米国の非営利団体 Freedom Forum は、毎年「The First Amendment: Where America Stands」という世論調査を行っている。対象となるのは米国憲法修正第1条、いわゆる「第一修正」だ。これは 言論・宗教・報道・集会・請願の自由 を保障するもので、アメリカ社会における「自由の象徴」とも言える条文である。2025年版は全国813人を対象にオンラインで実施された。この調査は、アメリカ人が自由をどう理解し、どの自由を重視し、どのような恐れや制限を感じているのかを示す貴重な資料となっている。
圧倒的な理念支持と乏しい理解
調査結果でまず目立つのは、「第一修正を知っている」と答えた人が95%にのぼり、64%が「改正すべきではない」と回答している点だ。これはアメリカ人の圧倒的多数が「この自由は守られるべきもの」と考えていることを示す。
しかしその一方で、5つの自由を正しくすべて答えられた人はわずか10%。「言論の自由」を挙げた人は73%と多数派だったが、「宗教の自由」は37%、「集会の自由」は26%、「報道の自由」は25%、「請願の自由」は13%と低調で、25%は一つも答えられなかった。つまり理念としては強く支持しているにもかかわらず、具体的な中身の理解には大きな落差がある。
自己検閲の実態と世代差
法律で保障されていても、実際に「自由に話せるか」という問いに自信を持てない人は多い。65%が「自由に意見を言えない」と答え、特にZ世代では82%に達した。理由は、政府の処罰よりもむしろ 家族や友人との関係悪化(37%)、職場での不利益(44%)、レッテルを貼られることへの不安(33%) が中心だ。暴力的反応を恐れる人も42%にのぼる。
世代による差は鮮明で、団塊世代の58%が「話しにくい」と答えたのに対し、若い世代ほど強い不安を抱いている。社会の圧力やオンラインでの炎上が「第二の検閲」となり、憲法の保障とは別次元で言論を抑え込んでいる現実が見える。
規制を求めつつ、検閲を恐れる矛盾
デジタル時代に入って、自由をめぐる意識は複雑化している。「政府がSNS企業に誤情報・虚偽情報への責任を負わせるべき」と答えた人は48%にのぼる。一方で「AIによる検閲が心配」と答えた人は52%。つまり人々は「偽情報を抑えたい」と「規制が行き過ぎて自由を失いたくない」という相反する気持ちを同時に抱いている。
さらに、メディアの種類によって自由の理解にも差がある。テレビや新聞が第一修正で守られていると答えた人は多数派だったが、SNSや動画配信サイトが保護対象だと認識している人は半数以下にとどまった。特にZ世代はSNSを「自由が守られる場」と考える傾向が強く、世代ごとにメディア理解が異なっている。
ヘイトスピーチと宗教の自由をめぐる対立
言論の自由は、しばしば他の価値と衝突する。今回の調査でも「ヘイトスピーチの禁止を優先すべき」と答えた人は32%で、2020年以来最低水準となった。逆に言論の自由を最大限尊重すべきだとする意見が強まっているとも言える。
大学キャンパスでは「不快な意見も含めて自由な議論を促すべき」と答えた人は59%。ただし白人では63%だったのに対し、Black回答者では49%にとどまるなど、人種間で差が出ている。
宗教と差別禁止が衝突した場合には「宗教の自由を優先」が42%、「性的指向に基づく差別禁止を優先」が25%、残る33%は中間的立場。年齢が上がるほど宗教優先が強くなり、世代ごとの価値観の違いが際立つ。
トランプ大統領は守護者か脅威か
調査では、現職のトランプ大統領が第一修正の自由にとって「守護者」なのか「脅威」なのかという問いも設けられた。結果は「脅威」とする回答が優勢で、特に報道の自由については51%が脅威と認識している。世代によって評価は分かれ、ミレニアル世代は比較的「守護者」と見る割合が高い一方、団塊世代では「脅威」とみる傾向が強い。同じ政治家をめぐって世代ごとに真逆の評価が下されているのは、言論の自由が単なる法律問題ではなく、政治的立場や経験と直結していることを示している。
調査が示すアメリカ社会の矛盾
2025年版の結果から浮かび上がるのは、アメリカ社会における自由観の二面性だ。人々は第一修正を圧倒的に支持し、それを不可侵の権利と考えている。しかし現実の生活では自己検閲が広がり、規制を求めながら同時に規制を恐れるという矛盾した態度をとっている。さらに宗教や差別禁止、ヘイトスピーチといったテーマでは世代や人種ごとに価値観が大きく分かれている。
「自由を守るべき」という理念と、「自由を行使することの難しさ」という現実。このギャップをどう埋めるかが、今後のアメリカ社会における大きな課題であることを、この調査は示している。
コメント