エストニアとウクライナの偽情報対策：ロシアの戦略とそれへの応答を読み解く

　ロシアによる偽情報キャンペーンは、情報戦略の重要な一環として、多くの国々で影響を与えています。本稿で紹介するThe Central European Digital Media Observatory (CEDMO)が2025年1月22日に公開したレポート「Russian Disinformation Campaigns in Estonia and Ukraine – A Comparative Perspective」は、エストニアとウクライナにおいて、ロシアの偽情報活動がどのように展開され、どのように対応したのかを比較したものです。エストニアの長期的な戦略とウクライナの戦時下での緊急対応を理解することで、偽情報に対する効果的な対策のヒントが得られます。

エストニア：価値観を基盤とする防御的アプローチ

　エストニアは、NATOやEUの支援を受けながら、ロシアによる偽情報活動のターゲットとなっています。特に、歴史的ナラティブやロシア語話者の少数派を利用したプロパガンダが展開されています。

主なロシアのナラティブ:
- エストニアは「歴史的にロシアの一部であった」という主張。
- ロシア語話者に対する「差別」や「迫害」を強調するメッセージ。
- 第二次世界大戦中のソビエト軍の役割を正当化する歴史的プロパガンダ。
エストニアの対策:
- 統一された戦略的コミュニケーション（STRATCOM）: 政府は、社会全体で偽情報に対応するための統合的な枠組みを構築。
- 中立的な代替メディアの提供: ロシア語話者が中立的な情報にアクセスできるよう、ロシア語テレビ局を設立。
- 心理的防衛: メディアリテラシー教育を通じて、市民が偽情報を自ら識別する能力を育成。

　エストニアの戦略は、表現の自由や民主主義の価値観を守りながら、社会全体の「レジリエンス（耐性）」を高める長期的な視点が特徴です。

ウクライナ：戦争下での緊急対応

　一方、ウクライナは2014年のクリミア併合やドンバス紛争以降、ロシアの偽情報戦略の重要なターゲットとなっています。2022年のロシアの全面侵攻以降、偽情報対策は急速に進化しました。

主なロシアのナラティブ:
- ウクライナ政府を「ネオナチ国家」とし、ロシア語話者への迫害を主張。
- ウクライナ軍を非人道的な存在として描き、士気の低下を狙う。
- NATOやアメリカの傀儡国家であるとするプロパガンダ。
ウクライナの対策:
- メディア規制: ロシア系メディアの放送禁止や、親ロシアSNSアカウントの削除。
- 統一ニュース放送: 政府が主導する24時間体制の公式ニュース発信で、国民に統一されたメッセージを提供。
- 法的措置: ロシア語使用の制限を含む新法を制定し、情報環境を管理。