Centre for Information Resilience(CIR)が2025年12月4日に公開した報告書「POST-ELECTION VIOLENCE IN TANZANIA: OCTOBER & NOVEMBER 2025」は、同年10月29日のタンザニア総選挙後に発生した暴力について、オープンソース手法による徹底的な検証を行った調査記録である。CIRは英国を拠点とする非営利調査機関で、紛争地域や選挙暴力における証拠保全を専門としている。本報告書は、インターネット遮断と政府による情報統制という困難な条件下で185点のデジタル証拠を収集・保存し、そのうち44点の映像・画像について位置を小数点6桁の精度で検証した。調査期間は選挙日の10月29日から外出禁止令が解除された11月4日までの1週間である。
調査対象となった選挙は、1961年の独立以来政権を維持するChama Cha Mapinduzi党のSamia Suluhu Hassan大統領が再選を目指したものだった。野党Chadema党の党首Tundu Lissuは選挙前の4月9日に拘束され、選挙ボイコットを呼びかけるソーシャルメディア投稿を理由に4月10日に反逆罪で起訴された。Amnesty Internationalの報告によれば、この罪状は保釈不可能なものだった。4月12日には選挙管理委員会INECがChadema党の選挙参加を禁止し、9月15日には別の野党Alliance for Change and Transparency(ACT)の大統領候補Luhaga Mpinaも指名手続き不備を理由に立候補を禁じられた。こうした抑圧的な環境下で実施された選挙に対し、10月29日から大規模な抗議と市民的不服従がダルエスサラーム、ドドマ、ムベヤ、トゥンドゥマ、アルーシャで発生した。
CIRの方法論はEurojustとICCが公表する証拠保全の基準に準拠している。収集した各映像にはTPE番号(Tanzania Post-Election、個別コンテンツ識別番号)が付与され、同一事件を示す複数の映像にはTPIN番号でグループ化された。位置検証にはGoogle Earth ProとMapillaryのストリートレベル画像を使用し、影の方向と長さを分析するクロノロケーション技術で撮影時刻を推定した。報告書内では検証した全ての事件について座標・時刻・映像番号が明記されており、追跡可能性が確保されている。
インターネット遮断下での証拠収集
調査を困難にした最大の要因は、選挙日から実施されたインターネット遮断だった。グローバルなインターネット監視組織Netblocksは10月29日13:11に「選挙日のタンザニアで全国的なインターネット接続障害を確認し、デジタル・ブラックアウトの報告を裏付けている」と報告した。接続率は通常時の3%まで低下し、この状態は少なくとも11月3日まで継続した。さらにタンザニア警察は市民に対し「苦痛を引き起こしたり、他者の尊厳を貶めたりする画像や動画の共有を避けよ。これは刑事犯罪であり、発見された場合は厳格な法的措置が取られる」という内容のSMSを送信した。
この環境下で、多くの映像は活動家Maria Sarungi TsehaiやMange Kimambiらの仲介アカウントを通じて遅延公開された。遅延アップロードはメタデータの削除や日付特定の困難さをもたらした。CIRは日付の分類を「メディア報道との相互参照で確認」「アップロード者が主張するが未確認」「日付の表示なし、ただしアップロード日から選挙日または翌週に発生した可能性が高い」の3段階で行った。一方で、活動家アカウント経由の拡散は選択バイアスをもたらし、劇的でない警察との相互作用が過小評価されている可能性がある。また継続的な映像公開により統計分析の信頼性が低下しているという制約も率直に述べられている。
Morogoro Road沿いの銃撃クラスター
ダルエスサラームを東西に貫くMorogoro Roadは、最も集中的な暴力が記録された場所である。CIRが検証した一連の事件は、372メートルの範囲内で平和的集会が銃撃事件へエスカレートする過程を複数の映像で記録している。最初の映像は、Omwanda Street付近で医療用マスク、バンダナ、バイクヘルメットを着用した市民の群衆が歌い拍手する様子を捉えている。市民が道路障壁をMorogoro Roadに運び設置する場面に続き、防弾ベストとヘルメットを装着した6人の警察官を乗せたピックアップトラックが群衆を通過する様子が映っている。
約290メートル西方で撮影された映像では、青いバンダナをした男性が自撮りしながらMorogoro Roadを歩いており、背景で複数の銃声が聞こえる。停止した車両が複数見え、銃撃は近傍で起きていると推測される。爆発音に一致する音も記録されている。さらに西では、少なくとも12人のタンザニア警察官がMorogoro Roadを東へ後退しており、銃声が聞こえ、停車中の車両内に身を隠す人々が見える。市民の抗議者が警察官に向かって石を投げる様子も記録されている。
この場所から約5キロ東方のUsimulizi Streetでは、少なくとも6人の死亡と2人の負傷が記録された。複数の映像が8人の市民犠牲者を撮影している。最初の犠牲者はMorogoro Road上のバス停脇に横たわり、血痕の跡が見える。カメラマンがMorogoro RoadとUsimulizi Streetの交差点に近づくと銃声が聞こえ、2人目の死亡者の頭部下に血だまりが見える。Usimulizi Streetをさらに進むと、精肉店と思われる場所で男性が腕から激しく出血しており、別の男性は足から出血している。追加の映像では、Usimulizi Street上にさらに2人の死亡者が映り、うち1人は頭部に目に見える外傳があり下に血だまりがある。さらに離れた地点にも1人の死亡者がいる。6人目の死亡者はモスク壁際で発見された。
St. Andrew’s Anglican Church付近では、教会に隣接する路地に集まった市民の群衆が映り、1人の犠牲者は重度の頭部外傷と下の大きな血だまりがあり、もう1人は腹部周辺のシャツに血痕がある。近くの高層ビルから撮影された別の映像は、同じ場所と犠牲者を似た時刻に捉えている。CIRは影の方向と長さを分析し、この事件が12:00から13:00の間に発生したと特定した。太陽の位置と影の方向を示す図解が報告書に含まれている。
同じMorogoro Road沿いでは、私服武装集団による銃撃も記録された。6人が目視可能に武装した8人の私服の個人が、ゆっくり移動する白いオフロード・トラックに乗っており、彼らはKawawa Road上のバス停付近で車両から発砲している。目視可能な武器には、AKパターン・アサルトライフルが含まれ、そのうち数丁は伸長式折りたたみストックを備えている。約1キロ北方で撮影された映像は、黒いグラフィックTシャツを着た個人が同じAKパターンライフルを持って、通りや建物に向かって発砲する様子を示す。CIRは影の分析により、この映像が12:30から15:00の間に撮影されたと検証した。
他都市での標的射撃
アルーシャでは、A104高速道路周辺で検証された一連の銃撃が記録された。10月29日の映像では、タンザニア警察が高速道路を通って抗議者に接近している。抗議者は道路上でタイヤを燃やし、警察に石を投げる様子が見える。数分後、高速道路から枝分かれするMianzini Roadで、デモ参加者が走って逃げており、背景で銃声が聞こえる。映像中、1人の女性が撃たれて地面に倒れる。別の動画では、同じ女性が意識不明で横たわっている。CNNの報道によれば、死亡した女性の家族は彼女が撃たれた時に妊娠3ヶ月だったと述べた。CIRは弾薬が女性の衣服に着弾する瞬間を視覚的に検証した。この地点から100メートル未満の場所で撮影された映像は、頭部を撃たれた個人を示している。
ムワンザでは、夜間に撮影された映像が、サッカー観戦やビリヤードのために集まっていたとされる若い男性たちが血だまりの中にうつ伏せで横たわっている様子を示す。複数の遺体に明確な頭部および上半身の外傷があり、近距離からの銃撃と一致している。いずれの映像も活発な抗議、対立、または群衆統制のシナリオを示していない。これらの事件は、主要なデモ現場から離れた場所での標的殺害という広範なパターンと一致する。
Songwe地域の国境の町Tundumaでは、男性が走って逃げる様子が記録され、カメラが複数の警察車両をパンした後、銃声が聞こえ男性が倒れる。射手は映像に映っていないが、制服警察官と私服の個人が近くにいることから、警察官が銃撃源である可能性が強く示唆される。
Tabata Roadでの体系的虐待
ダルエスサラーム西部のTabata Roadに沿って、CIRは約300メートルの範囲内で4つの連続した虐待事件を検証した。これらの事件では、同じ警察官と私服の個人が繰り返し登場し、即席検問所を運営し、市民を尋問し、棒や蹴りで暴行している。
Green Light Hotelから西へ約50メートルの地点では、8人のタンザニア警察官(うち7人が武装)が即席の道路検問所を運営している。5人の武装警察官が2人の男性に地面を這わせ転がらせるよう命じており、うち1人が警棒で打たれている。別の場面では、警察官が市民の1人から物を没収し、もう1人の市民は警察官に座るよう命じられ、その後警察官が彼の下背部を蹴る。この映像内で、少なくとも7人の警察官を後部に乗せたタンザニア警察のピックアップトラックが検問所を通過する。CIRは影の分析により、この事件が10:00から11:00に発生したと検証した。
約93メートル東のMtambani Primary School敷地内では、4人のタンザニア警察官と4人の私服の個人が、同じく私服を着た3人の男性を身体的虐待している。2人の警察官がAKパターン・アサルトライフルで武装しており、他の2人の警察官と4人の私服の男性は棒で武装している。映像は2人の市民が棒で打たれる様子を示し、3人目は私服の個人が頭上で棒を振り上げて脅している。映像全体を通じて、3人の市民はダックウォークと学校のグラウンド上で転がるよう命じられている。CIRは影の分析により、この事件が17:00から18:00に発生したと検証した。
さらに東の排水路付近では、3人がタンザニア警察の制服を着て1人が私服を着た4人の個人がAKパターン・アサルトライフルを携帯しており、市民がTabata Road上、Green Light Hotelの前、排水路近くに横たわっている。別の映像は、3人の警察官と2人の私服の個人が市民を殴打しており、その脚が激しく出血している様子を示す。警察官の1人が東方向に発砲する。少なくとも3人の他の制服警察官と1人の他の私服の男性が棒で武装して継続中の暴行を観察している。さらに5人の非武装の私服の個人も積極的に参加せず見ている。
この東約40メートルでは、棒で武装した私服の個人に地面を引きずられている人物が映っている。非武装の私服の男性が、別の個人の頭を蹴り、後に足を彼の体に置いている。犠牲者は両脚から出血している。両個人は前述の事件にも見える。映像は2人のAKパターン・アサルトライフルで武装した私服の個人と、少なくとも5人の制服タンザニア警察官を示しており、うち3人が棒で武装している。警察のwater cannon車両も道路を通過している。
これら4つの事件全体を通じて、制服タンザニア警察官と私服の武装個人の協力が特に顕著である。同じ人物、車両、武器が複数の事件に登場し、持続的な作戦を示唆している。
私服武装集団と警察の協力
CIRの分析により、制服警察と私服武装者の組織的協力が明らかになった。私服の個人たちはAKパターンライフルで武装し、警察車両に同乗したり、白いトヨタ車両で独立して行動したりしていた。最も明確な例は、白いトヨタによる巡回と銃撃である。複数の映像が、武装した私服の個人が白いオフロード・トラックに乗り、車両から発砲する様子を示す。特徴的な黒いグラフィックTシャツを着た人物が、約1キロ離れた複数の場所で同じAKパターンライフルを持って登場している。
別の私服武装グループも複数の映像に特定された。これらの映像には、私服の個人がAKパターンライフルを保持し、警察車両の上に乗っている様子が記録されている。制服のバリエーションも記録された。警察は赤いベレー帽、防護ヘルメット、一般的なキャップを着用していた。ベストの色も異なっており、これは部隊ごとの違いを示す可能性がある。対照的に、軍の制服は迷彩柄で一貫していた。
私服武装集団が使用した車両は主に白いトヨタ車両だった。これらはタンザニア移民警察も使用する車種と一致するが、CIRは武装集団によって使用された車両が移民警察によって提供されたかを検証できなかった。一方、軍車両は抗議者と平和的に並走する様子が複数確認され、暴力行使は記録されなかった。
衛星画像分析により、ダルエスサラームのTwalipo Administrative Unit軍事基地で、10月29日に異常な数の軍用バスが確認された。少なくとも53台の軍用バスが目視可能であるのに対し、9月と10月の先行画像では30から40台の間だった。これは軍が選挙日に増強された作戦に備えていたことを示している。
オンラインでは、大統領の息子Abdul Halim Hafidh Ameirの指揮の下で活動した私服グループについての未検証の主張が流布している。活動家は、Frank Matimbangoが登場するとされる複数のコンテンツを共有したが、個人は異なる服装を着ており、CIRはこれらの主張を検証できなかった。顔は頻繁にマスクで隠されるか低解像度で撮影されており、確固たる属性は現在不可能である。
集団墓地と遺体の扱い
UN OHCHRは10月31日に、10月29日から31日の間に「少なくとも10人がダルエスサラーム、Shinyanga、Morogoroで治安部隊が抗議者を分散させるために銃器と催涙ガスを使用した際に殺害された」と報告した。同日、BBC Newsは野党Chadema党が「約700人が治安部隊との衝突で殺害された」と主張し、タンザニアの外交筋が「信頼できる証拠が少なくとも500人の抗議者が死亡したことを示唆している」と述べたと報じた。11月の後続報告で、UN OHCHRは「少なくとも700」人が死亡したと述べ、「他の推定は数千人の潜在的犠牲者を指し示している」と付け加えた。UN OHCHRはまた、犠牲者の遺体が遺体安置所から消失し、「遺体が焼却されているか、身元不明の集団墓地に埋葬されているという申し立て」があることを認めた。
CIRは衛星画像を使用して複数の疑わしい場所を分析した。Kondo墓地では、11月2日から5日の間に、墓地の北端に新たに乱された土地の領域が現れた。CNNはこの墓地領域について報告し、情報源は「地元の少年たちがここの集団墓地に抗議者の遺体を掘って埋めるために支払われた」と主張した。CNNは新たに乱された土壌の地上映像を入手したと報じられている。さらに、11月7日から9日の間に墓地の南東部で木が伐採され、新しい墓のためのスペースを作った可能性がある。調査期間中、少なくとも2回、墓地近くに葬儀用天蓋と思われる構造物が現れた。短期間でのこれら3つの展開の組み合わせは、調査期間中の墓地での異常に高い活動を示している。
Kivule District Hospitalについては、地域情報源がCIRに対し、多数の死亡者と負傷者が施設に運ばれたと示した。施設は容量を超えており、スタッフは犠牲者を急造の遺体安置所建物に配置することを決定したと報じられている。CIRの衛星画像分析は、少なくとも10月29日から30日まで、現場に新しい仮設構造物が目視可能であることを示す。11月7日の衛星画像では、構造物はもはや目視できない。これらの新しい仮設構造物は、地上情報源が言及した「急いで完成した遺体安置所建物」に対応する可能性が高い。
Tengeru Agricultural College付近では、地域情報源によれば、掘削機が政府当局者によって集団墓地を掘るために使用された。衛星画像分析は、敷地内に位置する可能性が高い疑わしい集団墓地サイトを示し、新たに乱された土地は少なくとも11月1日からこの地域で目視可能になり、その後の日々、おそらく11月8日まで続いた。
CIRは他に7つの関心地点に関する追加情報を受け取ったが、調査結果はより決定的でなかった。これらにはMikumi National Park内の軍事基地近くの地域、Pande Game Reserve、Chipogolo山脈などが含まれる。これらの場所については、可能性のある場所を特定したが衛星画像で疑わしい要素を見つけられなかった、または乱された土地が抗議開始前に存在した、または採掘活動に関連する可能性が高いと判断された。
複数の遺体安置所で、廊下や屋外に積み上げられた遺体の山が記録された。ダルエスサラーム北部のMwananyamala遺体安置所内の廊下には少なくとも15体の遺体が目視可能だった。ムワンザのSekou Toure Hospitalでは、13体の遺体の山が病院建物内に位置し、別の12体の山が病院外にあった。アルーシャとされる場所では、様々な服装状態の少なくとも28体の血まみれで死亡している可能性の高い遺体が、建物内の床に列を成して並べられており、一部は互いに積み重なっている。
路上での遺体の扱いも記録された。頭部外傷を負った個人が私服の個人に通りを引きずられている様子が映像に記録されている。制服警察と車両が近くに見える。血液が犠牲者の頭部近くに溜まっており、この個人が致命傷を受けた可能性が強く示唆される。
方法論の限界と今後の課題
CIRは調査の制約を明示的に文書化している。最大の制約は、Netblocksが記録した10月29日から少なくとも11月3日までのインターネット遮断だった。多くの映像は接続回復後に遅延アップロードされ、メタデータが削除または欠落しており、日付特定が困難になった。その結果、多くの映像は活動家アカウントを経由して拡散され、劇的でない相互作用が過小評価されている可能性がある。また調査期間中も新たな映像が継続的に公開され、統計分析の信頼性が低下している。
個人の属性特定も困難だった。顔はマスクで隠され、解像度は低く、高画質の映像でも明確な暴力行為は映っていなかった。Frank Matimbangoを巡回私服グループの一員として特定する繰り返しの申し立てが存在するが、映像に映る個人は異なる服装を着ており、これらの不一致は明確で裏付けられた識別子なしに説明責任を割り当てることの困難を浮き彫りにしている。
流出したICC提出書類の一部の内容がオンラインで流布しており、CIRは機密情報源を通じて完全なコピーを入手した。この提出書類には、責任をタンザニア警察に結び付ける追加の属性主張が含まれており、さらに殺害が大統領の息子Abdul Halim Hafidh Ameirの指揮の下で実行されたと主張している。CIRは抗議者への暴力とTanzania Intelligence and Security Service(TISS)の関与との潜在的な関連を検証したが、これらの主張を実証するにはさらなる調査が必要である。
この報告書は、OSINT技術を使用した人権侵害調査の実践例として、その方法論の透明性、検証プロセスの詳細、限界の率直な説明において、今後の同種調査のモデルとなる水準に達している。185点の証拠のうち44点の位置を6桁精度で特定し、影分析による時刻推定、武器・制服・車両の詳細な識別、衛星画像との統合、そして最も重要なことに、全ての検証手順を追跡可能な形で文書化した点で、この調査は選挙暴力のオープンソース調査における新たな基準を示している。
:__左側にグリーンエネルギー(風力タービン、ソーラーパネル)、右側にデジタル情報ネットワーク(真実の情報を青、偽情報をオレンジ-120x68.png)

コメント