令和8年熊本地震にみる災害偽情報の構造――人工地震説からAI加工写真、外国人排斥言説まで

令和8年熊本地震にみる災害偽情報の構造――人工地震説からAI加工写真、外国人排斥言説まで ファクトチェック

 2026年7月28日16時27分、熊本県熊本地方を震源とするマグニチュード7.1の地震が発生し、熊本県内で最大震度7を観測した。震源の深さは16キロメートル。気象庁は「令和8年熊本地震」のポータルサイトを開設し、8月14日時点でも「最大震度5弱程度以上の地震が平常時と比べ高い発生率で継続している」として警戒を呼びかけている(気象庁 令和8年熊本地震ポータルサイト)。NHKの報道によれば、8月3日18時時点で死者38人、避難所避難者8200人超、住家被害1万2000棟超、8月15日14時時点では災害関連死の疑いを含め死者39人、避難所避難者3205人と推移している(NHK 8月3日時点報道NHK 8月15日時点報道)。

 地震発生と同日の7月28日午後5時50分頃、地震発生からおよそ83分後に、熊本県上益城郡嘉島町の商業施設「イオンモール熊本」でLPG(液化石油ガス)漏れによるとみられる大規模爆発が発生し、2階南側の天井材が全面的に崩落するほどの被害を出した。経済産業省が8月5日に公表したガス供給事業者からの報告によれば、最終的な死傷者数は死者7人、軽傷者5人である(経済産業省 発表資料)。関西テレビの取材に応じた元東京消防庁特別救助隊の専門家は、施設の大型LPGタンク(最大収容量9367キログラム)の安全装置が地震後に正常に機能したか不明だとし、地震発生から爆発までの「空白の1時間」の間にガスが充満していった可能性を指摘している(関西テレビ 解説記事時事ドットコム特集)。この爆発は後述するように、それ自体が陰謀論の標的となった。

 震度7の直下型地震と大型商業施設の爆発が同時期に重なったことは、情報環境の観点からも重要な意味を持つ。被害の全体像が流動的で、行政発表と現場の断片的な映像・証言が錯綜する時間帯が長く続いたことが、以下に見る偽・誤情報の増殖を助長する土壌になった。

主要な偽・誤情報事例の一覧

 セキュリティ研究者が運営するブログ「piyolog」は、発災直後からSNS上で確認された偽・誤情報を時系列でまとめている(piyolog まとめ記事)。主要な事例を整理すると以下の通りである。

内容初出・拡散時期拡散規模訂正・対応
地震予知的中を主張する投稿(根拠のない予測を毎日投稿するアカウントによる)7月28日夜300万〜340万回以上の閲覧NHK等が「根拠のない予測」と報道
イオンモール爆発の生成AI偽動画(自撮り映像に爆発を合成)7月28日〜29日複数動画が拡散国立情報学研究所・越前功教授がAI生成と判定(7月29日)
能登半島地震(2024年)の映像を今回の地震映像として転用発災直後X・スレッズで複数投稿。中国語圏ではWeibo・網易・香港TVB・台湾FTVでも拡散スペクティ社、FNN、NHK等が検証。中国語圏の拡散はAFP香港支局が検証
「ななつ星」豪華列車が脱線したとする投稿7月28日X上で拡散JR九州が否定。八代駅付近の貨物列車事案との混同と判明
動物園からライオンが放たれたとする投稿(海外撮影画像を使用)7月28日SNSで拡散後、削除NHKが虚偽と確認
生き埋めを訴える偽の救助要請(実在しない住所を記載)7月28日深夜30万回以上閲覧、複数アカウントが同一文面で投稿投稿アカウントが閲覧不能に。消防・警察のリソース消耗が懸念された
被災者を装った送金要求(QRコード・電子マネー・口座振込)発災後数日複数アカウントで確認スペクティ社等が注意喚起
日本赤十字社をかたるなりすましメール(PayPay・口座振込を要求)7月30日複数報告日本赤十字社がURLクリック禁止を呼びかけ
宇城市のフジパン・フジデリカ熊本工場駐車場の映像を「外国人窃盗団がファミマの商品を盗んだ」とする投稿7月31日1100万回以上の閲覧(piyolog調べ)NHKの取材で同社が盗難を否定。従業員への配布品と判明(8月4日)
毎日新聞掲載写真をAIで加工し、倒壊家屋前の被災男性が笑顔でピースサインしているように見せた画像8月上旬(毎日新聞は8月9日に声明)200万回以上の閲覧毎日新聞が著作権侵害と抗議。被害者が警察に相談
イオンモール爆発を「意図的行為」「ミサイル・核攻撃」とする陰謀論8月上旬X上で拡散コミュニティノートが付与。JFCが「根拠不明」と判定(8月7日)

 以下、特に構造的に重要な3つの事例――「人工地震」説、生成AIによる実在写真の加工、そして「ベトナム人救助報道」をめぐる攻撃――を掘り下げる。

「人工地震」説はどのように増幅したか

 震源の浅さと爆発的な揺れ方を根拠に「今回の地震は人工的に引き起こされたものだ」とする言説は、発災当日から急速に拡大した。南華早報(South China Morning Post)が伝えた分析企業Meltwaterのソーシャルリスニングデータによれば、「人工地震」に関連する日本語投稿数は地震発生前の数日間は数百件程度で推移していたが、発災当日(7月28日)には約1万件に急増し、翌29日には約3万8000件に達した。単一の投稿(「地震波形が爆発のものであり地震ではない」とする内容)だけで約300万回の閲覧を記録している(SCMP記事)。Japan Todayが伝えた別系統の記事も同じMeltwaterの数値(発災当日約1万件、翌日約3万8000件)を確認しており、震源の深さが16キロメートルだった点も含め、気象庁発表と一致する(Japan Today記事)。

 この言説に対する反証として参照されたのが、公益社団法人日本地震学会が公式サイトに掲載しているFAQ「大きな地震を人為的に起こして被害を生じさせることはできるか」である。注目すべきは、このFAQが熊本地震発生の4カ月前にあたる2026年3月に作成されていた点であり、地震学会が同種の言説の出現をあらかじめ想定していたことを示している(日本地震学会FAQ弁護士ドットコムニュース)。同FAQは「現実的ではない」と結論づけたうえで、その根拠として(1)震源の深さである地下10キロメートル以上への掘削には「多くの時間がかかり、巨大な経費が必要」であること、(2)そうした深さの坑井を秘密裏に掘ることは困難であること、(3)マグニチュード7以上の地震を起こすのに必要なエネルギーを人為的に発生させること自体が技術的に困難であること、の3点を挙げている。比較対象として挙げられているのが、旧ソビエト連邦が約20年をかけて掘削した史上最深の坑井「コラ半島超深度坑井」(深度約12.3キロメートル)であり、この坑井も地中の高温という技術的限界に直面して1992年に掘削が停止している。国家的資源を投入した冷戦期最大級の科学プロジェクトでさえ震源の深さにわずかに届く程度だったという事実が、人工地震説の非現実性を示す論拠として提示されている。

 日本ファクトチェックセンター(JFC)はこの言説について、SNSの「インプレッション(閲覧数)に応じた収益化機能」が拡散を助長している構造を指摘している。真偽不明の投稿であっても閲覧数が金銭的収益に直結する設計が、災害という高需要のトピックにおいて偽情報の生成・拡散を経済的に動機づけているという分析である(JFC「地震のたびに拡散する偽・誤情報の類型」)。

 なお「地震雲」を根拠とする関連言説についても、JFCは気象庁および気象庁気象研究所主任研究官・荒木健太郎氏への取材に基づき「誤り」と判定している。荒木氏は「雲は地震の前兆にはなりません。『地震雲』と呼ばれる雲はすべて気象学で説明できます」と明言し、気象庁も「雲は大気の現象であり、地震は大地の現象で、両者は全く別の現象」だと説明している(JFCファクトチェック記事)。

生成AIが変えた偽情報の手口

 2026年の熊本地震で顕著だったのは、生成AI技術が偽情報の生成コストを大きく引き下げた点である。イオンモール熊本の爆発をめぐっては、自撮り映像の背後で建物が爆発する様子を映した動画が複数拡散したが、国立情報学研究所の越前功教授は7月29日、これらをAI生成映像と判定した。あわせて、2024年の能登半島地震の際に撮影された映像を今回の地震のものとして転用する投稿も複数確認されており、スペクティ社やFNN、NHKが検証・報道している(piyolog まとめ記事)。

 なかでも構造的に新しいのが、実在の報道写真をAIで改変した事例である。毎日新聞が掲載した、倒壊した自宅前に立つ70代男性の写真が、生成AIによって加工され、男性が笑顔でピースサインをしているように見える画像がスレッズからXへと拡散した。この加工画像は200万回以上閲覧されたとみられる。NHKの検証でAI編集の痕跡が確認され、毎日新聞社は8月9日、無断加工は著作権侵害にあたるとする声明を発表した。被害を受けた男性は警察に相談する事態となっている(毎日新聞記事(ドコモニュース転載))。

 この事例が重要なのは、単なる「捏造画像の流通」にとどまらない点にある。実在の被災者本人の肖像を、本人の同意なく、被災の深刻さを否定する方向へと改変している。加工前の写真は被災の実情を伝える報道写真として撮影・掲載されたものであり、それを反転させる加工は、報道機関の取材成果を毀損すると同時に、被写体となった個人の被災経験そのものを否定するという二重の加害性を持つ。2016年の熊本地震における偽情報が主に「他所の画像を自地域の被害として転用する」型(後述のライオン放牧デマなど)だったのに対し、2026年の事例は「実在する当事者の写真を改変し、被害の実在性そのものを揺るがす」方向へと質的に変化している。なお、この被害者は氷川町在住で、地震の被害規模を全国に伝えるために本人の顔と名前を明かして取材に応じていた人物であり、FNNの取材に対し「地域全体が侮辱されているように感じる」と述べている(News On Japan(FNN配信))。

日本国外への波及——中国語圏でのAFP検証と韓国メディアの報道

 熊本地震をめぐる偽・誤情報は、日本語のSNS空間にとどまらず、言語と国境を越えて広がった。フランス通信社(AFP)の香港支局(記者Livia Liu、Sammy Heung)は、ショッピングモール内で人々が激しい揺れに対応する映像が「熊本地震のもの」として拡散した事案を検証し、実際には2024年1月1日の能登半島地震の際に富山県高岡市のイオンモール高岡で撮影された映像であることを、逆画像検索と施設の間取り図の照合によって明らかにした(AFP Fact Check(Yahoo News UK転載))。この誤情報は日本語圏よりもむしろ中国語圏で顕著に拡散しており、AFPが確認した拡散経路には、フォロワー2万8000人以上を抱える簡体字中国語のWeiboアカウントによる7月28日の投稿、中国のニュースポータル「網易(NetEase)」、香港のテレビ局TVBのニュース、台湾のテレビ局FTVのニュースが含まれる。読売新聞は、地震発生直後に中国のSNS上で「日本地震」という検索ワードが1位になったと報じており(読売新聞(Yahoo!ニュース))、中国語圏における関心の急激な高まりが、誤った映像の拡散を後押しした可能性がある。

 韓国では、中央日報(日本語版)が、実在しない住所を記載した「生き埋めになった、助けて」という偽の救助要請におよそ30万人が反応したとされる事案を「日本の大地震に便乗したAIフェイクニュース」として報じている(中央日報日本語版(Yahoo!ニュース転載))。韓国の主要紙が、日本国内で確認された生成AI関連の偽情報事例を自国読者向けの教訓的なニュースとして紹介する構図であり、災害偽情報が一国内の問題としてではなく、近隣国のメディアが参照する地域的な事例として消費されていることを示している。

 これとは別に、英語圏では地震の時期と重なる形で「日本がイスラエル人観光客の入国を全面的に禁止した」とする英語の投稿がX上で拡散し、7月28日時点で1900回以上リポストされ、49万件表示された。JFCの検証によれば、この主張の初出は2026年1月まで遡り、地震発生3日前の7月25日にも再拡散が確認されている。地震そのものが引き起こしたデマではないが、日本が国際的な注目を集めるタイミングに乗じて、無関係の主張が便乗的に再拡散した事例として、JFCの「地震のたびに拡散する偽・誤情報の類型」という枠組みの中で扱われている(JFCファクトチェック記事)。

使い古された型の再演——地震予知、脱線、動物園デマ

 前掲の表にある通り、根拠のない地震予知の的中を主張する投稿は7月28日夜だけで300万〜340万回以上閲覧され、JR九州の豪華寝台列車「ななつ星」が脱線したとする虚偽情報は、実際には八代駅付近で発生した貨物列車の別事案との混同だったことが報道で判明している。

 「動物園からライオンが放たれた」というデマは、2016年の熊本地震で最も広く知られた偽情報のひとつの再演である。2016年当時は、実際には海外で撮影された合成写真とともに投稿され、投稿者は偽計業務妨害容疑で逮捕された。2026年の事例でも同様に、海外で撮影されたライオンの画像が「動物園から放たれた」という文言とともに拡散し、NHKが虚偽と確認した後に削除されている。Japan Todayの記事は、この10年間の変化について「2016年の熊本地震では、動物園からライオンが逃げたというデマが広がった。当時はいたずら目的が中心だった。現在は、人々が災害への公衆の不安につけこみ、金銭的利益のために偽の投稿を行っている」という趣旨の指摘を紹介している(Japan Today記事)。同じ「型」のデマが10年の間隔を置いて再演されながら、その動機の中心が愉快犯からアテンション・エコノミーを介した金銭的利益へと移行している点は、災害偽情報研究における重要な変数として記録されるべきである。

救助・支援をめぐる情報操作

 災害初期には、救助や支援に直結する偽情報も多数確認された。実在しない住所を記載した「生き埋めになっています」という趣旨の偽救助要請は7月28日深夜に集中し、同一文面が複数アカウントから投稿される形で30万回以上閲覧された。piyologは、こうした偽の救助要請が消防・警察の限られたリソースを実際に消耗させる危険性があると指摘している。投稿アカウントは後に閲覧不能の措置が取られた。

 義援金をめぐる詐欺も並行して確認された。QRコードや電子マネー、口座振込を用いて被災者を装う送金要求がSNS上の複数アカウントで確認されたほか、7月30日には日本赤十字社のロゴを使用したなりすましメールが複数報告され、同社はPayPayや口座振込情報を記載したメール内のURLをクリックしないよう注意喚起を行った。JFCも「熊本地震でも広がるオンライン詐欺」として、こうした義援金詐欺の類型を継続的に検証している(JFC「熊本地震でも広がるオンライン詐欺」)。

排外主義的言説の拡大——窃盗デマから「捏造報道」攻撃まで

 外国人を標的とする言説も複数の型で確認された。もっとも拡散規模が大きかったのは、宇城市にある九州フジパン熊本工場・フジデリカ熊本工場の駐車場で撮影された、ファミリーマート向けおにぎりのケースとインドネシア人労働者らが映った映像を「外国人窃盗団がファミマの商品を盗んだ」とする投稿で、piyologの集計では1100万回以上閲覧されたとされる。ブログ「電脳塵芥」による現地確認や動画投稿者自身の説明によれば、労働者らは寮の停電で工場駐車場に滞在しており、映っていたおにぎりは地震で工場が混乱するなか会社側が一時的な食料として渡したものだった。NHKの取材でもフジパン側が「従業員に配布したもので、盗難の事実はない」と公式に確認しており、8月4日までに窃盗ではないことが判明している(NHK記事電脳塵芥)。この事例に付随して「外国人を追い出さないと略奪・窃盗が始まる」という排斥的言説も拡散したが、東京新聞の現地取材や熊本県警への確認により、外国人による犯罪増加の事実は確認されていない。

 より複雑な力学を示すのが、八代市での高齢女性救出をめぐる報道と、それに対するSNS上の反応である。7月28日、TBS・日本テレビ・NHKなど複数の放送局が、倒壊家屋から救出されたベトナム人労働者5人による90歳女性の救助を報じた。これに対し、地元の建設会社「人力屋」の社長が、自社従業員3人による救助活動が報道の中で「なかったかのようになっている」とSNS上で指摘。これを受け、産経新聞は8月1日、19歳の日本人男性による救助事例を新たに報じた。

 この経緯を機に、X上では「ベトナム人らは何もしていない」「実際に救助したのは日本人だ」「彼らは撮影してテレビクルーに売っただけ」といった投稿が拡散し、報道機関を「捏造報道だ」と非難する声が広がった。弁護士JPニュースの取材に応じた弁護士・杉山大介氏は、名誉毀損が成立するには「特定の個人の社会的評価が低下する投稿」である必要があり、外国人労働者という集団全体への言及では法的に成立しにくいと解説する一方、報道各局については「虚偽報道をしたわけではないが、情報が十分に伝わっていなかった」点が批判の対象になりうるとし、SNS投稿レベルでの法的責任追及は実務上稀だとの見方を示している(弁護士JPニュース)。

 この一件が示すのは、災害時の情報操作が「虚偽の出来事を捏造する」型だけでなく、「実際に起きた出来事の報道の完全性を争点化し、そこに排外主義的な文脈を接続する」型でも作動するという点である。放送各局の報道が外国人労働者の貢献のみを強調し、同じ現場で活動した日本人救助者の存在を十分に伝えていなかったという批判自体には一定の正当性がある一方、その批判が「捏造報道」という断定や、労働者集団全体への否定的言辞に転化する過程で、事実確認の水準を超えた攻撃性を帯びていった。デマを訂正するはずのSNS上の言説そのものが、別種の偏った情報環境を作り出す――この双方向的な構造は、単純な「デマ対ファクトチェック」の図式では捉えきれない。

 なお、これに先立つ7月26日には、避難所での「豚汁を止めよう」という趣旨の特定宗教(イスラム教)批判の投稿がなされており、地震発生後の7月28日以降に改めて拡散した。piyologによれば、発信元のアカウントは1日40件程度の政治的な短文投稿を行っており、反イスラム的な文脈と情報商材的な訴求を組み合わせた活動パターンを持つという。この投稿は地震そのものとは無関係に事前に存在していたものが、災害という文脈に接続されることで新たな拡散力を得た事例であり、前述のフジパン工場デマやベトナム人救助攻撃と合わせて、2026年の熊本地震における排外主義的言説の広がりを構成する一連の要素として位置づけられる。

ファクトチェック機関と政府の対応構造

 日本ファクトチェックセンター(JFC)は今回の災害でも、気象庁・日本地震学会など公的機関への照会、ソーシャルリスニングツール「Meltwater」を用いた拡散量の定量的計測、医療関連の主張については独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)のデータ参照という手法を組み合わせて検証を行っている。公式発表や報道による裏付けが確認できない主張については「そのような事実はありません」という形で不確実性を明示する判定を行う運用がとられている(JFC「地震のたびに拡散する偽・誤情報の類型」)。

 政府側では、総務省が地震発生当日の7月28日夕方、公式X(旧Twitter)アカウントを通じて偽・誤情報への注意喚起を行った。同省が示したチェックポイントは、基本項目として「情報源の有無」「発信者がその分野の専門家か」「ほかではどう言われているか」「添付された画像は本物か」の4点、応用項目として「知人からの情報という理由だけで信じ込んでいないか」「表やグラフも疑うこと」「その情報に動機はあるか」「ファクトチェック結果はどうか」の4点である(k-tai Watch記事)。piyologのまとめによれば、この総務省の対応と並行して、官房長官が記者会見で言及したほか、警察庁・国民生活センター・金融庁もそれぞれの所管領域(詐欺・消費者被害・金融犯罪)で注意喚起にあたっている。

専門家が指摘する構造的要因

 東京大学の鳥海不二夫教授(計算社会科学)は、日本のインターネット言論空間における偽情報・陰謀論拡散の歴史的な転換点として2011年の東日本大震災を挙げている。2000年代初頭の「Web2.0」の時代には、インターネットは「誰もが平等に競争や協力ができる明るい未来」をもたらすと楽観的に捉えられていたが、東日本大震災を境にその理想と現実の乖離が顕在化したという分析である(デイリー新潮記事)。この指摘は2016年の熊本地震ではなく2011年の東日本大震災を起点とするものであり、混同しないよう留意する必要がある——熊本地震(2016年・2026年)における偽情報の型は、この2011年以降に確立された拡散構造の延長線上にあるという位置づけになる。

 Japan Todayが伝えたところによれば、兵庫県立大学の教授(防災・心理学領域)は、不安な状況下では複雑な科学的説明よりも単純な「犯人」を名指しする説明の方が心理的に受け入れられやすいと指摘しており、これが「人工地震」説や特定民族集団を名指しする排外的言説の心理的基盤になっているとの見方を示している(Japan Today記事)。JFCが指摘するSNSのインプレッション収益化構造とあわせて考えると、今回の熊本地震における偽情報の拡散は、心理的動機(不安下での単純な因果説明への希求)と経済的動機(閲覧数に連動した収益)の両方によって強化された現象として理解できる。

分析——2016年から2026年への変化と双方向的な情報操作

 以上の事例を通観すると、2026年の熊本地震における偽・誤情報には、10年前の2016年熊本地震と比較して少なくとも4つの構造的変化が観察できる。

 第一に、生成AI技術の実装水準が偽情報の性質を変えた。2016年の代表事例であるライオン放牧デマは「既存の画像を別の文脈に転用する」という比較的単純な手法だったのに対し、2026年では爆発映像そのものをAIで一から生成する手口(イオンモール爆発の偽動画)と、実在の報道写真を改変して被写体本人の被災経験を否定する手口(毎日新聞写真の加工)が並存する。後者は、既存の画像の「文脈を変える」段階を超え、写っている人物の表情や行為そのものを捏造するという点で、被害の性質が個人の名誉・尊厳の毀損に及んでいる。

 第二に、動機の経済化が進んでいる。前掲のJapan Today記事が指摘する通り、2016年の愉快犯的動機に対し、2026年はSNSプラットフォームの閲覧数連動型収益化機能を背景とした金銭的動機が前景化している。JFCが「人工地震」説の拡散要因としてこの収益化構造を名指ししている点は、個別の投稿者の悪意だけでなく、プラットフォームの設計自体が偽情報の供給を経済的に誘発しているという、より構造的な問題提起として読む必要がある。

 第三に、そして最も見落とされやすいのが、デマを訂正しようとする言説自体が新たな情報操作の起点になりうるという双方向的な力学である。ベトナム人労働者による救助報道をめぐる一連の経緯は、当初の報道内容が虚偽だったわけではなく、複数の救助主体のうち一部の貢献が相対的に見えにくくなっていたという「報道の不完全性」が発端だった。しかしこの正当な指摘が「捏造報道」という断定に転化し、さらに外国人労働者という集団全体への否定的言辞へと拡大していく過程は、事実確認という行為そのものが排外主義的な動員の手段として利用されうることを示している。ファクトチェック機関やSNSユーザーによる「訂正」の営みを一律に望ましいものとみなすのではなく、その訂正がどのような政治的文脈に接続されるかを合わせて検証する視点が、今後の災害情報研究には求められる。

 第四に、偽情報の越境性が明確に観察された。能登半島地震の転用映像は日本語圏だけにとどまらず、Weibo・網易・TVB・FTVといった中国語圏の主要プラットフォームでも拡散し、AFPの香港支局がこれを検証している。中国のSNSで地震発生直後に「日本地震」が検索トレンド1位になったという事実とあわせると、災害情報そのものが言語や国境を越えて即座に流通し、誤情報もまたその流通経路に沿って伝播することが確認できる。韓国の中央日報が日本国内のAI偽情報事例を自国読者向けの教訓として報じた点、そして地震と無関係に存在していた英語の「イスラエル人観光客入国禁止」説が日本への国際的な注目の高まりに便乗して再拡散した点も、一国の災害デマが地域的・国際的なメディア言説の中でどのように参照され、再文脈化されるかを示している。この点は、災害偽情報の研究を一国の情報環境の内部だけで完結させることの限界を示唆するものでもある。

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