偽情報時代のレジリエンス:スコットランドにおける信頼と緊急時コミュニケーション ― NCR政策ラウンドテーブル報告書

偽情報時代のレジリエンス:スコットランドにおける信頼と緊急時コミュニケーション ― NCR政策ラウンドテーブル報告書 偽情報の拡散

 英グラスゴー大学社会・環境サステナビリティ学部(School of Social and Environmental Sustainability)を拠点とするナショナル・センター・フォー・レジリエンス(National Centre for Resilience、以下NCR)は、スコットランドにおける自然災害・緊急事態への社会的レジリエンス強化を目的に活動する研究拠点である。NCRは2025年、研究者、スコットランド政府の政策担当者、実務家を横断的に集めた「2025年ラウンドテーブルシリーズ」を組織し、レジリエンス政策に関わる3つの重点領域を順次取り上げている。本稿が扱う報告書『Resilience in the Age of Mis- and Disinformation: Trust and Emergency Communication in Scotland』は、その第一弾として2025年11月に開催されたクロスセクター・ラウンドテーブルの成果をまとめたものであり、2026年6月9日にNCRのウェブサイトで公開された。参加者は政府、学術界、実務の各領域から集まり、専門家によるブリーフィング、ファシリテーション付きのテーブルディスカッション、共同ワークショップという3段階の形式を通じて議論を積み上げている。報告書自体が明記する通り、これは確定的な政策提言集ではなく、議論の政策的含意を整理した統合文書(policy-relevant synthesis)という性格を持つ。

報告書の背景:なぜ「信頼」が緊急時コミュニケーションの中心課題になったか

 報告書の背景説明部分は、この論点が浮上した文脈を2つの軸で説明している。第一に国際的な動向として、世界経済フォーラム(WEF)が『グローバルリスク報告書』の2024年版・2025年版の双方で、誤情報・偽情報(misinformation)を短期(2年以内)における最大のグローバルリスクに位置づけたことを引用する。これは誤情報が社会の不安定化、民主的制度の毀損、公的機関への信頼低下を招きうるという懸念を反映したものだとされる。第二にスコットランド国内の文脈として、スコットランド政府の『Future Trends for Scotland: Findings from the 2024–25 Horizon Scanning Project』が参照され、信頼の低下、社会の分極化、敵対的アクターによる偽情報の戦略的利用への懸念が高まっていることが指摘されている。この2つの参照文献の組み合わせは、報告書全体の視座を規定している。すなわち、誤情報・偽情報問題を単なるコンテンツモデレーションの技術的課題としてではなく、市民保護(civil contingencies)、緊急事態への備え(emergency preparedness)、公共コミュニケーションという政策領域全体にまたがる構造的課題として扱う枠組みである。

 以下、報告書が提示する10の主要テーマを、それぞれが示した観察内容、根拠とされた具体例、参加者が示した対応策に即して見ていく。

テーマ1:信頼は単一ではなく、分散し、文脈依存で、脆弱である

 参加者は「単一の真実の源(a single, central “source of truth”)」という発想そのものに一貫して異議を唱えた。信頼は断片化しており(fragmented)、関係性に基づき(relational)、状況に強く依存する(context dependent)ものだと位置づけられている。スコットランドの公式防災情報プラットフォームであるReady.Scotは広く認知され信頼されている存在として言及される一方で、人々は緊急事態が急速に展開する局面では複数の情報源と複数の検証手段を組み合わせて利用する傾向があるとされ、地域ラジオ、コミュニティメディア、地元で信頼されている個人の声が、特にデジタルアクセスが遮断された状況において重要な役割を果たすと繰り返し指摘された。参加者は北欧諸国の事例を国際比較として挙げ、明確なハザードフレームワーク、標準化されたメッセージング、強い市民参加が、複数レベルにまたがる調整型システムの価値を裏付けるものとして紹介している。

 報告書はこのテーマについて、信頼が損なわれる圧力点を次のように整理する。

圧力点何が問題か
一貫性を欠くメッセージング混乱を生み、信頼を損なう
透明性の欠如不透明さへの認識がメッセージの正当性を毀損する
情報の出し惜しみ懐疑心を招き、公衆の協力度を下げる
単一情報源への過度な依存信頼の分散的・関係的性質を反映できていない

 これに対して参加者が有効とした対応策は3点で、Ready.Scot・地域ラジオ・コミュニティの声など複数かつ多様な信頼済みチャネルを併存させる「分散型情報源」、既知・未知・対応中の事項を率直に開示する「透明性と明確性」、緊急事態発生前から関係構築を行っておく「事前の関係性確立」である。報告書はこの節を「単一の真実の源を超えて、複数の信頼済み・地域チャネルにまたがる信頼を強化する、調整され透明性のあるシステムへの投資」という要約で締めくくっている。

テーマ2:速度・感情・情報過多が公衆行動を左右する

 参加者は緊急時コミュニケーションにおける「速度」と「正確性」の間の構造的緊張を一貫して指摘した。情報は検証が追いつかない速度で拡散し、恐怖・緊急性・怒りといった感情的に強度の高いコンテンツは、事実に基づく更新情報よりも可視性と到達範囲において優位に立つとされる。報告書はこの力学を次の4つの圧力点で整理している。急速な増幅(rapid amplification)は誤った情報が訂正可能になる前に既成事実化してしまうリスクを指す。感情の優位性(emotional dominance)は高覚醒コンテンツが事実情報よりも強く行動を規定することを示す。敵対的な悪用(hostile exploitation)は国家・非国家アクターが不確実性と恐怖を意図的に利用しうることを指摘する。アルゴリズムバイアス(algorithmic bias)はプラットフォームのシステムが正確性よりもセンセーショナルで感情に訴えるコンテンツを優遇する傾向を持つことを指す。

 これらへの対抗策として参加者が挙げたのは3点である。第一に「可視化された検証」で、BBC Verifyのようなモデルは価値があると評価されつつも、現状では緊急時システムへの統合や可視性が十分でないと指摘された。第二に「速さより一貫性」で、最初に情報を出すことよりも、複数の情報源間で明確かつ正確で整合的であることの重要性が優先されるべきだとされた。第三に「信頼済みチャネル間での反復による補強」で、単一のプラットフォームや当局への依存よりも、政治的中立性を保った複数の信頼済みの声が同じメッセージを繰り返すことのほうが効果的だとされている。報告書はこの節のキーテイクアウェイとして、高速かつ感情的に強度の高い環境における効果的な緊急時コミュニケーションは、単一チャネルによる迅速対応ではなく、複数の信頼済み情報源間での協調的な補強に依存すると結論づけている。

テーマ3:誰が伝えるかは、何を伝えるかと同じくらい重要である

 信頼はメッセンジャーの信頼性・親近性・一貫性の認識に強く左右される。地域の声、真に専門性を備えたコミュニケーター、コミュニティメッセンジャーは特に有効だと見なされたが、それは緊急事態発生前から関係が構築されている場合に限られるという条件付きである。参加者は、こうした基盤を欠いた緊急時コミュニケーションが陥りがちな傾向として、解決策を提示せずリスクのみを強調すること、過度に慎重あるいは非人間的なトーンを採用すること、公衆が不確実性に向き合う能力を過小評価することの3点を挙げている。

 議論の中では、限定的な情報開示によってパニックを回避しようとする姿勢よりも、地域・コミュニティの声や真正な専門コミュニケーターに紐づく誠実さ・明確さ・文脈的説明のほうが信頼構築に効果的だという強いコンセンサスが確認された。公共サービスメディアや既存の制度的機関は依然として重要な信頼の錨(trust anchors)であり、政策はこれらの信頼性を意図せず毀損するのではなく、強化・活用する方向を取るべきだとされている。

テーマ4:公衆は受動的な情報の受け手ではない

 報告書が示した重要な指摘の一つは、現行の多くのアプローチが公衆を暗黙のうちに「情報の受動的な受け手」として扱っているという点である。参加者はこれが現実と乖離しつつあると論じた。人々は情報を能動的に解釈し、共有し、再構成し、疑義を呈する(interpret, share, remix, and challenge)存在であり、この能動的役割を無視した緊急時コミュニケーションは効果を減じ、信頼を損なうリスクを負うとされる。

圧力点政策上の意味
受動性を前提とした設計人々の反応様式を見誤り、メッセージの効果を損なう
信頼の毀損公衆を受動的に扱うことがエンゲージメントと信頼性を低下させる
過度に単純化されたメッセージ公衆が持つ貢献・レジリエンス支援の能力を活かせない

 これに対する対応として、人々の判断力・貢献・責任共有の能力を認める「公衆をパートナーとして扱う」、トップダウンの指示ではなく双方向のコミュニケーションを行う「対話への関与」、共同設計されたツールや地域ネットワークを通じて市民がレジリエンスに貢献できるようにする「公衆の能力の活用」の3点が挙げられている。

テーマ5:構造的・制度的制約が実効性を制限する

 参加者は、緊急時コミュニケーションの実効性がメッセージングだけでなく、構造的・制度的な障壁によって制約されている点を一貫して指摘した。断片化したガバナンス構造、移管権限(devolved powers)と留保権限(reserved powers)にまたがる責任の不明確さ、国・地方レベルでの不均等な対応能力が、一貫した迅速な行動を妨げているとされる。加えて、規制の枠組みがソーシャルメディアプラットフォーム、検証メカニズム、新興技術の進展速度に追いついていないことも指摘された。

圧力点政策上の意味
断片化したガバナンス説明責任の所在が不明確になり、調整が弱まる
対応能力の制約人員・資源の不足が一貫性と持続可能性を損なう
共有インフラの欠如標準化された検証・ソーシャルリスニングツールの不在が状況認識を低下させる
規制の遅れ政策枠組みが技術変化に追いつかず実効性を制限する
安全保障主導のフレーミング防衛・securitisation的な語りが分極化を助長し、信頼を損なうリスクを持つ

 対応策として、移管権限・留保権限にまたがる整合性を改善する「明確な役割分担と調整」、標準化された検証・モニタリング・ソーシャルリスニングインフラへの「共有能力への投資」、技術的・社会的変化に柔軟に対応できる「適応的なガバナンス枠組み」、そして緊急時コミュニケーションを安全保障・防衛の課題ではなく公共のレジリエンス機能として位置づける「市民中心のフレーミング」の4点が挙げられている。最後の項目については報告書自体が「さらなる検討と文脈化を要する興味深い論点」という注記を付しており、この段階では結論に至っていない未解決の論点として扱われていることが読み取れる。

テーマ6:感情的・認知的・社会的な次元が軽視されている

 参加者は、信頼・信念・行動が事実情報と同じくらい感情的・社会的要因によって形作られるにもかかわらず、これらの次元が現行の政策・実務において十分に反映されていないと強調した。繰り返される危機は疲労、不安、離脱(fatigue, anxiety, and disengagement)を蓄積させ、従来型のリスクベースのメッセージングの効果を減じているとされる。現行のアプローチは過度に理性的で情報過多(overly rational and information-heavy)であり、人々が現実の文脈でリスクと不確実性をどう経験するかを過小評価していると評価された。

圧力点政策上の意味
リスクへの感情的反応感情は情報と行動のギャップを媒介する要因であり、これを考慮しないメッセージングは効果を損なう
共感とナラティブの欠如非人間的なメッセージングはエンゲージメントと信頼を制限する
社会的結束の弱さ強い社会的つながりなしにレジリエンスを維持することは難しい
市民の離脱主体性を伴わない繰り返しの危機経験は、備えではなく撤退を招く

 対応策として、恐怖・不確実性・生きられた経験(lived experience)を事実情報と併せて認める「感情に配慮したコミュニケーション」、単に「何をすべきか」だけでなく「なぜその行動が重要か」を理解させる「ナラティブと意味づけ」、コミュニティの結びつき・市民リテラシー・共有された目的をレジリエンスの基盤として投資する「インフラとしての社会的つながり」、公衆に指示を与えるのではなく参加と当事者性を可能にする「コンプライアンスではなく主体性」の4点が挙げられている。

テーマ7:新興技術の倫理的統合には透明性・説明責任・参加が不可欠である

 参加者は、AIや自動化されたファクトチェックを含む新興技術の倫理的な利用が、緊急時コミュニケーションにおける信頼維持の中核をなすと強調した。同時に、技術は急速に進化している一方で、多くの倫理的課題自体は新しいものではなく、既存の行動科学の原則や倫理的枠組みは依然として高い関連性を保つが、新たなツールと文脈への適応を要するという指摘がなされている。技術が不透明・自動的・説明責任を欠くと認識された場合に信頼は損なわれ、特に商業的インセンティブが情報の増幅・モデレーションのあり方を左右している場合にその傾向は強まるとされる。

圧力点政策上の意味
認識される不透明性「ブラックボックス」的なシステムが正当性と信頼を損なう
監督を欠く自動化説明責任を低下させ、懐疑心を高める
商業的インセンティブプラットフォームの利益モデルが有害・誤解を招くコンテンツを増幅しうる
公衆参加の制限意思決定からの排除が信頼と受容を弱める

 これに対して、技術がどのように・なぜ使われ、どこに人間の判断が介在するかを明確にする「透明性と説明可能性」、既存の倫理的・規制的ガイダンスを新興技術と危機の文脈に適応させて適用する「明確な基準とガバナンス」、悪用や被害の増幅が商業的に駆動されている場合に技術企業への期待を強化する「提供者の説明責任」、コミュニティを技術利用の設計に関与させる「共創と参加」の4つの原則が示されている。

テーマ8:2035年を見据えた信頼システムは公衆と「ともに」設計されなければならない

 2035年を見据えた展望として、参加者は信頼できる緊急時コミュニケーションシステムを、技術的インフラであると同時に社会的インフラでもあると一貫して描写した。信頼と(システムへの)採用は不可分であり、システムは人々が危機の前後を通じて能動的に関与を選択する場合にのみ機能するとされる。参加者は純粋に技術主導・トップダウンの解決策を退け、将来のシステムが参加型で(participatory)、地域に即し(locally relevant)、社会的・技術的変化に適応可能(adaptable)でなければならないと強調した。

設計原則政策上の意味
早期の認知と親近性危機発生前からシステムが知られ、理解されている必要がある
包摂性とアクセシビリティ多様なニーズと状況に届くことが信頼の前提となる
不確実性についての透明性意思決定と未知の事柄への率直さが信頼性を築く
明確な倫理的ガバナンス強固な枠組みが正当性と説明責任を支える
セキュリティとプライバシーデータ保護と悪用防止への確信が信頼の基盤となる

 採用と信頼を可能にする条件として、コミュニティとの共同設計によって生きられた経験と地域の実情をシステムに反映させる「コミュニティとの設計」、使いやすさと明確な便益によって高い普及率を確保する「使いやすさと関連性」、危機時ではない平時における定期的な発信の蓄積が緊急時の親近性と信頼を築くという「時間を通じた一貫性」の3条件が挙げられている。

テーマ9:信頼は約束ではなく実践によって築かれる

 参加者は、信頼が意図の表明や再保証の言葉ではなく、時間をかけた可視的な行動(visible behaviour over time)によって獲得されるものだと一貫して強調した。制度が特に圧力下において信頼性・誠実さ・開放性を示すとき、信頼は成長する。ナラティブのコントロール、情報の遅延、困難なメッセージの回避といった試みは、しばしば逆効果であり、シニシズムと離脱をむしろ強化すると広く見なされた。

実践領域政策上の意味
不確実性の承認誠実さと公衆の判断力への敬意を示す
誤りを認めること説明責任と信頼性を実証する
意思決定の説明理解を築き、疑念を減らす
一貫した基準プラットフォーム間での信頼性が信頼を強化する
ナラティブの統制操作されているという認識が懐疑心を高める

 実践レベルで有効とされた行動は4つに整理されている。確実性を待つのではなく既知・未知・変化しつつある事柄を共有する「不確実性下での誠実さ」、誤りを公然と認め学習の反映を説明する「可視化された説明責任」、決定事項だけでなくその理由を説明する「理由を伴う透明性」、トーン・タイミング・内容に関する基準をプラットフォーム横断で共有する「チャネル間の一貫性」である。

テーマ10:インフラの優先課題

 参加者は、信頼できる緊急時コミュニケーションがメッセージングだけでなく、根底にあるインフラに依存すると一貫して指摘した。デジタル・非デジタル双方にまたがる柔軟でレジリエントなシステムは、特に電力・接続性・通常サービスの中断時において、信頼と実効性を維持するために不可欠であり、これらへの投資は任意の拡張策ではなく社会的レジリエンスの基盤(foundational)として位置づけられている。

インフラ領域リスクの内容
地域・コミュニティメディア衰退が地域レベルでの到達範囲と信頼を低下させる
コミュニティハブ電源・接続性を備えた拠点の不足が調整能力を制限する
Priority Services Registers(要配慮者登録制度)連携不足が脆弱層への支援を弱める
ソーシャルリスニング能力誤情報の検知・対応能力の不足につながる
非デジタルチャネルデジタル一辺倒のアプローチが脆弱な人口層を排除する

 優先投資として挙げられたのは、地域・コミュニティメディアを信頼済みチャネルとして維持する「地域情報エコシステムの支援」、図書館や公共空間に電源・接続性・調整能力を備えさせる「コミュニティハブの整備」、Priority Services Registersと公益事業・緊急サービスとの連携を改善する「重要登録制度の統合」、ソーシャルリスニングと迅速な誤情報対応ツールへの投資を進める「能動的モニタリング能力の構築」、ラジオ・印刷物・物理的な標識を緊急時コミュニケーションの中核要素として維持する「非デジタル経路の強化」の5点である。

政策・実務への含意

 報告書は議論全体から浮かび上がった含意を、11の領域にわたって「何が語られたか」と「政策・実務への含意」という2軸で整理している。特徴的なのは、緊急時コミュニケーションを「イベント」ではなく「システム」として捉え直す視座が繰り返し強調されている点である。緊急時コミュニケーションはしばしば個別的・危機特化的(episodic and crisis specific)に扱われているが、これは危機の前・最中・後を通じた持続的な投資、テスト、関与を要する継続的システムとして扱われるべきだとされる。同様に、信頼は可視性・一貫性・透明性を通じて時間をかけて築かれるものであり、政策は危機前の関与、明確な説明責任、コミュニティおよび信頼済み仲介者との関係構築を優先すべきだとされる。単一の真実の源という発想は非現実的であり、政策は中央集権的な統制ではなく、プラットフォーム横断で連結され一貫した信頼済み情報源を可能にする方向を志向すべきだとされる。

 ガバナンスに関しては、既存の枠組みが技術的・地政学的変化のペースに追いついておらず、比例的・整合的・将来対応型であるための見直しが必要だと指摘される。新興技術については、不透明・説明責任を欠くと認識された場合に信頼を損なうリスクがあり、AI・自動化・検証ツールの倫理的ガバナンスが緊急時コミュニケーションの政策・実務に組み込まれるべきだとされる。不確実性の伝え方についても、人々は事実の正確性と同じくらい不確実性と感情がどう伝えられるかに反応するとされ、コミュニケーション戦略は不確実性、意思決定の説明、感情的反応の承認を明示的に扱うべきだと結論づけられている。

協働のロードマップ:即時対応から3年以上先まで

 報告書の後半は、協働と今後の作業機会を時間軸別のマトリクスとして整理している点が特徴的である。「即時の基盤づくり(横断的)」の段階では、政府・地方自治体・コミュニティ組織・仲介者間の事前の関係性が信頼済みコミュニケーションの前提条件であることが強調され、フィンランド、スウェーデン、ニュージーランド、オーストラリア、ドイツ、シンガポールが市民リテラシー・備え・信頼が構造的に組み込まれている事例として挙げられている(特に北欧のハザードコミュニケーションモデルが繰り返し参照された)。加えて、AI・自動化に関わる倫理的リスクが不透明な利用によって信頼を損ないつつあるとの指摘を踏まえ、既存の枠組みは「不在」ではなく「未活用」だという評価のもと、倫理的AI利用・検証・透明性に関する共有原則の策定が挙げられている。

 「短期(今後12か月)」では、公衆行動に関する前提が検証されないまま誤っていることが多いとの指摘を受け、ロールプレイ・シミュレーション・ウォーゲーミング演習を通じたコミュニケーション戦略のテストが提案されている。加えて、「何がわかっているか」「何がわかっていないか」「次に何が起こるか」を明確に区別する不確実性の伝え方の改善、スマートフォンおよびデジタルアラートへの過度な依存が指摘される中でのデジタル排除層への到達手段の検討、地域の信頼ネットワークのマッピングと関係構築への投資、そして緊急アラートの濫用が鈍感化とシニシズムを招くとの警告を踏まえたアラートシステムの真正な緊急時利用への限定、という5項目が挙げられている。

 「中期(1〜3年)」では、Ready.Scotへの信頼にもかかわらず緊急時コミュニケーションに単一の広く認知されたアイデンティティが存在しないとの指摘を受け、全国的に認知される緊急時コミュニケーションブランドの確立あるいは強化が提案される。加えて、現行インフラで緊急時特化型のソーシャルリスニングが可能かという問いを踏まえた社会的リスニング・迅速対応ツールの試験導入、AIが信頼できる人間の判断を代替するのではなく支援すべきだとの一貫した指摘を踏まえた倫理的配慮の運用指針への組み込み、フィンランドやNewsWiseの事例を参照しつつ年齢層を横断したメディア消費リテラシーの格差に対応する市民・メディア・レジリエンスリテラシーの拡充が挙げられている。

 「長期(3年以上)」では、人々がシステムに従属するのではなくシステムの形成に関与する場合に信頼が強化されるとの指摘を踏まえた、公共コミュニケーションにおける倫理的AI利用の参加型フレームワークの開発、社会的つながりがレジリエンスの基盤であるという知見にもかかわらず資金配分が対応(response)側に偏っているとの指摘を踏まえた、備え・関与・社会的つながりへの投資シフト、単発の学習演習への警戒と国際的な優良事例の継続的な適応の必要性を踏まえた、国際的実践からの学びの政策・能力開発への組み込みが挙げられている。

報告書が示すもの

 報告書全体を貫く結論は、信頼は迅速に工学的に作り出すことも、中央から強制することもできないという一点に集約される。信頼は持続的な関与、倫理的な実践、そして価値と行動の間の可視的な整合性を通じて築かれるとされる。この結語は、10のテーマ全体を通じて示された論理――単一の情報源への依存を退け、速度よりも一貫性を優先し、公衆を受動的な受け手ではなく能動的なパートナーとして扱い、危機発生前の平時における関係構築とインフラ投資を最優先課題とする――を集約したものである。報告書自体が明記する通り、これは確定的な政策提言ではなく議論の統合であり、2025年ラウンドテーブルシリーズの残る2回の会合の結果と合わせて、スコットランドのレジリエンス政策における今後の優先課題を特定していく過程の第一段階として位置づけられている。

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