2026年米中間選挙で予想される選挙偽情報――Brennan CenterとCDTが示す時系列モデルと5つの反復テーマ

2026年米中間選挙で予想される選挙偽情報――Brennan CenterとCDTが示す時系列モデルと5つの反復テーマ 民主主義

 米国のデジタル権利団体Center for Democracy & Technology(CDT)は2026年10月9日、Brennan Center for Justiceとの共著でAnticipating Election Misinformation in the 2026 Midtermsを公開した。11月3日の中間選挙を約3週間後に控え、有権者がどの時期にどのような虚偽・誤解を招く主張に接する可能性が高いかを事前に示すことを目的とした文書である。著者はBrennan Center選挙・政府プログラムの法律顧問兼マネージャーであるDerek Tisler、CDTで選挙・民主主義分野を担当するTim Harper、同プログラム特別補佐のJessica Brouardの3名で、Brennan Center側にも同名の報告書ページが置かれている。CDTはワシントンを拠点にプライバシーや表現の自由、選挙技術などを扱う非営利の政策団体であり、Brennan Centerはニューヨーク大学ロースクールに起源を持つ法・政策研究所で、投票権の拡充や選挙制度の擁護を一貫して主張してきた。いずれも市民的自由と選挙の公正性を擁護する立場の団体であり、本文はトランプ政権の選挙関連の言動に対して明確に批判的である。また、この文書は独自のデータ収集や計量分析を行った実証報告ではない。既存の研究、報道、公的統計を引用しながら、選挙偽情報の「予測可能性」を前提に事前反証、いわゆるプレバンキングの素材を提供するガイドという性格を持つ。以下では、報告書の記述と筆者による背景説明・評価を区別して紹介する。

2026年に固有の二つの悪条件

 報告書は冒頭で、選挙偽情報が二つの経路から生じると整理する。一つは州ごとに大きく異なる選挙手続きへの理解不足から生じる誤情報であり、もう一つは選挙への信頼を損ない、正当な結果に異議を唱える下地を作る目的で意図的に流される偽情報である。そのうえで、2026年にはこれに加えて二つの固有の課題があると指摘する。

 第一は連邦政府による支援の縮小である。報告書は、州の選挙セキュリティを支えてきた連邦の資源やプログラムの多くが削減されたことにより、州・地方の選挙担当者が組織的な偽情報への対応で孤立し、虚偽主張を反証する際の連携相手も減ったとする。

 第二は、報告書が最も強調する点であり、米国政府自体が選挙偽情報の発信源になっているという主張である。具体例として、法執行機関を選挙の捜査に振り向けたこと、司法省が有権者データへのアクセスを求めて州を提訴したこと、情報機関の報告書を公開しつつその内容を歪めて説明したこと、非市民投票に関する欠陥のあるデータを共有したことが挙げられている。さらに、州の投票手続きを変更しようとする大統領令を発し、裁判所がそれを違憲と判断したこと、連邦資金を違法に留保したことも列挙されている。

 報告書はさらに、中間選挙という選挙の構造そのものもリスク要因に数える。大統領選挙では注目が少数の激戦州に集中するが、中間選挙では議会の支配を左右する多数の州・郡に関心が分散する。そのため、普段は強い監視にさらされることのない州・地方の選挙担当者が、突然の注目とそれに伴う誤情報の奔流に直面しうるという見立てである。

選挙カレンダーに沿った時系列モデル

 報告書の第一部は、選挙偽情報が選挙日程に沿って変化するという知見に依拠している。その下敷きになっているのは、ワシントン大学Center for an Informed Public(CIP)が2024年9月に公開したWhat to expect when we’re electing: An election rumoring timelineである。CIPのKate Starbirdらは、選挙インフラの更新から就任式までの選挙過程を8つのフェーズに区分した。そして、各段階の出来事の性質と速度、不確実性と不安の水準、注目の集まり方、既知の情報操作戦術が、流言の種類を規定するというモデルを提示している。今回の報告書はこれを有権者向けに3段階へ圧縮し、各段階に2024年の実績値と典型的な虚偽主張を対応させた。インタラクティブな主要日程タイムラインと州別の期日前投票カレンダーも付属している。

段階主な選挙手続き2024年の参考値報告書が予想する主張
選挙前軍人・在外有権者への郵便投票用紙送付(投票日45日前)、一般の郵便投票開始、有権者登録の締切郵便投票29%不適格者の登録、違法な投票用紙回収、偽造・重複した郵便投票
期日前投票と投票日対面期日前投票の本格化、期日前の投票率報告、郵便投票の事前処理期日前対面31%、当日対面40%不正投票、選挙事務従事者の不正、投票システムの不具合
選挙後開票、集計結果の確認、認証―結果の不正操作、特に開票途中でリードが入れ替わる場合

 投票方法の内訳はMIT Election Data and Science Labの調査による。

 選挙前の段階について、報告書は偽情報の拡散が「トップダウン」型になると予想する。担い手は著名な公職者や影響力のある政治的人物であり、その主張は三つの機能を持つとされる。不利な結果に備えて選挙への信頼をあらかじめ損なうこと、投票参加を抑止すること、支持者に何を警戒すべきかを合図することである。報告書が特に注目するのは、この時期の主張が後の段階で参照される物語を「事前に植え付ける」点である。投票システムの脆弱性に関する早期の誤解を招く主張が後のシステム調査を正当化し、非市民の登録疑惑が反証された後も結果への疑念を生む材料として使われる、という連鎖が例として示されている。

 期日前投票と投票日の段階では、流言の発生源が「拡散的」になる。多数の有権者が現場を目撃し、出来事を誤って解釈するためである。同時に、影響工作の主体が不正を写したと称するAI生成の画像・映像・音声を意図的に流したり、実在するが孤立した事例を文脈から切り離して誤解を招く物語に仕立てたりすることも想定されている。報告書は、2024年にNewsGuardが追跡した主張の22%にAI生成のディープフェイクなどのデジタル加工が含まれていたことを引用し、2026年6月にカリフォルニアで投票箱への不正投入を写したとされるAI画像が出回った事例にも触れている。拡散の構造は二段階で描かれる。まず現場の個人が断片的な主張を生み、次に政治指導者やインフルエンサーがそれを広い聴衆へ増幅するという流れである。手続き面で報告書が警戒するのは、ほぼすべての州が認めている郵便投票の事前処理である。投票日前に封筒の有権者資格を確認し、投票用紙をスキャンする作業は認められているが、集計して結果を開示することは禁じられている。この区別が理解されないまま、「投票日前に集計・開示している」という虚偽主張が生まれやすいと報告書は指摘する。

 選挙後の段階について、報告書は、結果に不満を持つ政治指導者、政府高官、落選候補が投票日までに出回った主張を軸に結束し、抗議、調査、訴訟、選挙担当者への圧力に動く可能性を挙げる。投票終了から主要選挙区の当選確実の報道までの待ち時間が長いほど誤情報が活発化するという点は、CDTの過去の分析を踏まえた記述である。

反復する5つのテーマ

 報告書の第二部は、選挙偽情報が毎回同じ中核テーマに集中するという前提に立つ。報告書がその参照先としてリンクしているのは、CIPが2026年10月に公開した「Rigged Election」ビンゴである。これは繰り返し現れる流言の型をビンゴカード形式にまとめた教材である。報告書は5つのテーマごとに、事実関係の説明、2026年の具体的文脈、予想される虚偽主張のリストを並べている。

テーマ報告書が示す事実関係2026年の具体的文脈予想される主張
不正登録・不正投票名簿上の非市民は極めてまれで、多くは事務的誤り。郵便投票には固有バーコード、署名照合、追跡などの多層的防護があるDHSの「4州で25万人」主張、郵便投票を制限する大統領令の差し止め非市民の大量投票、投票用紙の代理回収、不適格者や重複の郵便投票
外国干渉外国の干渉が票数や集計システムを変えた証拠はない大統領が7月に「中国が2020年選挙に干渉」と主張選挙システムへのハッキング成功、外国人による郵便投票、工作員の潜入、米国人の言動を外国の仕業とする主張
投票機連邦・州の基準で認証され、選挙前後に検査される。ほぼすべての票に紙の記録があるDHS長官による中国製部品論、特定機種を使う州への資金留保の示唆機種全体の脆弱性、外部からの改ざん成功、保守業者による不正、票の「反転」
選挙事務従事者の不正地方の住民が運営し、超党派で、公開観察と多重検証を前提とするDHS長官による担当者への処罰示唆非市民の登録や名簿管理の怠慢、郵便投票の偽造・廃棄、投票所閉鎖による投票抑圧、投票用紙の不正投入
結果に関する主張結果は投票日の夜に確定せず、数週間かけて集計・確認・認証される投票日後に到着する郵便投票を認める州への攻撃と、最高裁による州法の支持開票途中の得票変動を不正の証拠とする主張、認証前の勝利宣言

不正登録・不正投票

 報告書は、非市民の有権者名簿登載が極めてまれであることを強調する。その理由として、州が継続的に名簿を維持管理していることと、登録時に市民であることを刑事訴追と国外退去の罰則のもとで宣誓させていることを挙げ、不適格者が見つかる場合も原因の多くは陰謀ではなく事務的誤りだとする。そのうえで、非市民投票は根拠を欠くにもかかわらず「顕著な物語」であり続け、2026年には政権がそれを繰り返し押し出していると論じる。中心となる事例は、国土安全保障省(DHS)がカリフォルニア、ネバダ、ニュージャージー、ペンシルベニアの4州で25万人以上の非市民の登録疑いを見つけたと主張した件である。報告書は、この数字が各州から即座に反論を受け、不完全なデータの誤照合に基づいていたと記している。

 この点については、選挙報道に特化した非営利メディアVotebeatの検証記事が照合手法の詳細を伝えている。DHSは7月16日の大統領演説当日にこの数字を公表したが、手法の説明は約2か月後になった。9月9日にペンシルベニア州務長官Al Schmidtへ送られたメールによれば、同州で「非市民の可能性がある」とされた14,576人は、市民権・移民局の不正検出・国家安全保障局が州の公開有権者名簿とDHS内部のデータベースを照合して抽出したものである。照合に社会保障番号などの連邦識別番号は使われておらず、使われたのは姓名、生年月日、電話番号、住所といった項目だった。6項目すべてが一致する場合を最高の確度とし、住所や電話番号が一致しない場合も「おそらく同一人物」として扱っていた。7月の最初の通知では社会保障番号を照合に使ったと説明されていたが、ペンシルベニア州はそもそも社会保障番号を含む名簿を連邦政府に提供していなかった。この説明の食い違いについて、DHSの声明は言及していない。ネバダ州では、8月の通話でDHS職員が当初の数字を実数の「上限」と表現していたことが記録されている。

 郵便投票についても、報告書は、事前承認リストにない有権者へ郵政公社が投票用紙を送ることを禁じる大統領令が出されたものの、裁判所に差し止められ、2026年には適用されないと記している。

外国干渉――「影響」と「干渉」の意図的な混同

 この節で報告書は、FIMI研究の観点からも重要な概念区分を前面に出している。外国からの影響は有権者など選挙の参加者を揺さぶる試みであり、外国からの干渉は選挙システムや手続きそのものを妨害する行為である。報告書によれば、選挙偽情報の発信者はこの二つを頻繁に、ときに意図的に混同する。その典型として挙げられているのが、7月の記者会見でトランプ大統領が、中国の主体が2億人超の有権者データを取得したことを根拠に中国による2020年選挙への干渉を主張した事例である。報告書は、州の有権者ファイルが多くの州で公開情報であるか、選挙陣営などが合法的に購入できるものであることを指摘している。データの取得が、選挙結果への干渉へと論理を飛躍させて語られている構図である。報告書はまた、過去の選挙で国家とつながる集団自身が選挙システムへのハッキングを虚偽に自称した例を挙げ、信頼を損なうための既知の戦術としている。予想される主張のリストには、米国人による政治的言説や行動を外国政府の仕業とする主張も含まれている。外国の影響工作を過大に帰属させること自体が偽情報になりうるという視点である。

投票機

 報告書は、ごく小規模な自治体を除けば、投票機による集計が手作業による集計より正確で速く、安価であることを前提に、投票機をめぐる流言が10年以上にわたって再利用されてきたと述べる。2026年の文脈として挙げられているのは三点である。大統領令による連邦基準の変更の試み、特定の機種を使う州への連邦資金留保の示唆、そしてDHS長官Markwayne Mullinの主張である。Mullinは、投票機に中国からしか調達できない部品が含まれる事実を取り上げ、中国の主体が投票機をハッキングして票数を改ざんしうると証拠なく論じた。サプライチェーン上の事実を改ざん能力の証拠へと読み替える論法は、前節の有権者データの事例と同型である。

選挙事務従事者の不正

 2020年選挙後に選挙担当者が受けた嫌がらせ、脅迫、虐待の波について、報告書はそれが2026年も続き、連邦政府からの強い圧力にまで拡大したとする。Mullinは7月、政権に協力しない選挙担当者は罰金や刑罰、さらには禁錮刑によって責任を問われうると警告した。予想される主張には、投票所の閉鎖や技術的障害、資源不足を担当者による意図的な投票抑圧とみなすものも含まれている。運営上の問題が悪意の証拠へと転化される回路がここでも想定されている。

結果に関する主張

 報告書は、2020年選挙が盗まれたと考える米国人が4分の1にのぼるという2026年6月のYouGov調査を引用する。そのうえで、選挙否認の物語は結果確定までの時間の長さを利用して広がると論じる。標的になりやすいのは、郵便投票の集計が遅い州や、投票日までの消印があれば投票日後に到着した郵便投票を受け付ける州である。政権はこうした州への資金留保を示唆したが、最高裁は2026年6月にこの種の州法を支持した。開票順序によって得票のリードが移動する現象について、報告書は外部資料として「青いシフト」と「赤い蜃気楼」の解説を挙げている。投票方法の選択に党派差がある州では、当日票と郵便票の集計速度の違いが、正常な手続きのなかで得票の入れ替わりを生む。これが不正の証拠として提示されるという構造である。

報告書の位置づけと限界

 以下は筆者による評価である。この文書の価値は、新しい事実の発見よりも、偽情報の発生を手続き上の時点と結びつけて予測可能な対象として扱う枠組みにある。CIPの8フェーズモデルは、不確実性、注目の分布、操作戦術の三要素を軸にした研究者向けの分析枠組みだった。報告書はそれを有権者・報道機関・市民社会向けに3段階へ単純化し、各段階に投票方法別の実績値と具体的な主張を対応させた。プレバンキングの実装例としては整理が行き届いている。実際、CIPは10月13日付の速報で投票機や「投票用紙の投棄」をめぐる流言の出現を報告しており、報告書の予測は期日前投票の段階に入った時点ですでに現実と重なり始めている。

 報告書の最も重要な論点は、偽情報の発信者として政府を正面から位置づけた点である。従来の選挙偽情報対策は、外国の影響工作や国内の周縁的な行為者を主な対象とし、政府をその対抗者と想定してきた。政府機関が誤ったデータや歪めた情報評価を公的な権威とともに発信する場合、反証の担い手である州・地方の選挙担当者は連邦の支援を失い、同時に連邦からの圧力の対象にもなる。報告書が冒頭で挙げた二つの悪条件は、この意味で同じ構造の両面を成している。ただし、この評価は両機関の政策的立場と不可分であり、DHSや政権側の主張する選挙不正対策の論理は、報告書のなかで反論の対象としてのみ扱われている点には留意が必要である。

 限界も明確である。第一に、独自データがない。引用される数値は、MITの投票方法統計、NewsGuardの22%、YouGovの世論調査など、いずれも他機関のものである。NewsGuardの22%は同社が追跡した主張の集合における比率であり、選挙偽情報全体に占めるAI生成コンテンツの割合を示すものではない。第二に、「予測可能性」という前提そのものが、既知のテーマの反復に依拠している。生成AIによる新しい形式の操作や、アルゴリズムを経由した情報環境の変化といった、過去の型に当てはまらない事象への対応は扱われていない。CDT自身は6月にAIシステムへのアルゴリズム汚染と中間選挙を、10月9日には選挙陣営によるAI有権者勧誘の規制の空白を論じており、本報告書はそれらと補完的に読むことが想定されていると考えられる。第三に、記述は米国の選挙制度、すなわち州ごとの手続きの分散、郵便投票の比重、認証の多段階性に強く依存している。他国の選挙にそのまま適用できるのは、手続き上の時点と流言のテーマを対応づけるという方法論の部分に限られる。

 それでも、手続きの各段階で誤解が生じる具体的な箇所を特定する手法は、選挙監視や事前反証を設計する実務者にとって参照価値が高い。郵便投票の「事前処理」と「集計」の区別、有権者データの「取得」と結果への「干渉」の区別、部品の「調達元」と「改ざん能力」の区別がその例である。

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