カナダの教育に入り込む化石燃料業界──「Polluting Education」レポートより

カナダの教育に入り込む化石燃料業界──「Polluting Education」レポートより 情報操作

 カナダ医師環境協会(CAPE)とFor Our Kidsが2025年2月18日に発表したレポート 「Polluting Education: The Influence of Fossil Fuels on Children’s Education in Canada」 は、化石燃料業界がK–12教育(幼稚園から高校)にどのように関与しているのか を詳細に分析している。特に、業界が教育現場に入り込み、気候変動やエネルギーに関する議論を自社に有利な形に誘導している ことを問題視している。

化石燃料業界の教育への影響

 レポートによると、カナダでは 39の石油・ガス会社と12の関連団体 が、教材提供や学校との提携を通じて教育カリキュラムに影響を与えている。特に以下の方法が指摘されている。

  • 教育教材の提供:企業が制作した学習プログラムや教材を学校に提供し、自社に有利な情報を含める。
  • 学校行事やカリキュラムへの関与:政府や教育委員会と提携し、公式な教育カリキュラムに業界の視点を組み込む。
  • 教育機関・団体への資金提供:環境教育やSTEM教育の支援という形で、第三者機関を通じた影響力の拡大を図る。

     このような戦略は 「ペトロ・ペダゴジー(Petro-Pedagogy)」 とも呼ばれ、気候変動に関する教育を業界寄りの視点に誘導する ものだと指摘されている。

    具体例

     レポートでは、化石燃料業界の影響が具体的にどのような形で現れているのか、いくつかの事例を挙げている。

    ① FortisBCの「Energy Leaders」プログラム(ブリティッシュコロンビア州)

    • 天然ガス会社 FortisBC が提供した教育プログラム。
    • 「天然ガスはクリーンなエネルギー」 というメッセージを強調。
    • 問題点
      • フラッキング(水圧破砕)による環境リスクには触れない
      • 気候変動問題を個人のエネルギー消費の責任にすり替える

    2022年、教育関係者や市民団体の抗議を受け、このプログラムは削除された。


    ② Canadian Geographicの「Classroom Energy Diet Challenge」(シェル社スポンサー)

    • シェルが資金提供 した教育プログラム。
    • 生徒にエネルギー消費を減らすチャレンジをさせることで、「個人の責任」を強調
    • 問題点
      • 化石燃料業界の責任には触れず、「個人の努力が重要」と強調
      • シェルが進める新規油田・ガス田開発の影響についての情報は提供されていない。

    2022年、教育者や学生団体の抗議を受け、カナダ地理協会はシェルとの提携を解消した。


    ③ Inside Educationの「Oil Sands Field Trip」(アルバータ州)

    • オイルサンド開発企業(Cenovus, Suncor, Imperial Oil など)が資金提供 する教育団体Inside Educationが企画。
    • オイルサンド採掘現場への見学ツアーを実施し、開発の経済的メリットを強調
    • 問題点
      • 気候変動への影響については最小限の記述にとどめる
      • 業界が行う「環境保護対策」を前面に出し、開発の正当性を強調

    化石燃料業界の「教育戦略」

    レポートでは、化石燃料業界が教育現場で使用している 主な戦略 を以下のように整理している。

    • 「バイアスのない視点」を強調:「エネルギー問題は多面的に見るべき」という名目で、業界寄りの情報を必ず含めるよう誘導。
    • 「グリーンウォッシング(Greenwashing)」:再生可能エネルギー推進やカーボンキャプチャー技術(CCS)を前面に出し、業界の環境対策を強調。
    • 「レッドウォッシング(Redwashing)」:先住民支援をアピールしながら、実際には先住民の土地を開発。
    • 「個人責任の強調」:気候変動対策は「個人の努力」が重要であるとするメッセージを広め、企業の責任を矮小化。

      日本における示唆

       このレポートが示す問題は、カナダだけのものではない。日本でも、企業が教育プログラムを提供したり、学校行事に関与したりする例は存在する。例えば、電力・ガス会社が主催するエネルギー教育や、省エネ・環境教育をテーマとした企業の教材がある。これらがどのような視点で作られているのか、カナダの事例を参考にして慎重に見極める必要がある。


      結論

       「Polluting Education」レポートは、化石燃料業界が教育現場に入り込み、気候変動に関する認識をコントロールしていることを明らかにした。特に、「バイアスのない議論」を装いながら業界の視点を組み込む手法は、日本を含む他国でも起こり得る問題だろう。

      子どもたちが学ぶ情報が公正であるためには、企業提供の教材や教育プログラムの内容を慎重に精査することが不可欠だ。教育における産業界の関与は完全に排除すべきものではないが、その影響がどのように現れているのかを常に意識し、批判的に検討する姿勢が求められる。

      コメント

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