国営放送の96.2%とサイバー犯罪法の2週間拘束――EU・AU-COMESA・MISAの選挙監視三者が記録したザンビア2026年総選挙の情報空間

国営放送の96.2%とサイバー犯罪法の2週間拘束――EU・AU-COMESA・MISAの選挙監視三者が記録したザンビア2026年総選挙の情報空間 民主主義

 本稿が扱うのは、2026年8月13日に投票が行われたザンビア共和国総選挙(大統領・国民議会議員・議会議長選出)をめぐって、性格の異なる三つの監視主体がそれぞれ独立に公表した予備声明である。第一は欧州連合選挙監視団(EU Election Observation Mission、EU EOM)が8月15日にルサカで発表した予備声明「European Union Election Observation Mission Zambia 2026 preliminary statement」で、欧州議会議員マイケル・マクナマラ(Michael McNamara、アイルランド)を首席監視員とし、EU加盟26か国に加えカナダ・ノルウェーからの監視員を含む計100名の監視団が6月29日から展開、投票日には226選挙区中113選挙区の419投票所を訪問した。第二はアフリカ連合(AU)と東部・南部アフリカ市場共同体(COMESA、Common Market for Eastern and Southern Africa)が共同編成した選挙監視団の予備声明「Preliminary Statement by the AU COMESA Election Observation Mission to the 2026 Zambia General Elections」で、アフリカ27か国から集めた93名の短期監視員で構成される。第三は南部アフリカメディア研究所(MISA、Media Institute of Southern Africa)の地域組織であるMISA Regionalが8月17日前後に発表した声明「MISA Regional preliminary statement on media freedom, digital rights and access to information in the 2026 Zambia general elections」で、MISAは1991年の「ウィントフック独立メディア宣言」を受けて1992年に設立され、SADC地域十数か国に支部を持ちメディアの自由と表現の自由の監視を専門とするNGOである。三者はいずれも選挙全体を対象とする総合的な予備声明を発表しているが、本稿はそのうち「メディア」「ソーシャルメディアとデジタル権」「表現の自由」に関する章に絞り、三者の記述を突き合わせることで、単独の報告書からは見えてこないザンビアの選挙情報空間の構造を再構成する。三者は監視の性格が異なる――EU EOMはメディアモニタリングという定量的手法を持ち、AU-COMESAは政治的文脈と選挙運営全般への目配りを持ち、MISAは報道の自由の当事者に近い立場から個別の被害事例を記録する――ため、同じ対象を異なる解像度で捉えており、重ね合わせることで相互に裏付けと補完の関係が生まれる。

政治的背景――ルングの失格・死去とNRPUPという受け皿

 選挙情報空間を理解する前提として、選挙の政治的構図を押さえておく必要がある。現職のハキンデ・ヒチレマ大統領(統一国家開発党、UPND、2021年就任)が再選を目指し、対抗馬は国会議員ブライアン・ムンドゥビレだった。ムンドゥビレは野党連合Tonse Allianceの統一候補で、2026年1月28日に同連合の大統領候補に選出されている。この連合はもともと前大統領エドガー・ルング率いる愛国戦線(Patriotic Front)を中心に結成されたが、ルング自身は同年12月に立候補資格を認められず、2025年中に死去しており、ムンドゥビレがその後を襲った。ムンドゥビレの投票用紙上の政党登録名はNRPUP(National Reconciliation Party for Unity and Prosperity、国民和解・統一繁栄党)であり、EU EOMの報告書はこの登録名で候補者を記述している。もう一人の有力候補として社会党のフレッド・ムメンベがPeople’s Pactの候補として出馬した。2025年の憲法改正により国民議会の議席は156から226(小選挙区)に拡大され、これに比例代表40議席(女性20・青年15・障害者5)と大統領任命議席最大11が加わる制度に改められている。登録有権者数は約870万人だった。

メディア環境――ZNBCの一極的偏向と憲法条項

 EU EOMのメディアモニタリングユニットは、7月15日から8月12日にかけての約4週間、ラジオ4局(ZNBC Radio 1、Hot FM、Power FM、Phoenix FM)、テレビ3局(ZNBC TV1、Diamond TV、Prime TV)、新聞3紙(Zambia Daily Mail、The Nation、News Diggers!)の計10媒体を対象に定量分析を行った。結果は際立って一方的である。国営放送ZNBC TV1では、放送時間のうちUPND関連報道が96.2パーセントを占め、ムンドゥビレへの報道はわずか0.1パーセントにとどまった。大統領本人の直接発言(候補者自身の肉声が流れる時間)は放送の98.3パーセントを占めた一方、ムンドゥビレの直接発言は「一切なし」と記録されている。国営ラジオZNBC Radio 1でもUPND関連が90.5パーセント、ムンドゥビレが1.1パーセント、大統領直接発言が98.4パーセントとほぼ同型の偏りが確認された。国営紙Zambia Daily Mailでも大統領関連報道が90.7パーセントを占め、ムンドゥビレは5パーセントにとどまっている。女性候補者への報道量は、テレビ全体で3.5パーセント、ラジオ全体で5.2パーセントと著しく低い水準だった。

 この定量データにMISA Regionalの声明が加えるのは、憲法上の枠組みという角度である。MISAは、ザンビア憲法第50条が公的所有メディアに対して政党・候補者への公平なアクセスを保障する義務を定めていると指摘した上で、ZNBCの報道実態はこの条項に違反していると明言している。加えてMISAは、民間放送局(Diamond TV、Hot FM)や新聞(News Diggers!)が「司法による威嚇の影の下で」運営されていたと記述し、国営メディアの偏向だけでなく、独立系メディア自体が萎縮的な圧力にさらされていたことを付け加えている。AU-COMESAの予備声明はメディア環境について「メディアは選挙を幅広く報道し、政治的言説の場としておおむね活発だった」という総括的な評価にとどまり、ZNBCの数値には踏み込んでいないが、ジャーナリストの逮捕・訴追が表現の自由を制限し、ジャーナリストと市民の双方に自己検閲を増加させているという懸念を共有している。三者を重ねると、EU EOMの定量データが示す「どの程度偏っていたか」という規模の問題と、MISAが示す「どの条項に違反しているか」という法的性格づけが、互いに補い合う形になっていることがわかる。

サイバー犯罪法制と自己検閲――マクファーソン・ムクカ拘束事件

 三者の記述の中でもっとも重い裏付けを持つのが、ZNBC記者マクファーソン・ムクカ(McPherson Mukuka)の拘束事件である。この事件はEU EOMとMISA Regionalという、監視の系統も作成組織も異なる二つの報告書に、細部まで一致する形で独立に記録されている。両者によれば、ムクカは私的な会話を無断で録音・公開したとしてサイバー犯罪法(Cyber Crimes Act)違反の容疑で7月に逮捕され、2週間にわたり拘束された。二つの独立した監視主体が同一の事実関係(容疑事実・拘束期間)を一致させて記録しているという点は、この事件が単なる一団体の主張ではなく、複数の観察者が確認した事実であることを裏付けている。

 MISAの声明はこれに加えて、選挙期間中に生じた複数の個別事案を記録している。写真記者レビー・ムワレ(Levy Mwale)はオリンピア中等学校の投票所で暴行を受けたとされ、記者リンダ・ニョンド(Linda Nyondo)は政治活動家から撮影映像の削除を強要され、記者エドナ・ムピラ(Edna Mupila)はザンビア選挙管理委員会(ECZ)職員から嫌がらせを受けたと記録されている。EU EOMは、2025年に制定されたサイバーセキュリティ法とサイバー犯罪法の両方が違憲性を争う訴訟の係属中であることを指摘し、これらの法律が報道・言論に対して「萎縮効果」をもたらしていると評価している。AU-COMESAも同様に、両法の適用が「政治的コミュニケーションを制限している」と記す。制度上の欠陥として、EU EOMは選挙法(Electoral Process Act)がオンライン上の選挙運動、第三者による選挙運動、有料広告のいずれについても規定を持たないことを指摘しており、これはサイバー法制による取り締まりの強さと、選挙運動そのものを規律する法律の空白という、非対称な法制度の姿を浮かび上がらせている。MISAはこの法的空白と萎縮効果を踏まえ、公序良俗法(Public Order Act)と2025年サイバー法制の全面的な見直し、および選択的な法執行と恣意的逮捕の終結を明確に求めている。

Facebook一極集中のSNS環境とジェンダー化されたオンライン攻撃

 EU EOMとMISAはともに、ザンビアのSNS環境が単一プラットフォームに強く依存している点を独立に確認している。両者が一致して挙げる数字は、投票年齢人口のうち400万人以上(主に都市部)がFacebookを利用しているというものである。EU EOMはこれに候補者個人のアカウント規模と広告支出という定量データを重ねている。大統領のFacebookページは240万人超のフォロワーを抱え、ムンドゥビレは75万1,000人にとどまるものの、キャンペーン最終5週間でフォロワー数が56パーセント増加したことが記録されている。Facebook広告の出稿額は選挙戦を通じて限定的だったが、投票日に近づくにつれてピークに達し、その額は約4万2,000ユーロ、うち92パーセントがUPND支持のために使われたとEU EOMは記す。これは、放送メディアだけでなく有料のデジタル広告インフラにおいても、資源配分が現職側に大きく傾いていたことを示している。

 この定量的な非対称性に、MISAの声明は質的な側面を加えている。MISAは女性候補者がオンライン上で受けた攻撃について、婚姻状況、母親であること、容姿、さらには「魔女」呼ばわりにまで及ぶ中傷が行われたと具体的に記述している。EU EOMが示すテレビ・ラジオでの女性候補者報道量の低さ(3.5〜5.2パーセント)と、MISAが記録するSNS上のジェンダーに基づく攻撃は、女性候補者が伝統メディアでは「不可視化」され、SNS上では逆に「標的化」されるという、二つの異なる排除のメカニズムが並行して働いていたことを示唆している。

偽情報対策の制度的空白――iVerifyとECZの自助努力

 偽情報対策についてEU EOMが記すのは、ファクトチェックプラットフォーム「iVerify」が投票用紙の印刷、ECZの運営、大統領に関する情報、インターネット遮断の噂、野党関係者に関する情報など、多数の虚偽主張に対して「一貫して専門的な」反証活動を行ったという評価である。EU EOMは同時に、ECZ自身がキャンペーン期間中に18件の虚偽主張に公式に反論したと記録しているが、こうした対応は機関間の連携が限定的であり、Facebookなどのメタ社プラットフォームとの関係構築も「不十分」だったと評価している。MISAはiVerifyに加え、「National Action Coalition」という別の検証主体の存在も挙げ、独立系のファクトチェック活動への財政的・制度的支援の拡大を勧告の一つに明記している。三者の記述を総合すると、ザンビアの偽情報対策は特定の法制度やプラットフォームとの構造的な協力体制としてではなく、iVerifyやECZ自身による個別の反証発信という、いわば「その場しのぎ」の水準にとどまっていたことが見えてくる。この脆弱性は、後述する開票中断という緊急事態が生じた際に、より深刻な形で表面化することになる。

投開票日の機能不全――開票中断と「並行集計」による勝利宣言

 三者の予備声明のうち、選挙当日の緊張を最も具体的に記録しているのがAU-COMESAである。その声明によれば、8月14日、ECZは「安全上の懸念」を理由に、全国的に開票と結果発表を一時中断した。この間、野党候補ムンドゥビレは自陣営が独自に行った並行集計(parallel tabulation)に基づき自らの勝利を主張し、選挙結果の「即時公表と独立した検証」を要求、発表の遅延が「干渉や操作の機会を生む可能性がある」と警告した。AU-COMESAはこの事態を受け、全ての関係者に対し冷静さの維持とECZによる開票完了の許容、公式発表の尊重を求めている。

 この開票中断をめぐる経緯は、選挙後の現地報道によってさらに具体的な輪郭が与えられている(この部分は三つの予備声明そのものではなく、その後の報道に基づく背景情報であることを明記しておく)。中断の直接的な引き金は、ルサカ郊外で57歳の投票所職員が殺害された事件を含む、複数州にまたがる脅迫・暴行・誘拐・器物損壊の報告であり、警察はこの事件に関連して9人を逮捕した。中断時点で公表されていた部分集計(226選挙区中49選挙区)では、ヒチレマが52.6パーセント(43万8,708票)、ムンドゥビレが42.1パーセント(35万1,281票)でリードしていた。最終的にECZ委員長マウンガラ・ザロウミスは8月18日早朝、ヒチレマの当選(有効票の約61.4パーセント、ムンドゥビレは38パーセント、総投票数約500万)を公式に宣言したが、ムンドゥビレの陣営(NRPUP)は結果集計表の改ざんの可能性について独立調査を求め、翌8月19日になってようやく敗北を認めてヒチレマとUPNDを祝福した。

 この一連の経緯は、前節で確認した偽情報対策の脆弱性がどのような場面で最も危険になるかを具体的に示している。iVerifyやECZ自身による個別の反証発信は、平時の噂や特定の虚偽主張には一定の効果を持ちえたとしても、開票そのものが数時間にわたり中断し、公式情報が空白になった状況で「並行集計」に基づく一方的な勝利宣言が飛び交うという事態には、対応する制度的な仕組みを持っていなかった。AU-COMESAが記録した「干渉や操作の機会」という懸念は、まさにこの情報空白の期間に現実化したものと位置づけられる。

結語――三者が異なる語彙で収斂させた同一の診断

 三つの予備声明は監視の性格も語彙も異なるが、具体的な制度改革の勧告を比較すると、驚くほど同じ二つの論点――選挙運動資金・広告の規制と、サイバー関連法制の見直し――に収斂していることがわかる。

論点EU EOMAU-COMESAMISA Regional
メディア・広告規制選挙法にメディア選挙運動支出の上限規定がないことを問題視政治資金・選挙運動資金規制の立法化(2016年・2021年勧告の反復)ZNBCを「真の公共放送」へ転換するよう名指しで要求
サイバー法制サイバーセキュリティ法・サイバー犯罪法が違憲審査係属中であると指摘両法の適用が政治的コミュニケーションを制限していると懸念表明公序良俗法と2025年サイバー法制の全面的見直しを要求
オンライン選挙運動選挙法がオンライン運動・第三者運動・有料広告を規定していないと指摘言及なし独立系ファクトチェック機関への財政・制度支援の拡大を要求
選挙制度全般女性候補者報道の著しい過小性を指摘選挙法の少なくとも6か月前の制定、投票所増設、生体認証投票者識別の検討を提言選択的法執行・恣意的逮捕の終結を要求

 EU EOMが国際基準との齟齬という技術的な言葉で語り、AU-COMESAが過去の自らの勧告(2016年・2021年)の反復という形で語り、MISAが報道当事者としての具体的な被害事例に基づいて語るという三者三様のアプローチにもかかわらず、行き着く先が同じ二つの制度的欠陥――キャンペーン資金・広告の無規制と、サイバー法制による言論の萎縮――に一致しているという事実は、これらの欠陥がザンビアの選挙観察者の間でほぼ争いのない診断であることを示している。国営放送が96.2パーセントという極端な数値で一候補に振れる状況と、記者が私的な会話の録音・公開という行為でサイバー犯罪法により2週間拘束される状況が、同じ選挙サイクルの中で並存していたという事実こそが、三つの独立した監視主体による三通りの記述が最終的に指し示す、ザンビア2026年総選挙の情報空間の姿である。

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