独立系を装う9媒体を貫く同一広告IDとサーバー登録――DFRLab共同調査が解剖するアルメニア2026年選挙前のロシア情報操作インフラとその浸透の失敗

独立系を装う9媒体を貫く同一広告IDとサーバー登録――DFRLab共同調査が解剖するアルメニア2026年選挙前のロシア情報操作インフラとその浸透の失敗 情報操作

 本稿が扱うのは、DFRLab(Digital Forensic Research Lab、米シンクタンク・アトランティック・カウンシル傘下の調査部門)が2026年8月24日に公表した共同調査記事「How Russian content sought to influence Armenia’s electoral information space」である。著者はDFRLabのSopo GelavaとGivi Gigitashvili、Qriton TechnologiesのAndra-Lucia MartinescuとMarius Dima、Digital Forensic TeamのNicolae Tibrigan、アルメニアのメディア監視団体Media.amのLusine Voskanyan、そしてMolfar Intelligence Institute(OpenMindsと共同)のYuliia Dukachの7名である。調査は2026年6月7日に実施されたアルメニア国会議員選挙を対象とし、DFRLabが2025年7月7日に公表した「Pro-Kremlin actors push multilingual biolab hoax targeting Armenia」(アルメニア・フランス戦略パートナーシップを標的にした多言語バイオラボ陰謀論キャンペーンの調査)、および同チームが手がけたジョージア・モルドバ・アルメニア・アゼルバイジャンの選挙における情報操作を横断的に検証した先行調査「Foreign and domestic: Information manipulation during elections in Georgia, Moldova, Armenia, and Azerbaijan」の系譜に連なる。

 調査の骨格は三層構造をとる。第一層はウェブメディアの記事本文を対象にしたセマンティック(意味論的)類似度分析で、ロシア発信コンテンツがアルメニアの主流メディアおよび親ロシア系メディアにどう転載・引用されているかを定量化する。第二層はこれらのウェブサイトの技術的インフラ――広告アカウント、アクセス解析ツールのカウンター番号、開発者情報、ファイルハッシュ――を突き合わせ、表向き独立した媒体同士が実際には同一の運営主体に属している痕跡を洗い出す。第三層はテレグラムを対象に、親ロシア系のリレーチャネル群・自動化されたコメントボット・登録者基盤の重複によるクラスタ構造を分析し、ウェブとテレグラムをまたぐ情報の「架橋層」としての機能を検証する。三層いずれも、単一の決定的証拠ではなく、複数の独立した技術的指標が同じ結論に収束するという積み上げ方式で立証を進めている点が方法論上の特徴である。

分析対象の選定――主流10媒体と親ロシア系9媒体、二つの観察ウィンドウ

 調査チームはまず20の媒体を候補として設定し、最終的に主流メディア10媒体と親ロシア系メディア9媒体(当初10媒体を選定したが、記事数が不足していた1媒体を除外)を分析対象に確定した。主流メディア10媒体はMamul、Armtimes、Factor、1Lurer、168.am、1in、News.am、Oragir News、Ararat News、Shant Newsで、選定基準はメディア評価機関Pikasa Analyticsによる過去6ヶ月間の視聴者到達数とソーシャルメディアエンゲージメントである。親ロシア系メディア9媒体はGolosarmenii、Lurer、Livenews、Tert、Alphanews、24news、Past、Iravunk、Hayeliで、こちらの選定は二段階フレームワークによっている。第一段階は企業所有構造と明示的な政治的提携関係の把握、第二段階はナラティブの傾向を評価するコンテンツ分析であり、単なる「反西側的論調」といった主観的印象ではなく、所有構造という客観的指標を先に固定した上で内容分析を重ねる手順を踏んでいる。

 観察期間は二つのウィンドウとして設計されている。対照期間は2025年1月1日から6月6日、選挙前期間は2026年1月1日から6月6日で、いずれも同一の暦月区間を年をまたいで比較する設計になっている。選挙投票日である2026年6月7日の前日までを区切りとすることで、「非選挙期の平時」と「選挙直前」という二つの状態を同一媒体・同一季節条件で対比できるようにしている。この設計自体が、単年度のスナップショットでは見えない変化率(増減の方向と大きさ)を可視化するための工夫であり、後述するあらゆる定量指標はこの二期間比較の枠組みの中で語られている。

セマンティック分析が示す逆説――ロシア系ソースへの依存はむしろ縮小した

 セマンティック類似度分析は、Qritonが開発した情報操作検出モジュールとLaBSE(Language-agnostic BERT Sentence Embedding、多言語文埋め込みモデル)を組み合わせ、コサイン類似度0.65以上を「ナラティブの対応」と判定する閾値に用いている。これにより、ロシア語原文の翻訳・言い換え・部分転載であっても、表現が変わった記事間の意味的な一致を機械的に検出できる。

 この分析が導き出した最大の逆説は、親ロシア系メディアの活動が活発化した一方で、アルメニアの主流メディアにおけるロシア発信コンテンツへの依存度はむしろ低下したという結果である。具体的には、主流メディアにおけるロシア系ソースへの直接引用は2025年の1,000記事あたり44件から2026年には23件へとほぼ半減した。対照的に、親ロシア系クラスターにおける同種の引用は1,000記事あたり約64件から78件へと増加している。ロシアの国営通信社であるTASS・RIA・Interfaxのワイヤー配信記事が占める割合は、2025年の約75%から2026年には約60%まで低下しており、単純な国営通信社経由の転載依存はむしろ薄まる傾向にある。

指標2025年(対照期間)2026年(選挙前期間)変化
主流メディアのロシア系ソース直接引用(1,000記事あたり)44件23件ほぼ半減
親ロシア系クラスターのロシア系ソース引用(1,000記事あたり)約64件78件増加
TASS/RIA/Interfaxワイヤー配信が引用全体に占める割合約75%約60%低下
主流メディアの西側ソース引用(1,000記事あたり)60件160件大幅増加

 個別のロシア系情報源では、Sputnikが2026年に5,570件超の引用を記録し、2025年比で約4.5倍という突出した伸びを示し、単一のロシア系情報源として最も引用された媒体になった。これにVesti、Vzglyad、Pravda、RT、Lentaが続く。一方で主流メディアにおける西側メディア(Reuters、CNN、Politicoなど)の引用は1,000記事あたり60件から160件へと大幅に増加しており、報告書はこれを「ロシア発信から西側発信への情報源シフト」の裏づけとして位置づけている。ただし親ロシア系メディアがReutersやCNN、Politicoを引用する場合、しばしば文脈を歪めた形での援用が見られる点も付記されている。

 セマンティック分析はまた、ロシア国家と関係が深いとされるシンクタンクStrategic Culture Foundation(SCF、米国の制裁対象)の言説がどう流通したかを個別に追跡している。SCF発の言説は9媒体・46本の記事に確認され、Alphanewsが21本、Golos Armeniiが6本と多くを占めた。Alphanewsには同財団の常駐解説者としてAndrey Areshevが起用されており、アルメニアの対欧州接近を「モルドバ・シナリオ」(EU接近が最終的に対ロシア断絶に至るという枠組み)になぞらえ、EUとの関係強化の動きを「ロシアとの関係を断ち切ろうとする試み」として描く言説が展開された。

 もう一つの具体的な事例として報告書が詳述するのが、ドイツの新聞Berliner Zeitungの言説がアルメニアの親ロシア系メディアでどう利用されたかである。同紙への言及は親ロシア系記事において47本確認され、2025年の17本から2026年には30本へと増加した。その大半(34本)がLurerに集中しており、内容はウクライナ関連の要求についての報道や、拘束中の親ロシア系野党指導者Samvel Karapetyanのインタビューの増幅に充てられていた。このインタビューは5媒体で同時に転載され、テキストの再現率は0.86から0.95に達しており、ほぼ一字一句同一の文面が複数の「独立した」媒体に同時掲載されていたことになる。セマンティック分析全体を通じては、ロシア系および親ロシア系クラスター発の言説を逐語的に再現した箇所が2026年に1,255件確認され、その大半が1in、news.am、168という高容量の主流媒体3社に集中していた点も指摘されている。

インフラ層に刻まれた「単一運営」の痕跡

 報告書のもう一つの柱が、ウェブサイトの技術的インフラを突き合わせることで、表向き独立して見える親ロシア系媒体群が実際には調整されたネットワークとして運営されていることを示す分析である。報告書はこの発見を「(これらの媒体は)つながりを隠しながら多様なメディア環境の一部であるかのように装いつつ、実際には調整して運営されている」と要約している。

 最も強い証拠として提示されるのが、共有Google AdSenseパブリッシャーID「ca-pub-9505945531737591」である。このIDはDNSLytics経由での照合により、1or.am、armenia24.live、lurer.com、oragir.live、press24.amという5つのウェブサイトで共通して検出された。報告書は広告アカウントの共有について「これらのサイト間の結びつきを示す最も強力な指標の一つ」と評価している。広告収益の受け皿となるアカウントが一致するということは、少なくとも金銭的な管理主体が同一であることを直接的に示すためである。

 次に、アクセス解析ツールYandex Metricaのカウンター番号の分析がある。past.am、orer.am、pressmedia.am、press24.am、1or.am、oratert.am、oragir.live、newsarm.live、armenia24.liveという9つのウェブサイトのカウンターIDが、わずか182番という狭い番号範囲の中に連続して収まっていることが判明した。カウンター番号は発行順に近い形で割り振られる性質を持つため、これほど狭い範囲に9件が集中していることは、単一の事業者がこれらのサイトを一括して登録した強力な状況証拠になる。

 さらに開発者情報の突き合わせでは、18の親ロシア系ウェブサイトが単一のアルメニア人開発者――ハンドル名「Sargssyan™」を名乗るウェブデザイン会社Sargssyan Studio――に帰属することが確認された。対象にはiravunk.com、past.am、hayeli.am、Lurer.com、pressmedia.am、newsarm.live、orer.am、newspress.am、times.am、armenia24.liveなどが含まれる。報告書はこれらの技術的指標が部分的に重なり合うネットワークを形成しており、「クラスター全体に対する共通の運営面・資金面での統制」を裏づけると結論づけている。

技術的指標検出内容一致したサイト数
Google AdSenseパブリッシャーID(ca-pub-9505945531737591)5サイトで完全一致5
Yandex Metricaカウンター番号182番以内の連番に集中9
開発者(Sargssyan™/Sargssyan Studio)同一開発者への帰属18
VirusTotalファイルハッシュ(iravunk.com/golosarmenii.am間)SHA-256ハッシュ7件が完全一致2(相互)

 技術的な一致に加え、行動パターンの同期も観察されている。少なくとも6つのウェブサイトが同一のビデオコンテンツと見出しを3分間隔で公開し、それぞれに紐づくFacebookページも同一のビデオを6分間隔で投稿していた。数分単位のこの投稿間隔は、人力での偶然の一致とは考えにくく、共通のコンテンツ配信の仕組みが存在することを示唆している。加えてVirusTotalによるドメイン間のファイル比較では、iravunk.comとgolosarmenii.amの間で7つの同一SHA-256ファイルハッシュが検出されており、両サイトがサーバー資産のレベルでも重複を持つことが確認された。

テレグラムという架橋層――拡大するリレーネットワークと、その限定的な浸透

 三つ目の分析軸はテレグラムである。調査チームはPythonライブラリTelethonを用いてデータを収集し、TGStatのアルメニア国別カタログを参照してチャネルを特定、100の主要チャネルから合計403,172件の投稿を分析対象とした。

 まず親ロシア系のリレーネットワーク(他チャネルのコンテンツを転載・拡散する中継的役割を担うチャネル群)として@tzitzak、@Abovyanarman、@ArmenianVendetta、@parallel95、@mikayelbad、@caucasar、@anivarmenia、@m1acum、@hayspaigrarumner、@artsah44の10チャネルが特定された。これらのチャネルへの言及件数は2025年の767件から2026年には1,118件へと46%増加しており、うち@ArmenianVendettaと@parallel95の2チャネルだけで全一致件数の52%を占める支配的な地位にある。

 ただし、このリレーネットワークの拡大がテレグラム全体に浸透しているわけではない。分析対象とした100チャネル・403,172件の投稿全体のうち、リレーチャネルへの言及はわずか1,885件、割合にして1%未満にとどまり、しかもそのほとんどが@arcaxinfo、@tovgeneral、@enabludatel、@Dezertiramnet、@rusyerevantodayという5つのチャネルに集中していた。つまり、リレーネットワーク自体の活動量は増えているものの、その拡散先はごく限られた同質的なチャネル群の内部循環にとどまっており、より広い主流のテレグラム言論空間への「架橋」としては機能していないことになる。ウェブメディアへの言及動向も同様の非対称性を示しており、Past.amへの言及は2025年の502件から2026年には278件へと減少した一方、5TVへの言及は41件から89件へと相対的には最も大きく増加している。

自動化されたボット層の検出

 コメント欄における自動化アカウントの検出では、5つ以上の異なるチャネルでコメント投稿を行ったアカウントを母集団とした上で、複数の行動的・内容的閾値を適用している。具体的には活動比率0.8超、平均コメント長20文字超、単一の政党または特定人物への言及が全体の30%超、そして第二言語(アルメニア語とロシア語の使い分け)の使用率が10%を超えるバイリンガル投稿という条件が組み合わされ、さらに異なるアカウント間のコメントのコサイン類似度が0.85以上であることが確認基準に加えられた。

ボット判定基準閾値
コメント投稿先チャネル数5以上
活動比率(activity ratio)0.8超
平均コメント長20文字超
単一政党・人物への言及割合30%超
第二言語使用率(バイリンガル投稿)10%超
異なるアカウント間のコメント類似度(コサイン類似度)0.85以上

 この基準により104件のボットアカウントが検出され、調査期間中に234チャネル中111チャネルで活動し、8,737件の投稿に対して合計13,226件のコメントを残していた。ボットによるコメントは全コメントサンプルの2%に満たない一方、これらのコメントは合計14,617件のリアクションを集め、うち5,201件がネガティブなリアクションだった。ボットが扱った主要な言説テーマは、パシニャン首相の信用失墜、政府がアゼルバイジャンのアリエフ大統領のために動いているという非難、政党「Strong Armenia」への支持喚起、そしてアルメニア使徒教会の最高指導者ガレギン2世の擁護である。一部のコメントは首相を孤立し現実離れした人物として描き、公共料金の値上げへの対応を一般市民から乖離している証拠として枠づけていた。

視聴者基盤の重複が描くクラスター構造

 最後に、テレグラムの「類似チャネル」機能――登録者基盤の重複規模に基づいてチャネル同士を自動的にペアリングする仕組み――を利用し、500人以上の登録者を持つ457チャネルを対象にネットワークを構築した上で、Pythonのnetworkxライブラリを用いたLouvainコミュニティ検出アルゴリズムを適用している。この分析により9つの明確なクラスターが識別された。

 このうち特に注目されるのが、ロシア系プロパガンダのナラティブを最も頻繁に反復するチャネル群として識別された一つのクラスター(57チャネルで構成)である。このクラスターには、アルメニア元大統領Robert Kocharyanが運営するチャネル、アルメニアにおけるロシアの文化広報機関Russian House in Armenia、そしてロシア在住アルメニア人コミュニティ組織Union of Armenians of Russiaが運営するチャネルが含まれる。さらに、このクラスターを構成する57チャネルのうち13チャネルは、2025年にアルメニア・フランス間の戦略的パートナーシップを標的にした多言語バイオラボ陰謀論キャンペーン(DFRLabが2025年7月7日付で報告した事案)にも関与していたチャネル群と重なっていた。これは、単発の陰謀論キャンペーンと2026年選挙前の情報操作が、同一のチャネル群という人的・組織的基盤を共有した継続的な活動である可能性を示す証拠として位置づけられる。

報告書が導く結論――活動量の増加と、浸透の失敗

 報告書全体の結論は、二つの相反する事実を同時に提示する形でまとめられている。一方で、親ロシア系メディアとテレグラムチャネルは2025年と比較して活動を明確に強化した。ウェブメディアのコンテンツ出力量は前年同時期比で約16%増加し、より強いロシア親和的な言説を推進した。インフラレベルの分析は、これらの媒体がつながりを隠しながら独立した多様なメディア環境であるかのように装いつつ、実際には広告アカウント・アクセス解析カウンター・開発者・サーバー資産を共有する調整されたネットワークとして運営されている実態を明らかにした。独立したテレグラムのリレーネットワークも投票前に向けて親ロシア系コンテンツの発信を強化し、コメント欄で活動する自動化ボット層が同時並行で展開された。

 しかし、この活動量の増加はロシアの影響力拡大という目的の達成には結びつかなかった。主流メディアにおけるロシア発信コンテンツへの直接引用はむしろ減少し、アルメニアのメディアは前年よりもロシア系ソースへの依存を減らし、代わりに西側メディアへの依存を強めた。テレグラム上の増幅も親ロシア系クラスターの内部にとどまり、主流のテレグラムチャネル群には届かなかった。報告書はこれを、アルメニアのメディア環境が2026年議会選挙前のロシア発信コンテンツに対して一定の耐性を示した結果であると結論づけている。

 この報告書が示す構造は、情報操作の実証分析における重要な論点を浮き彫りにする。すなわち、「発信側の活動量」と「受け手側への実際の浸透度」は必ずしも比例しないという点である。広告ID・アクセス解析番号・開発者情報・ファイルハッシュという複数の独立した技術的指標が同一の運営主体を指し示す精度の高いインフラ分析、コサイン類似度に基づく機械的なセマンティック検出、そして行動閾値とコサイン類似度を組み合わせた統計的なボット判定という三つの異なる手法を積み重ねることで、報告書は「見せかけの多様性」の裏にある調整の実態と、その調整努力にもかかわらず実際の情報流通構造には限定的な影響しか及ぼせなかったという二重の知見を、検証可能な数値とともに提示している。

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