欧州デジタルメディア観測所(European Digital Media Observatory、以下EDMO)は2026年7月23日、“FIFA World Cup 2026: How Disinformation Plays on Our Deepest Instincts”と題するマンスリーレポート第1号を公開した。EDMOはEUのHorizon Europeプログラムの資金提供(契約番号300141274)により運営される、偽情報対策とメディアリテラシーを専門とするEUの拠点組織で、フィレンツェの欧州大学院(EUI)のFlorence School of Transnational Governanceに拠点を置く。今回の発行は、5年間・60号にわたって続いてきた月次刊行物”EDMO Monthly Briefs”の後継であり、名称と構成を刷新した最初の号にあたる。編集はPagella Politica/FactaのLucia BertoldiniとTommaso Canettaが担当し(FIMIセクションを除く)、FIMI(Foreign Information Manipulation and Interference、外国による情報操作・干渉)セクションはスロバキアのシンクタンクGLOBSECのKatarína KlingováとJakub Kubśが担当した。
レポートの情報源は、EDMOのファクトチェックネットワークに加盟する70以上の団体に毎月配布される質問票である。今号の回答団体数は46で、対象期間は2026年6月1日から30日までの1か月間。名称変更に伴い、対象地域はこれまでのEU加盟国とノルウェーに加えて非EU諸国にも拡大され、GLOBSECが担当する新設のFIMIセクションが加わった。構成は4部から成る。第1部は質問票に回答したEDMO加盟団体がカバーする欧州各国の概観と、国別に広く拡散した偽情報の分布地図。第2部はEUとノルウェーを対象に、偽情報トピックの定量モニタリング、AI生成偽情報の動向分析、月間の主要ナラティブ分析、各国レベルで際立った偽情報事例の紹介。第3部は非EU諸国を対象にした同様のナラティブ分析と事例紹介。第4部がFIMI分析で、行為者とTTPs(Tactics, Techniques, and Procedures、手口・技術・手順)に着目し、Pravda News/Portal Kombatなど既知のFIMIネットワークについてどの加盟団体が関連アカウントやコンテンツに遭遇したかを継続的に追跡する仕組みを新設した。
EU加盟団体としてAFP、Austria Press Agency(APA)、CORRECTIV、Delfi Lithuania、Delfi Estonia、Demagog.org.pl、Demagog.cz、Demagog.sk、EFE Verifica、Ellinika Hoaxes、Fact Check Cyprus、Factcheck Vlaanderen、Faktisk.no、Faktograf、Factual.ro、Greece Fact Check、INFOVERITAS、Källkritikbyrån、Lakmusz、Maldita.es、Newtral、Oštro、Pagella Politica/Facta、Polígrafo、Pravda Association Poland、Media Provereno、Re:Baltica、The Journal FactCheck、TjekDet、VerificaRTVE、Verificat、15minの31団体が名を連ね、非EU欧州団体としてBelarusian Investigative Center、Doğruluk Payı、Faktoje Albania、FakeNews Tracker、Geofacts、Hibrid.info、InternewsKosova、Istinomer.rs、Istinomjer.ba、Metamorphosis Foundation、Myth Detector、Raskrinkavanje.me、Teyit、Vox Ukraineの14団体が加わっている。
欧州で最も拡散した5つの偽情報
レポートの第1部には、加盟団体が報告した中でも国境を越えて広く拡散した偽情報上位5件と、それぞれがどの国で確認されたかを示す欧州地図が掲載されている。5件は、ワールドカップの女性サポーターを性的に描写するAI生成動画、プライド月間に合わせたプライドパレードを標的にしたAIないし文脈を無視したコンテンツ、ウクライナのゼレンスキー大統領がロシア軍の急襲で殺害されたという偽情報、ジャレッド・クシュナー(Jared Kushner)の不動産開発をめぐるアルバニアの抗議運動に関する文脈を無視した画像・動画、そしてコンゴ民主共和国のエボラ流行が金採掘によって引き起こされたという偽情報である。地図では、EU加盟国とノルウェーが灰色、EDMO加盟の非EU諸国が白、EDMO非対象国がハッチング、データなしが別枠で色分けされ、5件それぞれがどの国で確認されたかが記号でプロットされている。
EU域内の定量モニタリング:移民とウクライナが牽引
EUとノルウェーの加盟団体32団体が2026年6月に公開したファクトチェック記事は合計1,361本で、トピック別の内訳は次の通りである。
| トピック | 件数 | 割合 |
|---|---|---|
| 移民 | 134 | 10% |
| ウクライナ | 131 | 10% |
| 健康(COVID-19除く、今月新設カテゴリー) | 106 | 8% |
| EU関連 | 69 | 5% |
| 気候変動 | 51 | 4% |
| パレスチナ情勢 | 30 | 2% |
| LGBTQ+・ジェンダー | 23 | 2% |
| COVID-19 | 21 | 1% |
| イスラエル/米国とイランの戦争 | 18 | 1% |
これまでの月と同様、6月も移民とウクライナ戦争が最も標的にされたトピックだった。移民関連の偽情報検出は前月比3ポイント増加した一方、ウクライナ関連は横ばいで推移した。夏場によく見られる傾向として気候変動関連の偽情報も増加したが、今年は1ポイント増にとどまった。プライド月間の影響とみられるLGBTQ+コミュニティを標的にした偽情報も1ポイント増加している。他方、COVID-19関連は3ポイント減、米国・イスラエルとイランの戦争関連は2ポイント減となった。これ以外のトピックは軽微な変動にとどまり、おおむね横ばいだった。
AI生成偽情報の増加:ワールドカップが起爆剤に
5月に落ち込みを見せたAI生成・AI加工コンテンツの割合は、6月に再び4ポイント増加した。1,361本のファクトチェック記事のうち210本(15%)がこの種のコンテンツを扱っており、2023年3月からの推移を示す折れ線グラフでは、2025年後半から2026年前半にかけて急激な上昇トレンドが確認できる。
この増加の主因として、レポートはFIFA男子ワールドカップに便乗して作られた、しばしば性的に誇張されたAI生成の「ファンカム」動画の流行を挙げている。具体的な事例として、ドイツの試合を観戦するアドルフ・ヒトラーの扮装をしたファンを描いたバイラル動画、デンマークの学校のクラスがイスラム教の礼拝に参加している様子を捏造してイスラム嫌悪を煽った事例、パリ・サンジェルマン(PSG)のチャンピオンズリーグ優勝を祝う中で移民によって通りが破壊されたと主張する反移民感情を煽った事例が挙げられている。ウクライナ戦争もAI生成偽情報の標的となり、ウクライナが自作自演の攻撃を行った「証拠」とされる加工画像や、ゼレンスキー大統領がヒトラーのポーズを模倣したとされる画像が拡散した。
ナラティブ分析1:ワールドカップに便乗した人種差別・性差別・政治的偽情報
FIFA男子ワールドカップは6月11日に開幕し、開幕とともに偽情報の発信者らが大会の国際的な注目度を利用し始めた。前述の通り、AIはスタジアムの女性を性的に描写する動画・画像の生成と収益化に広く用いられたほか、実況担当者の発言を改ざんして人種差別的な発言を挿入する目的にも使われた。LGBTQ+コミュニティも標的となり、クロアチア代表主将ルカ・モドリッチが大会でレインボーカラーの腕章を着用しないという偽情報が拡散し、セルビアではテニス選手ノバク・ジョコビッチについて全仏オープンで同様の偽情報が流布した。
大会とその出場選手をめぐる偽情報には政治的な主張も頻繁に絡んだ。ポーランド国旗がハイチ代表のユニフォームに、ハイチ革命に参加したポーランド軍団への敬意を表すために採用されているという偽投稿が拡散した。スウェーデン代表のルーカス・ベリバルは「グレート・リプレイスメント(大置換)」理論と結びつけられた高度に政治的な偽情報の標的となり、「僕に気がある女性は全員、大量移民に投票するのをやめてほしい。さもなければ僕の民族は存在しなくなる」と発言したとする偽情報が流布した。フランス代表主将キリアン・エムバペも、マクロン仏大統領を理由にPSGからレアル・マドリードに移籍したことを明かしたとする偽情報の標的となったが、これは親ロシア派の偽情報発信によるものである可能性が高いとレポートは指摘している。
ナラティブ分析2:熱波に便乗した気候変動否定論
夏季や異常気象の後によく見られる傾向として、気候関連の偽情報と気候変動否定論がEU域内のソーシャルメディアで拡散した。最も拡散した主張の一つは定番化した手口で、異なる時期の欧州天気予報図を比較し、地球温暖化が「でっちあげ」であることを示唆するものだった。この語りはAI生成コンテンツによっても後押しされ、現在の「主流」メディアが過度にドラマチックな報道を行い、熱波による死者数を捏造しているとする主張と結びついていた。別の気候変動否定論として、ドナルド・トランプ米大統領が、国連自身が気候変動予測の誤りを認めたとする偽情報を共有した事例も紹介されている。
熱波がヨーロッパを襲う中では、ドイツとイタリアの路上の信号機が熱で溶けたとする偽の画像も共有された。こうした偽情報が蔓延する環境の中で、再生可能エネルギーに関する偽情報、たとえば太陽光発電所の建設は石炭火力発電所よりも環境に有害だという主張も広まった。
ナラティブ分析3:移民とウクライナ戦争をめぐる偽情報
6月の移民関連偽情報の増加は、北アイルランドのベルファストで40歳男性が刺されたことをきっかけに発生した暴動と関連している可能性が高い(英国・アイルランドで過去数年繰り返されてきた構図である)。アイルランドでは「外国人」から渡された名刺に触れた女性が薬物を盛られたという偽ニュースが流布した。ドイツでは、アンゲラ・メルケル元首相が極右台頭を抑えるために意図的に「第三世界からの移民」で自国を「氾濫させた」と認めたとする偽情報が拡散した。オランダでは、パキスタン系の人々が服装をわいせつだと感じたためマネキンが警察に押収されたという偽情報が広まった。さらに、欧州各地でイスラム教徒によって教会が放火されているという常套的な主張や、英国で移民系のグループによって25万人の少女が性的虐待を受けているという主張も繰り返し確認された。
6月の反ウクライナ偽情報は、当時の米国家情報長官タルシ・ギャバードによる、ウクライナ国内の生物兵器製造秘密研究所に関する発言によって後押しされた。親ロシア派の偽情報チャンネルは、ハーグの常設仲裁裁判所がロシアのクリミア主権を認めたという虚偽の主張も拡散した。一方で、EU諸国によるウクライナ支援を誇張する偽情報も広まり、たとえばドイツがウクライナの住宅建設に2億3,300万ユーロを投資しているという主張や、チェコのペトル・パヴェル大統領が自身の献血をウクライナに送るよう依頼したという主張が確認された。ウクライナ高官の腐敗をめぐる既知の偽情報も継続して流布し、ウクライナ当局者が近くスーパーヨットを購入しようとしているといった主張が挙げられている。トピックを横断する興味深い事例として、ウクライナが今後10年間でアジア・アフリカから450万人の労働者を受け入れる計画であり、ウクライナがEUに加盟すればこれらの労働者にEU域内の移動の自由が付与されるという偽情報も確認された。
加盟国レベルで最も影響力のあった偽情報
国別に見て特に注目された偽情報事例として、レポートは以下の4件を紹介している。
| 国 | 偽情報の内容 |
|---|---|
| ノルウェー | 10代の少女がノルウェーの児童保護サービスによって人身売買され殺害された |
| ハンガリー | ペーテル・マジャール首相がEUの移民協定に抗議するデモ参加者に中指を立てた |
| キプロス | 2011年のマリ海軍基地爆発は事故ではなく、国内外の勢力による意図的な破壊工作だった |
| チェコ共和国 | ペトル・パヴェル大統領が「チェコ人はウクライナのために戦う」と発言したとされる |
EU域外欧州:ウクライナ・ベラルーシにおける親クレムリン言説とバルカン半島の分断煽動
非EU欧州(欧州評議会加盟国に加え、コソボ、ベラルーシ、ロシアを含む)では、ウクライナで複数の親ロシア派ナラティブが6月中に検出された。EU諸国出身の傭兵がウクライナで戦っているという既存の主張は継続し、その一変種として、ポーランド人傭兵がウクライナ軍(UAF)内部で軍内対立により最も高い死傷率を被っているとする主張が確認された。この主張は、ウクライナ蜂起軍にちなんだ軍事部隊の名称をめぐる対立で悪化していたワルシャワ・キーウ関係を、ポーランドを標的にした他の偽情報とともにさらに悪化させることを狙ったものだった。親ロシア派プロパガンダは、ウクライナによるモスクワへのドローン攻撃やルーマニアへのロシア製ドローン墜落といった最近の軍事的出来事を、クレムリンに有利な形で再構成する試みも見せた。EUがウクライナの兵役対象男性への一時保護提供を拒否し、近く強制送還を始めるという誤解を招く主張でEUを標的にしたほか、ウクライナの指導部を臆病で二重基準を用いていると描く偽情報も確認された。
ベラルーシでは、EU諸国を道徳的に堕落し無力な存在として、そこに住む人々を貧しく不利な立場にあると描く反EU偽情報が流布した。たとえばEU域内の栄養不足の状況が悪化しているという偽の主張が挙げられる。親ロシア派の偽情報は、戦争終結のためウクライナ軍(UAF)がドネツク地域から撤退することを支持するウクライナ人の割合が毎月5〜6ポイントずつ増加しているという虚偽の主張も拡散した。
バルカン半島では、偽情報の多くが各国間の分断と憎悪を煽ることを狙っていた。セルビアでは、モンテネグロの市民が「セルビア人は虐殺を行う民族ではない」と発言すると禁固刑に処されるという偽ニュースが流布した。北マケドニアでは、2001年のアルバニア系ゲリラ組織の指導者(「DUI司令官」)が導入した新規則により、「顎髭を生やしたワッハーブ派」やUÇKメンバーが市民を巡回・特定できるようになったという偽情報が確認された。モンテネグロでは、クロアチアのゾラン・ミラノヴィッチ大統領がクロアチア軍艦でティヴァトに到着したという偽情報が拡散した。反EU・反NATOの偽情報も地域の分断を利用し、「西側のプロジェクト」が北マケドニアを近隣諸国による分割によって解体しようとしているという主張や、コソボにおけるNATOのKFOR(コソボ治安維持部隊)がセルビア系住民にとって脅威であるという主張が確認された。
6月7日に実施されたコソボの選挙を前に、Vetëvendosje運動(LVV)の候補者でイマームのオスマン・ムスリウの性的指向と個人的アイデンティティを標的にした偽情報が拡散した。一方セルビアとロシアのメディアは、「セルビア人リスト」がコソボにおけるセルビア人コミュニティの唯一の正統な政治的代表であるという分断的かつ虚偽のナラティブを強めた。西バルカン、そして欧州全体で(前述の5大偽情報の一つとして)注目を集めたもう一つの焦点は、ジャレッド・クシュナーの投資グループによる保護対象の沿岸地に対する高級観光開発計画に反対するアルバニアの抗議運動で、これは広範な反政府運動へと発展した。AI生成または文脈を無視した画像・動画が、抗議運動に外国勢力が関与しているとの印象を与えるため、抗議運動を共産主義と結びつけるため、その規模を誇張するため、あるいはアルバニアがイスラエルに土地を売却していることを「証明」するために拡散した。
ジョージア・アルメニア・トルコにおける偽情報
ジョージアでは、EU諸国を不利な状況にある存在として描く偽情報が確認された。ロンドンのある地区にホームレスが多数居住する困難な生活状況を映しているとされる動画や、ドイツの年金額をジョージアの年金額と比較して問題視する偽情報がその例である。ジョージアにおけるEUを標的にしたもう一つのナラティブはモルドバも巻き込むもので、モルドバは民主主義の面でジョージアより劣っているにもかかわらずEUに優遇されている一方、ジョージアはロシアに対する「第二戦線」を開くことを拒否したために「罰せられている」という主張だった。
6月7日実施のアルメニア議会選挙も反EU感情を煽るために利用された。フランスのマクロン大統領が「親欧州であれば民主主義であり、親ロシアであれば外国からの干渉だ」と発言したとする偽情報が拡散した。このナラティブの中で、OSCEのアルメニア選挙監視団団長ヤネズ・レナルチッチが、同国の選挙は前例のない国内圧力や外部からの制裁・脅威の下で実施されたと発言したという主張も広まったが、実際には彼はロシアによる外国からの干渉について言及していた。
トルコでは、野党指導者ケマル・クルチダロールを標的にした国内政治的偽情報が確認され、彼が組織したとされる集会を映した動画も共有された。近隣の西アジアで起きている国際紛争に関連する偽ニュースも確認され、イラン軍が米軍のヘリコプターを撃墜した、あるいはイスラエル兵がレバノンの教会を破壊したとするAI生成コンテンツが拡散した。
EU域外における国内レベルの主要事例
| 国 | 偽情報の内容 |
|---|---|
| トルコ | 野党指導者ケマル・クルチダロールが俳優カディル・イナヌルの葬儀でブーイングを受けた |
| コソボ | アルビン・クルティ首相とイマームのオスマン・ムスリウがLGBTQ+のシンボルを身につけている加工画像 |
| ウクライナ | ゼレンスキー大統領がロシアによる全面侵攻前に、偽造書類を使って家族を国外に脱出させていた |
| ジョージア | 前大統領サロメ・ズーラビシビリが「ジョージアを統治する体制さえなければ、ジョージアはウクライナと共に立っているはずだ」と発言した |
FIMI分析:GLOBSECが見た行為者類型と拡散パターン
第4部のFIMI分析は、GLOBSECが開発したツールGladiOS(Gerulata Technologies製)の支援も得て作成された。レポートの結論部分は、2026年6月の情報操作の状況について、既存の行為者とナラティブへの依存が続く一方、商業的目的とイデオロギー的影響力を統合する運用戦術の高度化が顕著だったと総括している。とりわけ、真正なメディア素材の使い回しと再文脈化が国境を越えた支配的パターンとして識別され、悪質なオンラインキャンペーンの規模拡大と多様化のためにAI生成の視覚素材の活用が増加していることも指摘された。この力学を裏付ける2件の詳細なケーススタディとして、政治的分極化と商業的収益化を融合させたスウェーデン拠点のネットワークと、欧州域内のローカルな出来事に由来するLGBT関連コンテンツの国境を越えた増幅が取り上げられている。
GLOBSECは6月の情報環境を形作った行為者を、次の5類型に整理している。
| 行為者類型 | 特徴 |
|---|---|
| 常連の親クレムリン発信源・増幅者 | ウクライナ・NATO・EUを批判するナラティブの発信と増幅を継続し、ロシアの地政学的利益と一致する活動を行う |
| 合成型ローカルペルソナ | AI生成のプロフィール画像を用いた人工的なアカウントが増加し、流暢な現地語の政治的コンテンツを発信・相互共有することで草の根的な支持があるかのような錯覚を作り出す |
| 公人・党派的人物 | 既存の政治・公的な立場を持つ人物が誤解を招く主張の発信経路となり、移民・公共政策・ワクチンなど機微な話題に信頼性の外観を与える |
| 商業目的のクリックベイト・詐欺ネットワーク | 捏造ニュースや感情を煽るストーリー、なりすましの手口を用いてクリックや広告収益、詐欺的な取引を狙う、利益動機と虚偽情報の融合を示す活動 |
| 協調的な複数アカウント活動 | 明確な出資者や調整の証拠が直ちには見えなくても、多数のアカウントが連携して発信する組織的な影響工作 |
また、拡散パターンとその戦略的含意についても4つの類型が整理されている。
| 拡散パターン | 内容 |
|---|---|
| 国境を越えた再利用とラベルの貼り替え | 真正な映像・写真・地図・文書を元の文脈から切り離し、新たな政治的・地理的ナラティブに転用する。完全な捏造に頼らずに認識を操作する |
| 既知アセットの持続性 | 既に特定されたアカウント・チャンネル・公人・メディアの高い再出現率は、頑健で持続的な発信インフラの存在を示し、検出と対策を継続的な課題にしている |
| 権威を利用した拡散 | 捏造された専門家、なりすましたメディアブランド、合成された専門職ペルソナを用いて、情報生態系内の信頼メカニズムを悪用する |
| 商業的・イデオロギー的インセンティブの併存 | 政治的・地政学的影響力の追求と、クリックや広告収入、詐欺的な転換による金銭的利益の追求という二重動機が併存し、プロパガンダと利益追求の境界を曖昧にする |
ケーススタディ1:スウェーデン発、政治的分極化と商業収益化を融合させたネットワーク
GLOBSECがEDMOアイルランドと共同で実施した詳細な調査は、イデオロギー的影響力と商業的収益化が融合した高度なクロスプラットフォームのネットワークを特定した。このネットワークは、強い分極を生む言説を用いて注目を集め、ユーザーを体系的に商業サイトへ誘導しているとみられる。
活動の主な場はInstagramで、宗教的・反移民的・陰謀論的なコンテンツを発信するアカウント群が確認された。これらのプロフィールは自らを極右、反イスラム教、あるいはキリスト教をテーマにしたページとして提示し、物議を醸す感情的な投稿によって高いエンゲージメントを生み出している。こうして集めた注目は商業的なトラフィックへと転換され、ユーザーはジュエリーを販売するSacredchristians.comや、サバイバル用品と健康サプリメント(ワクチンの「スパイクタンパク質」に関する誤解を招く主張で宣伝される製品を含む)を扱うSurvival-hub.comといったオンラインストアへ誘導される。
入手された証拠からは、スウェーデン在住とみられる個人がこのネットワークを主導し、複数の「顔のない」ソーシャルメディアページを管理・支援してマーケティングの導線として利用している可能性が高いことが示されている。調査ではまた、宣伝用コンテンツにAI生成の視覚素材が使われていることも確認された。画像のメタデータ、プロンプトを思わせるファイル名、視覚的な不整合から、Googleの「Nano Banana」を含む生成AIツールが少なくとも一部のマーケティング素材の作成に使用された可能性が示唆されている。ただし、これらの知見は宣伝されている実物の商品自体が実在しないことを立証するものではない、とレポートは注記している。
調査は継続中で、関連するEDMOハブとの連携、公表に向けた調査結果の整理、特定されたネットワークの関連プラットフォームへの通報が予定されている。特定されたInstagramアカウント群は合計で450万人を超えるフォロワーを抱えている。レポートには実例として、投稿数731、フォロワー28.2万人、フォロー数18の「europedefenders」というアカウントが示されており、プロフィールには「愛国的なニュースとミームの一流の情報源/欧州の保護に尽力」との説明とSacredchristians.comへのリンクが記載されている。
ケーススタディ2:ヴィリニュスのLGBTQ+行進動画の国境を越えた増幅
このケーススタディは、リトアニア・ヴィリニュスでのLGBTQ+行進に関する動画が国境を越えて拡散した経緯を扱っており、ローカルな出来事が元の文脈から切り離され、影響力のある海外の行為者によって再流通し、その後欧州域内のネットワークによってさらに増幅されてより広範なイデオロギー的ナラティブを支える構図を示している。
動画は2024年6月12日にリトアニアのメディアが公開した正当な報道に由来し、ヴィリニュスのLGBTQ+行進で子どもがレインボーフラッグを踏みつける様子を捉えていた。元の記事では、この映像がすでにロシア語圏のTelegramチャンネルで、LGBTQ+コミュニティを貶め欧州に関するホモフォビックなナラティブを補強する目的で流通していたことが指摘されている。
ちょうど2年後の2026年6月12日、この動画は「アメリカ・ファースト」的立場を発信する米国拠点のアカウントによってX上で再浮上した。映像が2年前のものであることや、元の報道が提供していた文脈は一切示されなかった。このタイミングは、翌日にワルシャワで開催されるプライドの本行進の前日にあたり、ポーランドにおけるLGBTQ+関連の情報環境が高まった状況を生み出した点で意味を持ちうる。
6月18日、この動画は保守系オンラインコミュニティで大きな影響力を持つ米国拠点の著名な政治インフルエンサーによってさらに増幅された。このアカウントは、過去に米国の高官レベルの政治的発信の中で言及されたことで知名度を得ていた。この増幅は、米国の情報環境と欧州の視聴者をつなぐ橋渡しの役割を果たしたとみられる。
この介入の後、動画は急速に欧州へ「再輸出」された。6月18日から20日にかけて、動画は欧州各地のアカウントによって80回以上再投稿され、その中でもポーランドでの集中度が最も高かった。これらの投稿は合計で10万9,600件を超えるインタラクションと330万回を超える閲覧数を生み出した。拡散パターンはGerulata Technologiesが開発したツールGladiOSによって可視化されている。
このケースは、影響力の大きい海外のインフルエンサーが文脈を失ったコンテンツの国境を越えた流通を加速させ、欧州域内のアカウントによる下流の増幅を引き起こしうることを示している。観察されたパターンは、外国による情報操作と「インフォメーション・ロンダリング」に関連する特徴を示している。すなわち、古いコンテンツが政治的に敏感な文脈に戦略的に再導入され、時系列情報を剥ぎ取られた上で各国の情報空間全体に増幅されたということである。ただし、入手された証拠が示すのは拡散経路であって、中央集権的な調整や直接的な政治的スポンサーシップを証明するものではない、とレポートは慎重に留保している。
プラウダ・ネットワークとの関連分析
2026年6月に収集されたデータの分析から、とりわけポーランド、スペイン、バルカン半島において、プラウダ・ネットワーク(Pravda News/Portal Kombatとしても知られる親クレムリン系のニュースサイト・ネットワーク)との直接・間接的な関連が明らかになり、欧州各地で親クレムリンナラティブを増幅する役割を果たしていることが示された。
ポーランドでは、Demagog協会がTelegramチャンネルt.me/infokjuがプラウダ・ポーランドに引用されていたことを特定した。さらに、newsfactory_pl、ukr_leaks_pl、Olej_w_Glowie、RuskiStatekCzatの4つのTelegramチャンネルが、ポーランド語のプラウダ・サブドメインpoland.news-pravda[.]comの主要な情報源として特定され、中でもOlej_w_Glowieが最も頻繁に利用される情報源だった。スペインでは、VerificaRTVEが@pravdaescomという親ロシア派Telegramチャンネルを特定し、これがスペイン語のプラウダ・サブドメインspanish.newspravda[.]comの内容をミラーリングしていることを確認した。バルカン半島では、InternewsKosovaが、コソボにおけるセルビア系コミュニティの安全保障に関する@balkanarのコンテンツが、より広範なプラウダ・ネットワークによって利用・増幅され、バルカン半島・セルビアに焦点を当てたものを中心に68のプラウダ・ニューズ・サブドメインに掲載されていたことを報告している。
2026年6月中、プラウダ・ネットワークはEDMOプロジェクトが対象とする国々を標的にしたサブドメイン全体で、およそ13万800本の記事を公開した。新規公開されるコンテンツの量は月を通じて徐々に減少し、週末と一致する形で繰り返し落ち込みが見られた。同期間に最も頻繁に引用された上位20の情報源は、主に中東欧、とりわけポーランド、スロバキア、チェコ、ブルガリア、セルビア、ギリシャに関するTelegramチャンネルとウェブサイトで構成されていた(t.me/Olej_w_Glowieが9.5%、t.me/selskyrozumが9.42%、t.me/puchovinyが9.33%、t.me/koinos_nousが9.26%など)。公開量が最も多かったのはセルビア、ドイツ、スロバキアを標的にしたサブドメインで、セルビア向けサブドメインの突出は、同サブドメインが米国向けに次ぐプラウダ・ネットワーク最大級の国別セクションの一つであることと整合的だとレポートは指摘している。
複数のTelegramチャンネルが他国の情報発信源との関連を示す痕跡も確認された。たとえば、スロバキア語のt.me/puchovinyは連絡先として@selskyrozum_botというTelegramボットを掲載しており、ギリシャ語のt.me/koinos_nousは、ポーランドの親クレムリン系チャンネル@Olej_w_Glowie_botに関連する連絡先にリンクしていた。これらの相互参照は、一見ローカルなチャンネルの一部が、より広範な国境を越えた親クレムリン系のエコシステムと関連、支援、あるいはその中で運営されている可能性を示唆している。ただし入手された証拠だけでは、共通の所有権や中央集権的な統制を立証するには不十分である、とレポートは付言している。
6月に確認された最も重要な展開は、プラウダ・ネットワークの記事がTelegra.ph上で組織的に複製されていたことである。新たに公開された各記事のソースコードには、rel=”alternate”属性で示された代替リンクが含まれており、これがTelegra.ph上にホストされた同一コンテンツのミラー版へ誘導する仕組みになっていた。この手法は個々の国別セクションに限らず、プラウダ・ネットワークのサブドメイン全体に適用されているとみられる。直近の閲覧数への影響は限定的に見えるとしても、このメカニズムはコンテンツの持続性、発見可能性、自動化された情報検索により広範な影響を及ぼしうる。無料で匿名利用が可能な広く普及した公開プラットフォーム上にコンテンツをミラーリングすることで、プラウダの自社ドメインが制限・優先度低下・データ収集対象からの除外といった措置を受けた場合でも、その素材が利用可能な状態を維持できる可能性がある。Telegra.phドメイン全体を遮断・フィルタリングすることは、同プラットフォームが正当かつ無関係なコンテンツ、場合によっては反プロパガンダ的なコンテンツもホストしているため、はるかに困難になる。この手法は、親クレムリンのナラティブが検索エンジン、自動監視システム、そして大規模言語モデルが利用するデータセットにインデックス化・取得・組み込まれる可能性を高めうる。現時点でこの分析が示しているのは、プラウダ・ネットワークの素材の耐性と長期的な可視性を強化しうる、大規模なコンテンツミラーリング・インフラの存在である。この分析はGerulata Technologies製ツールGladiOSの支援を得て作成された。
手法と編集体制
このレポートに含まれる情報は、EDMOファクトチェックネットワークに加盟するファクトチェック団体に送付された質問票を通じて収集されたものであり、対象期間は2026年6月1日から30日まで、回答団体数は46である。FIMIセクションもGerulata Technologies製ツールGladiOSの支援を得て作成された。FIMIセクションを除く本レポートの主編集者はLucia BertoldiniとTommaso Canetta(Pagella Politica/Facta)で、問い合わせ先はt.canetta@pagellapolitica.itとされている。FIMIセクションの主編集者はKatarína KlingováとJakub Kubś(GLOBSEC)で、問い合わせ先はjakub.kubs@globsec.orgとされている。

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