EUにおけるロシアのプロパガンダ禁止とその影響を探る

　2025年1月9日にEU InfoLabがウェビナー「The ban on Russian propaganda: circumventions, side effects, and impact on the 2024 EU elections」を開催しました。本ウェビナーでは、ロシアによるプロパガンダ禁止後の回避策やその副次的影響、そして2024年EU選挙における影響について、専門家が多角的な視点から分析をしています。以下、その概要と興味深いポイントを紹介します。

ウェビナーの概要

　本ウェビナーには、ロシアのプロパガンダや情報操作を専門とするヴェラ・トルツ氏とスティーブン・ハッチングス氏が登壇。ロシアの偽情報戦略と、それがEU選挙や国際社会に与える影響を詳しく解説しました。

　特に注目されたのは、RTやスプートニクといったロシア国営メディアの禁止措置後、プロキシ（代理）ウェブサイトやソーシャルメディアがどのように利用されているかという点です。このテーマを深掘りするため、研究チームは5つの主要プロキシサイトと関連するTelegramチャンネルを分析し、それらがどのように情報を発信しているかを明らかにしました。

注目ポイント

1. プロパガンダの新たな形態

　ロシアは、RTやスプートニクが禁止された後、プロキシサイトやソーシャルメディアを利用してプロパガンダを継続しています。例えば「Voice of Europe」や「Recent Reliable News」などのサイトは、表面的には独立系メディアを装いながら、ロシアのナラティブを広める役割を果たしています。これらのサイトは、反EUや反ウクライナ、国家主権重視のナショナリズムなどのテーマを強調していました。

2. AI技術の利用

　AIを活用したコンテンツ生成が確認されており、大量のニュース記事や情報を効率的に作成しています。しかし、翻訳品質の低さやコンテンツの一貫性の欠如といった課題も浮き彫りになりました。これは、ロシアがAI技術をプロパガンダ活動にどのように取り入れているかを示す重要な事例といえます。

3. 地域ごとの影響力の違い

　ロシアのプロパガンダは、欧州では影響力が限定的である一方で、アフリカ、中東、ラテンアメリカなど非西側諸国で強い影響を持っていることが明らかになりました。これにより、ロシアがグローバルな視点で戦略を展開していることが示されています。

4. 偽情報対策の課題

　偽情報対策には、技術的な手法と人的リソースの両方が必要であることが強調されました。例えば、AIを用いたデータ分析だけでは、ナラティブの微妙なニュアンスや影響力を正確に把握するのは難しく、質的な分析が欠かせないとされています。

5. 過剰反応のリスク

　プロパガンダ対策が過剰反応を招き、ロシア側の戦略を逆に助長する可能性についても警鐘が鳴らされました。これにより、誤って無関係なサイトや活動を取り締まるリスクが浮き彫りになっています。

ウェビナーの意義

　このウェビナーは、ロシアのプロパガンダがどのように進化しているか、そしてそれに対する効果的な対策がどのように設計されるべきかを考える重要な機会を提供しました。また、偽情報の脅威が単にロシアに限らず、グローバルな課題であることを改めて浮き彫りにしました。

　特に、AI技術の活用やプロパガンダのグローバルな影響力の違いについての議論は、今後の対策を考える上で大きな示唆を与える内容となっています。