偽情報に最も強いはずの人々が検証しない――ADMO 2.0/Gong報告書にみるクロアチア市民のメディアリテラシー

偽情報に最も強いはずの人々が検証しない――ADMO 2.0/Gong報告書にみるクロアチア市民のメディアリテラシー 偽情報対策全般

 クロアチアの市民社会組織Gongは2026年8月、ADMO 2.0報告書第5号『Perception of Disinformation, (Un) reliable Sources and Media Competencies: An Insight into Citizens’ Media Literacy』をザグレブで公表した。ADMO 2.0(アドリア・デジタルメディア観測所2.0)は、欧州委員会が支援する欧州デジタルメディア観測所(EDMO)の地域ハブの一つで、クロアチアとスロベニアを担当する。幹事機関はドゥブロヴニク大学で、ザグレブ大学政治学部、リュブリャナ大学、AFP通信、RTLテレビ、調査報道メディアのOštroなどが参加し、資金はEUのデジタル・ヨーロッパ計画から出ている。Gongは選挙監視と市民教育を手がけるクロアチアの代表的NGOで、この事業では教員向けメディアリテラシー研修を担当している。報告書は、自らの目的を「Gong自身のメディアリテラシー教育、とりわけ教員研修の改善基盤」と明記している。調査票はGongの配信網で配布され、討議の参加者にはGongの研修を受けた教員が含まれる。つまり、評価する側と評価される教育プログラムが同じ組織に属している。報告書は冒頭で、本分析は科学的研究ではないとも断っている。そのうえで、偽情報への耐性が最も高いと想定される層でさえ、知識と行動のあいだに大きな隔たりがあることを主要な論点としている。

3つの手法と「上限値」としてのサンプル

 素材は3つの手法で集められた。報告書は調査票を最初に提示しているが、実施順では最後にあたる。

手法実施日参加者形式
オンライン調査票2026年6月2日〜7月3日完全回答148人Google Formsで37問、選択式と自由記述
半構造化グループ討議2026年5月8日コプリヴニツァ=クリジェヴツィ郡の教員18人(4グループ)クリジェヴツィで並行討議の後、全体会で各グループが報告
全体討議2026年3月6日IT、報道、学術、公的機関、市民社会の25人Gong主催「Open Data Days」での非構造化討議

 調査票は仮説の検証を目的としていない。報告書は、どの媒体を追い、どれを信頼するか、自己申告の批判的思考が実際の確認行動とどの程度一致するか、属性によってこれらがどう異なるかを描き出すことを目的に掲げる。回答者は女性69%、大学院修了以上59%、ザグレブ圏居住63%で、職業は市民社会18%、IT12%、教育11%、学生11%が上位を占める。報告書はこの偏りを踏まえ、本調査は平均的な市民ではなく、偽情報に最も強いと見込まれる層のメディアリテラシーの「上限」を測るものだと自らを位置づけている。筆者として補足すると、この位置づけのもとでは、否定的な結果ほど「一般層ではさらに深刻である可能性」を示す材料として重みを持つ。一方で、属性別の数値には母数がごく小さいものが含まれる。64歳超は約9人、自己評価で満点を付けた群は約8人である。

報告書が描くクロアチアの情報環境

 背景章は、既存調査を積み上げて情報環境を描いている。

指標数値報告書が示す出典
ニュースへの信頼29%(前年比7ポイント低下、追跡開始以来最低)ロイター研究所『デジタルニュース報告2026』
ニュースを時々・頻繁に回避63%(2025年は約61%)同上
所有者が編集方針に影響すると考える/政治家・政府が影響すると考える72%/74%同上
記者への平均信頼度5点満点で2.63電子メディア庁(2026年4月、N=1,014、イプソス実施)
意図的なニュース回避/偶然にニュースに接する52%/約60%同上
前年に虚偽・誤解を招く主張に接したと考える60.3%(EU平均55.9%)『デジタルの10年』ユーロバロメーター2026
オンライン情報を定期的に確認する27.9%(EU平均29.2%)同上

 電子メディア庁の調査は、ニュース回避の主因をイデオロギーや内容への不信ではなく「感情的な過負荷」と特定している。報告書はさらに、ADMO 2.0がPRO-FACTプロジェクトを引き継いで2022〜2025年に行った全国代表パネル調査を引く。この調査では、偽情報への感受性は学歴が低い層、制度・メディア・科学への信頼が低い層、ポピュリズム的態度が強い層で高かった。ただし、属性単独ではなく政治的態度や脅威認知と組み合わさって作用する点が強調されている。ソフィアのオープン・ソサエティ研究所によるメディアリテラシー指数2026でも、クロアチアは低位の群に入る。報告書はこれらを総合し、回避率が高く信頼は欧州最低水準であるにもかかわらず、市民が自力で偽ニュースを見分けられると自負しているという逆説を描く。なお筆者の確認では、背景章の脚注の番号と参照文献の対応にずれがあるように読める。数値を引用する際は原典で確かめるのが安全である。

調査票の結果①:メディア習慣、信頼、ニュース回避

 複数回答で尋ねた情報源は、オンラインポータル86.5%、ソーシャルメディア68.9%、友人・家族との会話62.8%、民放テレビ39.9%、公共放送HRT36.5%の順で、紙の新聞は12.2%にとどまる。好みのポータルに常に直接アクセスする人は38%で、55%超は少なくとも部分的にソーシャルメディアや身近な人から共有されたリンクを経由している。ソーシャルメディアの利用率は15〜24歳の87.5%から64歳超の33.3%へと年齢とともに急減し、性別では女性76.5%に対し男性46.2%である。

 信頼する情報源は、オンラインポータル40.5%、民放テレビ25%、公共テレビ23%、友人・家族18.2%の順で、16.2%はどれも信頼しないと答えた。HRTへの信頼は、35〜44歳で8.8%、64歳超で0%と低い。全情報源への不信は、25〜34歳の4.5%から55〜64歳の31.2%へと年齢とともに上がる。信頼する媒体としては、Faktograf、N1、Novosti、Balkan Insightが挙がった。記者では、バルバラ・マテイチッチ、ダンカ・デリファイ、モイミラ・パストルチッチらの名が挙がっている。一部の回答者は、信頼の基準を「自分と見解が一致する記者」と明言しており、報告書はこれを確証バイアスの表れとみる。筆者として補足すると、N1はCNN系列の地域局、Novostiはセルビア系少数民族団体の週刊紙で、いずれも政権に批判的な論調で知られる。挙がった名前の並びそのものが、サンプルの傾向を映している。

 過去1年にニュースから離れていくのを感じたと答えた人は53%である。理由は、気が滅入る内容による飽和16.9%、偽情報8.8%、クリックベイト8.1%が多い。年齢別では45〜54歳の65.5%が最も高い。報告書はこの結果を、ロイター研究所の63%、電子メディア庁の52%と整合するものとみている。ロイターの調査で回避率が60%を超える欧州の国はクロアチア、ブルガリア、ギリシャ、トルコのみだという。

調査票の結果②:検証行動と自己評価の乖離

 主要な数値は以下の通りである。

項目結果
真偽を「常に・ほぼ常に」確認する12.8%(頻繁に26.4%、時々37.8%、一度もしない6.1%)
同上・学歴別中等教育20%、学士16.7%、修士以上9.3%
同上・年齢別最年長層25%、45〜54歳3.4%
ファクトチェック機関の認知Faktograf.hr 81.1%、Lupa 45.9%、ロイター・ファクトチェック26.4%、ADMO 2.0 18.9%
信頼性の判断基準人物・文書・データの引用72.3%、長年のなじみ54.7%、独立した情報源との照合53.4%、直感のみ12.8%
偽情報に接した場ソーシャルメディア83.8%、ポータル47.3%、ユーチューブ45.3%、身近な人との会話43.9%
話題新型コロナ・ワクチン76.4%、政治・選挙75%、移民70.9%、健康・代替医療62.2%
長く信頼する情報源は確認しない27.7%

 報告書が「直観に反する」とするのは、最高学歴層の確認率が9.3%で最も低いことである。確認頻度の4区分の合計は83.1%で、残り約17%の内訳は示されていない。Faktografは記者協会とGongが2015年に立ち上げた媒体であり、81.1%という認知度は配布経路の影響を強く受けた値として読むべきである。

 報告書が中心的な発見とするのは、自己評価と行動の乖離である。偽情報を見分ける能力について、54%が5点満点で4点、5.4%が満点を付けた。しかし、偽情報を共有した経験は、3点の群で50%、4点の群で47.5%、5点の群で37.5%と、自己評価の水準によってほとんど変わらない。報告書はここから、自信と実際の耐性とのあいだに明確な関係はないと結論づける。ただし、5点群の37.5%は3人に相当する。また、「共有した経験」を申告できるのは、後で誤りに気づいた人だけである。自信の高い層ほど誤りに気づきにくいのであれば、実態の差はこの数値とは逆向きに振れる可能性もある。

自由記述の事例と「対人媒介型偽情報」

 具体的な体験を尋ねた自由記述には、次のような事例が並ぶ。ゼレンスキー大統領辞任説をインスタグラムで見て、他のポータルが報じていないことを確かめて通報した。ボクサーのイマネ・ヘリフは男性だという主張をいったん信じたが、発信源をたどってロシア系の「怪しげなボクシング団体」に行き着いた。同僚が化学物質の話を持ち込み、回答者のコカ・コーラの缶をごみ箱に捨てた。信条に合うトランプ関連の動画を友人に送ったら、風刺ページの投稿だった。所属団体の創設者の逮捕報道を複数のポータルが無批判に転載し、発信元が撤回した後も放置した媒体があった。ワクチンの危険性を拡散していた友人が、母親の発病をきっかけに考えを改め、一家で接種した。外国人が修道女を襲ったという話は、数日後に虚偽と判明した。宗教団体や政党が流す虚偽に対しては、ポータルへのコメントや自分のアカウントでの正確な情報の発信、信じている人との対話で対抗しているという回答もあった。ヘリフの事例には背景を補足しておく。国際ボクシング協会はロシア人のウマル・クレムリョフが会長を務め、国際オリンピック委員会から承認を取り消された団体である。この回答者は、権威どうしの対立に気づいたことで検証に向かった。報告書はこれらから、即座に検証しないまま受け入れてしまう3つのパターンを抽出する。感情を強く揺さぶる情報、権威から発せられた主張、信頼する身近な人から届いた情報である。報告書は3つ目を「対人媒介型偽情報」と定義し、対人的な伝達そのものが信憑性を高く見せ、出所確認を省かせると説明する。そのうえで、メディアやプラットフォームと並んで、人間関係そのものを拡散経路として扱う必要があると結論している。

誰が拡散し、誰が対処すべきか

 拡散の責任が大きいとされたのは、商業メディア76.4%、政治家・政党67.6%、ソーシャルメディア上の個人60.8%である。教会・宗教共同体は48%で、報告書はこれをクロアチア特有の特徴とみる。外国勢力を挙げた人は27%にとどまった。対処の責任は、メディア79.7%、国家・規制機関79.1%、教育制度62.8%に向けられ、市民自身を挙げた人は37.8%である。誤りに気づいた後の行動は、さらに情報を探す58.8%、伝えた相手に訂正を伝える57.4%、その情報源のフォローをやめる36.5%、通報する24.3%で、不快に感じても何もしない人が12.2%いた。筆者として補足すると、EUの政策議論では外国による情報操作が中心に置かれているが、このサンプルは偽情報を主に国内の商業メディア、政治、宗教に由来する問題として捉えている。また、市民自身を対処主体とみる割合が低いことは、後に紹介する「確認はニュースの仕事だ」という討議での発言と同じ方向を向いている。

教員グループ討議:教える知識と日常の実践

 教員たちは、Index、24sata、Telegramなどのポータル、HRTやNova TVなどのテレビを情報源に挙げた。同時に、意図的に接触を減らしていることも語られた。ニュースが始まるとラジオを消し、理由を尋ねる子どもに「知りたくないから。私たちは無知のなかで暮らしている」と答えるという発言や、夜のニュースを最後に見たのは10年前だという発言がある。ある参加者は「ニュースが私を見つけるときのほうが、自分で探しに行くときより危険だ」と述べた。信頼は断片的である。HRTは「眠くなる」が中立的とされ、「最もよく読むのはIndexだが、信頼しているわけではない」というように、読むことと信頼することが区別されている。報告書は、この公共放送への信頼がロイター研究所の知見と逆行する点に注意を促している。同研究所の報告では、クロアチアは公共サービス報道の影響を全体として否定的に評価した5市場の一つである。生成AIは信頼できない情報源として語られた。誤りを指摘するとChatGPTがあっさり認めた経験や、機関の住所を誤って答えた経験が紹介され、出典を示すCopilotのほうがましだという評価があった。

 授業ではTinEyeによる画像の逆検索や発行者表示の確認を教えている。それでも、日常で疑わしい内容に出会ったときの典型的な反応は無視である。「多すぎてすべて通報しなければならなくなる。私たちは麻痺してしまった」という発言がそれを示す。誤りに気づいたときの感情は、4グループとも「恥と否認。投稿を消して、誰も覚えていないよう祈る」に近かった。偽情報のワークショップを運営する教員が感情に流されて偽の通販サイトで買い物をした経験や、トランポリンで跳ねるウサギの生成AI動画を信じた経験も語られている。感情を揺さぶるニュースだと「認知的・分析的な部分が働かない」という自己分析も出た。責任の所在については、4グループとも、国家(とりわけ立法府)、メディアと編集者、プラットフォーム、個人が分担し、長期的には教育制度が鍵だという見方で一致した。国境を越えて活動するプラットフォームには小国クロアチアの管轄が及びにくいこと、過剰な検閲の危険があることも指摘された。偽情報を止めても利益にならないので市場には任せられず、国家単独でも力が足りないので、国連や欧州評議会の水準での合意が必要だという意見もあった。偽情報の危険は、健康、金銭、若者の心の健康、少数者や移民への憎悪、選挙と制度への信頼という複数の次元で語られた。報告書は、回避は無関心からではなく、消費が感情的に消耗させるものになり、状況を変えられると感じられないことから生じると整理している。

Open Data Days討議:委任、循環、諦め

 より専門性の高いこの集団でも、ニュース回避は広く見られた。報告書が注目するのは「委任型の情報収集」である。あるプログラマーは、哲学者の親友たちが客観的にニュースを選んでくれると語った。別の参加者は「父親から聞いたニュースは父親が言ったから信じる。だが父親も確認していない。それがぐるぐる回る」と述べ、循環の問題を自覚していた。Kony 2012の際、唯一の情報源だった前の席の同級生が20ユーロ出すべきだと言えば出すべきだった、という回想もある。「六つの情報源で確かめるのは私の仕事ではない。正確であるのはニュースの仕事だ」という発言について、報告書は、懐疑が検証ではなく諦めに向かいうることを示すと読む。本物の動画まで「偽物だ、AIだ」と退けられるようになったという指摘は「嘘つきの配当」と結びつけられ、アルゴリズムが分断的な内容を押し出すという指摘は「憤りの経済」と結びつけられている。楽観的な参加者は、今は何事も一見しただけでは信じられないので、人々は以前より確認に時間を使うようになったと述べた。悲観的な参加者は、マサチューセッツ工科大学の講義を無料で見られる時代に人類は賢くなると思っていたが、20年後の今は地球平面説を信じる人が増え、若者は真剣な記事を最後まで読めないと述べた。後者は実証的な裏付けのない印象論だが、報告書は評価を加えずに記録している。かつてはBBCの編集判断が何世代もの嗜好を形づくったが、今はアルゴリズムが何でも差し出すので見極めは各人に委ねられている、という発言もあった。責任を分担すべきだという大まかな合意はあったものの、誰が行動できるのか、誰が行動すべきなのかについての合意はなかった。グーグルのAI要約で自然流入が激減したという指摘について、報告書は、質の高い報道の経済基盤が長期的に細る仕組みとして整理している。筆者の見方では、要約を読んで元記事を開かないことは、友人への委任と同じく、確認の工程を他者に移す行為である。違いは、委任先が人間関係から検索エンジンへと制度的に置き換わりつつある点にある。

報告書の結論と提言、そしてその射程

 報告書は3つの矛盾を研修の出発点に据える。偽情報を教える教員が詐欺の被害に遭うこと、アルゴリズムを理解するプログラマーが選別を友人に委ねること、ファクトチェックを知る市民がそれを実践しないことである。提言は以下の通りである。

  • 反復と状況学習によって、検証の知識を習慣化された行動に変える演習を設計する
  • ニュース疲れを個人の失敗とせず、共有された経験として研修で正面から扱う
  • 対人的な拡散経路をメディアリテラシー活動の独立した単元にする
  • 国家、EU機関、プラットフォーム、メディア、市民がそれぞれ持つ責任の連鎖を理解させる演習を行う
  • 教員が教える内容と自ら実践する内容の隔たりを埋めるよう支援する
  • 今後は一般人口の代表標本で調査する

 筆者の評価を述べる。この報告書の価値は統計的な一般化にはなく、「読むが信頼しない」「麻痺した」「父親も確認していない」といった語り口を記録した点にある。これらは大規模調査の選択肢からは見えない層の情報であり、電子メディア庁の「感情的過負荷」という知見を質的に裏付けている。さらに、回避と身近な人への委任が組み合わさることで対人媒介型偽情報の入口が広がるという連関を示した点に新しさがある。限界は、行動指標がすべて自己申告で、偽情報を実際に見分ける能力は測定されていないことである。また、報告書は「無視する」反応を疲労による受動性と解釈しているが、接触量が膨大な環境で拡散に加担しないための合理的な防衛と読む余地もある。その読み方に立てば、研修の目標は、すべてを検証させることよりも、どの場面では検証を省略してはならないかを判断する力を育てることに置くほうが、観察された行動の実態に合う。

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