本稿が扱うのは、クリーンエネルギーと企業アカウンタビリティを専門とする分析者ケタン・ジョシ(Ketan Joshi)を筆頭著者とし、Greenpeace International、Beyond Fossil Fuels、Friends of the Earth U.S.、Stand.earth、Kairos Fellowship、Climate Action Against Disinformation(CAAD)、Green Screen Coalition、Green Web Foundationの8団体が2026年9月に共同で公表した報告書「NVIDIA’s AI climate hoax: New analysis on NVIDIA’s rising emissions and greenwashing」(全32ページ)である。ジョシは反グリーンウォッシング団体CommsDeclareのアドバイザーを務める分析者で、本紙は同氏が2026年2月に発表した「The AI Climate Hoax」(ビッグテック企業全般のAIグリーンウォッシングを検証した先行報告書)の続編にあたり、今回はAI半導体最大手であるNVIDIA一社に焦点を絞る。発行団体は全て気候・環境分野のアドボカシー団体であり、NVIDIAの気候関連発言を批判的に検証する立場を明示したうえで分析を行っている点は読み手が踏まえておくべき文脈である。ただし中核数値の多くはNVIDIA自身が開示した排出量データに基づく一次情報であり、独自推計を用いる箇所は算出根拠と前提条件を巻末で開示している。
先行報告書「The AI Climate Hoax」は、生成AIの消費電力が2030年時点で従来型AIの13倍に達すると見込まれる一方、企業が喧伝する気候便益の主張はほぼ従来型AIの実績に偏っているという「便益と害悪の主体のすり替え」構造を指摘していた。その後Googleは「AIは世界の排出量を5〜10%削減しうる」という2024年報告書の主張を取り下げ、IEA(国際エネルギー機関)もAIの種類を明確に区別する立場を取るようになったが、世界最大のAIハードウェア供給企業であるNVIDIAは同様の見直しを行っておらず、本紙はその気候関連発言の問題点を最新サステナビリティ報告書の独自分析とともに整理する。
NVIDIAのサプライチェーン排出量――スコープ3が725%増加した内実
NVIDIAの事業の中心は計算機ハードウェアの生産・販売にあり、原材料の外部調達と製造工程はいずれもエネルギー集約的である。DeSmogの調査(レイ・タクバー、2025年)は、COP30を目前にした2025年後半にNVIDIAがリオデジャネイロの石油・ガス会議へ上級エネルギー担当者を派遣し、石油大手の化石燃料採掘を支援する専用AIソフトウェアを売り込んでいたことも明らかにしている。
本紙はNVIDIAの過去7年分のサステナビリティ報告書から間接排出(“スコープ3″、Scope 3)データを集計し、2020〜2026年(会計年度基準)にスコープ3排出量が725%増加したことを示した。増加量は945万4790トンの二酸化炭素換算量に達し、ベルギーの電力セクター全体の年間排出量にほぼ相当する。内訳ではカテゴリー1(購入した商品・サービス)が一貫して大半を占め、カテゴリー2(資本財)がこれに次ぐ。Greenpeace East Asia(GPEA)の分析は「増加は主にGPUおよびAIシステムに必要な部品・原材料・製造サービスの上流由来の排出によって牽引された」と評価し、NVIDIAの東アジアの主要サプライヤーが消費する電力のうち再生可能エネルギー由来はわずか約25%にとどまることも示した。NVIDIAは自社の直接操業に伴うスコープ2排出について「電力消費の100%を再生可能エネルギーで相殺している」と喧伝するが、この規模はスコープ3排出と比べ桁違いに小さい。GPEAのアヴェックス・リ(Avex Li)は「NVIDIAは測定可能な供給網脱炭素化のロードマップを明確な目標・期限・説明責任とともに持つ必要がある」と述べ、台湾訪問中のCEOジェンセン・フアンが活動家との対話で追加的な再生可能エネルギー投資の重要性を認めたことを明かし、それが広報上のパフォーマンスにとどまらず具体的な行動に結びつくことを望むと述べた。
未開示の「製品使用時」排出量――スコープ3カテゴリー11の空白
本紙が最も強く問題視するのは、NVIDIAが販売した製品の使用段階で生じる排出量を一切開示していない点である。スコープ3排出は最大15のカテゴリーに区分されるが、NVIDIAが開示するのはそのうち8カテゴリーにとどまり、製品使用に伴う排出を計上する「カテゴリー11」は含まれていない。競合するAMDはこの点で対照的であり、上流(カテゴリー1〜8)排出量に加えカテゴリー11・12・15を含む下流排出量を開示する。両社のFY2026報告書では、NVIDIA(2025年1月27日〜2026年1月25日)の上流排出量691万2577トンに対し、AMD(2024年12月29日〜2025年12月27日)は上流356万7034トン・下流2051万1412トンを開示しており、NVIDIAの下流排出量は文字通り空白のままである。
NVIDIA株主のGreen Century Capital Managementは、製品販売による排出影響の開示を求める株主提案を提出し、同社の株主アドボカシー担当ジョバンナ・アイクナー(Giovanna Eichner)は「製品排出量の報告は、拡大する環境影響が顧客・社会の求める説明責任と釣り合うことを確実にする助けとなる」と述べた。2026年6月の採決でこの提案はSEC(米国証券取引委員会)提出資料によれば可決に至らなかったが、NVIDIA株の1.28%を保有する筆頭投資家でノルウェー政府年金基金を運用する世界最大の政府系ファンドNBIM(Norges Bank Investment Management)は賛成票を投じ、「取締役会は重要なサステナビリティリスクと、事業・製品がもたらす広範な環境的・社会的帰結を考慮すべきである」との声明を出した。
NVIDIA自身が製品使用排出量の開示計画を発表していないなか、本紙は分析企業Epoch AIのデータで独自推計を試みる。Epoch AIによれば、2022年初頭から2026年第2四半期末までにNVIDIAは累計12.4ギガワット超のチップを販売した。本紙はこの四半期別累計販売量に稼働率の仮定(訓練80%・推論40%の中間値60%)と3種の送電網排出係数(低位:ブラジル110、中位:米国384、高位:マレーシア603gCO2e/kWh)を適用し、2022〜2025年末までの全製品の「1年分の使用」に相当する排出量を400万〜2100万トンと算出した。上限値は同社の供給網排出量の2倍以上に相当し、この推計はデータセンター空調等の「オーバーヘッド」を含んでおらずこれを含めれば倍増しうる極めて保守的な数値だと本紙は強調する。この規模はオーストラリアのSantosやロシアの国営石炭事業(製品使用排出量がそれぞれ26・21メガトンとされる、Carbon Majorsによる)に匹敵する水準であり、化石燃料企業と異なりNVIDIAの製品は電力で動く技術でクリーンな電力への切り替えが可能な点で、この不透明な排出量こそ変革の起点となりうると本紙は指摘する。
NVIDIAが最近発表したのは、米オハイオ州の「PORTS-Pike」データセンター計画への計算インフラの独占供給である。同計画はOpenAIに20年契約でリースされる8ギガワットのIT容量と9.2ギガワットの天然ガス発電容量から成る大規模開発で、実現すればGlobal Energy Monitorの稼働中施設リストに基づき米国史上最大規模のガス火力発電所(Portsmouth Powered Land Project、9,200MW)になるとされる。ブルームバーグNEFの試算では、この規模のガス発電所の年間排出量は約2000万トンに達し、ナイジェリアの送電網全体の年間排出量にほぼ匹敵する。この推計は既に販売済みのチップのみを対象としており、NVIDIAが同種の化石燃料稼働サイトへの供給を続ける場合、将来の「製品使用」排出量はさらに悪化しうると本紙は警告する。
グリーンウォッシングの手法1――「AIが気候変動を解決する」という主張の実証的根拠の欠如
NVIDIAは世界最大のGPU(画像処理半導体)供給企業であり、自社を「フルスタックのAIインフラ」――GPU、並列計算ソフトウェア(CUDA)、クラウドサービスを一体で提供する存在――と位置づけ、CEOジェンセン・フアンはこれを「AIファクトリー」と呼ぶ。2025年7月に時価総額4兆ドルへ史上初めて到達し2026年9月時点でおよそ5.4兆ドルに達する同社は、AIブームから最も恩恵を受けた企業でありながら生成AIの気候影響を抑制する取り組みでは「最低限の努力」とすら評価しがたいと本紙は位置づけ、積極的に喧伝する気候「便益」の主張を検証する。
NVIDIAは「AIの広範な普及は排出削減と気候行動にとって正味の便益となる」と主張する。しかし本紙はこの主張を裏づける確たる証拠はなく、むしろ生成AIが業界全体の排出量増加を牽引しているという強いエビデンスを軽視するものだと評価する。サステナビリティ責任者ジョシュ・パーカー(Josh Parker)は2026年5月のHeatmap Newsポッドキャストで「AIによって可能になる正味の排出削減という潮流は、もはや避けられないように思える」と述べ、2025年3月のGTCサンノゼでは「AIは世界がこれまでに手にした中で最良の持続可能性のためのツールだと思う」と述べている。
こうした「AIの気候便益に関する広範なコンセンサスが存在する」という主張についても、本紙は根拠が薄弱だと指摘する。パーカーは2026年3月のSustainability Magazineパネルセッションで「急速に拡大しつつあるコンセンサスは、AIが広く展開されれば正味の排出削減につながるというものだ。IEA、世界経済フォーラム、BCG(ボストン・コンサルティング・グループ)、グランサム研究所がいずれもその結論に達している」「AIデータセンターの電力消費に伴う排出量は2024年の世界排出量の0.1%未満に過ぎない」と発言した。しかし本紙によれば、IEAの2025年5月報告書は従来型AIと生成AIを混同した分析で、2026年2月の分析はより弱いエビデンスに基づき、グランサム研究所の研究も同様、頻繁に引用されるBCGの報告書も厳密な調査ではなく顧客との対話に基づくものだったと報告されている。AIの成長が現在進行形で温室効果ガス排出を加速させていることは実証済みであり、AIの「正味の」影響を検証する近年の研究は二次的効果をめぐるさらなる疑問を提起しているという。
本紙はIEAの最新報告書を引用し、データセンター需要の拡大により世界の送電網が2025〜2030年に追加で750テラワット時の石炭火力と1900テラワット時のガス火力発電を必要とすると見積もる。IPCCの2018年排出係数(石炭中央値820、ガス中央値490gCO2e/kWh)で換算すると5年間で1億5600万トンの追加排出量となり、オランダの送電網の年間排出量に匹敵する。さらにブルームバーグの試算では、データセンター専用に計画される全99基のガス火力発電所の年間温室効果ガス影響は合計約3億トンに達し、英国一国の経済全体の年間排出量に相当する規模だという。
グリーンウォッシングの手法2――デマンドレスポンスの過大な喧伝
NVIDIAは需要側の柔軟性(“デマンドレスポンス”、demand response)をAIの気候便益として頻繁に強調するが、AIブームによる大規模なデータセンター展開の急速な進行が送電網全体の温室効果ガス排出を悪化させうるという明確な証拠が存在する。デマンドレスポンスとは、送電網が逼迫する需要ピーク時にデータセンターなどの需要側が柔軟に応答する仕組みで、猛暑など気候関連の非常事態で需給バランスを管理するために電力事業者が長年用いてきた手法である。NVIDIAの発言は「稀にしか発生しない短時間の送電網逼迫時」にAI技術が需要対応を強化するという点に集中する一方、年間の大半を占めるそれ以外の時間帯におけるデータセンター成長の長期的な送電網への影響を軽視していると本紙は評価する。
こうした発言の多くは、大規模データセンターの需要対応を最適化する「エージェント」型AIを提供すると謳うEmerald AIとの提携を通じて発信される。同社チーフサイエンティストのアイシェ・コシュクン(Ayse Coskun)は「間欠的で変動の大きい再生可能エネルギーは、送電網が調整できる緩衝材を多く持っていれば追加しやすくなる……データセンターはそうした緩衝材の一部になりうる」と述べる。
これに対し本紙は、新たな大規模需要を送電網に追加することは、逼迫時の管理面での限定的な便益とは裏腹に多くの場合で化石燃料発電の増加をもたらすと指摘する。MIT(マサチューセッツ工科大学)スローン経営大学院の研究は需要側の柔軟性がケースによっては温室効果ガス排出量をむしろ増加させうると示し、プリンストン大学の分析も、データセンター成長が急速なシナリオでは「デマンドレスポンスを展開できる時間帯は年間の1%未満に過ぎない」と結論づける。2026年4月発表のデロイトとAgora Energiewendeの共同研究は、欧州のデータセンターが柔軟な運用を通じて2035年までに500万トンの排出削減をもたらしうると主張したが、その削減量は追加排出量全体のわずか23%に過ぎず、残り1670万トンは未対処のままで、著者自身が「正味の悪化」を認めている。NVIDIAがEmerald AIとの取り組みを強調するのは送電網逼迫が稀にしか起きないという狭い視野に立って初めて成立するものであり、広い視野に立てばデータセンター成長は化石燃料と電力価格の長期的な押し上げをもたらすという構図が覆い隠されていると本紙は結論づける。
グリーンウォッシングの手法3――誤解を招くエネルギー効率性の主張
「より効率的な」大規模言語モデル(LLM)が気候対策の鍵になるという主張は、2025年のClimate Week NYCでのNVIDIAの発言の中心をなした。パーカーは「LLM推論のエネルギー効率はこの10年で10万倍改善した――アクセラレーテッド・コンピューティングは持続可能なコンピューティングであることを示している」と述べたが、本紙はAmazon、Google、Microsoft、Metaの年間電力消費量がいずれも右肩上がりを続けている実態を示し、業界の効率性向上はエネルギー・排出量の削減でなくむしろさらなる成長を可能にする方向に作用していると評価する。
Epoch AIの推計では、2022年以降のすべての四半期でNVIDIAが販売したチップの総消費電力は前四半期を上回り続け、2026年第2四半期には2022年同期の23倍にあたる2ギガワット超が販売された。NVIDIAは最新世代の「Blackwell Ultra」を「比類ないエネルギー効率を実現する、最もエネルギー効率の高いAIスーパーコンピュータ」と喧伝するが、Epoch AIの推計ではこの製品群だけで5.3ギガワットが販売されており過去のいかなる世代よりも多い。本紙は、「最も効率的な」ハードウェアこそが販売量の規模ゆえに絶対量ベースで最大の気候影響をもたらしかねないと指摘する。
MITスローン経営大学院は「AIとデータセンターが効率的になるほど訓練・利用コストは下がり、それがAI利用の拡大を刺激し効率性向上の便益を相殺する『直接的リバウンド効果』が働く」と指摘し、IEAの報告書「Key questions on energy and AI」も、効率性向上がコスト低下を通じてAIサービスの普及自体を促す『ジェヴォンズのパラドックス』により、効率改善が続いてもなおAIの総電力消費は近い将来増加し続けると評価する。「効率性」指標への狭い焦点はNVIDIAのAI関連成長の背後にある化石燃料依存の需要爆発を覆い隠していると本紙は結論づける。
NVIDIAに問われるべき4つの問いと報告書の性格に関する留保
本紙は末尾で、NVIDIAに問われるべき4つの論点を提示する。第一に、AMDが既に開示している製品使用排出量をいつ開示するのか。第二に、便益のエビデンスが弱く害悪のエビデンスが強いなかで「正味の気候便益」をいかなる根拠に基づいて主張しているのか。第三に、データセンター展開が電力セクターの排出量に与える実際の効果を調査しているのか、「デマンドレスポンス」を織り込んでもなお実質的な正味の効果はどうなるのか。第四に、追加的な再生可能エネルギーへの投資などを通じて生産のための供給網を是正することにコミットするのか、である。
本紙の性格について付言すれば、これは査読を経た学術研究ではなく気候・環境分野のアドボカシー団体連合による政策キャンペーン文書である。製品使用排出量の推計(400万〜2100万トン)は稼働率60%という仮定や送電網排出係数の選択に依存する幅の広い概算であり、本紙自身も「極めて保守的」と位置づけつつ不確実性を明示する。一方でスコープ3排出量725%増という中核的事実はNVIDIA自身の開示データに基づく一次情報であり、読み手は独自推計部分の幅と開示データに基づく確定的事実とを区別したうえで本紙を評価する必要がある。


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