本稿が扱うのは、中央ヨーロッパ・デジタルメディア観測機構(Central European Digital Media Observatory、CEDMO)が運営するポータルcedmohub.euにおいて2026年8月28日に公表された報告書「Misinformation in the healthcare sector in Slovakia. An analysis of users’ perceptions and behaviour.(スロバキアの医療分野における誤情報——利用者の認識と行動の分析)」である。著者はイヴァン・R・ツケル(Ivan R. Cuker、チャールズ大学)、カリナ・スタシュク=クライェフスカ(Karina Stasiuk-Krajewska)、パヴェウ・ロスネル(Paweł Rosner)、ミハウ・ヴェンツェル(Michał Wenzel)、ヤクブ・クシュ(Jakub Kuś、いずれもSWPS大学)の5名である。報告書はEUの資金提供プログラム「DIGITAL-2023-DEPLOY-04」(契約番号2020-EU-IA-0267)のもとでCEDMOが継続的に運営する枠組みの一部として公表されており、巻末の記載によれば、本研究自体はEUのアクション番号101158609、およびポーランド科学高等教育省の「国際共同資金プログラム(Co-funded International Projects)」2024~2026年度(契約番号6054/DIGITAL/2024/2025/2)による共同資金提供を受けている。CEDMOハブが公開している紹介文によれば、本報告書は健康・医療をテーマとする研究群の一部であり、テキストおよび視覚的コミュニケーションの内容分析、CAWI調査、実験、深層インタビュー(IDI)、フォーカスグループ、ネットノグラフィーといった複数の手法を組み合わせて中央ヨーロッパにおける健康関連の誤情報・偽情報の実態を解明する、チェコ語・ポーランド語・スロバキア語で刊行される15本の研究報告書コレクションの一部として位置づけられている。
報告書の序文が明示する研究課題は「一般市民はどの程度効果的に医療偽情報を認識・評価できるのか、そして彼らの認識と相互作用にどのような要因が影響するのか」であり、メッセージの内容、発信元、表現方法という三つの要素に焦点が当てられている。序文はまた、医療分野の偽情報・誤情報に関する先行研究の蓄積は比較的豊富であるものの、その大半が米国を対象としたものであり、スロバキアに加えポーランドとチェコ共和国でも同時に実施された本調査は中央ヨーロッパに焦点を当てた点で相対的に独自性を持つと述べている。本稿が再構成するのはこのうちスロバキア分の調査結果であり、ポーランド・チェコの結果は別途刊行される他言語版に記載される。
調査設計——Demagogのファクトチェック済みデータベースから選定された9投稿と13次元評価
調査はPollster社によって2026年6月から7月にかけて実施され、CAWI(コンピュータ支援型ウェブ面接、Computer-Assisted Web Interviewing)方式が用いられた。回答者総数は777人であり、最終的なデータセットには816件の完了済み回答が含まれる。報告書はサンプルの代表性確保が調査テーマの特殊性ゆえに極めて困難であったとし、個別の社会人口統計カテゴリーの厳密な比率管理ではなく、年齢・性別・教育・居住地規模における十分な多様性の確保を優先したと説明している。世帯の経済状況と重病者との社会的近接性については、参照すべき母集団データが存在しないため比率管理自体が不可能だったと明記されている。
投稿の選定にはファクトチェック機関Demagog(前号のEDMO報告書でも言及されたDemagog.skを含むネットワーク)が管理する偽情報データベースが用いられ、選定基準は次の三点とされた。第一に回答者との関連性、すなわち実際のまたは潜在的な個人的経験との結びつき。第二に、受け手の側で操作の有無を判定できる内容であること。第三に、文脈要因の影響を統制するため、構造的に類似しているが偽情報の兆候を示さない真実の情報も比較対象として選定すること。この結果、回答者一人ひとりに提示された投稿は合計9件で、真実の情報を含むものが3件(投稿3、5、8)、虚偽の情報を含むものが6件(投稿1、2、4、6、7、9)という構成になった。
調査手順は三段階から成る。第一段階では、実際のソーシャルメディアプラットフォームのタイムラインを模したインターフェース上で9件の投稿が提示され、回答者は共有・いいね・非表示(dislike)・通報・コメントという形で各投稿に相互作用できた。第二段階では各投稿について一連の内容評価質問が行われた。質問は13次元にわたり、具体的には「この資料は正確な情報を提供していると思うか」「この資料は操作の試みだと思うか」「この資料は個人的に関係があると思うか」「この資料はあなたの態度や意見を変える可能性があると思うか」「この資料はあなたに何らかの行動を促す可能性があると思うか」「この資料は他の人々の態度や意見を変える可能性があると思うか」「この資料は他の人々に特定の行動を取らせる可能性があると思うか」「この資料は入念に準備されたと思うか」「この資料は善意で準備されたと思うか」「この資料は特定の社会集団・職業集団の利益に資すると思うか」「この資料は事実に基づいていると思うか」「この資料は噂・迷信・俗説に基づいていると思うか」「この資料は問い合わせ可能な著者または組織によって作成されたと思うか」の13問である。0から10までの11段階尺度が用いられ、中央値の5を上回れば当該記述への同意、下回れば不同意を意味する。回答の一貫性を検証するため、一部の質問は逆転項目として設計された。第三段階では社会人口統計学的質問と補足質問が行われた。
回答所要時間は平均30.4分、中央値20.25分で、10分以内に回答を終えた者が184人存在した。報告書はこの層について、回答が十分に吟味されたものではない可能性があると留保を付している。所要時間の分布は0~10分(184人)、11~20分(248人)、21~30分(195人)、31~40分(92人)、41~50分(30人)、51分以上(67人)であった。
回答者構成——身近な重病者の経験という脆弱性の指標
年齢構成は18~25歳102人、26~35歳163人、36~45歳168人、46~55歳154人、56~65歳121人、66歳以上108人と各層に一定数が確保されており、インターネット利用頻度が低く回答者確保が難しいとされる66歳以上の層で108人を確保できた点を報告書は特に価値あるものと位置づけている。性別は男性45%・女性55%で、女性の比率がやや高いもののスロバキアの実際の人口構成と比べて統計的に有意な差ではないとされる。教育水準は基礎教育・初等教育未修了67人、職業訓練を伴う中等教育(見習い)344人、高卒資格を伴わないその他中等教育167人、高卒資格および高等職業教育を伴う中等教育54人、高等教育184人の分布であり、複数国比較のため標準的な区分から一部調整が加えられている。居住地規模は999人以下131人、1,000~4,999人260人、5,000~19,999人151人、20,000~99,999人168人、100,000人以上106人。世帯の経済状況については「非常に良い」111人、「良い」374人、「どちらでもない」275人、「悪い」47人、「非常に悪い」9人という分布で、大多数が良好ないし中立的な評価を選んでいる。
健康関連偽情報への脆弱性を測る指標として、報告書は「身近な人間関係(親族・知人・家族)の中に、深刻な病気にかかり医師が対応できなかった人がいるか」という質問を設けている。回答は「複数該当者がいる」37%、「一人該当者がいる」25%、「該当者はいない」38%に分かれ、合計62%が医療の限界を身近に経験していることになる。報告書はこの層について、医学や医療行為そのものに疑念を抱かせるナラティブに対してより脆弱である可能性があると指摘している。
健康情報の入手源を複数回答形式で尋ねた結果、最も多く選択されたのは「医師」で596件、次いで「テレビ」296件、「専門的な医学出版物(科学論文)」240件、「親族・知人」239件であった。以下、医療機関・製薬会社206件、患者(治療・リハビリ・検査等で出会った人々)229件、医師以外の医療専門職(看護師・薬剤師・理学療法士等)220件、インターネットポータル201件、特定テーマに関心を持つ利用者のオンライングループ123件、ラジオ115件、新聞・雑誌160件、代替医療の実践者116件、健康・栄養・ライフスタイルを扱うインフルエンサー48件と続く。医師への信頼が突出して高い一方、代替医療実践者を情報源とする層も116件と無視できない規模で存在しており、報告書はこれを「問題のある情報源から健康情報を得ている一定の集団がスロバキアに存在するが、母集団全体の中では強く代表されているわけではない」と評価している。
9投稿への評価——真実性・操作性認識の非対称性と二つの例外
回答者に提示された9投稿の内訳は以下の通りである。
| 投稿 | 真偽 | 内容 |
|---|---|---|
| 1 | 虚偽 | ロシアが開発した新型抗がんワクチン「Enteromix」により48人の腫瘍患者が治癒したとするプーチン大統領の写真付き投稿 |
| 2 | 虚偽 | 2009年のWHO「優生学評議会」でヘンリー・キッシンジャーが強制予防接種・強制臓器提供・遺伝子操作・不妊化に言及したとする陰謀論 |
| 3 | 真実 | 「果物ジュース(Ovocné šťavy)」が薬剤の吸収を、場合によっては半分程度まで低下させうるという情報 |
| 4 | 虚偽 | COVID-19ワクチンとがんを関連づけた「衝撃的な研究」が、学術誌Oncotargetへの謎のサイバー攻撃により「検閲」されたとする投稿(69件の既発表研究と333件の症例を分析したとする実在の学術誌名を借用) |
| 5 | 真実 | ポーランドの国立腫瘍研究所(ワルシャワ)がまとめた軟部組織肉腫治療の新プロトコル「EFTISARC-NEO」(ペムブロリズマブ+エフチラギモド アルファ+術前放射線療法の三剤併用)に関する紹介 |
| 6 | 虚偽 | 「カロリー計算が肥満を防ぐ」という考えは詐欺であり、野生動物はカロリーを計算しない、ヒトも植物性食品を中心とした「機能する消化器系」であれば肥満にならないとする主張 |
| 7 | 虚偽 | 白血病・悪性リンパ腫を患った義母がテレグラムのグループ経由で入手したベニテングタケ(アマニタ・ムスカリア)のカプセルを2か月間服用し寛解したとする体験談 |
| 8 | 真実 | ケトダイエットではなく地中海式ダイエットの実践者を自称する医師が、自身のダイエットプランへのリンクをハッシュタグ「#autopropagácia(自己宣伝)」とともに紹介する投稿 |
| 9 | 虚偽 | 「一人でいる時に心臓発作をどう生き延びるか」と題し、2秒おきに深く力強い咳を繰り返せば救助が来るまで心臓の拍動を維持できるとする、いわゆる「咳CPR」神話 |
真実性(この資料は正確な情報を提供しているか)の評価では、真実の投稿の平均が5.34、虚偽の投稿の平均が4.01となり、差は1.33ポイントであった。ただし報告書はこの数値がいずれも尺度の中央値5の周辺に集中していることを強調し、多くの場合回答者はどの投稿が真実でどの投稿が虚偽かを明確には判別できていなかったと結論づけている。この傾向を象徴するのが二つの例外である。投稿8は真実の情報でありながら真実性評価はわずか4.89と中央値を下回り、九投稿中もっとも懐疑的に受け止められた真実投稿となった。報告書はこの背景を明示的には論じていないが、投稿本文が医師自身による自らのダイエットプランへの誘導リンクを含み、ハッシュタグ「#autopropagácia」で自己宣伝であることを明示している点が特徴である。一方、投稿9(咳CPR神話)は虚偽の投稿でありながら真実性評価は5.80と中央値を上回り、九投稿中で最も高い評価を得た。同時に操作性(この資料は操作の試みだと思うか)の評価でも投稿9は3.82ともっとも低く、虚偽投稿の中で唯一「操作的ではない」と判断された投稿となった。
操作性の評価全体では、虚偽投稿の平均が5.75、真実投稿の平均が4.44で、差は-1.31ポイントとなり、真実性の評価とほぼ対称的な結果を示した。報告書は13次元のうち残りの11項目についても、真実投稿と虚偽投稿それぞれの平均値を全体平均と比較する片側t検定(one-sample t-test)を実施し、統計的有意性を検証している。分布の正規性はQ-Qプロットにより確認され、完全な正規分布ではないもののおおむね正規性に近似すると評価されている。結果は次の通りである。
| 評価次元 | 真実投稿平均 | 虚偽投稿平均 | 全体平均 | 有意差の方向 |
|---|---|---|---|---|
| 真実性 | 5.34 | 4.01 | 4.45 | 真実投稿が有意に高い |
| 操作の試み | 4.44 | 5.75 | 5.32 | 虚偽投稿が有意に高い |
| 個人的関連性 | 4.35 | 3.70 | 3.91 | 真実投稿が有意に高い |
| 回答者本人の意見変化 | 3.99 | 3.45 | 3.63 | 真実投稿が有意に高い |
| 回答者への行動喚起 | 3.79 | 3.21 | 3.40 | 真実投稿が有意に高い |
| 他者の意見変化 | 5.66 | 5.69 | 5.68 | 有意差なし |
| 他者への行動喚起 | 5.52 | 5.42 | 5.45 | 有意差なし |
| 入念な準備 | 5.16 | 4.65 | 4.82 | 真実投稿が有意に高い |
| 善意での作成 | 5.23 | 4.03 | 4.43 | 真実投稿が有意に高い |
| 特定集団の利益への奉仕 | 5.14 | 5.33 | 5.26 | 有意差なし |
| 事実に基づく | 5.10 | 3.89 | 4.30 | 真実投稿が有意に高い |
| 噂・迷信・俗説に基づく | 4.24 | 5.03 | 4.77 | 虚偽投稿が有意に高い |
| 説明責任(問い合わせ可能性) | 4.85 | 3.91 | 4.22 | 真実投稿が有意に高い |
「他者の意見を変えるか」「他者に行動を促すか」「特定集団の利益に資するか」の三項目では真実投稿と虚偽投稿の間に有意差が見られず、報告書はこれについて、投稿を共有する際の金銭的利害関係の有無を回答者が区別していないことを示すものだと解釈している。
発信者は誰と推定されたか——トロールと詐欺師、科学者と専門家の二極化
報告書は各投稿について「この投稿を共有した可能性が最も高いのは誰だと思うか」という複数選択式の質問を設けており、選択肢は一般のソーシャルメディア利用者、インターネットトロル(混乱を引き起こす個人・集団)、利益団体・ロビイスト、科学者・専門家、主流の科学界に認められていない専門家、病気を患う人々(患者)、詐欺師・いかさま師、製品販売で利益を得ようとする企業・起業家、外国・外国の(情報)機関の8種であった。
| 推定発信者 | 真実投稿平均 | 虚偽投稿平均 | 全体平均 | 有意差の方向 |
|---|---|---|---|---|
| 一般利用者 | 45.7% | 45.0% | 45.2% | 有意差なし |
| トロル・混乱誘発者 | 20.1% | 36.7% | 31.2% | 虚偽投稿が有意に高い |
| 利益団体・ロビイスト | 25.2% | 26.2% | 25.8% | 有意差なし |
| 科学者・専門家 | 28.1% | 17.6% | 21.1% | 真実投稿が有意に高い |
| 非公認の専門家 | 17.3% | 18.5% | 18.1% | 有意差なし |
| 患者(罹患者) | 13.6% | 12.7% | 13.0% | 真実投稿が有意に高い |
| 詐欺師・いかさま師 | 15.3% | 24.1% | 21.2% | 虚偽投稿が有意に高い |
| 利益追求企業・起業家 | 20.1% | 16.6% | 17.8% | 真実投稿でのみ有意に高い |
| 外国・外国機関 | 5.5% | 11.1% | 9.2% | 虚偽投稿が有意に高い |
もっとも顕著な差はトロル・混乱誘発者の項目に現れ、虚偽投稿では36.7%が選択したのに対し真実投稿では20.1%にとどまった。逆に科学者・専門家は真実投稿で28.1%、虚偽投稿で17.6%と真実投稿側で高くなっている。詐欺師・いかさま師も虚偽投稿で24.1%、真実投稿で15.3%と明確な差を見せた。全選択肢中もっとも選択率が低いのは外国・外国機関(全体平均9.2%)だが、真実投稿5.5%に対し虚偽投稿11.1%とちょうど倍の開きがある。報告書はこれらの結果から、回答者は虚偽投稿の拡散者として問題のあるアクターを、真実投稿の拡散者として社会的に認知された地位を持つ人物、とりわけ科学者・専門家をそれぞれ有意に多く選ぶ傾向にあると総括する一方、利益団体・ロビイストの項目に有意差が見られなかった点、および利益追求企業・起業家の項目が真実投稿でのみ有意という結果から、投稿の共有に金銭的利害が絡んでいるかどうかについて回答者は真偽の間で明確な区別をしていないと指摘している。
インタラクション分析(ネットノグラフィー)——「いいね」と「通報」の分岐、コメント欄に残る両義性
回答者は各投稿に対し、いいね(お気に入り登録)、非表示(dislike)、共有、通報、コメントという相互作用を任意の数だけ行うことができた。ただし同一投稿への「いいね」と「非表示」の同時選択は不可能とされた。実施が義務づけられた最低限の相互作用は「いいね」または「非表示」4回、共有3回、コメント2回であり、通報は任意とされた。
| 投稿 | 真偽 | いいね | 共有 | 非表示 | 通報 | コメント |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 1 | 虚偽 | 318(39.0%) | 156(19.1%) | 368(45.1%) | 186(22.8%) | 367(45.0%) |
| 2 | 虚偽 | 174(21.3%) | 126(15.4%) | 499(61.2%) | 172(21.1%) | 294(36.0%) |
| 3 | 真実 | 418(51.2%) | 303(37.1%) | 224(27.5%) | 53(6.5%) | 337(41.3%) |
| 4 | 虚偽 | 210(25.7%) | 197(24.1%) | 413(50.6%) | 163(20.0%) | 269(33.0%) |
| 5 | 真実 | 377(46.2%) | 327(40.1%) | 179(21.9%) | 75(9.2%) | 271(33.2%) |
| 6 | 虚偽 | 279(34.2%) | 266(32.6%) | 271(33.2%) | 106(13.0%) | 311(38.1%) |
| 7 | 虚偽 | 185(22.7%) | 187(22.9%) | 279(34.2%) | 182(22.3%) | 272(33.3%) |
| 8 | 真実 | 251(30.8%) | 233(28.6%) | 221(27.1%) | 79(9.7%) | 295(36.2%) |
| 9 | 虚偽 | 331(40.6%) | 375(46.0%) | 117(14.3%) | 94(11.5%) | 350(42.9%) |
真実投稿と虚偽投稿の平均値を対比すると、真実投稿は「いいね」43%・共有35%と好意的な反応の比率が高く、虚偽投稿は「非表示」40%・通報18%(真実投稿は8%)と否定的な反応の比率が高い。コメント率は真実投稿37%、虚偽投稿38%とほぼ差がない。個別投稿では、投稿3(果物ジュース、真実)が回答者の半数以上(51.2%)から「いいね」を得て最高値を記録した一方、真実投稿である投稿8(自己宣伝を明示した医師のダイエット投稿)は30.8%にとどまり、真実投稿の中で唯一「いいね」率が3割程度にとどまった。共有についても投稿8は真実投稿の中で最も低い28.6%であった。虚偽投稿の中では投稿9(咳CPR神話)が「いいね」40.6%・共有46.0%と九投稿中で共有率最高を記録し、「非表示」率は14.3%と全投稿中最低、通報率も虚偽投稿の中で最も低い部類に入る。逆に投稿2(WHO優生学評議会・キッシンジャー陰謀論)は「非表示」61.2%と全投稿中で最も強い拒否反応を受けた。通報がもっとも多かったのは投稿1(ロシアの抗がんワクチン、22.8%)で、他の虚偽投稿の通報率もおおむね20%前後で推移する一方、投稿9は11.5%と例外的に低い。
コメント欄の内容は定量化されていないものの、報告書はその情報的価値を重視し、投稿の性質をめぐる回答者間の解釈のばらつきを示す事例として、投稿1に寄せられた三件のコメントを引用している。「それは間違いなく効果がある」というコメント、「そんなのはナンセンスだ、ワクチンの有効性は証明されている」という正反対のコメント、そして「これについて何を考えればいいのか分からない」という態度未定のコメントである。報告書はこの三者三様の反応について、同一のテキストであっても受け手によって肯定・否定・中立という異なる意味づけがなされうることを示すものだと位置づけている。
報告書の結論
報告書の結論部は、スロバキアの回答者が真実の医療関連投稿と虚偽の医療関連投稿をある程度弁別できる能力を持つものの、その確信度は尺度の中央値付近にとどまっていると総括する。真実投稿の信頼性評価平均は5.34(0~10点尺度)、虚偽投稿は4.01。もっとも顕著な差は操作性の認識に表れ、虚偽投稿は5.75、真実投稿は4.44と評価された。ただし「一人でいる時に咳で心臓発作を乗り切る」と主張する虚偽投稿9は例外的に真実(5.80)と誤認され、操作的でない(3.82)とも評価された一方、真実の投稿8は懐疑的に受け止められた(真実性4.89)。
拡散者の帰属については、回答者は虚偽投稿の拡散者としてインターネットトロル・混乱誘発者(36.7%)と詐欺師・いかさま師(24.1%)をもっとも多く選び、真実投稿の拡散者としては科学者・専門家(28.1%、虚偽投稿では17.6%)を多く選んだ。外国・外国の(情報)機関は虚偽投稿の拡散者として真実投稿の場合の二倍(11.1%対5.5%)選択された。全体として健康情報の一般的な入手源としては医師がもっとも多く挙げられた(596件)。報告書はこれらの結果について、公衆は偽情報の拡散を問題のあるアクターに帰属させる一方、真実の報道を権威ある主体に帰属させる傾向があると総括している。
インタラクションについては、真実投稿が平均43%の「いいね」を獲得し35%の割合で共有された一方、虚偽投稿はより頻繁に「非表示」(40%)および通報(18%、真実投稿は8%)の対象となった。コメント率は真実投稿37%、虚偽投稿38%とほぼ同水準だった。コメントの質的分析では高度な両義性が明らかになり、同一の投稿が支持から明確な拒絶、態度未定まで、まったく対照的な反応を引き起こしていた。
回答者の身近な人間関係における重病経験も重要な要因として位置づけられている。スロバキアの回答者の大多数(62%)が、医師でも対応できなかった重病者を身近に知っており、報告書はこの経験を持つ回答者が医学や医療行為そのものへの疑念を招くナラティブをより受け入れやすい可能性があると指摘する。総括として報告書は、スロバキアの公衆は偽情報や問題のあるアクターを認識する基礎的な能力を備えているものの、一見説得力のある俗説に直面した際の脆弱性を示す著しいギャップが存在すると結論づけ、批判的思考とメディアリテラシーの強化、および健康分野における信頼できる情報源の体系的な普及の必要性を強調して締めくくっている。
報告書の位置づけと読み方——比較研究としての性格と、数値が示唆する論点
以上が報告書自身の記述に基づく再構成である。ここからは報告書の位置づけと数値が示唆する論点について、本稿独自の整理を加える。
第一に、本報告書はスロバキア単独の調査ではなく、ポーランド・チェコ共和国を含む三か国比較研究のスロバキア部分として設計されている点に留意する必要がある。著者陣がチャールズ大学(プラハ)とSWPS大学(ワルシャワ)の混成であること、そして巻末の資金提供者にポーランド科学高等教育省の国際共同研究資金が明記されていることは、この三か国比較という設計と整合的である。本稿で示した数値――真実投稿と虚偽投稿の評価差が中央値付近にとどまること、トロルや詐欺師が虚偽情報の拡散者として名指しされる一方で科学者・専門家が真実情報の拡散者として名指しされる非対称性――がスロバキアに固有の現象なのか、中央ヨーロッパに広く共有される傾向なのかは、ポーランド語版・チェコ語版として別途刊行される報告書との照合を経て初めて判断できる。
第二に、投稿8と投稿9という二つの例外事例は、報告書が明示的に論じている以上の含意を持つ。投稿8は実在の医師が地中海式ダイエットへのリンクを紹介する内容で、内容自体に虚偽はないにもかかわらず、ハッシュタグ「#autopropagácia」で自己宣伝であることを自ら明示した結果、九投稿中もっとも懐疑的な評価(真実性4.89)を受け、真実投稿の中で唯一「いいね」率が3割程度にとどまった。これは、情報の出所を透明化する行為――一般には信頼性を高める推奨行動とされる――が、商業的意図の開示という文脈においてはむしろ懐疑を招きうることを示す事例であり、内容の正確性よりも動機の認識が受け手の判断を左右する可能性を示唆している。一方、投稿9の「一人でいる時の咳CPR」神話は、心臓発作の際に2秒おきの強い咳を繰り返せば救助が来るまで心拍を維持できるという、国際的にも古くから流布してきた俗説であり、報告書自身はこの点に触れていないものの、繰り返し流通してきた既知の言説であることが、真実性の誤認(5.80)と操作性の過小評価(3.82、虚偽投稿中最低)の双方に寄与した可能性が高い。これは、ある主張が持つ客観的な正確性とは独立に、接触頻度や見慣れた表現形式そのものが受け手の信頼を高めうるという、偽情報研究で広く指摘される現象と整合的な結果である。
第三に、調査手法上の限界にも触れておく必要がある。本調査は実際のソーシャルメディア上の自然な行動を観察したものではなく、CAWI環境内に構築された模擬プラットフォームでの相互作用である。回答者は自らの反応が現実の社会関係に影響を及ぼさないことを認識した状態で「いいね」や「共有」を選択しており、実際の投稿環境で作用する社会的コストやピアプレッシャーは働いていない。したがって、真実投稿の共有率が虚偽投稿を上回るという結果が、現実のソーシャルメディア上での拡散行動にそのまま当てはまるとは限らない点には留保が必要である。加えて、816件の完了回答が777人の回答者から得られた事実、および184人が10分以内に回答を終えている事実は、報告書自身が留保として明記しているとおり、一部の回答が精読を経ない状態で提出された可能性を残している。それでもなお、13次元にわたる評価軸と8種類の推定発信者カテゴリーを組み合わせ、真実投稿・虚偽投稿それぞれについて統計的有意性を個別に検証する枠組みは、単なる「見分けられたか否か」の二択評価にとどまらない、認識の構造そのものを可視化する設計になっている点に、本調査の分析上の価値がある。

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