オーストラリア記者521人が語る「偽情報時代のリアル」──Medianet『2025 Australian Media Landscape Report』

オーストラリア記者521人が語る「偽情報時代のリアル」──Medianet『2025 Australian Media Landscape Report』 報道の自由

 2025年1月、オーストラリアのメディア情報プラットフォームMedianetが、国内のジャーナリスト521名を対象に調査を実施し、その結果をまとめた『2025 Australian Media Landscape Report』を公表している。回答者の65%はデジタルメディアに所属し、TV(16%)、ラジオ(20%)、ポッドキャスト(12%)といった分野の記者も含まれる。

 このレポートでは、ジャーナリズムの労働環境、生成AIの浸透、SNS利用の変化、報道の自由と信頼性といったテーマが多角的に分析されているが、本記事では特に偽情報の拡大と報道への影響に焦点を当て、その部分を中心に紹介する。


「偽情報/フェイクニュース」は最大の脅威

 公共的ジャーナリズムに対して、どのような脅威が存在していると考えるか――この問いに対し、最も多かったのが「偽情報/フェイクニュースの増加」(75%)である。これは、メディア企業の閉鎖(69%)、人材不足(66%)、信頼の低下(63%)といった他の要素を上回る数字である。

 報告書には次のような記者の声も紹介されている。

「インターネットはナンセンスであふれている。偽情報、心理作戦、嘘八百…民主主義の土台が崩れる」
「ソーシャルメディアは事実確認をせずに何でも広める。そして主流メディアがその巻き添えで信頼を失っている」

 こうした指摘は、情報環境全体の変化が個々の記者の実感として深く刻まれていることを示している。


生成AIへの強い警戒感

 本レポートでは、生成AI(Large Language Models)に関する記者たちの認識と実態も詳細に分析されている。

  • 2024年時点で「業務にAIを使った」と回答したのは37%(前年は26%)
  • しかし、88%が「AIが報道の信頼性や質に悪影響を及ぼす可能性がある」と回答
  • 特に「非常に懸念している」が37%と、前年(18%)の倍増

 こうした中には、以下のような強い表現も見られる。

「AIはズレた文法と誤情報にまみれていて、読めばすぐにわかる」
「“人間の脳には”バカバカしい情報を嗅ぎ分けるセンサーがある」
「私は絶対にAIでは記事を書かない。使うのはニュースレターか社内資料だけ」

 一方で、リサーチや要約といった限定的な補助としての活用を肯定する声も一定数ある。ただし、報道の本質にAIを関与させることへの抵抗感は非常に強い。


圧力・攻撃・ハラスメントの実態

 レポートでは、報道の自由に関わるもう一つの側面として、記者が個人的見解を述べたことによる被害経験も明らかにしている。

  • 回答者の19%が「個人的意見を表明したことで、ネガティブな影響を受けた」と回答
  • その内容は、SNSでの炎上、読者離れ、編集部内での扱いの変化など多岐にわたる

 例えば以下のような事例が挙げられている。

「Voice国民投票への賛成で記事を書いたら、購読者が激減した」
「イスラエル政府に批判的な記事を書いたことで、圧力団体から攻撃された」
「ワクチンについて事実確認をしただけで、SNSで炎上した」

 さらに、いじめやハラスメントの被害についても言及されており、記者の安全や精神的健康が損なわれるケースが実在している。


信頼・公共性の揺らぎ

 こうした背景の中で、ジャーナリストたちはメディアの未来をどう見ているのか。

 レポートの最終章では、「2025年のジャーナリズムを定義するものは何か?」という自由回答が紹介されている。そこでは、

  • 「信頼」「透明性」「検証」「ファクト」
  • 「AIではなく人間の判断」
  • 「報道とは価値を付加する仕事」

といったキーワードが繰り返されている。

 ある記者はこう語っている。

「ジャーナリズムは、単なる“情報伝達”ではない。文脈を与え、意味を掘り下げ、信頼に値する形で届けることにこそ価値がある」


まとめ

 『2025 Australian Media Landscape Report』は、労働環境やメディア構造の変化を示すだけでなく、現場のジャーナリストたちが偽情報の拡大と生成AIの波の中で、いかに自らの役割を再定義しようとしているかを描いている。

 オーストラリアの報道現場におけるこうした声は、同様の課題を抱える日本のメディア環境にも示唆を与えるものだといえる。

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