ロシアの影響工作キャンペーン “Doppelgänger” は、2022年以降、Meta(Facebook)上で大規模な偽情報広告を配信し続けていた ことが判明している。このキャンペーンは、EUとアメリカのプラットフォーマー(特にMeta)の対立を浮き彫りにする事例 の一つともいえる。
2025年1月17日に公開された AI Forensics、Check First、Reset Tech による共同レポート「Influence by Design: How Meta Accepted Russian Propaganda Payments Despite Sanctions」は、この問題の核心に迫る。レポートによれば、ロシアのIT企業「Social Design Agency (SDA)」は、Metaの広告インフラを巧みに利用し、EU諸国に向けて偽情報を拡散していた。また、EUが2023年7月に、アメリカが2024年3月にSDAを制裁リストに追加した後も、MetaはSDA関連の広告を承認し続け、収益を上げていたことが判明している。
この問題は単なる広告審査の不備ではなく、EUがどのようにアメリカのプラットフォーマーと対峙し、デジタル主権を確立していくか という、より大きな政治的問題に関わる。本記事では、レポートの内容をもとに、以下のポイントを検証する。
- Metaの広告システムはなぜ簡単に悪用されたのか?
- EU・米国の制裁にもかかわらず、なぜMetaは広告を承認し続けたのか?
- EUは今後、アメリカのプラットフォーマーとどのように対峙すべきか?
関連記事: ロシアの偽情報キャンペーン「Doppelganger」を追う——CORRECTIVとQuriumが暴いたその実態
1. Meta広告の審査の甘さをSDAが巧妙に突いた理由
レポートによれば、SDAはMetaの広告システムの脆弱性を的確に突き、制裁を回避しながら偽情報を広める手法を確立していた。その手法には、以下のような特徴がある。
① 広告主の身元を隠すための偽名・偽情報
Metaの政治広告には、広告主の身元確認や支払者の開示が求められる ルールがある。しかし、SDAはこれを簡単に回避していた。
- ランダムな偽名を使用:「Dr. Aaron Kuphal」「Prof. Evelyn Barnett」など、適当な名前の広告主を作成。
- 無意味な広告主情報で登録:「.」「0」「ascfaqwscf」など、適当な文字列を入力し、Metaの審査をすり抜ける。
この結果、Metaは本来ブロックすべき広告を審査なしで承認し続けた ことが分かっている。
② AIとソーシャルエンジニアリングの活用
レポートによれば、SDAは ChatGPTなどのAIを活用し、広告テキストや風刺画を作成 していた。
- 政治的な広告を直接投稿せず、ミームや風刺画で情報を拡散
- 広告の審査を回避するため、あえてソフトな表現を使用
- 問題が発覚するとすぐにアカウントを乗り換える
Metaの審査システムは基本的に 「自己申告制」 であり、広告の詳細な内容をチェックする仕組みが不十分だった。これが、SDAが偽情報広告を配信し続けられた最大の要因 となった。

2. 制裁後もMetaが広告を承認し続けた問題
EUとアメリカがSDAに対する制裁を発動したにもかかわらず、Metaは制裁後もSDAの広告を承認し続けていた。レポートの分析によれば、MetaはEUの制裁(2023年7月)、米国の制裁(2024年3月)後も、SDA関連の広告を配信し続け、収益を上げていた ことが判明した。
- EU制裁後(2023年8月~2024年10月)の広告配信で、Metaは約$338,000の収益を得た
- 米国制裁後(2024年3月以降)も、Metaは約$138,000の収益を上げた
Metaはなぜ制裁後も広告を承認したのか?
Metaの報告によれば、同社は「SDAの広告を削除し、影響力を削ごうとしている」と主張している。しかし、レポートの分析では、以下の問題が指摘されている。
- Metaの広告審査はAIに大きく依存しており、完全には機能していない
- 広告が一度承認されると、制裁後でも配信が続くケースが多い
- Metaは制裁対象企業の広告費を受け取っており、国際法違反の可能性がある
3. EUは今後、アメリカのプラットフォーマーとどう対峙すべきか?
この問題は、単にMetaの広告システムの脆弱性を指摘するだけでは終わらない。EUが今後、アメリカのプラットフォーマーとどのように対峙し、デジタル主権を守るのか が問われている。
EUが取るべきアクション
レポートでは、EUが今後進めるべき対策として、以下のような点が挙げられている。
- デジタルサービス法(DSA)の強化
- 広告の透明性を高め、制裁対象の企業が広告を出せない仕組みを構築する。
- 広告データの保存期間を延長し、研究者や監視機関が長期的に追跡できるようにする。
- アメリカのプラットフォーマーへの制裁強化
- EUの規制に従わない場合、罰則を強化し、経済制裁を科すことを検討する。
- 独自のプラットフォーム規制を策定
- アメリカ企業に依存しない情報管理体制を構築し、EUのデジタル主権を確立する。
まとめ
このレポートは、単なる偽情報対策の問題ではなく、EUとアメリカのプラットフォーマーとの戦いを浮き彫りにする重要な事例 だ。Metaは広告プラットフォームを提供しながら、制裁対象企業のプロパガンダを支援していた可能性がある。この問題は、今後のEUのデジタル政策にも大きな影響を与えるだろう。
コメント
Your insights on this subject is profound, I admire your knowledge.