関与することで分極化を増幅する強力な媒体として機能している。
外国主体の関与では、まずアラブ首長国連邦(UAE)が、ソマリランドが港湾・軍事アクセスに関して2024年にエチオピアと締結した覚書(MoU)を支持する物語をFGSから支持していると非難されている。2024年には、無関係な文脈の映像を組み合わせてソマリランド・エチオピア・UAEの間の「三者協定」を示唆するTikTok動画が3万4千回以上視聴されるなど、協調的なソーシャルメディア活動が確認された。トルコは国営メディアTRTと外交チャンネルを通じてFGSを支援し、ソマリの統一を守る信頼できるパートナーとしての立場を強調しているが、同国の軍事的プレゼンスが特定の政治勢力に影響を及ぼしているとするソマリのSNS上の主張に対し、トルコのCenter for Combating Disinformationはこれを根拠のない主張として公式に否定せざるを得なくなっている。ロシアはRT、Sputnik、そしてワグネル系組織を独立系ニュース機関を装う形で再編した「African Initiative」といったクレムリン系媒体を通じて、より広範な反西側の物語を発信しているが、サヘル地域や中央アフリカ共和国のような専用のロシア発偽情報キャンペーンがソマリアに存在する明確な証拠はなく、大陸規模のメッセージングの延長にとどまると報告書は評価する。中国はCGTNと新華社を通じて自国の投資に関する肯定的な報道を発信し、カタールとサウジアラビアはソマリメディアを舞台とする湾岸諸国間の代理情報競争に参加している。
事例としては、ミドル・シャベレやモガディシュでの攻撃の後、Al-Kataibは政府側の損失を誇張し自軍の戦果を強調する高品質な映像を迅速に公開する。2023年10月以降、同派はガザ紛争と自らの戦いを意図的に重ね合わせ、ソマリア政府への西側支援をイスラエルへの西側支援と等価に描くことで訴求力と勧誘力を高めている。2024年1月のエチオピア・ソマリランドMoUをめぐる紛争では、ソマリランドがエチオピアに沿岸・港湾アクセスを提供する見返りに承認への道を得るという内容が、ソマリア・エリトリア・エジプトからの非難を招き、ソマリアはエチオピア駐在大使を召還した。Code for Africaはこれに続く数カ月間、Facebook・TikTok・Xにおいて加工動画や戦略的ハッシュタグキャンペーンを含む協調的な偽情報・誤情報の実例を記録しており、その一つはエチオピア軍の通常訓練の映像を、エジプト軍の脅威に対するパニック反応であるかのように偽って描いたものだった。選挙期間中はクランに基づく中傷キャンペーンと候補者を標的とした捏造報道が頻発し、これが2021~2022年選挙を前にソマリアジャーナリスト連盟(FESOJ)の偽情報ラボ設立の直接的な契機となった。アル・シャバーブは特に、個別アカウントが削除されても迅速に適応できる、プラットフォームを横断した「オピニオンセッター」アカウントによるメッセージング調整という組織的規律を示している。
対抗策の中で最も明確な成功例として報告書が挙げるのは、FESOJのファクトチェック部門が2024年に、モガディシュ市長の発言を誤引用する形でソマリアが世界最高のHIV/AIDSおよびB型肝炎罹患率を持つと偽って主張したTikTok動画をバイラル拡散の最中に検証・反証した事例である。ただしこうした成功は例外的であり、より構造的な問題として、グローバルプラットフォームによるソマリ語コンテンツモデレーションへの投資が限定的であるため有害コンテンツが主要言語圏に比べ長く残存する傾向にあること、そしてソマリアの識字率が総じて低く口承文化が優勢であるため、テキスト中心のニッチなウェブサイトに掲載されるファクトチェックは、当初のバイラルな(多くの場合動画や音声による)偽情報が到達する層のごく一部にしか届かないことが挙げられている。この「初撃」の速度・リーチと、それよりはるかに遅くテキスト中心の「訂正」との非対称性こそが、個々の主体の巧妙さ以上に偽情報の実効性を高める要因だと報告書は分析する。国際的な情報作戦に対する対抗策は特に手薄で、サヘル諸国のように市民社会と西側パートナーによる持続的な対抗動員を受けているロシア系工作対策のような専用プログラムはソマリアに存在しない。トルコのCenter for Combating Disinformationのみが自国の評判に関する防御的発信を行っているが、これはソマリアの偽情報対策全般を強化するものではない。政府側の対策としては、2023年8月にTikTok・Telegram・賭博サイト1XBetを禁止した措置があり、通信技術省は「テロリストと不道徳な集団」による暴力的画像と偽情報の流布を止める必要性を理由に挙げ、アル・シャバーブへの軍事攻勢の第二段階と時期を合わせて実施したが、TikTokで収入を得ていた利用者から批判を受け、Telegramはテロコンテンツを継続的に削除していると反論した。国際パートナーとしてはUNDPやオーストラリア政府(NUSOJ経由)が能力構築プログラムを支援しており、2025年にはオーストラリア資金による研修でモガディシュと5つの連邦加盟州から32名の記者が参加し、ファクトチェックとデジタル検証、過激主義の物語への対抗スキルを学んでいる。
政策提言
報告書は地域全体に共通する提言として、現地語でのソーシャルメディアコンテンツモデレーションの強化、特に若年層を対象とするメディア・デジタルリテラシー教育の拡充、AI生成コンテンツの規制と情報検証を厳格化するプラットフォームポリシー、地方政府・市民社会・テック企業の連携による情報の信頼性確保、既存の市民社会ファクトチェッカーへの追加資金供給の5点を挙げる。
国別提言では独自の力点が置かれている。エリトリアについては、偽情報の大半が政府自身によって生成されるかその利益に資する構造上、現体制が受け入れる国内政策の余地は乏しいとし、Radio ErenaやERISAT、Awate.comといったディアスポラ系メディアへの資金支援と国内向けVPN提供支援、そしてAI生成偽情報やディープフェイクを禁止する形でのプラットフォーム側の規制強化を提言する。エチオピアについては、ミャンマー危機の際にMetaがビルマ語モデレーションを強化した先例を参照しつつ、アムハラ語・オロモ語・ティグリニャ語・ソマリ語での現地語モデレーション体制の事前構築、フィリピンのTsek.phの協調的ファクトチェックモデルを参照した危機時情報調整セルの創設、フィンランドの全国的メディアリテラシー教育を参照したリテラシー投資、記者・人道支援従事者を保護する迅速対応システムの4点を挙げる。ケニアについては、2023年ナイジェリア選挙でハウサ語・ヨルバ語のファクトチェックパートナーシップが選挙運営センターと連携した先例を参照しつつ、選挙前のプラットフォームモデレーション体制構築と透明性報告の公表、Computer Misuse and Cybercrimes Actの武器化を教訓に政府から独立した多者拠出型のファクトチェック基金創設を提言する。ソマリアについては、英語・アラビア語ベースの分類器では現地の方言・俗語・暗号的表現を見落とすとして、Meta・TikTok・Telegramへのソマリ語専用モデレーション能力の要求を最重要課題としつつ、2023年のTikTok・Telegram禁止がアル・シャバーブの「政府弾圧」という物語を補強しただけで実効性に乏しかった教訓から全面禁止よりも標的を絞ったコンテンツ削除とアカウント停止への協力を推奨し、識字率の低さと口承文化を踏まえたラジオ主体のメディアリテラシー施策、そして選挙サイクルごとに立ち上げては終わらせるのではなくFESOJのような団体への複数年にわたる継続的な資金供給を提言している。
4カ国の比較から見える構造
4カ国の記述を通読すると、偽情報の駆動要因が国によって明確に異なる型を取っていることが分かる。エリトリアは国家によるトップダウンの情報統制がほぼ唯一の力学であり、対抗言論の物理的な流入経路自体が遮断されているため、問題の焦点は「偽情報をいかに打ち消すか」ではなく「情報そのものをいかに国内に届けるか」という接続性の問題に近い。エチオピアは国家、武装組織、ディアスポラという複数の主体が実在の人的ネットワークを介して大量動員を行う型であり、Meareg Amare教授の事件が示すように、オンラインの標的化がオフラインの暴力に直結する経路が具体的に検証されている点が際立つ。ケニアはこの4カ国の中で唯一、偽情報が制度化された産業として選挙サイクルに組み込まれており、外国コンサルタント企業のノウハウが国内組織に移転・内製化されるという特有の進化を遂げている。ソマリアは非国家武装主体であるアル・シャバーブが国家に匹敵するメディア制作能力を持つ点で他の3カ国と一線を画し、対抗する側の課題も「国家の情報統制からの解放」ではなく「識字率と言語モデレーションの構造的欠落を埋めること」に置かれている。
共通する脆弱性は、現地語コンテンツへのプラットフォーム側投資の不足、政府の対偽情報立法がしばしば批判者の抑圧に転用されるという二重性、そして事実確認が常にバイラルな一次拡散に遅れて到達するという時間的非対称性の3点に集約できる。とりわけこの時間的非対称性は、ソマリアの分析で報告書が明示的に論じているように、個々の主体の技術的巧妙さよりも偽情報の実効性を規定する構造的要因として、地域全体の対策設計において優先的に扱われるべき論点だといえる。エチオピアとケニアにおいて示された定量データ、すなわちハッシュタグの拡散規模やプラットフォームによるアカウント削除件数は、偽情報の「到達」自体は測定可能である一方、報告書自身が繰り返し留保をつけているように、それが実際の投票行動や世論をどれだけ動かしたかという「効果」の測定は依然として難しいという方法論上の限界も同時に示している。


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