英国発の非営利団体Center for Countering Digital Hate(CCDH、デジタルヘイト対策センター)が2026年7月14日に公開した報告書『Up Next: Anorexia Algorithm』(19頁)は、YouTubeの推薦アルゴリズムが13歳の少女アカウントに摂食障害関連の有害動画をどの程度提示するかを再検証したものである。CCDHはプラットフォーム上のヘイトスピーチや児童保護、偽情報対策を専門とするアドボカシー団体であり、今回の調査結果はYouTube CEOへの公開書簡キャンペーンや規制強化の主張と一体で発信されている。この立場を踏まえたうえで内容を見る必要がある。本ブログでは2025年2月、CCDHが2024年12月に発表した前回調査『YouTube’s Anorexia Algorithm』を紹介した(YouTubeのアルゴリズムと摂食障害コンテンツ拡散の問題)。今回の報告書はその続報であり、同じ検証枠組みを用いて約1年半後の状況を再測定した点に主眼がある。
1. 調査の出発点:2026年2月のGoogle敗訴と規制環境の変化
報告書冒頭は2026年2月にロサンゼルスで下された判決に言及する。YouTubeの親会社であるGoogleが、KGMという匿名の女性が受けた被害について責任を負うとされた訴訟である。KGMは6歳からYouTubeを使い始め、後にSNS依存とボディディスモルフィア(醜形恐怖症)、精神的な問題を抱えるに至ったとされる。報告書はこの判決を、YouTubeの推薦アルゴリズムが脆弱な利用者に及ぼす影響が司法の場でも認定されつつある文脈として提示している。
この間、規制環境も大きく変化した。英国ではオンライン安全法(Online Safety Act、OSA)、EUではデジタルサービス法(Digital Services Act、DSA)がそれぞれ施行され、YouTubeは2025年にEUへ提出したDSAリスクアセスメントで、若年層向けに「非接触の格闘動画や理想化された体型を扱う特定カテゴリーの動画のシーケンシングを制限した」と報告している。CCDHは今回の再調査を、この規制圧力がYouTubeの実際の挙動をどれだけ変えたかを検証する試みと位置づけている。
報告書の公開ページでCCDHは、14歳でYouTubeの減量動画を見始め、次第に骸骨のような体型やエクストリームダイエットを賛美する動画で「Up Next」タブが埋め尽くされたというアナ・モッケル(Anna Mockel)の体験談を紹介し、統計データの背後にある個人の被害を強調している。こうした当事者証言を前面に出す構成は、被害の実在性を訴えるアドボカシー団体特有の手法であり、統計的知見とは別に評価する必要がある。
2. 手法:2024年調査との接続と相違点
2024年の初回調査は米国を主対象とし、13歳・女性設定のアカウントで摂食障害関連動画を100回視聴させ、YouTubeの「Up Next(次のおすすめ)」パネルに表示された推薦動画を計1,000本収集した。英国・EUについては規模の小さい追試(各100件)が2025年2月に別途公開されている。
2026年調査はこの英国・EU版と同じ設計、すなわち米国・英国・EU(アイルランド経由)の3地域そ れぞれで10回のシミュレーションを行い、各地域100件、合計300件の推薦動画を収集する形に統一した。これに伴い、2024年と2026年の比較は単純な件数比較ではなく、3地域の割合を均等加重した非加重平均で行われている。米国分のサンプルサイズが2024年は1,000件、2026年は100件と異なるため、地域間で重みを揃える調整が必要だったと報告書は説明している。
シード動画(推薦を誘発するために最初に視聴させる動画)の選定方法にも変化がある。2024年に使用した20の検索語のうち、2026年時点で危機介入パネル(後述)が表示されるようになった語を除外し、残る11語から、有害動画が最も少なかった「d3athsp0」をさらに除外して10語に絞った。この10本のシード動画は米英EU共通で使用されたが、2024年に使われた動画の一部がすでに削除されていたため、2024年のシード動画とは異なるセットになっている。データ収集は2026年4月13日から28日、分析は4月14日から29日にかけて実施された。
分類方法も踏襲されている。収集した動画は「有害な摂食障害コンテンツ」(摂食障害を助長・美化する、または模倣可能な行動を示すもの)、「その他の摂食障害コンテンツ」(回復体験など摂食障害に言及するが美化しないもの)、「減量コンテンツ」、「無関係コンテンツ」の4分類に、2名の研究者が合議のうえで振り分けている。なお2024年の米国調査では自傷・自殺関連コンテンツを独立したカテゴリーとして計上し、1,000本中50本(5%)を占めると報告していたが、2026年調査の分類枠組みにはこの独立カテゴリーが存在しない。比較対象となる4分類は共通しているものの、自傷・自殺関連の推薦がどう変化したかは今回の報告書からは直接読み取れない。
3. 主要な数値:有害推薦は3分の1から9分の1へ
最も大きな変化は、有害な摂食障害コンテンツの推薦率である。3地域平均で見ると、2024年の31.1%(およそ3本に1本)から2026年は11.3%(およそ9本に1本)へと低下した。
| カテゴリ | 2024年(平均) | 2026年(平均) |
|---|---|---|
| 有害な摂食障害コンテンツ | 31.1% | 11.3% |
| その他の摂食障害コンテンツ | 15.1% | 5.7% |
| 減量コンテンツ | 18.4% | 9.0% |
| 無関係コンテンツ | 35.4% | 74.0% |
地域別では、米国が34.4%から12%、英国が26%から10%、EUが33%から12%へとそれぞれ低下しており、低下傾向は3地域すべてで一貫している。無関係コンテンツの比率が35.4%から74.0%へと倍増している点も、推薦全体が摂食障害関連から遠ざかっていることを裏付ける。
CCDHはこの変化を、YouTubeが技術的に不可能だったのではなく、規制による圧力がかかって初めて対策を実行したことの証左だと位置づけている。CEOのImran Ahmedは報告書の序文で、YouTubeが著作権侵害コンテンツを数十億本の動画から瞬時に検出できる技術力を持ち合わせていることに触れ、同じ検出能力を子どもの健康を脅かすコンテンツに適用しないのは技術の限界ではなく企業判断の問題だと主張している。
4. 危機介入パネルの拡大と機能不全
報告書のもう一つの柱は、危機介入パネル(crisis resource panel、支援情報を表示する情報ボックス)の展開状況である。2024年調査で使用した20の検索語のうち、2026年時点で9語が新たに一時停止ページ(検索結果の代わりに支援情報を表示する画面)を表示するようになった。「ED wieiad」(摂食障害・一日の食事内容)、「ED inspo」(摂食障害インスピレーション)、「edtok」(摂食障害系TikTok)などがその対象に含まれる。2024年時点ではこれら20語のいずれについても一時停止ページは確認されていなかった。
しかしこの一時停止ページには「それでも表示する」というリンクが付いており、13歳のアカウントでもワンクリックで検索結果に到達できる。さらに、報告書が収集した300件の推薦動画のうち有害と判定された34件(実数としては18本のユニーク動画が複数回推薦された)には、一つとして危機介入パネルは表示されなかった。パネルが表示されたのは、有害と判定されなかった他の摂食障害関連動画5件に限られている。Googleは2025年のDSAリスクアセスメントで危機介入パネルを「YouTube上の健康関連プロダクト群の重要な一部」と説明しているが、実際には最も介入が必要な動画にこそパネルが欠落している構造が確認された形になる。
地理的な展開にも限界がある。EU加盟27カ国のうち、国別の摂食障害向け危機介入パネルが提供されているのは2024年調査時点でフランスとドイツの2カ国のみだった。2026年4月に再確認したところ、この2カ国から増えていないことが確認されている。なおキプロス、マルタ、スロベニアについてはVPN経由での接続がインドのYouTubeにリダイレクトされてしまうため、YouTubeが公開している支援パートナー一覧(この3カ国は含まれていない)を根拠に判定している。
5. なお残る有害推薦:具体例
報告書は依然として推薦された有害動画の実例を4件提示している。1件目は「Real Girl – Upbeat Thinspo」というタイトルの動画で、シンスポ(thinspiration、痩身願望を煽る画像・動画の総称)という語を含み、理想化された痩身を体現するとされる女性たちのコンピレーションで構成される。米英EUの全アカウントに推薦された。2件目は「peachyair」チャンネルの「Back to school (what I eat in a week in college)」で、1日あたりの摂取カロリーを170キロカロリーと記録する内容が含まれ、10代の標準的なカロリー推奨量を大きく下回る。3件目は「Ballerina Body」チャンネルの「ロシアン体操選手ダイエット」動画で、摂食障害コミュニティで語られることの多い極端な制限食を扱い、研究者は1日の摂取量を500キロカロリー未満と推定している。4件目は「cadence」チャンネルが投稿したサブリミナル系の減量動画で、動画概要欄からリンクされたGoogleドキュメントには「体重は健康的あるいは生存可能なレベルをはるかに下回っている」「最も痩せこけた骸骨のような華奢な体」といった文言が並んでいたと報告書は記録している。いずれも米英EUの3地域すべてのテストアカウントに推薦された。
6. 規制の圧力とその持続可能性
報告書はYouTubeの改善を規制の産物として位置づけつつ、その持続性に強い留保をつけている。英国の通信規制機関Ofcomは2026年5月、YouTubeについて「依然として子どもにとって十分安全ではない」との見解を示し、「パーソナライズされたフィードが、子どもが有害コンテンツに遭遇する主要な経路である」と指摘し、プラットフォーム側が「圧倒的な被害の証拠」にもかかわらずさらなる対策強化を約束していないと批判した。
こうした状況を受け、英国政府は2026年6月、16歳未満のSNS利用を禁止する方針を発表している。これはオンライン安全法の児童保護規定が施行されてから1年に満たない時期の発表である。EU加盟国の一部でも年齢制限の導入が計画されており、欧州委員会も同様の措置を検討しているとされる。CCDHは、こうした年齢制限論の高まり自体が、プラットフォームの自主的な対応だけでは不十分だとする評価が広がっていることの表れだと解説している。
摂食障害研究・政策・アクションのための連合(Eating Disorders Coalition for Research, Policy and Action)理事長のクリスティン・ピート(Christine Peat)は報告書内のコメントで、「最も被害を及ぼしうるコンテンツに表示されない危機介入リソースはセーフティネットではなく、単なる欠落である」「プラットフォームは、ワンクリックで解除できる警告に頼るのではなく、この種のコンテンツがそもそも表示されない推薦システムを設計すべきだ」と述べ、規制当局に圧力を維持し続けるよう求めている。
7. 前回調査との位置づけの違い
2024年の『YouTube’s Anorexia Algorithm』は、初めて摂食障害動画を視聴した13歳アカウントに対し3本に2本が摂食障害・減量関連、3本に1本が有害コンテンツという数値を提示し、YouTubeの通報対応の不備(有害動画100本中81本が未削除)や、Nike・T-Mobile・HelloFresh・Grammarlyといった大手広告主のコンテンツ隣接広告問題を告発する内容だった。CEOのImran Ahmedによる序文は、SNSの影響で子どもを亡くした遺族の証言を軸に構成され、告発色の強い文書となっていた。
これに対し2026年の『Up Next: Anorexia Algorithm』は、同じ検証枠組みを規制環境の変化後に再適用し、規制がプラットフォームの行動を変えられるかどうかという検証命題を明確に軸に据えている。結果としてトーンは告発から、規制効果の実証とその限界の指摘へと転換しており、有害推薦率の大幅な低下という肯定的な変化を認めつつ、危機介入パネルの構造的な欠落や地理的な展開の停滞という限界を同時に強調する構成になっている。前回調査からの最大の違いは、YouTube側が対策を講じたこと自体よりも、CCDHの分析視角が有害性の告発から規制圧力の効果測定へ移行した点にある。

コメント