偽情報への懸念、過去最高値に――IPR・Leger第6回年次調査が示す米国社会の亀裂と党派対立

偽情報への懸念、過去最高値に――IPR・Leger第6回年次調査が示す米国社会の亀裂と党派対立 偽情報の拡散

 Institute for Public Relations(IPR)は、企業広報とパブリックリレーションズの実務を研究に基づいて高度化することを目的とする米国の独立非営利研究財団であり、自らを「パブリックリレーションズという技芸の背後にある科学」に取り組む組織と位置づけている。Legerはカナダ最大級の市場調査・分析会社で、1986年の設立以来カナダと米国に8拠点、600人超の従業員を抱え、Canadian Research Insights Council(CRIC)やESOMAR、Insights Associationなど業界団体に加盟する調査品質の認証を受けた企業である。両者は2019年からこの調査を共同実施しており、2026年4月に公表された今回のレポート「6TH ANNUAL IPR-LEGER DISINFORMATION IN SOCIETY REPORT」は6回目にあたる。調査はLegerが2026年2月25日から3月13日にかけてオンラインで実施し、18歳以上の米国人2,007人から回答を得た。サンプルは2020年国勢調査の変数(性別、年齢、地域、民族)に基づき米国人口の構成比に合わせて重み付けされている。同一の調査設計は2022年にカナダでも実施されている。レポートの執筆はApril Yue博士とTina McCorkindale博士、デザインはAvery Ensingが担当した。

 レポートは「misinformation(誤情報)」と「disinformation(偽情報)」を明確に区別して質問している。前者は「意図の有無を問わず拡散される虚偽の情報」、後者は「意図的に誤解を招く、または偏った情報」と定義され、以下で言及する数値もこの定義に基づく回答である。なお本稿における前年比較の数値(pp=percentage point、ポイント)はすべて2025年調査との比較であり、「変化なし」と明記されている項目は矢印表示がないことを意味する。

「起きている」という実感――過去最高値に達した懸念

 米国が直面する21項目の社会課題のうち、偽情報は3位(71%)、誤情報は5位(68%)にランクされ、違法薬物乱用(64%)や銃暴力(64%)、犯罪(61%)を上回った。「深刻な問題」と回答された上位4項目は医療費(81%)、経済(72%)、偽情報(71%)、ホームレス問題(71%)の順であり、偽情報は2023年の落ち込みを経て2026年に過去最高値に達している。

順位項目2026年「深刻な問題」との回答率前年からの変化
1医療費81%+1pp
2経済72%-6pp
3偽情報(disinformation)71%+1pp
3ホームレス問題71%-4pp
5誤情報(misinformation)68%-2pp
6飢餓・貧困67%-3pp
7違法薬物の乱用・依存64%-6pp
7銃暴力64%-2pp
9世界的な紛争・戦争・テロ63%変化なし
9データ・サイバーセキュリティ63%+2pp
11犯罪・法執行・治安61%-4pp
12政治的党派対立60%+4pp
13教育の質58%-5pp
14社会における礼節56%-2pp
15移民・国境警備54%-6pp

 経済やホームレス問題、犯罪、教育など多くの項目が前年より懸念を後退させる中、偽情報だけが微増を続けている点は、この6年間の調査を通じて一貫した傾向であり、単発的な政治イベントへの反応ではなく構造的な懸念の定着を示している。

分極化・人権侵害・選挙不信という三重の脅威

 回答者の76%が「偽情報は政党間の分極化を強める」ことに同意し、19%が反対、61%が「偽情報は人権を侵害する」ことに同意した(反対28%)。さらに65%が「偽情報は選挙プロセスを損なう」と回答しており、この項目については党派差が比較的小さく、共和党支持者64%、民主党支持者68%と、他の設問に比べて認識のギャップが縮まっている。この3設問はいずれも「同意する」が過半数を大きく超えており、偽情報が単なる情報の質の問題ではなく、政治制度そのものへの脅威として認識されていることを示す。

個人の心理と行動に刻まれる影響

 半数(50%)が「偽情報に遭遇すると不安やストレスを感じる」と回答し、この数値は2025年から変化していない。40%超が「偽情報の多さのためにニュースを見る・読む・聞くことを避けている」と回答し、これも前年から横ばいである。同時に50%が「誤って偽情報を共有してしまうことを心配している」と回答しており、これは自己の情報発信行動に対する不安が定着していることを示す指標として、レポートが今回特に強調した論点のひとつである。

 情報の真偽を見極める自信については、81%が「偽情報を認識する自分の能力」に少なくとも「ある程度」自信があると回答(うち25%が「非常に自信がある」、56%が「ある程度自信がある」)し、自信がないとした回答は18%にとどまった。実際の検証行動としては、48%が「他のウェブサイトで情報の正確性を確認する」ことを「よく」または「常に」行うと回答し、これは前年から+4ppの上昇である。34%は「時々」確認し、16%は「めったに」または「まったく」確認しないと回答した。

 ニュース接触の一次情報源はテレビ(30%、-1pp)が首位を維持し、ソーシャルメディア(22%、+1pp)が続く。ソーシャルメディア上でのニュース共有頻度については、週1回以上共有すると回答した割合が36%(前年からほぼ変化なし)、「めったに、またはまったく共有しない」が51%(+1pp)であった。

生成AIへの脅威認識は後退、しかし信頼はまだ低い

 「人工知能のプラットフォームやプログラムは社会における偽情報をさらに増加させるだろう」という設問への同意率は45%で、2025年の56%から11ポイント低下した(反対37%、どちらでもない15%、無回答3%)。この低下幅は今回の調査で追跡された態度変化の中でも最大級であり、AIに対する脅威認識が緩和されつつあることを示す数少ない指標となっている。

 一方で、生成AI自体への信頼はまだ限定的である。ChatGPTなど生成AIプログラムに対して「まったく信頼しない」と回答した割合は28%で前年から+4pp上昇し、「大いに信頼する」と回答した割合は10%で変化がなかった。オンライン・SNSプラットフォームの中で「信頼しない」(「あまり」または「まったく」信頼しないの合計)と回答された割合を見ると、Facebook(64%)、Snapchat(63%)、TikTok(61%)、X(60%)、Instagram(59%)、WhatsApp(58%)、Truth Social(55%)、Threads(53%)、Telegram・Quora・Discordなどの議論系プラットフォーム(52%)、ChatGPTなど生成AI(51%)、Reddit(48%)、LinkedIn(45%)、YouTube(42%)の順となっており、YouTubeを除くほぼ全てのプラットフォームで不信感が前年より上昇した。すなわち、AIが偽情報の”原因”になるという脅威認識は後退した一方、AIそのものが”情報源”として信頼されているわけではないという二重構造が浮かび上がる。

誰が拡散の責任を負うのか――プラットフォームと政府

 「偽情報の拡散に少なくとも『ある程度』責任がある」と回答された上位の情報源は、Facebook(75%、+2pp)が首位で、米連邦政府(72%、変化なし)、権威主義的な非民主国家の政府(69%、-2pp)、政治活動団体(69%、-2pp)、ジャーナリスト(68%、+1pp)、TikTok(68%、+1pp)、Fox News(67%、+1pp)、大企業・大手法人(66%、+2pp)、トランプ大統領(66%、+2pp)、共和党議員(66%、変化なし)、X(旧Twitter、65%、-2pp)、ネットワークTVニュース局(64%)、Instagram(64%、+1pp)、広報・マーケティング専門職(64%、+2pp)、Telegram・Discordなど議論系プラットフォーム(63%、+5pp)、イーロン・マスク(60%、-2pp)、民主党議員(60%、-1pp)、連邦機関(59%、+2pp)、Truth Social(59%、+10pp)、JD・バンス副大統領(58%、+5pp)と続く。とりわけTruth Socialの+10ppは今回の調査で最大の上昇幅であり、単一プラットフォームとしては突出した変化として記録されている。ソーシャルメディア単体で見ればFacebook、TikTok、Xの上位3プラットフォームが最も責任を問われる存在であり、政府・政治団体では米連邦政府、権威主義国家の政府、政治活動団体が上位を占める。対照的に、家族(10%)、自分に似た人々(10%)、友人(9%)、勤務先(6%)を「非常に責任がある」とした回答者はいずれも1割前後にとどまり、個人的なネットワークは拡散責任がもっとも低いと認識されている。

党派によって異なる「加害者」像

 拡散責任の認識は支持政党によって大きく分岐する。民主党支持者が最も責任を問う対象はFox News(87%)、共和党議員(86%)、トランプ大統領(85%)、イーロン・マスク(83%)である。これに対し共和党支持者が最も責任を問う対象は民主党議員(81%)、ジャーナリスト(80%)、ネットワークTVニュース局(78%)となっており、双方が相手陣営の政治家とメディアを名指しする構図が鮮明である。個別項目で見ると、トランプ大統領を「少なくともある程度責任がある」とする回答は民主党支持者で85%(+2pp)、共和党支持者で45%(+1pp)と40ポイントの開きがあり、ジャーナリストを「非常に責任がある」と回答した割合は共和党支持者で47%、民主党支持者で17%と、共和党支持者の方が2倍以上高い。

「べき論」と実績の乖離――対策責任者への評価

 回答者に「メディアにおける偽情報対策としてどの主体がどの程度責任を負うべきか」を尋ねたところ、22の主体が過半数から「非常に責任がある」と評価された。最上位はトランプ大統領・バンス副大統領(69%、+2pp)で、米国政府(68%、-1pp)、米国立法府(67%、+5pp)が続き、米国司法府、ネットワークTVニュース、連邦機関がいずれも66%で並ぶ。しかし同じ主体に「実際にどれだけうまく偽情報に対処できているか」を尋ねると、評価は大きく下落する。レポートはこの「べき論(should)」と「実績評価(doing)」の差分をポイント差として明示しており、その乖離幅は次の通りである。

主体べき論:非常に責任がある実績:ある程度以上うまく対処乖離幅
トランプ大統領・バンス副大統領69%34%35pp
米国政府(地方・連邦・州)68%30%38pp
米国立法府67%26%41pp
米国司法府66%40%26pp
ネットワークTVニュース局66%38%28pp
連邦機関(FDA、CDCなど)66%33%33pp
米国紙(WSJ、NYTなど)64%38%26pp
ジャーナリスト63%44%19pp
ケーブルニュース(Fox、MSNBC、CNN)62%34%28pp
地域テレビ・ラジオニュース60%51%9pp
地域新聞・オンラインニュース60%42%18pp
国際ニュース(BBC、Al Jazeeraなど)59%43%16pp
ファクトチェックサイト(Snopes、PolitiFactなど)57%55%2pp

 乖離幅が最も大きいのは米国立法府の41ポイントで、米国政府全体でも38ポイントに達する。逆に乖離が最小なのはファクトチェックサイトの2ポイントであり、地域放送ニュースも9ポイントと一桁台にとどまる唯一の主体である。つまり、政府や議会、大統領・副大統領といった政治的な主体ほど「責任は重いが実効性は低い」と評価され、ファクトチェック機関や地域ニュースのように専門特化・地域密着型の主体ほど期待と実績のギャップが小さいという構造が読み取れる。なお回答者自身(Me)が偽情報対策に「少なくともある程度うまく」取り組んでいるとした割合は70%、「自分に似た人々」も61%と、いずれも制度的主体を大きく上回っており、個人の自己評価と制度への評価の間にも明確な非対称性がある。

個人・地域への信頼シフトと党派を超えた例外としての地域ニュース

 正確なニュースや情報の提供者として信頼される情報源のランキングでは、家族(77%)と「自分に似た人々」(77%)が同率で首位に立ち、友人(75%)、検索エンジン(72%)が続く。米軍(61%、-3pp)、大学・カレッジ(58%、-2pp)、ネットワークTVニュース局(59%)、地域自治体(53%)、ジャーナリスト(53%、-1pp)といった制度的主体は、いずれも個人的なつながりを下回る。地域放送ニュース(65%)と地域紙・オンラインニュース(62%)は、依然としてメディアの中では最も信頼される部類に入る。機関全体で見ると米軍(61%、-3pp)、大学・カレッジ(58%、-2pp)、ジャーナリスト(53%、-1pp)、非営利・NGO(51%、+2pp)、連邦機関(49%、-2pp)、勤務先(39%、+2pp)、大企業(32%、変化なし)、広報・マーケティング専門職(28%、-2pp)の順に信頼が下がり、多くの機関で前年より信頼が低下している。

 党派間の分断は主流メディアへの信頼で最も顕著に表れる。Fox Newsへの信頼は共和党支持者で68%、民主党支持者で24%と44ポイントの差があり、これが全情報源の中で最大の党派間ギャップである。逆にCNN、NPR、BBC、The New York Times、MSNBCといった主流メディアは民主党支持者の信頼がそれぞれ+36pp、+33pp、+32pp、+31pp、+28ppと共和党支持者を大きく上回り、The Washington Post(+22pp)、USA Today(+20pp)、The Wall Street Journal(+19pp)でも同様の傾向が続く。こうした中で地域ニュースは例外的な位置を占める。地域放送ニュースへの信頼は民主党支持者75%、共和党支持者59%(差16ポイント、全体平均65%)、地域紙・オンラインニュースは民主党支持者74%、共和党支持者52%(差22ポイント、全体平均62%)であり、いずれも他の全国メディアに比べて党派間の差が小さい。地方ジャーナリズムの衰退が全米で”ニュース砂漠”を拡大させている現状を踏まえると、この党派を超えた信頼という資産は、地域報道の維持・支援策を検討するうえで重要な論点となる。

 政権への信頼についても変化があった。トランプ大統領を「まったく信頼しない」とした割合は49%(+8pp)、バンス副大統領は42%(+5pp)といずれも上昇した。一方で共和党支持者の米国政府への信頼は2025年の44%から2026年は60%へと16ポイント上昇し、逆に民主党支持者の米国政府への信頼は40%から32%へと8ポイント低下している。地方自治体への信頼では民主党支持者が62%で変化がなかったのに対し、共和党支持者は53%(+7pp)と上昇しており、連邦レベルと地方レベルで党派の信頼変動が異なる方向に動いている点は注目に値する。

企業・ブランドへの期待――プレスリリースが強調する経営課題としての側面

 レポート本体でも、76%が「企業やブランドは偽情報対策においてより強い役割を果たすべきだ」と回答し、78%が「ソーシャルメディア企業はプラットフォーム上の偽情報を能動的に削除すべきだ」、72%が「政府は偽情報に対処する規制を導入すべきだ」、69%が「偽情報を拡散した個人や組織は法的・金銭的な制裁を受けるべきだ」と回答している。これらの項目はいずれも前年から数ポイント上昇しており、政府・プラットフォーム・企業のいずれに対しても、より積極的な介入を求める世論が強まっていることを示す。

 本レポートの公表にあわせて配信されたプレスリリースでは、この企業・経営層への期待と実績の乖離がより明示的な数値で語られている。同リリースによれば、企業とCEOに対する「べき論」と「実際にうまく対処できているか」の評価の差は77%対25%、テック・ビジネスリーダーに関しては75%対31%に達するという。IPRの会長兼CEOであるTina McCorkindale博士はこのリリースの中で「この調査は、偽情報が重大な経営課題であることを明確に示している。組織や広報担当者、ブランド、そしてリーダーは、信頼を再構築し、情報・メディア環境を改善するうえでより大きな役割を果たすべきだ」と述べている。Legerの最高戦略責任者であるDave Scholz氏も同リリースで「コミュニケーション担当者やビジネスリーダーには、期待と実績のギャップを埋める重要な機会がある」とコメントしており、両者とも今回の調査結果を企業広報・経営の実務課題として位置づけている点が特徴的である。

結論――「誰か一人」では解決しない問題

 レポートは結論部分で5つの論点を提示している。第一に、偽情報対策の実効性への評価は期待に対して一貫して不足しており、誰が主導すべきかという世論と、実際にうまく機能しているという評価の間には断絶が残る。第二に、偽情報・誤情報への懸念は医療費、ホームレス、飢餓、違法薬物使用といった主要な社会課題と同水準にあり、2025年の反発以降、高止まりが続いている。第三に、偽情報は政治的分極化や民主的制度・権利への脅威と密接に結びついており、その見方は支持政党によって強く規定され、双方が対立する政治指導者やメディアを名指しする構図が固定化している。第四に、社会media・政府・政治指導者に対する行動と説明責任を求める声は明確であり、その一方で実際のパフォーマンスへの信頼は低いままである。第五に、信頼は制度から個人的なネットワークへとシフトしており、家族・友人・「自分に似た人々」がメディアや政治的な主体よりも信頼される情報源として定着している。この最後の点についてレポートは、メディアリテラシー教育や個人・コミュニティ単位での対策が、偽情報の拡散を抑制するうえで今後より重要な役割を果たす可能性を示唆している。

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