AGIをめぐる国内の不満は外国の情報工作の標的になる:RAND「Societal Warfare」演習7回の事後報告

AGIをめぐる国内の不満は外国の情報工作の標的になる:RAND「Societal Warfare」演習7回の事後報告 情報操作

 米国の非営利シンクタンクRAND Corporationは2026年10月13日、Infinite Potential—Insights from the Societal Warfare Games: After-Action Report from a Sequence of Day After Artificial General Intelligence Exercises(RR-A4626-2)を公表した。中国の情報工作が、AIへの国内の不満を足場にして米国の汎用人工知能(AGI)開発を妨害する。この想定の机上演習を2025年6月から2026年4月までに7回実施し、その結果をまとめた事後報告書である。執筆者は5名で、演習設計を専門とするリサーチアシスタントのJulia Arnold、軍事能力評価が専門の上級政治学者Abby Doll、Infinite Potentialを率いる上級国際防衛研究員Richard S. Girven、抑止・強制・エスカレーション研究と演習で知られるKarl P. Mueller、法学博士でAIと米国の競争力を研究する政策アナリストGregory Smithである。発行主体は、RANDの「Global and Emerging Risks」部門に置かれたCenter for the Geopolitics of Artificial General Intelligenceで、AGIが安全保障と地政学に与える影響の予測と備えを任務とする研究センターである。研究は委託ではなくRANDの自己資金による。シリーズにはViral Uplift、Robot Insurgency、Cyber Surpriseなどがあり、本報告書は偽情報、外国からの影響工作、国内の分断を正面から扱った一冊である。対象は77名の参加者による7回の演習で、ここから6つの主要課題、19の「望ましい能力」、16の「プレイブック」が抽出されている。

「Day After」手法と2時間・2ターンの演習設計

 Infinite Potentialの出発点は、AGIの定義に合意がなく(報告書はGoogle DeepMindの研究者らによるLevels of AGIを参照する)、だからこそ関係が不明確な問題を構造化する手段として演習が有効だという認識である。準備がなければAGI政策は個々の事件への場当たり的対応の積み重ねになるという問題意識は、同センターのArtificial General Intelligence’s Five Hard National Security ProblemsやRiding the Coming Waveから引き継がれている。

 手法の源流は、冷戦後の核拡散を扱ったRANDの1993年の研究“The Day After . . .” Studyにさかのぼる。危機を突きつけ、その含意と対応を参加者に推論させる形式である。1回は2時間で、参加者は10〜16名、事前準備は不要とされ、反復実施できるよう設計されている。ターン1では、参加者が情報機関の報告と公開情報を受け取り、専門家のブリーフィングの後に、政策目標、対応選択肢、帰結を議論する。ターン2では状況がエスカレートし、参加者は再評価を迫られる。舞台は12〜18か月先に置かれ、既存の制度・法律・国際関係は基本的に維持されるという前提が課される。参加者は国家安全保障会議の閣僚級委員会のメンバーを演じるが、実在の人物を模倣しない「軽いロールプレイ」とされる。

 演習の問いは、参加者が何を理解しようとしどんな情報を求めたか、どんな能力を望んだか、どんなプレイブックを事前に検証すべきと考えたか、の3つである。データ収集では、専任の記録係が統一テンプレートで議論を記録し、終了直後に記録係、RANDのアナリスト、プロジェクトリードの3者が正確性を確認する。全演習の終了後、記録をゲーム間で比較し、単一の回に固有の論点ではなく繰り返し現れた論点を抽出する。「能力」は構築・整備すべき仕組みや体制、「プレイブック」は戦略、計画、規則、標準作業手順などの文書化された行動指針を指し、いずれにも収まらないものは「その他の提言」とされる。

開催日場所参加者
2025年6月3日ワシントンDCRAND研究者
2025年6月10日ワシントンDCRAND研究者
2025年6月24日ワシントンDCRAND研究者
2025年7月1日ワシントンDC元連邦政府高官
2025年12月16日ワシントンDCRAND研究者
2026年4月1日ボストン法科大学院生
2026年4月9日ボストン学者・経済学者

Societal Warfareシナリオ:テキサスの停電デマからボストン襲撃まで

 ターン1は2028年初頭に設定される。情報機関は、AIの社会実装を安全事故と結びつける中国の情報工作キャンペーンを報告する。この工作が利用するのは2つの出来事である。1つはテキサス州の停電で、これに「安全でないAIシステムが原因だ」とするデマが拡散する。もう1つは、失業給付をめぐる虚偽の不正告発で、その責任がAIエージェントに押し付けられる。工作は一見すると自然発生的な国内団体を通じて行われ、米国の政策シンクタンクへの資金提供も含む。技術がもたらした混乱から生じた、AIへの本物の国内不安を足場にしている点が設定の核心である。

 ターン2は5か月後である。情報空間での不満の扇動は物理的攻撃に移行する。ボストンの大手AI研究開発施設では暴動が武装襲撃に転じ、テキサスのデータセンターでは破壊工作が起きる。ロシア軍参謀本部情報総局の秘密部隊である第29155部隊が国内アクターを介して関与した可能性も示される。しかし帰属は確定せず、外国が指揮した破壊工作と、外国の影響を受けた国内の攻撃との境界は曖昧なまま残される。参加者は、雇用喪失、修正第1条の制約下で活動する国内運動、開発速度の維持との緊張に同時に向き合う。

 報告書は、この想定が現実と地続きであることを示す材料も挙げている。Pew Research Centerの2025年9月の調査では米国成人の51%がAIに期待より懸念を抱いており、Gallupの2024年の調査では77%が企業による責任あるAI利用を信頼していない。OpenAIの脅威報告Disrupting Malicious Uses of AI: An Update(2025年10月)を引き、影響工作の道具がより速く、安く、標的に合わせたものになりつつあると指摘する。

課題1:開発加速と国内不安定化のトレードオフ、集中リスク

 7回すべての演習で、米国は最先端AIの開発を加速すべきか、減速すべきか、選択的に制限すべきかという議論が繰り返された。ここで言う選択的な制限とは、最先端の能力へのアクセスを特定の組織や利用者に限り、厳格な条件下でのみ展開を認めることである。速度を優先すれば主導権を確保でき、慎重に進めれば労働市場の混乱への対処、信頼の強化、インフラ防護の時間を稼げる。一方、不安に応じた減速は優位の放棄であり、国内の不安そのものが敵対者に突かれる脆弱性だと主張した回もあった。

 これと並んで強い反応を呼んだのが集中リスクである。シナリオでは、単一の企業が米国の最先端能力にとってほぼ単一障害点となっており、データセンターの建設も物理的に集中している。参加者は、少数の企業と拠点に依存する生態系は標的にしやすいと指摘した。さらに、この集中がターン1の標的選択を規定し、振り返ればターン2の物理攻撃の標的を予測可能にしていたという見方も示された。

 望まれた能力は、開発を国外に流出させずに危険な能力向上と集中リスクを把握する政府の可視性、半導体製造・エネルギー・施設立地を分散させる強靭性、AI研究所やデータセンター、電力、クラウドへの依存関係を重要インフラ防護に組み込む枠組みの3つである。プレイブックは、加速を既定路線とせず能力指標、敵対者の行動、国内の強靭性を段階的な政策手段と結びつける「ペースと態勢」、民間AIインフラを国家資産として保護する条件を定める「集中リスク」、「AI重要インフラ防護」の3つである。

課題2:抗議・影響・侵入・攻撃の境界の消失

 シナリオの工作は複数の要素から成る。実際の出来事に結びつけたAIに関する虚偽・誤解を招く主張、AIへの不安の秘密裏の増幅、国内団体の関与、米国の政策空間で活動する敵対者系の影響組織、そして複数の外国アクターの関与の可能性である。米国政府はこれまで、保護される言論、外国の影響、サイバー侵入、物理攻撃を別々に扱ってきた。この工作はそのすべてにまたがるため、どの回でも、参加者は外国アクターが本物の国内の不満をどの程度増幅・利用したのかの判断に苦しんだ。

 報告書は困難を4つに整理している。1つ目は政策と開示の隙間である。米国の政策・公共空間で活動する外国資金の組織に対し、防諜と開示の枠組みが不十分であり、敵対者はこの隙間を意図的に突いている、という指摘が繰り返された。2つ目は帰属と認定である。中国の関与はもっともらしいと考えられたが、断固とした公的発信や政策行動を支える明確さと適時性が欠けていた。部分的な帰属で行動できるか、行動すべきかが複数の回で争点になった。特に、政府が公に帰属を表明した後にそれが複雑化したり否定されたりすれば、政府情報への信頼がさらに損なわれるという懸念が強かった。3つ目は対応と市民的自由の均衡である。本物の不満を持ちながら外国の浸透や影響を受けた国内団体を、報告書は「ハイブリッドアクター」と呼ぶ。その存在が抗議と外国の影響の境界を曖昧にし、国内の抗議活動を過度に安全保障問題として扱うリスクと、外国の脅威を過小評価するリスクの両方が意識された。4つ目は情報共有と調整の断片化である。事案が複数の機関と管轄にまたがり、既存の体制では処理しきれない。

 これに対し参加者が求めたのは、まずハイブリッドな外国影響工作を迅速に帰属させる能力である。数週間・数か月後や事後ではなく、数時間から数日で弁護可能な判断に至ることを指す。そのためには、情報機関の情報、サイバー指標、脅威報告を縦割りではなく統合して評価する省庁横断の情報共有が前提になる。表向き国内の組織が国家系アクターに支援・誘導されているのを検知する能力と、保護される抗議と外国の指揮との区別を崩さずにハイブリッドアクターに対処する能力も挙げられた。プレイブックは、帰属の確信度を公的・外交的・作戦的対応の段階に結びつけ、部分的帰属で足りる条件を明示する「ハイブリッド外国影響工作の性格付け」と、「ハイブリッドアクター」の2つである。その他の提言として、国内の影響媒体への外国資金、国内団体の秘密裏の増幅、重要インフラを標的とする情報工作といった繰り返し現れる要素について、内部の対応閾値を明確化する必要が示された。閾値が明示されていなければ抑止は成立せず、敵対者は探りを続ける誘因を持つ、というのがその理由である。

課題3:対応手段の構造的な不十分さ

 外交上の抗議、制裁、起訴、サイバー対応はいずれも、遅すぎる、手の内を明かしすぎる、抑止にならない、あるいは攻撃的すぎてエスカレーションを招くとして、問題に合わないと判断された。敵対者は米国の省庁の対応プロセスより速く動くことで、まさにこの弱点を突いているのではないか、という推測も出た。根底にあるのは手段の非対称性である。中国とロシアは、秘密の影響工作、否認可能な仲介者、サイバー活動、国内の亀裂への圧力を組み合わせる「より広い許容範囲」で動いている。米国はそれを模倣することもできず、容易に応じることもできない。

 そこで議論されたのが非対称対応である。敵の戦術を模倣するのではなく、米国の法的権限と比較優位に沿った経路でコストを課す考え方である。具体例として、敵対者系の影響ネットワークの暴露、影響媒体の資産凍結による資金遮断、同盟国と連携した共同声明、帰属を裏づける情報を迅速に公開するための機密解除手続きが挙がった。ただし、これらは事前に整備された権限、情報、パートナー間の調整を必要とし、それがまだ存在しないことも参加者は認めている。

 最先端AI開発企業や大手プラットフォームとの現状の場当たり的な関係も、不十分とされた。ここで意見は分かれた。一方は、共有情報、利用条件、監督を公に定めた官民連携を支持し、より直接的な共有は協力そのものを損なうと警告した。他方は、危機時に任意協力だけには頼れないとして強制的な方式を主張した。それでも事前の連絡・調整体制が必要だという点では一致した。さらに、敵の対抗手を予測し事前に出口を定めるエスカレーション管理の能力が挙がり、プレイブックとしては帰属の確信度と工作の深刻度に応じて選択肢を整理した「非対称対応」、「AIインシデント時の情報発信」、「エスカレーション管理」が提案された。注目されるのは、明確な内部エスカレーション戦略がないために、演習の最中ですら目的、閾値、許容リスクといった基本問題が何度も蒸し返された、という観察である。

課題4:対抗メッセージより先に崩れる公衆の信頼

 報告書の中で最も偽情報研究に直結するのがこの課題である。すべての回で、参加者は国内の情報環境を背景ではなく戦略的変数として扱った。工作が効果を上げたように見えたのは、主張が説得的だったからではない。標的となった人々が、もともと政府とAI企業を信頼せず、AIの恩恵は受けられず、むしろ害を被ると考える傾向にあったからである。この診断から、深い不信の中で虚偽の物語にメッセージで対抗するだけでは効果がないという見方が導かれた。参加者は、利用されている経済的不満そのものへの対処を、情報発信の代替や補完ではなく、発信が成功するための前提条件と位置づけた。

 参加者は時間軸の不一致も指摘した。AIの進展は数か月から数年単位で進むのに対し、労働者の再訓練、インフラの適応、信頼の回復には数年から10年以上かかる。ほぼすべての回で雇用喪失と地域経済への打撃が不信の主因とされ、「AI企業は失業者を犠牲に利益を得ている」という主張が響きやすいと指摘された。対抗メッセージは再訓練や地域支援など具体的な政府行動を示すべきで、それがなければ偽情報対策は防御的姿勢にしか見えない、というのが全回の合意である。

 この観点から、参加者は国内政策を安全保障の手段として再定義した。望まれた能力は、再訓練と労働市場に応じた給付制度、AI施設を抱える地域への支援とAIの雇用影響の報告体制、学校・職場でのAIリテラシー教育、そして最先端開発企業による信頼できる安全コミットメントである。最後の点では、保証基準の引き上げ、中立的な監査、公開報告、モデルの来歴検証が挙がった。独立検証がなければ政府のAI擁護は自己利益的、政治的と受け取られるという理由である。AIリテラシーの効果は数週間ではなく数年単位で現れると明記されている。プレイブックは、正当な不満を認めつつ虚偽の主張にはお墨付きを与えない「公衆の信頼の再構築」、「AIインシデント時の公的発信」、危機時の企業の情報提供と第三者検証を事前に定める「最先端AI企業との関与」の3つである。その他の提言は、公衆の信頼を広報の問題ではなく、上級レベルの注視、指標、投資に値する国家安全保障上の変数として扱うことである。

課題5:権限の重複と連邦・州の調整

 参加者は、米国の法制度と組織構造を、ハイブリッドな工作に対して準備不足だと評した。省庁間で権限が重複・錯綜し、国内向けの手段と対外的な手段の間に隙間があり、責任の所在が曖昧である。外国の影響を受けた国内アクターの性格付け、緊急権限の発動、州・地方との調整といった最も重大な判断ほど担当者が不明確で、公的帰属の主導機関や、刑事捜査、情報活動、治安対応の境界も定まっていなかった。

 連邦と州の調整は繰り返し懸念された。オンラインの動き、抗議、AIインフラへの脅迫や攻撃といった目に見える影響に最初に直面するのは州と地方である。しかし既存の連邦の仕組みは、管轄と領域を高速で横断する工作に適応していない。AIの影響が雇用、誤情報、重要インフラ、外国の影響にまたがることも、責任の割り当てを難しくしている。調整の担い手として、連邦側では国立標準技術研究所のCenter for AI Standards and Innovationと国土安全保障省のサイバーセキュリティ・インフラセキュリティ庁が挙がり、国家の優先順位を示す大統領の役割も指摘された。州・地方レベルでは、労組指導者、市長、退役軍人団体、独立専門家、学者、AI研究所、ソーシャルメディア企業、地元メディアが、調整に信頼性を与える担い手として挙げられた。プレイブックは、抗議、破壊工作、刑事共謀、影響活動、サイバー侵入を区別しつつ市民的自由を守る「政府権限と調整」と、州知事室、公益事業委員会、地元警察などへの脅威情報共有を定める「連邦・州調整」で、権限と調整の仕組みを一体として見直すべきだという提言が続く。

課題6:同盟国への同時攻撃と共同帰属

 複数の回で、中国とロシアが米国に仕掛けている工作は同盟国に対する工作と同質であり、単独ではなく連携して対応する方が効果的だと指摘された。速度と情報の機微性を考えると、有力な場はFive Eyes、G7、新興のAIガバナンスフォーラムとされた。最も頻繁に論じられたのは、裏づけ情報の協調公開を伴う共同帰属と影響媒体の共同無力化で、単独行動より信頼性が高く敵対者が退けにくいとされた。シナリオの外国系シンクタンクは、同盟国の政策空間にも現れうる経路の例として扱われた。輸出管理については、その実効性は同盟国の足並みに依存し、敵対者は特定の同盟国への経済的圧力で結束を崩そうとする。計算資源、エネルギー、重要鉱物、クラウドの分散が、輸出管理での結束を維持する前提条件とされた。プレイブックは、証拠基準と声明の同期を定める「同盟による共同帰属と対応」、「同盟の輸出管理とサプライチェーン」、「同盟の強靭性」の3つである。その他の提言として、場当たり的な取り決めではなく、AI時代のハイブリッド脅威に専従する同盟の制度を設けることが挙げられた。

6課題と提言の対応一覧

主要課題望まれた能力(要点)プレイブック
1. 開発速度と国内不安定化民間の最先端開発の可視性、計算資源とサプライチェーンの強靭性、AI企業・データセンターの防護枠組みペースと態勢/集中リスク/AI重要インフラ防護
2. 抗議・影響・侵入・攻撃の境界消失迅速な帰属、省庁横断の情報共有、政策への影響工作の特定、ハイブリッドアクターへの対処ハイブリッド工作の性格付け/ハイブリッドアクター
3. 対応手段の不十分さ非対称対応、AI企業・プラットフォームとの構造的連携、エスカレーション管理非対称対応/AIインシデント時の発信/エスカレーション管理
4. 公衆の信頼の低下再訓練・経済調整、影響地域への支援、AIリテラシー、検証可能な安全コミットメント信頼の再構築/公的発信/AI企業との関与
5. 権限と連邦・州調整省庁間の権限整理、連邦・州の調整体制政府権限と調整/連邦・州調整
6. 同盟国への同時攻撃共同帰属と機密解除、輸出管理の連携、同盟の強靭性共同帰属と対応/輸出管理とサプライチェーン/同盟の強靭性

独自分析:この演習結果の読み方

 ここからは筆者の見解である。まず、7回のうち4回はRAND研究者のみで実施され、プラットフォーム企業、AI開発企業、州・地方政府の実務者、市民社会は演者として参加していない。参加者が演じたのは連邦政府の閣僚級委員会であり、提言が連邦中心の能力とプレイブックに収束するのは設計上の帰結でもある。また報告書は論点の出現頻度を数値化しておらず、記述は「複数の回で」「いくつかの回で」という定性的な集約にとどまる。そのなかで「全7回」「すべての回」と明記されているのは、課題1の開発速度、課題2の境界判断の困難、課題4の信頼の3つだけである。この3つが参加者構成を問わず現れた中核論点と読める。

 偽情報研究の観点から最も示唆的なのは課題4である。工作の効果は内容の説得力ではなく受け手の既存の不信に由来するという診断は、偽情報の影響を供給側の巧妙さより需要側の素地で説明しようとする研究の流れと整合する。「事実確認と対抗言説だけでは足りず、雇用や地域経済といった実体的な対処が発信の前提になる」という結論は、偽情報対策を情報空間の内部で完結させる発想への明確な異議である。ただしこれは演習参加者の推論であり、効果の実証ではない点に留意が必要である。同様に、シナリオは生成AIによって影響工作が質的に強化される世界を前提にしている。しかし報告書が引くOpenAIの同じ報告は、脅威アクターはAIを既存の手口に組み込んで速度を上げているにすぎず、新しい攻撃能力を得ているわけではないと観察している。この差は演習の外挿を読む際の前提となる。

 課題2の部分的帰属の問題は米国固有ではない。欧州対外行動庁の外国情報操作・干渉(FIMI)概念は内容の真偽ではなく操作的・協調的な行動の型で脅威を定義するが、帰属の確信度に応じて対応を段階化する公開された枠組みは欧州でも十分ではない。帰属を誤った場合の信頼毀損を正面から論じた点は、本報告書の実務的価値である。

 背景として指摘すべきは、参加者が「望まれた能力」として挙げたものの一部が、米国ではこの演習期間中にむしろ縮小されたことである。2025年2月には司法長官の指示でFBIの外国影響タスクフォースが解散され、同年4月には国務省で外国の情報操作対策を担っていた部署の閉鎖が発表された。報告書はこの変化に触れていないが、迅速な帰属、省庁横断の共有、プラットフォームとの事前連携という提言は、解体された機能の再構築の要求としても読める。

 最後に、報告書自身が次の段階として、外国の影響なしに雇用喪失、AI企業への不信、データセンターによる電力・水への負荷が国内の圧力を生むシナリオを挙げている点は重要である。Societal Warfareシナリオは、国内の不安を外国の影響工作というレンズで見る設計であった。報告書がその限界を自ら認め、国内の有権者が自発的に動く場合に米国の対応体制がどう機能するかを検証すべきだとしているのは、課題2で参加者自身が警戒した「国内の抗議の過度な安全保障化」への、方法論上の自己修正と位置づけられる。

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