武器や兵士を使わずに、情報操作や偽情報で国家や社会を揺るがす「認知戦」が広がっています。特にアフリカでは、偽情報やプロパガンダが政治や社会の不安定化を引き起こし、外国勢力の介入が見られるケースも増えています。
今回紹介する論文『Navigating the interplay of cognitive warfare and counterintelligence in African security strategies: insights and case studies』は、認知戦がアフリカに与える影響と、それに対抗する防諜活動を具体的な事例を交えて解説しています。
1. 認知戦とは何か
認知戦(Cognitive Warfare)は、人々の認識や判断を操作し、社会全体の行動に影響を与える非武力の戦術です。特にソーシャルメディアやニュースが使われ、以下のような手法で展開されます:
- 偽情報(Disinformation):意図的に誤った情報を流布して混乱を招く。
- 誤情報(Misinformation):誤解に基づいて広まる不正確な情報。
- プロパガンダ:政治的な目的を達成するため、特定のメッセージを繰り返し強調する。
情報の拡散速度が速い現代では、認知戦が社会に与える影響は計り知れません。
2. アフリカにおける認知戦の具体例
ナイジェリア:選挙干渉と社会分断
ナイジェリアでは、選挙期間中にSNSで偽情報が広がり、投票率の低下や暴動が発生しました。
- 手法:投票時間や場所に関する虚偽情報、対立候補に対するスキャンダルの捏造。
- 結果:有権者の混乱や、民族・宗教対立の激化。
政府は、サイバーセキュリティを強化し、ファクトチェックを通じて偽情報への対策を進めています。
南アフリカ:汚職隠蔽とヘイトスピーチ
南アフリカでは、政府の汚職を隠蔽するためにプロパガンダが利用され、民族間の緊張を煽るヘイトスピーチが拡散しました。
- 手法:SNS上での偽情報とヘイト発言の拡散。
- 結果:人種間の対立が激化し、社会の分断と暴力事件が発生。
政府機関と非営利団体が偽情報の監視を行い、ファクトチェック活動で情報の正確性を確保しています。
コンゴ民主共和国(DRC):地域紛争と外国勢力の関与
外国勢力や反政府組織が偽情報を利用して民族対立を煽り、地域紛争を長期化させています。
- 手法:敵対勢力のプロパガンダ、民族や宗教を標的にした偽情報。
- 結果:国民の不信感が高まり、平和構築の遅れや難民危機が発生。
国際機関と協力し、平和維持活動や情報監視を強化しています。
3. 外国勢力の関与と目的
アフリカにおける認知戦には、外国勢力が関与している事例が多く見られます。主な目的は、資源確保や地政学的影響力の拡大です。
- ロシア
中央アフリカ共和国では、ロシアの民間軍事会社「ワグネル・グループ」が政府を支援し、反政府勢力を弱体化するプロパガンダを展開しています。
目的:天然資源の支配と影響力の拡大。 - 中国
ケニアやウガンダでは、中国が「一帯一路プロジェクト」を通じてインフラ投資を進め、中国寄りのナラティブを拡散しています。
目的:経済的支配と政治的影響力の確立。 - 西側諸国
ケンブリッジ・アナリティカ(CA)は、ナイジェリアやケニアの選挙で有権者データを利用し、選挙干渉を行いました。
4. 認知戦に対抗する防諜活動
アフリカ各国は、認知戦への対抗として以下の防諜活動を進めています:
- サイバーセキュリティの強化
政府ネットワークやインフラを保護し、外国勢力や偽情報の拡散を防ぐ。 - ファクトチェック活動
誤情報や偽情報を特定し、市民に正確な情報を迅速に提供する。 - メディアリテラシー教育
市民が情報の真偽を見極める能力を高め、情報操作への耐性を強化する。 - 国際協力
アフリカ連合(AU)や国際機関と連携し、情報共有と監視を行う。
5. まとめ:アフリカの安全保障と情報戦
アフリカでは、認知戦が選挙干渉、社会分断、地域紛争の長期化といった形で深刻な影響を及ぼしています。外国勢力の関与も顕著で、地政学的・経済的利益のために情報が武器として使われています。
これに対抗するため、サイバーセキュリティの強化やファクトチェック活動、国際協力が進められています。国家の安全と社会の安定を守るため、認知戦への包括的な防諜戦略がますます重要になっています。
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