パレスチナのファクトチェック機関 Kashif が2025年1月31日に公開した 「2024 ANNUAL REPORT: A Comprehensive Approach to Countering Disinformation」 は、2024年にKashifが行った活動と成果を総括したレポートだ。本報告書では、誤情報のトレンド分析、ファクトチェックの実施件数、教育活動、AIツールの開発、国際連携 など、多岐にわたる取り組みがまとめられている。
西側メディアでは、イスラエル・パレスチナ問題の情報環境について、イスラエル寄りの視点が強く反映されることが多い。そのため、パレスチナ側のファクトチェック機関がどのように偽情報と戦っているのか を記録したこの報告書は、貴重な資料である。
本記事では、特に (1)「Pallywood」キャンペーンの分析、(2) SNS上の誤情報戦争のリアル、(3) AIと戦争プロパガンダの新たな関係 の3つのトピックに注目し、Kashifの2024年の活動の一部を紹介する。
1. 「Pallywood」キャンペーンの真偽:誤情報としてのプロパガンダ
「Pallywood」という言葉を聞いたことがあるだろうか? これは、パレスチナ人が戦争の被害を誇張し、演出しているという主張を指すプロパガンダ用語だ。イスラエル寄りの保守派メディアやSNSの右派コミュニティでは、「パレスチナの死傷者の映像は演技であり、メディアを騙している」といった説が広まっている。
Kashifは2024年の活動の中で、この「Pallywood」キャンペーンがどのように誤情報として広められたか を分析した。例えば、2024年のガザ攻撃の際、SNS上で拡散された「パレスチナ人が負傷を偽装している」とする動画は、実際には 過去の映画や演劇の映像を切り取ったもの だった。また、戦争中に死亡したとされたある人物について、イスラエルの報道官が「実は生きている」と主張したが、その後 彼が爆撃で死亡した証拠映像が公開され、イスラエル側の主張が虚偽だった ことが判明している。
この調査を通じて、Kashifは「Pallywood」という言説自体が誤情報であり、パレスチナ人の証言を意図的に貶めるプロパガンダの一環 であることを示した。
2. SNSの誤情報エコシステム:プロパガンダの最前線
Kashifの年次報告書には、2024年の活動の一環として、パレスチナを巡る誤情報を拡散するSNSアカウントについての分析も含まれている。特に、以下のアカウントに関する調査が行われた。
- 「Hoda_jannat」:戦争に関する誤情報を拡散するアカウント。ガザの戦況について虚偽のデータを流布。
- 「YoubaTV」「Gazawood」:パレスチナの戦争状況を「映画のセット」になぞらえ、戦場の映像が捏造であるとする主張を繰り返すアカウント。
これらのアカウントは、単なる個人の発信ではなく、組織的なネットワークによって支えられている可能性が高い。特に、イスラエル政府や親イスラエル派のグループとの関係性が疑われており、誤情報の拡散が 戦略的に行われている ことを示唆する。
この調査結果は、SNS上での誤情報の広がりを分析する際の貴重な事例となる。
3. AIと戦争プロパガンダ:誤情報のオートメーション化
Kashifの2024年の取り組みの中には、AIやビデオゲームが誤情報ツールとして使われたケースの調査 も含まれている。
報告書によると、2023年10月以降の戦争報道において AI生成画像が大量に使用され、誤情報として拡散された ケースが確認されている。特に、戦争の被害を誇張するAI画像 や、イスラエル軍の攻撃が正当化されるように加工された映像 などが流布された。
また、実際の戦場映像として「ビデオゲームの映像」が使用される ケースも報告されている。これはウクライナ戦争でも見られた現象だが、AI技術の発展により、さらに精巧なフェイク映像が生成されているという。
この分析からわかるのは、戦争プロパガンダの一部が「オートメーション化」しつつある という点だ。今後の誤情報対策には、AI技術を活用したディープフェイクの検証が不可欠になっていくだろう。
結論:パレスチナのファクトチェック活動が示す「もう一つの視点」
Kashifの年次報告書は、2024年にKashifが行ったファクトチェック活動の記録であり、その中で明らかになった偽情報のトレンドを整理したものだ。
- 「Pallywood」キャンペーンの分析は、誤情報そのものがプロパガンダの一部であることを示す事例。
- SNSの誤情報エコシステムの調査は、組織的な情報操作の存在を示唆。
- AIの発展により、戦争プロパガンダはより精巧で自動化されたものになってきている。
この報告書は、パレスチナの視点から誤情報対策を考える上で、重要な知見を提供している。西側の視点だけでは見えにくい「もう一つの視点」を知るためにも、Kashifの活動は今後も注目すべきだろう。
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