ポーランドの国立研究機関NASK(Naukowa i Akademicka Sieć Komputerowa、国立研究機構)傘下のOśrodek Analizy Dezinformacji(NASK偽情報分析センター)は2026年、報告書「Algorithm Manipulation: China’s Image on TikTok as Seen by Polish Users」を公表した。著者はPatrycja Krzyśpiak、Kornel Kowieski、Antoni Mazekの3名で、内容監修をdr Agnieszka Lipińskaとdr Michał Marekが担当している(ISBN 978-83-68356-66-3)。報告書が設定する中心的な問いは、ポーランドのTikTokユーザーに表示されるコンテンツが、中国共産党中央委員会宣伝部(Xuanchuanbu、宣传部)の公式アジェンダとどの程度一致しているか、という一点に絞られている。宣伝部という訳語について報告書は注記を加えており、xuanchuanという語自体には中国語で否定的含意がないためPublicity Departmentと訳すことも可能だが、党の目標に沿ったメッセージを対内的にも対外的にも積極的に推進するという実態を踏まえれば、Propaganda Departmentという訳語のほうが実態に即しているとしている。
TikTokを規律する法的環境とByteDanceの立場
報告書はまず、TikTokという商業的実態を法的に位置づけるところから議論を始める。欧州市場を運営する主体であるTikTok Information Technologies UK Ltdは、中国の民間企業とされるByteDanceの傘下にあるが、中国の政治体制のもとでは同社は完全な国家統制の対象であり、その運営は不透明だとする。ByteDanceは国家安全法(2015年)およびサイバーセキュリティ法(2016年制定・2017年施行)の遵守義務を負い、これらの法律はオンライン事業者に対し中国共産党当局への全面的な協力を義務づけている。さらに2022年に施行された「インターネット情報サービスにおけるアルゴリズム推奨管理規定」は、アプリのアルゴリズムが党の公式メッセージに沿った「正のエネルギー」を促進することを求めている。これらの法的枠組みは、ユーザーデータの保管・利用方法だけでなく、人気アプリが党の政治路線と整合したプロパガンダメッセージの拡散に利用される可能性についても、正当な懸念を生じさせるものだと報告書は指摘する。TikTokが自ら公表しているアルゴリズムの説明(For You運用に関する公式ヘルプページ)は、アルゴリズムのバイアスを扱った先行研究の結果と矛盾しているとも付言されている。
一方でポーランドは欧州連合加盟国として、欧州メディア自由法(2024年)、デジタルサービス法(DSA、2022年)、デジタル権利原則に関する欧州宣言(2022年)、一般データ保護規則(GDPR、2018年)の適用対象であり、第三国発のプラットフォームにも偽情報・誤情報の拡散リスクを緩和しアルゴリズムの透明性を確保する義務が課されている。この欧州法体系と、表現の自由が保障されない中国のサイバー空間統治との落差こそが、本調査の出発点となっている。
中国のサイバー空間統治と検閲の理論枠組み
報告書の文献レビューは、中国のインターネット統制を理解するための概念装置をいくつか整理している。2013年に公表された「七つの基準線」(七条底线)は法規・社会主義制度・国家利益・市民の権利・公共秩序・道徳基盤などを含む利用ガイドラインであり、同じく2013年に華東政法大学の張雪忠教授がWeibo上で公開した「七つの語ってはならないこと」(七不讲)は、普遍的価値・報道の自由・市民社会・市民権・党の歴史的過誤・官僚ブルジョワジー・司法の独立という、公に議論してはならない話題群を指す(張教授はこの公開直後に大学の職を追われ、関連する内容自体が中国国内で検閲された)。さらに「五つの毒」(五毒)という概念は、法輪功支持者・中国民主化運動関係者・チベット支持者・台湾独立支持者・新疆/ウイグル支持者という5つのカテゴリーを党への脅威とみなす枠組みであり、本調査で選定された6つの検索語のうち少なくとも4つ(新疆、チベット、台湾、人権/再教育キャンプに連なる文脈)がこの「五毒」の系譜に直接由来している。
Rebecca MacKinnon(2011)は、中国国民が自由に意見表明や政治的議論を行っているように見える現象を「幻影」と評し、当局は情報の流れを常時統制しながら言論の自由が存在するかのような外観を作り出し、これを西側世論からの批判に対する反論材料として用いていると論じる。Jessica C. Teets(2014)はこの適応的な統制手法を「協議的権威主義」と呼ぶ。さらにLuqiu Luwei Rose(2017)やMonique Taylor(2022)の研究は、BAT(百度・阿里巴巴・騰訊)に代表される民間テック企業が検閲実務の主体としての役割を強めている構造変化を指摘しており、報告書は2025年3月時点の推計としてByteDance社員約10万人のうち20〜27%が「コンテンツモデレーター」であるという数字(Wang, 2025)を引用している。
先行研究における位置づけ
本調査はプリンストン大学とラトガース大学による共同研究(Finkelstein, et al., 2025)の手法を土台としている。同研究は米国人ユーザーを対象とした3段階の分析を通じて、チベット・天安門事件・ウイグルの権利・新疆といった論点への露出と親中的態度の相関を検証し、TikTokが利用者をより親中的な立場へ誘導していると結論づけていた。ポーランド社会に対する同様の影響は十分に研究されてこなかったとNASKは指摘し、これを埋める試みとして本調査を位置づけている。関連する先行研究としては、TikTokの検索エンジンアルゴリズムが社会的バイアスを再生産する構造を分析したISD(Institute for Strategic Dialogue)の「Recommending Hate」(Matlach, et al., 2025)、ディープフェイクを用いた偽情報検出の難しさを論じたShang Lanyu ら(2021)の研究、2025年大統領選挙前にTikTokのアルゴリズムが極右寄りコンテンツを通常の2倍推奨していたことを明らかにしたGlobal Witness(2025)の調査が挙げられている。さらにSIMODSプロジェクトによる欧州4カ国(ポーランド、フランス、スロバキア、スペイン)対象の測定では、Facebook・Instagram・LinkedIn・TikTok・X/Twitter・YouTubeの主要6プラットフォームのうち、TikTokが誤情報・偽情報に分類されるコンテンツの量において最大だったことが示されている。
調査方法——ユーザージャーニー法による3カ月間の追跡
調査チームはポーランド在住・25歳以下という登録情報を持つ新規TikTokアカウントを6つ作成した。手法はAmnesty Internationalの報告書「Driven into Darkness: How TikTok’s ‘For You’ Feed Encourages Self-Harm and Suicidal Ideation」(2023)で用いられた「ユーザージャーニー法」を修正して採用しており、新規ユーザーの行動を可能な限り忠実に模倣することを目的とする。具体的には毎回クッキーとキャッシュを消去し、監視用アカウントは他ユーザーとの交流を一切行わず、視聴したコンテンツに「いいね」・コメント・お気に入り登録も行わなかった。これにより、検索語に対してプラットフォームが「デフォルト」で返す結果を継続的に取得できる設計になっている。監視はポーランドのIPアドレスを用いたパソコン上のブラウザで実施された。
調査期間は2025年7月16日から10月16日までの3カ月間で、週2回、規則的な間隔でデータを手動収集した。各検索語につき、検索実行後に表示される最初の20件のコンテンツを、3つのアカウントでそれぞれ記録し、1つの検索語につき1日最大60件を収集する設計とした。合計で9,583件のコンテンツが収集され、目標値9,720件に対する測定誤差は全体で1.307%だった。人権関連(human rights in China)、台湾、再教育キャンプの3語では、アカウントへの一時的なアクセス制限により欠損が生じ、それぞれ3.765%、0.247%、3.827%の誤差率となっている。
分析にあたって、ポーランド語・英語以外の言語のコンテンツは、ポーランド語話者ユーザーが即座にスキップするとの想定のもと中立(neutral)に分類された。検索語には次の6つのポーランド語表現が用いられ、論文では読者の便宜のため英語表記が使用されている——Sinciang(新疆)、Tybet(チベット)、Masakra na Placu Tiananmen(天安門事件)、Tajwan(台湾)、Prawa człowieka w Chinach(中国の人権)、Obozy reedukacyjne w Chinach(中国の再教育キャンプ)。
感情分類は5つのカテゴリーで行われた。「親中(pro-China)」は共産党のメッセージを露骨に反映するコンテンツ、党や国家のシンボル(国旗、愛国歌など)を含むもの、中国批判や歴史的・科学的事実を否定するもの、広告的に中国のイメージ向上を図るものを指す。「中立(neutral)」は感情的に中立で肯定・否定いずれのメッセージも含まないもの。「批判的(critical)」は事実に基づいて党のメッセージに疑義を呈するもの、五毒に関連する誤りや歪曲を指摘するもの、検閲を批判するものを指す。「反中(anti-China)」は事実や論拠に基づかず、主観的・感情的なメッセージに依拠して中国や中国人を侮辱する、人種差別的・排外主義的な内容を指す。「無関係(unrelated)」は検索語と実質的な認知的関連性を持たないコンテンツで、例えばチベットで検索してポーランド国内のチベット料理店の広告が表示されるようなケースが該当する。
この分類設計で特筆すべきは、「批判的」と「反中」を明確に分離した点である。Finkelstein らの先行研究がすべてを「anti-CCP」として一括していたのに対し、本調査はこれをあえて区別した。中国共産党の政策や行動に対する批判的な声を「反中」あるいは「シノフォビア」とレッテル貼りすることは、言論の自由を制限するために党が広く用いる手法であり、欧州対外行動庁(EEAS)が「suppression(抑圧)」と呼ぶ手法——経済的・技術的な依存関係や外交的圧力を通じて中国に関する言説(学術的言説を含む)に圧力をかける手法——の一部でもあるとNASKは説明する。批判と排外主義を区別することで、民主的な言論の自由の基準を満たす声と、中国および中国人を攻撃する排外主義的・人種差別的コンテンツとを判別可能にした。
調査の限界についても報告書は率直に記している。各検索語につき最初の20件のみを記録する手法は、プラットフォーム上の全コンテンツを網羅するものではない。ただし、ソーシャルメディアのアルゴリズムにおいてポジショニング(表示順位)こそが本質的要素であるという立場から、より重要・人気のあるコンテンツが上位に来るという前提のもとで定性的アプローチが採用された。閲覧数やいいね数など投稿へのエンゲージメント指標は記録されておらず、これは今後の追跡研究の課題として位置づけられている。
結果(1) 新疆——56.9%を占める旅行コンテンツと親中インフルエンサー
Sinciang(新疆)の検索結果は、全体の59%が親中、37%が中立、3%が無関係、1%が批判的で、反中は0%だった。テーマ別では旅行関連コンテンツが56.9%を占めて最多となり、その多くは中国系の専門的な団体が制作したと見られる広告であり、党のシンボルや愛国歌、出演者が自らの民族的帰属を中国と結びつけて強調する演出が含まれていた。次点は英語話者インフルエンサーを模した投稿群(外国人と中国人・ウイグル人・カザフ人の双方を含む)で、このカテゴリー内では実に80%が明白な親中コンテンツだった。これらの映像は「偶然」ウイグル人と出会い中国での生活の利点を聞かされる、あるいは新疆の発展水準の高さに驚くといった同一パターンを繰り返しており、出演者と国家機構との協力関係を示唆している(Ryan, et al., 2022の「Frontier Influencers」報告と符合する)。中国人インフルエンサーによる映像はより攻撃的な論調で、CIAがウイグル人の状況について「デマを流布している」と非難する内容も含んでいた(プロパガンダ色の強い@joeyyyds666チャンネルなど)。「ウイグル人」カテゴリーでは83%が親中コンテンツで、ポーランド語チャンネル@tymonizm(中国国際放送に相当するChina Media Groupのポーランド語話者職員、姜天悦によるもの)が高順位で表示されたことは、アルゴリズムが中国メディア系列のチャンネルを優遇している可能性を示す。
トピック別の親中コンテンツ件数を見ると、旅行カテゴリーでは親中410件・その他513件、ウイグル人カテゴリーでは親中243件・その他48件、インフルエンサーカテゴリーでは親中258件・その他64件、発展関連では親中21件・その他6件、政治関連では親中18件・その他0件だった。2025年9月には新疆ウイグル自治区設立70周年(9月25日)に合わせてコンテンツ量が急増し、CGTNや中国国際放送を含む中国系メディアが世界規模で地域の発展と繁栄を訴えるナラティブを展開する時期と重なった。この時期にTikTok上でも最も露骨なプロパガンダコンテンツが観測されており、中国政府系主体の直接関与を示唆している。新疆の生活水準の高さを、貧困が蔓延し女性の市民権が制限されているとされる隣国トルクメニスタンと対比させる映像や、習近平のウイグル訪問を撮影したプロパガンダ映像(プロ品質の英語字幕付き)も確認された。新疆タグ全体でウイグル問題に批判的なメッセージを含むコンテンツはわずか1%にとどまり、アルゴリズム上の順位も相対的に低かった。
結果(2) チベット——45%の親中率とAI生成の偽映像
Tybet(チベット)の検索結果は親中45%、中立40%、無関係14%、批判的1%、反中0%だった。収集コンテンツの63%が旅行関連で、そのうち約半数が親中に分類され、残りは中立的な観光広告だった。新疆と同様、PRC関連主体によるスポンサードとみられるインフルエンサーコンテンツが確認され、チベットの発展速度や住民の生活水準の高さを強調する内容、中国製再生可能エネルギー技術の宣伝が含まれていた。なお外国人がチベット自治区を単独で旅行・滞在することは認められていない点が注記されている。「チベット人」カテゴリーでは55%が非親中(大半は中立)で、その一部は素人的な制作でありチベット系ディアスポラのコミュニティが投稿したと見られるものだった。全体の11%は「その他」に分類され、仏教や伝統医学など広範なテーマを扱いながらチベットの現状には直接言及しない内容だった。
チベット検索では、チベットを舞台にしていると称する虚偽の映像・風景を描くAI生成コンテンツの存在が観測された点が新疆との違いとして特記されている(新疆の分析ではこの種のコンテンツは確認されなかった、ただし色調の不自然さや遠近感の加工など軽度な編集を示唆する要素はあった)。また漢族の女性がウイグル人やチベット人を演じるという文化盗用的な演出も確認されており、これは多民族地域の「漢化」を進める北京の継続的な取り組みと、均質な中国社会というナラティブを補強するものであり、ASPIの報告書「Frontier Influencers」(Ryan, et al., 2022)が指摘する少数民族を用いたプロパガンダの傾向と一致する。無関係コンテンツの比率が14%と比較的高いことも指摘されており、これは論争的な話題からユーザーの注意を逸らすために無関係コンテンツで押し流すという、序文で説明された手法の証左である可能性がある。報告書はチベット問題について、1990年代にポーランドでもチベット解放運動が活発だった時期と比較して現在は世界的な公的議論の対象になっていないとし、北京による長年の抑制努力の帰結だと分析する(一例として2008年、北京からの外交的圧力によりワルシャワの「自由チベット・ロータリー」が「チベット・ロータリー」に改称された経緯が脚注で言及されている)。
結果(3) 天安門事件——批判的コンテンツが上位を占める例外的検索語
「Masakra na Placu Tiananmen(天安門事件)」の検索結果は、他の検索語とは際立って異なる傾向を示した。収集コンテンツの74%が実際に天安門広場での抗議運動とその弾圧を扱っており、そのうち89%が中国共産党の行動に批判的な内容だった。全体としての感情分布は批判的77%、中立10%、無関係7%、親中6%、反中0%となっている。全体の7%は2022年の香港での抗議運動に言及する内容で(当局が天安門事件の年次追悼行事を禁止したことへの反発を含む)、このグループもCIAが抗議運動の背後にいたとする一部の投稿を除きほぼすべてが党の行動に批判的だった。親中コンテンツ(6%)は抗議運動とその弾圧の実際の経過を否定する内容であり、出演インフルエンサーは抗議運動が民主化運動ではなかった(五毒の主張の一つ)、弾圧は起きていない、あるいはCIAや法輪功が事態を扇動したと主張していた。中国国内の情報空間で抗議に関する情報が入手不可能だったという事実も否定されていた。
親中コンテンツの比率は低かったものの、「AI」「その他」カテゴリーには相当数の投稿が確認され、その大半は検索語と無関係な、習近平が天安門事件を否定するという「ユーモラス」なディープフェイクだった。「AI」カテゴリーの批判的コンテンツには、中国のLLMプラットフォームDeepseekにおける検閲(五毒に関する質問への回答拒否)への言及も含まれていた。天安門事件は2023年3月、TikTokのCEOであるShou Zi Chewが米議会公聴会に召喚された文脈でも取り上げられており、公聴会で同氏は中国政府との関係を否定しつつ、天安門での学生「虐殺」が起きたことを認め、その情報がTikTok上でも入手可能だと主張した映像がプラットフォーム上で公開されていた。トピック別の親中コンテンツ件数を見ると、抗議運動関連では親中31件・批判的1087件・その他94件、香港関連では親中1件・批判的114件・その他0件と、批判的内容が圧倒的多数を占めている。報告書は、天安門事件が新疆やウイグル問題ほど強力な対抗ナラティブを必要とされていない背景として、話題自体の国際的な注目度が1990年代と比べて低下していることを挙げると同時に、この低い親中率とアルゴリズムからの除外が、プラットフォームの独立性が議論の的となっている時期に「客観性」を演出するための意図的な「生贄」である可能性も排除できないとしている。一方でこの話題は米国を含む中国人反体制派コミュニティにとって依然重要な論点であり、抗議運動やその後を描いたコンテンツの一部は米国またはCCP統治に批判的な中国系ディアスポラに関連するチャンネルに由来すると推測される。
結果(4) 台湾——沈黙による統制
「Tajwan(台湾)」の検索結果で最も目立つ特徴は、分析対象1,616件のうち92.6%(1,497件)が中立に分類されたことである。反中的要素を含む投稿はわずか5%(81件)だった。中立コンテンツのうち89.7%(1,343件)は台湾旅行に関する内容(ポーランド人留学生やインフルエンサーによるvlogを含む)で占められ、「台湾トリビア」に分類される投稿も87件(中立コンテンツの5.8%)確認された。分析からは台湾がPRCの一部であることを主張する親中プロパガンダは検出されず、「一つの中国」というスローガンも収集された投稿には一切登場しなかった。中国による台湾侵攻の可能性を扱うコンテンツについては、そのカテゴリー内の88%が北京に批判的な内容だった。
無関係コンテンツはわずか2%(35件、2.17%)にとどまり、これは台湾というトピック自体がTikTok上で検閲されていないことを示す。しかし台湾独立運動を推進するコンテンツや、島の政治情勢に関する議論は増幅されていなかった。この特徴は、検閲との批判を回避しつつ中台関係に関する言説を統制するという、北京がスポンサーとなったプロパガンダ機構による意図的な操作の可能性を示唆すると報告書は分析する。さらに「政治は語らない」(不谈政治)という東アジアで一般的な公共の場での政治的議論を避ける態度からもこの傾向を説明できるとしつつ、台湾独立や台湾の政治状況に関する話題はTikTok上で議論されないか、プラットフォーム管理者によって自動的に検閲されている可能性があるとする。これらの話題は北京の外交政策上の「レッドライン」を越え、正統性を脅かすと見なされているためだとしている。
結果(5) 中国の人権——「安全な批判」と「危険な否定」の使い分け
「Prawa człowieka w Chinach(中国の人権)」の検索結果は、収集された1,559件のうち469件(30.08%)が検索語と無関係で、親中546件(35.02%)と批判的537件(34.45%)がほぼ拮抗した。両者の差はわずか0.57ポイントで、この検索語の測定誤差3.765%を踏まえると、どちらが優勢なナラティブかを断定することはできないと報告書は明記している。中立に分類されたのはわずか7件(0.45%)だった。
このキーワードの特徴は、下位トピックごとに感情分布が大きく異なる点にある。以下は主要な下位トピックの内訳である。
| 下位トピック | 件数(全体比) | 批判的 | 親中 |
|---|---|---|---|
| 女性の権利 | 158件(14.5%) | 91件(57.6%) | 67件(42.4%) |
| 社会信用スコア | 89件(8.17%) | 76件(85.4%) | 13件(14.6%) |
| 特定の人権問題の否定 | 78件(7.16%) | 0件(0%) | 78件(100%) |
| 言論の自由(COVID-19) | 76件(6.97%) | 76件(100%) | 0件(0%) |
女性の権利、社会信用スコア、COVID-19下の言論の自由といったトピックでは中国政府への批判が明確に許容されている一方、人権問題そのものを否定するコンテンツは100%が親中であり、さらに民主主義や「中国的な人権理解」といった中国の政治体制そのものに関わる文脈では強い親中ナラティブが観察された。プラットフォームは中国を「福祉国家」として描くコンテンツ(ホームレス・貧困や社会政策に関する話題)も促進しており、これは対外的なイメージ構築における北京の重視点を反映しているという。
報告書はこの構図を、批判が許容される「安全な」トピックと、党の正統性に直結する「危険な」トピックとを選別的に扱うベイジンの検閲プロセスの証左だと解釈する。中国の繁栄を描くコンテンツは、自国民に公正な政治体制を擁護する論拠として機能しており、その主要な想定読者はポーランドよりもむしろグローバルサウス諸国のユーザーである可能性が高い。北京との連携がもたらす繁栄という(誤解を招きかねない)ビジョンを提示することで、これらの国々との経済協力を促す狙いがあるとされる。全体の約3割が無関係コンテンツだったという事実は、ユーザーが人権をめぐる論争そのものからは切り離された代替トピックへ誘導されていることを示しており、これは「安全な」批判を許容することで見せかけの言論の自由の感覚を生み出す、認知戦の一環と位置づけられている。
結果(6) 再教育キャンプ——最大規模の「無関係コンテンツによる押し流し」
「Obozy reedukacyjne w Chinach(中国の再教育キャンプ)」は、6つの検索語の中で最も極端な結果を示した。収集された1,558件のうち88.9%(1,385件)が検索語と無関係であり、検索語に関連する投稿はわずか11.1%(173件)にとどまった。関連投稿のうち94.22%(163件)は中国に批判的な内容だった。
報告書はここで中国の刑事司法制度の歴史的経緯にも言及している。1957年から2013年まで運用された「労働による再教育」制度(労动教养)はすでに廃止されているが、現在も機能する「労働による改造」制度(劳动改造)が存在し、いわゆる新疆のウイグル再教育キャンプ問題は中国において依然タブー視される話題であり、その議論はしばしば北京からの強い反発を招く。無関係に分類された投稿はさらに「旅行」(281件)、「医療・減量」(475件)、「リサイクル」(53件)、「その他」(574件)という4つの下位カテゴリーに分けられ、その多くは低品質でスパム的な内容(急速なカット、無関係なフレームの継ぎ接ぎ、テンポの速いBGM)によって特徴づけられ、AIによって生成された投稿も相当数含まれていた。
この検索語が全キーワード中最も高い「無関係率」を記録した背景として、報告書はウイグル少数民族の迫害という言説を統制しようとする北京のキャンペーン(結果(1)で述べた文脈)との関連を指摘する。北京はウイグルの迫害と強制労働キャンプへの収容に関する主張を「世紀の嘘」(Zhang, 2021)と呼んでおり、TikTokはこの新疆否定論の原則に沿ってこの話題に関するコンテンツを遮断・削除する一方で、低品質コンテンツを大量に流し込むことでユーザーの注意を代替トピックへ誘導しようとしている、というのが報告書の見立てである。これはユーザーが再教育キャンプに関する情報を探索すること自体を思いとどまらせるための、北京のプロパガンダ機構が用いる手段の一つだと結論づけている。
結論——アルゴリズムの不透明性と検証不可能性
6つの検索語を横断した分析から、NASKはTikTokの所有構造と中国の情報空間を規律する法的枠組みを踏まえれば、コンテンツの表示順位を決定するアルゴリズムがプロパガンダ目的で操作されている可能性を疑う合理的根拠があると結論づける。ポーランドの平均的なユーザーが新疆・チベット・人権・再教育キャンプといった機微な話題について情報を求めた場合、その多くが圧倒的に親中的な内容として提示される。TikTokにはDouyin(中国国内版)のような明示的な検閲機構は存在しないが、一部の話題は批判との批判を回避するための「安全弁」として機能する一方で、望ましくないと見なされる話題は事実上抑制されている可能性が示唆されている。これはEUおよびポーランドの法律が保障する透明性と自由な情報アクセスの原則と衝突するものであり、情報空間が統制された国々発のアプリが、情報操作からの十分な保護を提供する意思を欠いている可能性を示していると報告書は述べる。
調査からは、中国系プロパガンダ機構との直接的な結びつきを示唆する複数の英語話者アカウントの存在も確認された。これらのアカウントはPRCのメッセージにとって重要な話題のみを扱う、極端に親中的なメッセージを発信する、共産党批判者の信用を貶めようとする、一般の旅行者を装いながら専門的に制作された大量のコンテンツを公開する、といった特徴を共通して持つ。ポーランド語プロパガンダチャンネルの規模は現時点では相対的に小さいものの、今後拡大する可能性は排除できず、英語コンテンツ自体もポーランドのユーザーにとって魅力的な情報源となりうるとされる。台湾のiORG(2024)による、Douyinからプロパガンダコンテンツを直接TikTokへアップロードするチャンネル網の存在を示す調査や、2025年6月のDoubleThink Lab世論調査(Hsu, 2025)がTikTokの頻繁な利用者ほど親中・反米的見解を持つ傾向を明らかにしたこと、さらに2025年10月にモルドバ戦略コミュニケーション・偽情報対策センターが公表した報告書がロシア連邦と関連する主体によるTikTok上での2024年大統領選挙への影響工作を指摘したことなど、地域を超えた類似の事例が並記されている。
報告書はまた、収集期間を通じてほぼ反中コンテンツが記録されなかった点にも注意を促す(検索語と無関係で単に中国人を揶揄する意図の孤立した投稿を除く)。これがアルゴリズムによる意図的な抑制の結果なのか、国籍に基づく下品・排外主義的・差別的とみなされるコンテンツ一般に対するプラットフォームの制限措置の結果なのかは、本調査からは判別できないとし、反中・反米・反日コンテンツを比較する追加調査の必要性が今後の課題として挙げられている。最終的にNASKは、TikTokアプリの公平性について正当な疑念が生じるとしたうえで、この結果がアルゴリズムそのものに起因するのか、モデレーションもラベリングも受けないプロパガンダチャンネルの存在に起因するのかを断定することはできないとする。ただし中国法体系のもとにある中国企業(ByteDance)への従属関係を踏まえれば、大規模な影響工作が行われた場合にTikTokが利用者の態度や見解を形成するツールとなりうる潜在性は大きく、中露間の情報連携の規模を踏まえるとポーランドのユーザーの安全保障にとって潜在的脅威となりうると結論づける。報告書はプラットフォーム上のコンテンツへの批判的な姿勢の必要性とあわせて、政府関係機関や国家機構に関連する個人が機微情報をプラットフォーム上で公開することを控えるよう推奨して締めくくられている。


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