本稿が扱うのは、欧州連合(EU)の資金提供により運営される欧州デジタルメディア観測所(European Digital Media Observatory、EDMO)が2026年8月25日に公表した「Monthly Report no. 2」である。表題は「Climate Disinformation Rises in July, Ceuta Migration Crisis Looms over August」で、EDMOのファクトチェック・ネットワークに参加する組織を対象とした質問票調査に基づき、2026年7月1日から31日までの1か月間に欧州で観測された偽情報の動向を定量・定性の両面から総括するシリーズの第2号にあたる。回答組織数は44で、調査対象期間中にEU加盟国とノルウェーのファクトチェック機関30団体が公表した合計1,397本のファクトチェック記事がトピック分類の基礎データとなっている。これに加えて、EU域外の欧州(欧州評議会加盟国に加えコソボ・ベラルーシ・ロシアを含む)のファクトチェッカーの報告、および外国による情報操作・干渉(Foreign Information Manipulation and Interference、FIMI)に関する独立した分析章が併載される構成をとる。FIMI章はGerulata Technologies社が開発したソーシャルメディア監視ツール「GladiOS」の支援を受けて作成された。報告書全体の主編集はPagella Politica/Factaのルチア・ベルトルディーニ(Lucia Bertoldini)とトンマーゾ・カネッタ(Tommaso Canetta)、FIMI章の編集はGLOBSECのカタリナ・クリンゴヴァー(Katarína Klingová)とヤクブ・クブシュ(Jakub Kubš)が担当し、EDMOはEUの契約番号「300141274」のもとで資金提供を受けている。
データの収集源であるEU加盟国・ノルウェーのファクトチェック機関は、15min、AFP、APA(オーストリア通信社)、CORRECTIV、Demagog.cz、Demagog.sk、Demagog.org.pl、Delfi Lithuania、Delfi Estonia、Dpa、DW、EFE Verifica、Ellinika Hoaxes、Facta/Pagella Politica、Factcheck Vlaanderen、Fact-check Cyprus、Faktograf、Funky Citizens/Factual.ro、Greece Fact Check、Infoveritas、Källkritikbyrån、Lakmusz、Maldita.es、Newtral、Oštro、Polígrafo、Re:Baltica、TjekDet、The Journal、Verificatの30団体である。これに加え、EU域外の欧州からはAFP、ベラルーシ調査センター(Belarusian Investigative Center)、FakeNews Tracker(fakenews.rs)、Doğruluk Payı、Faktoje.al、Geofacts、Istinomer.rs、Istinomjer、hibrid.info、Metamorphosis Foundation、Myth Detector、Raskrinkavanje.ba、Teyit、VoxUkraineの各組織が地域別の事例報告を寄せている。本稿はこの報告書が提示する定量データと具体的な偽情報事例、そしてFIMI章が詳述するセウタ移民危機のケーススタディを、報告書自身の数値と表現に即して再構成する。
7月の全体構図――既知の危機の反復と、月末に生じた「想定外」
報告書の序文が最初に指摘するのは、7月に欧州で検出された偽情報が「新しくも予測不能でもない」既知の反復パターンに沿っていたという点である。夏の熱波に伴って気候変動否定論と陰謀論が広がり、熱波の影響を誇張するために文脈を外した画像がクリックベイトとして利用される現象は、報告書の言葉を借りれば「夏によく見られる」典型例にすぎない。6月からすでにバイラル化していたFIFAワールドカップをめぐる偽情報は7月も続き、西バルカンでは例年どおりスレブレニツァ虐殺の記念日が新たな偽情報の波を引き起こした。
しかし月の最後の48時間で、状況を一変させる想定外の危機が発生した。モロッコからスペインの飛び地セウタへ約7万人の移民が押し寄せ、欧州で大規模な偽情報の波を引き起こしたのである。この波はモロッコ国内で流通していた偽情報によって大きく増幅されたものだった。EDMOは次号(8月分の報告書)でこの現象とその帰結についてより詳細な情報を提供するとしているが、本号の時点でも序文は重要な留保を三点提示している。第一に、移民の波そのものは欧州に危機を作り出すという特定の目的を持った単一のアクター――対外的であれ国内的であれ――によって引き起こされたわけではないという点。第二に、それにもかかわらず多数のアクターが即座にこの状況を利用し、自らの利害に沿った偽情報ナラティブ――社会の分断を煽る、過激主義を助長する、欧州社会を分裂させる、政治的敵対者を攻撃する、といった目的――を広めたという点。第三に、大陸を横断するファクトチェッカー間の協力と強力なモニタリング能力を軸に構築された適切なインフラがあれば、この種の現象は事前に察知され、部分的にせよ阻止できた可能性があるという点である。この三点目の指摘は、単なる事後の検証にとどまらないEDMOネットワークの存在意義を、報告書自身が明示的に主張している箇所として読むことができる。
トピック別データ――ウクライナと移民が首位を維持しつつ、気候変動が急伸
EU加盟国・ノルウェーの30団体が公表した1,397本のファクトチェック記事のトピック別内訳は、ウクライナ関連が119本(8%)、移民関連が109本(8%)、気候変動関連が104本(7%)、健康関連(COVID-19を除く)が97本(7%)、EU関連が87本(6%)、パレスチナ危機が39本(3%)、LGBTQ+・ジェンダー問題が25本(2%)、COVID-19関連が22本(2%)、イスラエル・米国とイランの戦争関連が22本(2%)となっている。前月からのトレンドとして、ウクライナ戦争と移民という二大トピックの首位は7月も維持されたが、両トピックのシェアはいずれも6月2026と比較して2ポイント低下した。報告書はこの低下について、7月30日に始まったセウタ危機を受けて移民関連の偽情報は8月に上昇すると予想している。
対照的に顕著な伸びを見せたのが気候変動関連の偽情報である。熱波やその他の異常気象が発生する際に例年見られる傾向どおり、気候変動をめぐる偽情報と否定論者の言説のシェアは7月に3ポイント上昇し、月間で3番目に標的とされたトピックとなった。EU関連の偽情報のシェアも1ポイント上昇しており、3月2026に記録された落ち込みの後、再び上昇傾向にあるとみられる。その他のトピックのシェアは軽微な変動にとどまり、おおむね安定して推移した。
2026年2月から7月までの月次推移を追跡したグラフでは、この構造がより長期的な文脈の中で確認できる。もっとも劇的な変動を示したのは米国/イスラエル対イラン紛争関連のシェアで、3月2026には全トピック中39%という突出した水準に達した後、4月には11%、5月以降は1桁台にまで急落し、7月時点では2%で推移している。ウクライナ関連は2月の8%から4月・5月にかけて9~10%まで上昇し、6月・7月は8%とやや落ち着いた水準にある。移民関連は2月の6%から段階的に上昇し、6月に10%でピークを付けた後、7月は8%に低下した。健康関連は2月の1%前後から徐々に上昇し、6月に8%、7月に7%と、COVID-19以外の健康関連偽情報がじわりと存在感を増している構図が見える。気候変動関連は2月の3%から一貫して緩やかな上昇基調にあり、7月の7%は同期間で最も高い水準である。
AI生成偽情報の量的分析――253本、全体の18%が「AI操作」
報告書がもう一つの定量的軸として重視するのが、AIによって作成または操作された偽情報の量的推移である。4月・5月2026に記録された落ち込みの後、AI操作を用いた偽情報のシェアは6月・7月を通じて上昇した。1,397本のファクトチェック記事のうち253本がこの操作手法を用いており、全体の18%を占める。これは2026年1月・3月に記録された過去最高の20%に迫る水準である。2023年3月から2026年7月までの長期推移を示すグラフでは、2023年から2024年にかけては概ね2~5%台で推移していた比率が、2025年に入って明確な上昇局面に転じ、2025年11月から2026年1月にかけて13%から20%へと急伸、その後4月に11%まで一時的に落ち込んだものの、5月・6月・7月と再び上昇して18%に達している様子が確認できる。
具体的な事例として報告書が挙げるのは、政治指導者を標的としたAI生成コンテンツである。ウクライナのヴォロディミル・ゼレンスキー大統領については、防弾ガラスの背後に立つ姿を描いたAI生成画像が欧州全域で拡散した。チェコ共和国ではペトル・パヴェル大統領とエヴァ・パヴロヴァー大統領夫人を標的にしたAI生成コンテンツが確認されており、憲法裁判所が独立していないこと、および同裁判所が大統領に有利な判断を下していることの「証拠」だと称する加工画像に加え、パヴロヴァー夫人が公金で400万コルナ相当の宝飾品を購入した証拠となる文書漏洩に激怒したという内容の動画も流布した。さらに、7月にプライド月間中に広がった反LGBTQ+コンテンツの波を受けて、「女性の犬(female dog)を自認する」女性を犬が襲う様子を描いたAI生成動画も作られた。これはLGBTQ+当事者、特にトランスジェンダーの人々を揶揄する目的で英語のスラング表現(「bitch」の直訳的皮肉)を字義通りに映像化した嘲笑的コンテンツであり、AI生成技術が政治攻撃だけでなくヘイトスピーチ的な嘲笑コンテンツの生成にも応用されている実態を示している。
EU域内のナラティブ分析――山火事による気候否定論と「チャットコントロール」をめぐる反EU感情
報告書はEU域内で観測された主要な偽情報ナラティブを2件、詳細に分析している。
第一は、南欧全域に広がった山火事と熱波を背景にした気候変動否定論である。異常気象の影響を誇張するバイラル画像が拡散する一方で、主要な根拠のないナラティブとして流通したのは、フランスとスペインの山火事が気候変動とは無関係で、再生可能エネルギー発電施設、住宅開発、あるいは太陽光発電施設の用地を確保するために意図的に放火されたというものだった。これに続いて否定論が展開され、1950年代にスペインで記録された高温が気候変動の存在と矛盾するという主張、欧州の熱波は「気候ヒステリー」にすぎず単なる暑い夏だとする主張、6月の熱波はCO2ではなくヒートアイランド現象によって引き起こされたという主張、人為的なCO2排出が現在の地球温暖化の原因ではないことを示す研究があるという主張が広がった。異常気象と政治が絡み合った事例としては、モロッコがスペインの山火事消火のために水陸両用機4機を派遣した、あるいは協力を拒否したという偽情報、およびイタリアの航空機がスペインの山火事鎮火にあたっているとする画像の誤用も確認されている。
第二は、7月9日に欧州議会が児童虐待コンテンツ検出のためのメッセージスキャンを認める暫定規則――通称「チャットコントロール1.0」――の延長を承認したことをめぐる偽情報である。この決定は正当な議論を呼んだが、同時に虚偽の主張も拡散した。承認された規則があたかも全プラットフォームにすべての私的メッセージのスキャンを強制する「まったく新しい法律」であるとする主張や、大規模監視だとする非難がそれである。この主張を土台に反EU的なナラティブも勢いを増し、欧州議会が現金廃止に向けた重要な一歩としてデジタルユーロを可決したという偽情報、あるいは政府が個人の購入履歴を監視し貯蓄を制限するという偽情報が広がった。これはEUを独裁的な機構として描く従来からのナラティブを補強するもので、7月には各国固有の物語へと分岐した。ルーマニアでは、欧州指令に由来する法律のために自宅の庭に井戸を掘ると20年の懲役刑を科されるという主張、およびブザウ地方の羊・山羊1,800頭が羊痘・山羊痘の発生を受けてEUの命令で殺処分されたという主張が流通した。ギリシャでは、フランスの尊厳死法案がブリュッセルによって指示されたもので、精神疾患を持つ人々を標的とし、撤回にわずか48時間しか猶予がないとする偽情報が広がった。
国別の事例として報告書が挙げる主要な偽情報は下表のとおりである。
| 国 | 偽情報の内容 |
|---|---|
| リトアニア | 同国への核兵器配備には国民投票が必要だとする主張 |
| ポルトガル | オデミラ市議会が、移民の増加を理由にポルトガル国旗を掲揚塔から撤去し外国の旗を掲げたとする主張 |
| ギリシャ | ギリシャ・ブルガリア・トルコの三国境界点(エヴロス川流域)でブルガリア・トルコの国旗は掲揚されているのにギリシャ国旗だけが欠けているとする主張 |
| ルーマニア | 7月に同国領空に侵入したロシアのドローンはルーマニア大統領の同意を得ていたとする主張 |
EU域外欧州のナラティブ――スレブレニツァ、ウクライナ、ジョージア、トルコ
欧州評議会加盟国・コソボ・ベラルーシ・ロシアを含むEU域外の「欧州」でも、報告書は5件の主要ナラティブを個別に分析している。
第一は気候変動否定論と反EU感情の重なりである。ボスニア・ヘルツェゴビナでは、バルカン半島で記録された最高気温の一部が数十年前のものであることを根拠に地球温暖化は「でっち上げ」だとする主張が流通した。同地域の他国でも、HAARPプログラム(High-frequency Active Auroral Research、高周波活性オーロラ調査プログラム)が北マケドニアの嵐やフランス・イタリア・スペインの熱波を引き起こしたとする陰謀論が共有された。チャットコントロールの承認はEU域外、とりわけジョージアでも反EU感情を煽っており、欧州議会が私的通信の保護を撤廃する法律を採択したという主張、EUが「現金への戦争」を宣言し2028年以降ユーロの現金流通が停止するという主張が流布した。反EU感情は気候変動をめぐる偽情報とも結びつき、ドイツが気候変動を理由に出産をしないよう国民に呼びかけているとする偽情報も広がった。
第二は、7月11日の「スレブレニツァ虐殺追悼・反省の国際デー」を契機に激化したバルカン地域の異民族間対立を煽る偽情報である。ボスニア・ヘルツェゴビナでは、ハーグの裁判所がスレブレニツァでの犠牲者数を4,100人と認定し、約8,000人という数字を退けたとする虚偽の主張、および犠牲者記録に含まれる孤立した誤りを利用して犠牲者数が意図的に水増しされたと示唆する主張が流通した。セルビアでは親政府系タブロイド紙が繰り返し用いてきた歪曲ナラティブが再利用され、虐殺を「フィクション」だと描写し、セルビアへの攻撃として再構成する言説が広まった。両国に共通して、セルビアで虐殺を認める者は誰であれセルビア国民全体を「ジェノサイド的」だと断罪していることになるという歪曲された主張も見られた。この副産物として、ボスニア・ヘルツェゴビナでは2008年にセルビアで殺害された少年の写真が、セルビア人の戦時被害者の信用を失墜させる目的でブラトゥナツに展示された追悼式典の画像に合成されたとする虚偽の主張も確認されている。コソボでは親米・親イスラエル的な偽情報が検出され、トランプ米大統領がNATOに対しコソボの加盟受け入れを求めた、あるいはコソボをめぐってセルビアを威嚇したとする主張、コソボとイスラエルの間に「歴史的合意」が成立し1,000人のイスラエル兵によるコソボ北部の防衛が認められたとする偽情報が広がった。
第三はウクライナとベラルーシに浸透したクレムリンのナラティブである。ウクライナでは、ルーマニア税関がウクライナ産のコカイン75キログラムを押収し、その包装にゼレンスキー大統領の肖像が付されていたとする虚偽の投稿が拡散した。反EU的なコンテンツは偽のテレビ放送を通じても広く流通し、偽のユーロニュースのサービスによればポーランドがウクライナ難民5万人を強制送還する、偽のフランス24の映像によればフランスがウクライナの軍募兵担当者の訓練と顔認証カメラの設置に8,000万ユーロを充てるとされた。ウクライナ国内で拡散した他の主張はクレムリンのナラティブをさらに強化するもので、戦争研究所(Institute for the Study of War)を模した偽動画がウクライナ保安庁による複数の民間インフラ施設への攻撃計画とロシアへの責任転嫁を主張し、Telegramの投稿はウクライナが学校の建物付近に燃料トラックを隠し始めたと主張した。さらに親ロシア的なナラティブを推進するため、ハーグの仲裁裁判所がクリミアをロシア領として正式に認定しウクライナ側の主張をすべて根拠のないものとして退けたとする投稿も流通した。ベラルーシでも親ロシア的な虚偽の物語が流通し、ロシアの音楽祭「ニューウェーブ」がラトビアから撤退して以降バルト三国では音楽祭が一切開催されていないとする主張が広がった。同様のナラティブに沿って反EU感情も勢いを増しており、ベラルーシ国営ラジオ第一チャンネルの専門家がリトアニア・ラトビア・エストニアはEU加盟後「鉄道もなく、交通システムもない」と述べたと報じられた。
第四はジョージア国内の親ロシア的な政府姿勢を反映した偽情報である。ウクライナ戦争を標的とした主張が同国でも広く流通し、ポーランドの裁判所がノルドストリーム・パイプラインの破壊工作をウクライナのロシアに対する自衛行為の一環と認定したという虚偽の主張が広がった。与党アハリ党指導者のテレビインタビューの断片が文脈を外して共有され、ジョージアがロシアとの戦争に参加すればウクライナの復興事業に参加し資金にアクセスできるようになるという趣旨に読み替えられた。Geofactsのファクトチェッカーによれば、この一連の言説を貫く総体的なナラティブは、EUがとりわけ野党勢力や批判的な声を利用してジョージアを対ロシア戦争に引き込もうとしているというものである。EUのジョージア駐在大使が反政府抗議活動に参加したとする根拠のない主張も、EUによる同国内政への干渉というナラティブを補強する役割を果たした。
第五はトルコにおけるナショナリズム的感情を助長する偽情報である。7月7~8日にアンカラで開催されたNATOサミットの後、アイスランドのクリストルン・フロスタドッティル首相がトルコ人から「非常に丁重に」歓迎され、トルコが自分の「第二の故郷」だと述べたとする偽情報が拡散した。自称歴史家ラマザン・セヴィンチは、考古学者がトロイア人はトルコ人だったと発見したためトロイ遺跡の発掘が中止されたと主張した。国際関係をめぐっては、ドイツがイスラエルを含む62か国に対しビザ要件を新たに撤廃した一方でトルコだけは除外したとする虚偽の情報も流通した。国内政治では、大統領レジェップ・タイイップ・エルドアンを「侮辱」し「公然と憎悪と敵意を扇動した」容疑で7月に逮捕されたコメディアン、デニズ・ギョクタシュの写真を人々が象徴的に吊るす様子を描いたAI生成画像が拡散した。
EU域外の国別事例としては、セルビアとボスニア・ヘルツェゴビナの国境検問が廃止されるとする主張、トランプ米大統領がコソボをめぐりセルビアを空爆または宣戦布告で威嚇したとする主張、「マケドニア分割に関するブカレスト条約」に将来の独立マケドニアとその国名に言及する追加条項があるとする主張、そしてアルバニアで「フラミンゴ革命」の抗議参加者がラマ首相の辞任とアルバニア人の「イスラム化」を非難したとする主張が挙げられている。
外国による情報操作・干渉(FIMI)分析――ロシア関連工作の手口類型
報告書の後半は、GladiOSの支援を受けたFIMI分析章にあてられている。要約部分は、2026年7月を通じてロシア関連の作戦が放送局の偽装、メディア・ロンダリング、加工された音声・映像コンテンツを通じて高い可視性を保ち続けたと総括する。最も帰属の裏づけが強い事例として、ウクライナとゼレンスキーを標的とした捏造コンテンツに関連するOperation Storm-1516、西側機関を偽装するTelegramアセットに関連するMatryoshka、そしてロシア国営メディアとPravdaネットワークのエストニア語・ラトビア語・EU向けサブドメインによって増幅されたVovanとLexusによる欺瞞的ないたずら電話工作の三件が挙げられている。同時に7月のデータは、AI生成された「ポーランド兵士」ペルソナが「権威」を装ってウクライナ関連の反ウクライナ的ナラティブを広めた事例に象徴されるように、合成された地元発信者への依存が強まっていることを示す。もっとも、月末に最も反響を呼んだのはセウタ移民危機であり、報告書はこの事態を継続的に監視するとしつつ、確認されたのはクロスプラットフォームでの協調的な動員と、それがもたらした重大な結果であって、外国の国家スポンサーや単一の指揮アクターの存在を裏づける証拠ではないと明記している。
具体的な行為者と手口の分析は5類型に整理されている。第一はMatryoshka――捏造された放送局と機関の偽装である。ウクライナのVoxCheckは、ポーランドがウクライナ難民5万人を強制送還するとした偽のユーロニュース映像、モナコでのテロ攻撃後に英国がヴァレリー・ザルジニー(前ウクライナ軍総司令官)への警護を強化したとする偽のポリティコ映像、ウクライナの募兵担当者訓練と顔認証カメラ設置に8,000万ユーロを投じるフランスの計画を伝える偽のフランス24映像、そしてウクライナ保安庁による民間インフラ攻撃計画を伝える戦争研究所風の捏造映像を確認している。第二はStorm-1516――実際の出来事と本物のメディアを土台にした捏造である。ポーランドのDemagog Poloandが記録した2件のうち、一つは加工されたAP通信の映像と偽のBBCブランディングを用いてオレナ・ゼレンスカ夫人がフランスのラリック美術館から盗まれた宝飾品を身につけていたと主張するもので、もう一つはリヴィウで実際に発生した動員反対デモを土台に、当局が43人の抗議者を拷問し殺害したとする捏造ストーリーを構築するものだった。
第三は合成された権威――AIで生成された人物と音声をメッセンジャーとして用いる手法である。Demagog Polandは「Voice of Polish Soldiers」「Voice of the Military」「Polish Defence」を名乗るアカウント群をFacebook、Instagram、TikTok、YouTube上で検出しており、これらはAI生成の兵士を用いてウクライナ、難民、EU、ドイツ、ポーランド国内政治について発言していた。ジョージアではMyth Detectorが、ドイツの極右政党AfD共同党首アリス・ヴァイデルの本物の映像にロシア語のAI生成音声を重ね、ゼレンスキーへの攻撃を捏造したロシア語動画を記録している。第四は対人アクセスを悪用した欺瞞――VovanとLexusによる工作である。ロシアの「いたずら師」ヴォヴァン(ウラジーミル・クズネツォフ)とレクサス(アレクセイ・ストリャロフ)――西側政治家をターゲットにした「いたずら電話」で知られるロシアのコメディコンビ――は、エストニア大統領府安全保障顧問マディス・ロルとの通話でウクライナ政府高官ルステム・ウメロフになりすました。編集された通話の音声は、エストニアがウクライナのサンクトペテルブルク攻撃組織化を支援する用意があると主張するために利用され、ロシア外務省報道官マリア・ザハロワとPravdaのエストニア語・ラトビア語・EU向けサブドメインによってさらに増幅された。第五は国内発に見せかけたロンダリングと、持続する自国語ノードの存在である。ポーランドのSNSアカウント「Zaorane」やドイツ人ブロガーのアリナ・リップのような地元アクターが、土着の発信者・増幅者として機能した。「Zaorane」は主に反ウクライナ的な素材を発信し、CORRECTIVによって親クレムリン・プロパガンダの拡散者として繰り返し特定されてきたアリナ・リップは、インドの男性に家族形成や就労のためウクライナへの移住を勧める虚偽情報を広めた。
この5類型を踏まえ、報告書はアクターの分類学(actor taxonomy)を提示している。第一はロシア関連工作クラスターで、Storm-1516に関連するアカウント群とMatryoshkaに関連するチャンネル群がウクライナと欧州の対ウクライナ支援を標的に捏造・偽装コンテンツを生産する。第二は反復的な自国語増幅者で、親クレムリン・反ウクライナ・反西側コンテンツで繰り返し特定されてきたアカウント・メディアであり、外部で作られたナラティブを土着のものに見せかける地元語アクターを含む。第三は合成的で欺瞞的なペルソナで、AI生成の「兵士」、偽装された専門家の身元、社会的信用性を捏造する偽の(または模倣した)公式コミュニティである。第四は商業的増幅インフラで、AIで書かれたセンセーショナルなコンテンツをもっぱら収益化するエンゲージメント・ファーミングまたは「ベトナム系スパム」アセットだが、これらが地政学的な効果を伴う反ウクライナ的ナラティブを再生産する場合もある。第五は移民動員ネットワークで、セウタの事例に見られるように、ピア・ツー・ピアの調整と、誤解を招く亡命・受入手続き情報を組み合わせたクロスプラットフォームのコミュニティである。この協調行動そのものは実証されているが、外国からのスポンサーシップは実証されていない、と報告書は明記している。
ケーススタディ:セウタ移民危機――偽情報が先行した動員の実像
報告書がFIMI章の締めくくりとして詳細に分析するのがセウタ移民危機である。7月後半に発生したこの事案は、月内で最も重大な帰結を伴う事例であり、デジタル上の操作が実際の危機発生に先行していた点が特徴とされる。7月30日から31日の夜、そして8月初旬にかけて、推定7万2千人がモロッコからスペインの自治都市セウタへタラハル防波堤経由、およびフニデク(スペイン語名カスティレホス)付近の境界フェンス突破により不法に越境した。スペイン内務省は数日以内に約7万人がモロッコへ送還されたと報告しており、越境の試みに関連して少なくとも141人の死亡が記録された。
7月末の段階のクロスプラットフォーム動員インフラは、Malditaによってマッピングされている。同組織は7月30~31日の越境とそれに続く計画に関連するFacebookグループ21件を監視し、分析対象のうち最大のグループは19万人超のメンバーを抱えていた。この組織化は大規模な越境が起きる以前から可視化されており、7月21日には利用者がフェンス越境の経験者を募集する投稿を行い、Malditaが発見した最初のWhatsApp招待は7月27日にFacebookグループ内に現れている。7月末から8月初旬にかけて、セウタ・フニデク・「ハラガ」コミュニティに関連するFacebookグループでは、少なくとも19種類の異なるWhatsApp招待リンクが少なくとも36回共有された。なお「ハラガ(harraga)」とは英語で「燃える者たち」を意味し、地中海を渡って欧州を目指す北アフリカからの不法移民を指す語で、道中で身分証明書を焼却する慣行に由来する。Malditaが傍受したメッセージの一例では、アラビア語で「兄弟たちよ、参加したい者は登録してくれ。専門家・技術者が必要だ。参加を望む者はチームに加わってくれ」といった募集文言や、フニデクからの泳ぎでの越境希望者に経験と連絡を求める投稿が確認されている。
この動員の運用構造は「情報から行動への漏斗(Information-to-Action Funnel)」として整理される。まずFacebookが「ショーウィンドウ」として可視性を担い、参加募集の広範な呼びかけの場となった――分析対象で最大のグループは19万人を超えるメンバーを抱えていた。次にInstagramとTelegramが「接続役」として信号伝達とルーティングを担った。Instagramは目標日時や出発地点をタグ付けする告知層として機能し、Telegramグループは利用者を暗号化チャンネルへ積極的に誘導した。最後にWhatsAppが「作戦本部」として実務調整を担い、タイミングの調整や治安警備隊(Civil Guard)の配備に関する警告を含む19種類の招待リンクが7月末に36回共有される、という具体的なロジスティクスの層を形成した。
法的判断の戦略的な単純化も重要な操作要素として特定されている。事実関係としては、6月29日のスペイン最高裁判決が、泳いで到着した移民に対する即時の「ホットリターン(即時送還)」を禁止し、標準的な最大72時間の正式な送還手続きを義務づけたにとどまり、スペインまたはEUへの残留権を認めるものではなかった。ところがバイラルな文脈剥離を経て、この判決から「72時間の送還手続き」という条項が完全に削除され、手続き上の変更が虚偽の「国境開放・送還なし」という信号へと翻訳された。増幅の爆発力を示す数値として、7月30日には同一のアラビア語表現が数時間のうちに215回投稿され、フォロワー130万人を抱えるユセフ・ベルハイシ(Youssef Belhaissi)のようなモロッコのインフルエンサーによって大きく後押しされたことが確認されている。
セウタ危機の数値的な全体像を報告書は次のように整理する。7月20~31日(ピークは30~31日)の不法越境者数は約7万2千人、8月4日までの送還者数は約7万人。デジタル上の足跡としては、200を超えるグループにまたがるアラビア語投稿1,171件、ユニークユーザー727人、リアクション数15万件が確認された。報告書が「確認されたデータ」として挙げるのは、マルチプラットフォームにまたがる運用構造、高度に反復的な増幅、そして公式の法的判断の誤解釈の三点である。
これらを踏まえた評価として、報告書はセウタの事案が現時点の証拠では単一の識別可能な国家スポンサーを指し示すものではなく、根底にある移住という出来事自体は捏造されたものではなく現実のものだったと明記する。それでもなお、帰属の有無にかかわらずFIMI分析にとって重要な行動上の特徴を複数示しているとし、短期間のうちに極めて高頻度でほぼ同一のテキストが投稿されたこと、法的判断の戦略的な単純化、48時間以内に新たな標的日に合わせて再編成された目的特化型の運用インフラ、そして使い回された映像の急速な再拡散を挙げている。
クレムリンのメディア機構による増幅も別途確認されている。国家アクターの帰属は未解決のままだが、親クレムリンのTelegramプロパガンダチャンネル「Rybar」は、この危機が「何もないところから生まれたのではない」と詳述する投稿を行った。GladiOSのソーシャルメディア監視によれば、このメッセージまたはその派生形はRybarネットワークの各言語版を含む86件の投稿に登場し、累計76万3千回超の閲覧を記録した。Rybarの投稿内容は、セウタでの大規模越境は「開かれた国境」への自然発生的な反応ではなく、数週間前からFacebook・WhatsApp・Instagram・TikTok等のコミュニティで参加希望者が集まり、経路を調査し、地図を共有し、タラハル防波堤周辺の距離を計算し、装備について議論していたと主張する。公開されたInstagramグループ「Haraga Ceuta」――泳いでの渡航企画のために特別に作られた――は投稿時点で7万8千人のメンバーを抱えていたとされ、これらのコミュニティは数週間にわたり存在し、活動を継続していると指摘された。さらにRybarは2024年9月にも同種のTikTok発の大規模越境呼びかけがあり、モロッコの治安当局が主催者を拘束し海岸を封鎖して試みの件数を急減させた前例を引き合いに、「今回の出来事を密輸業者の仕業と説明するのは都合が良いが、精査には耐えない」と主張し、「これほどの群衆を組織し、立法的枠組みを提供し、法執行の監視を排除できる受益者が存在するなら、次にどのような手を打つのか」という問いを投げかけている。なお、この投稿の発信元であるRybarネットワークの一部アカウントには、ロシア連邦において「過激派組織」として認定されている旨の注記が付されている点も、報告書は言及している。GladiOSによる拡散パターンの可視化では、英語版・ロシア語版・スペイン語版のRybarアカウントがそれぞれこのメッセージを増幅していたことも確認された。
7月の主要な知見と、報告書自体に残る留保
FIMI章の末尾に置かれた「7月の主要な知見」の節は、権威の借用、合成的権威の拡大、本物の映像の再利用可能性、持続する自国語アクターの重要性、そしてセウタ事案が示す偽情報と行動の距離の近さという5つの知見を表形式で整理している。すなわち、偽のユーロニュース・ポリティコ・フランス24・BBCニュース・戦争研究所形式を模倣する手口は、運用者が信頼されたブランドに信用性をアウトソースし、スクリーンショットや動画の再拡散を容易にすること。AI生成のポーランド「兵士」、アリス・ヴァイデルへのAI音声の重畳、AI生成の国境フェンス映像は、生成AIが発言者・証人・社会的役割そのものを捏造する段階に入っていること。ワールドカップ関連の出来事をめぐって繰り返しラベルを貼り替えられたパリの抗議・暴動映像や、セウタとして再利用されたトルコの巡礼映像は、低コストの文脈剥離が国境や物語領域を容易に越えて移動することを示すこと。ポーランド・ドイツ・ギリシャ・北マケドニアで繰り返し報告される親クレムリン・反西側アカウントとPravdaのインフラの持続は、影響力工作のエコシステムが持続的な地元での浸透と、より使い捨て可能なキャンペーン資産を組み合わせていること。そしてセウタでは、越境を組織するために使われたグループの中で法的判断の単純化と亡命関連の主張が繰り返し流通しており、誤解を招く情報と現実の行動決定の間の距離が異例なほど短かったこと、である。
この節の冒頭に置かれた説明文――「2026年6月に確認された最も重要な展開は、Pravdaネットワークの記事がTelegra.ph上で体系的に複製されていたことであり、新たに公開された各記事のソースコードにはrel=”alternate”属性でマークされた代替リンクが含まれ、利用者または自動化システムをTelegra.ph上のミラーコンテンツへ誘導する仕組みになっていた」という記述は、見出しこそ「7月の主要な知見」となっているものの本文が名指しで言及するのは6月の分析結果であり、前号(6月分)の記述がそのまま持ち越された編集上の残存箇所である可能性が高い。この点は報告書そのものの精度を疑わせるものではないが、月次シリーズとして読み進める際には注意を要する箇所として付記しておく。
報告書の巻末に置かれた方法論の記載によれば、データはEDMOファクトチェック・ネットワークに加盟する組織へ送付された質問票を通じて収集され、対象期間は2026年7月1日から31日まで、回答組織数は44である。FIMI章はGerulata Technologies社が開発したツールGladiOSの支援を受けて作成された。この方法論的な枠組み自体が、本報告書の強みと限界を同時に規定している。すなわちEDMOの数値は加盟ファクトチェッカーが実際に検証・記事化した偽情報の集計であるため、ネットワークに未加盟の言語圏や、ファクトチェッカーの検証が追いつかない速度で消費されるコンテンツは統計に反映されにくい。それでもなお、30以上の国・言語にまたがる組織が共通のトピック分類とAI操作の判定基準を用いて月次でデータを積み上げている枠組みは、単発の調査報告にはない時系列比較を可能にしており、本号が示す気候変動関連偽情報の3ポイント上昇やAI操作比率の18%への回帰といった数値は、いずれもこの継続的な蓄積があって初めて「趨勢」として語ることができるものである。セウタ危機についても、報告書が繰り返し強調するのは、この事案が国家によるハイブリッド戦の教科書的事例として断定できる証拠は現時点で存在しないという抑制的な評価であり、その一方で、法的判断の意図的な単純化、マルチプラットフォームにわたる運用インフラの速やかな再編成、そして偽情報と現実の越境行動との間の異例に短い距離という、帰属の有無にかかわらず記録に値する行動パターンを実証的に切り出している点に、本報告書のFIMI分析としての価値がある。


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