米国下院司法委員会は2026年2月3日、160ページの報告書“THE FOREIGN CENSORSHIP THREAT, PART II: EUROPE’S DECADE-LONG CAMPAIGN TO CENSOR THE GLOBAL INTERNET AND HOW IT HARMS AMERICAN SPEECH IN THE UNITED STATES”を公表した。委員長Jim Jordan(共和党)の下、同委員会は2025年2月にApple、Amazon、Microsoft、Google、Meta、TikTok、X、Reddit、Rumble、OpenAIの10社に対してサブポーナ(召喚状)を発行し、欧州委員会および欧州連合(EU)加盟国政府との通信記録を含む数万ページの内部文書を入手した。本報告書はこれらの非公開文書に基づき、欧州委員会が2015年から2025年までの10年間に実施した「グローバルな検閲キャンペーン」を告発している。
これは2025年7月に公表されたPart 1に続く調査報告である。重要な注意点として、本報告書は米国共和党の政治的視点から作成されたものであり、学術的中立性を欠く。欧州側の正当化(偽情報対策、民主主義保護、テロ対策、外国干渉対策)についての客観的検討は限定的であり、一方的な視点に基づいている。したがって、報告書の主張と客観的事実を区別して読む必要がある。
本記事では、政治的主張ではなく、サブポーナで入手した企業内部文書が明らかにした具体的な圧力メカニズムに焦点を当てる。Digital Services Act(DSA)は2022年に成立し2023年に発効した欧州の包括的なデジタル規制法で、違反企業には全世界収益の最大6%の罰金が科される。
10年間の検閲インフラ構築の系譜
欧州委員会は2015年から段階的に検閲インフラを構築した。第一段階として、2015年12月に移民・内務総局(DG-Home)がEU Internet Forum(EUIF)を設立した。第二段階では、2016年5月にCode of Conduct on Countering Illegal Hate Speech Onlineを、2018年にCode of Practice on Disinformationを導入した。第三段階として、2022年にDisinformation Codeを大幅改訂し、DSAが2023年に発効した。
2022年改訂版Disinformation Codeの下、プラットフォームは常設のTask Forceに参加することが求められた。Task Forceは6つのサブグループ(ファクトチェック、選挙、保守系ニュースメディアの収益化停止など)に分かれ、2022年後半から2024年にかけて、プラットフォーム、左派市民社会組織(CSO)、欧州委員会規制当局の間で90回以上の会議が開催された。特にCrisis Response Subgroupでは、12回以上の会議で欧州委員会がプラットフォームに対して偽情報対策に関連する”policy changes”について繰り返し質問した。
これらの「自発的」かつ「合意形成型」とされたフォーラムが実際には強制的だった証拠が、企業内部文書から明らかになった。Googleスタッフの2023年6月22日付内部メールには、Disinformation Code Task Forceへの参加について”don’t really have a choice”(選択肢は実際にはない)と記されている。同メールは、会議のアジェンダが”under (strong) impetus from the EU Commission”(EU委員会の強い推進下)で設定され、「合意」は欧州委員会の圧力下で達成されたものであることを示している。
欧州委員会自身も、これらのCodeが法制化への布石であることを明言していた。当時の欧州委員会司法担当委員Vera Jourovaは2016年、Hate Speech Codeへの遵守が不十分な場合、EUは単純に法制化すると警告した。DSA執行部門長Prabhat Agarwalは2024年3月、DSA Election Guidelinesについて、これらは遵守の「最低基準」であり、逸脱する場合は「同等以上の代替措置」が必要だと述べた。この時期、Alphabetは欧州委員会から2017年から2019年の間に累計€8.2 billionの罰金を科されており、こうした巨額罰金の前例がプラットフォームへの威圧効果を持った。
欧州委員会President Ursula von der Leyenは2019年、DSAによって「自発的コミットメントを法的義務に転換する」と述べた。実際、DSA発効後、欧州委員会はCode遵守が「DSA遵守の証拠」となり、非遵守は報復のリスクがあることを明示的に伝えている。10年をかけて、「自発的」な規範が法的強制力を持つシステムへと転換された。
企業内部文書が明らかにした圧力の実態
COVID-19ワクチン検閲への圧力
COVID-19パンデミック期間中、欧州委員会の最高レベルがワクチンに関する言論の検閲を推進した証拠が内部文書に記録されている。2020年10月30日、von der Leyen委員長とJourova副委員長の承認の下、欧州委員会はTikTokに対してワクチン展開に先立ち”update terms of service or content moderation practices (promotion / demotion)”(サービス規約またはコンテンツモデレーション実践(プロモーション/デモーション)をどのように更新するか)と尋ねた。この要求は、グローバルなコンテンツモデレーションルールの変更を求めるものだった。
欧州委員会の介入は米国のコンテンツにも及んだ。2021年11月5日、欧州委員会はTikTokに対して「米国で始まる子供向けCOVID-19ワクチンキャンペーンに関する偽情報とどう戦うか」について尋ね、ワクチンの有効性に関する特定の「主張」を削除する計画を要求した。欧州の規制当局が米国での議論を自らの規制管轄内と扱った明確な例である。
2022年12月8日、欧州委員会の規制当局はワクチンに関する米国のドキュメンタリー映画について、YouTube、Twitter、TikTokに「内部確認」と「書面回答」を要求した。YouTubeは欧州委員会が問題を提起した後、即座に当該映画を削除したと回答した。米国におけるワクチンをめぐる議論が、欧州委員会の介入対象となった。
Crisis Response Subgroupの会議では、2023年から2024年にかけて12回以上、欧州委員会がプラットフォームに対して偽情報対策に関連する”new developments and actions”や”policy changes”について質問を続けた。特徴的な議題には「偽情報との戦いに関連した新展開と行動」が含まれ、明確に「ポリシー変更」への言及があった。
グローバルなコンテンツモデレーションルールの変更
TikTokの内部文書は、DSA遵守のために同社がグローバルなCommunity Guidelinesを変更した過程を記録している。2023年、TikTokは”achieving compliance with the Digital Services Act”(Digital Services Actへの遵守達成)を明示的な目的として、Community Guidelinesの編集を開始した。内部のサーベイ文書にこの目的が記載されている。
2024年3月20日付のTikTok Community Guidelines Update Executive Summaryは、新たに導入された検閲規則の詳細を示している。新規則は以下を禁止対象とした:
- “marginalizing speech”(周縁化する言論)
- “coded statements that normalize inequitable treatment”(不平等な扱いを正常化するコード化された発言)
- “misinformation that undermines public trust”(公的信頼を損なう誤情報)
- “media presented out of context”(文脈から切り離されたメディア)
- “misrepresented authoritative information”(権威ある情報の誤った提示)
この文書は、「法務チームの助言に基づき」、これらの更新が”mainly related to compliance with the Digital Services Act (DSA)”(主にDigital Services Act(DSA)への遵守に関連)していることを明記している(原文で強調)。さらに、文書はTikTokが欧州委員会の検閲要求に応じて、世界中で真実の情報を”systematically censored”(組織的に検閲)したことを確認している。
変更はCommunity Guidelinesに留まらなかった。2023年7月17日、TikTokが欧州委員会に提出したプレゼンテーション資料によれば、”units with day-to-day activities overlapping the DSA, like Trust & Safety…given new policies, rules, & [standard operating procedures]”(DSAと日常業務が重複するTrust & Safetyなどの部門に新しいポリシー、ルール、標準作業手順が与えられた)。これは、TikTokがDSA遵守のために広範なコンテンツモデレーションシステムを変更したことを示唆している。
欧州委員会の要求は継続的である。2025年5月のDSA Workshopで、欧州委員会はプラットフォームに対して”continuous review of [global] community guidelines”(グローバルなコミュニティガイドラインの継続的な見直し)がDSA遵守の「ベストプラクティス」だと明言した。
2024年米国大統領選挙への介入
欧州委員会の関心は2024年米国大統領選挙にも向けられた。2024年5月28日、欧州委員会副委員長Vera Jourovaはカリフォルニアまで渡航し、TikTok CEOのShou ChewおよびTrust & Safety責任者と会談した。会談前のTikTok内部メールには、Jourovaとの会議が”stay mostly EU focused”(主にEUに焦点を当てる)か、それとも”both EU and US election preparations”(EUと米国両方の選挙準備)を扱うかを確認する内容が記されている。欧州委員会は”both”(両方)と回答した。
同年8月12日、当時の欧州委員会域内市場担当委員Thierry BretonはX所有者Elon Muskに書簡を送り、Donald Trump前大統領とのライブ対談に先立って警告した。Bretonは、米国での言論が欧州への”spillovers”(波及効果)を持つ可能性を懸念し、欧州委員会が”will not hesitate to make full use of [its] toolbox”(躊躇なくツールボックスを最大限活用する)とXに対するDSA下での”measures”(措置)を示唆した。Jordan委員長はBretonに2通の書簡を送り、これが米国の選挙干渉であり言論の自由の侵害だと指摘した。Bretonはその後2024年9月16日に辞任した。
欧州委員会はBretonの書簡を「未承認の単独行動」と主張したが、Jourovaの5月の訪問は、欧州委員会の最高レベルが米国選挙について関心を持っていたことを示している。
選挙検閲の具体例
DSA Election Guidelinesの要求
欧州委員会は2024年4月26日、DSA Election Guidelinesを公表し、プラットフォームに以下の追加的検閲措置を求めた:
- EU検閲要求に応じた「ポリシー、実践、アルゴリズムの更新と精緻化」
- Disinformation Code、Hate Speech Code、EUIF文書に記載された「ベストプラクティス」への遵守
- 「偽情報のprominence(目立ち度)を削減する措置の確立」
- 「偽情報またはmisinformationを描写する生成AIコンテンツのreachとimpactを大幅に減少させるためのサービス規約の適応」
- 政府承認の左派系ファクトチェッカーによる「偽情報」と見なされた投稿への「ラベル付け」
- 「予想される偽情報ナラティブに対して事前に回復力を構築するinoculation措置の開発と適用」
- 「ジェンダー化された偽情報」への追加措置
これらは「自発的ベストプラクティス」として提示されたが、Prabhat Agarwalは非公開会議で、これらは最低基準であり、逸脱する場合は「同等以上の代替措置」が必要だと述べた。
スロバキア議会選挙(2023年9月)
2023年9月30日のスロバキア議会選挙に先立ち、TikTokは欧州委員会の圧力下で内部コンテンツモデレーションガイドを作成した。2023年9月22日作成の文書には、TikTokが「ヘイトスピーチ」として検閲した以下の発言がリスト化されている:
- “There are only two genders”(性別は2つしかない)
- “Children cannot be trans”(子供はトランスジェンダーになれない)
- “We need to stop the sexualization of young people/children”(若者/子供の性化を止める必要がある)
- “I think that LGBTI ideology, gender ideology, transgender ideology are a big threat to Slovakia, just like corruption”(LGBTI思想、ジェンダー思想、トランスジェンダー思想は、汚職と同様にスロバキアへの大きな脅威だと思う)
- “Targeted misgendering”(意図的な誤ジェンダリング)
TikTok自身がこれらの発言は”common in the Slovak political discussions”(スロバキアの政治議論で一般的)と認識していたにもかかわらず、欧州委員会の圧力下でこれらを検閲した。これらはヘイトスピーチではなく、科学的・医学的論争に関する政治的意見である。
ルーマニア大統領選挙(2024年11月-12月)
2024年11月の第1回投票で、無名の独立系ポピュリスト候補Calin Georgescuが勝利した。2024年12月6日、ルーマニア憲法裁判所は選挙結果を無効化した。ルーマニア情報機関は、ロシアがTikTok上の25,000アカウントからなる協調的ネットワークを通じてGeorgescuを支援したと主張した。
しかし、TikTokが欧州委員会に提出した内部文書は異なる実態を示している。2024年12月7日および13日付のRequest for Information(RFI)への回答で、TikTokは”has not found, nor been presented with, any evidence of a coordinated network of 25,000 accounts associated with Mr. Georgescu’s campaign”(Georgescu氏のキャンペーンに関連する25,000アカウントの協調的ネットワークの証拠を発見しておらず、提示もされていない)と明言した。これは情報機関の主張の核心部分を否定するものである。
2024年12月下旬、メディア報道はルーマニア税務当局の証拠に基づき、問題のキャンペーンは実際には別のルーマニア政党が資金提供していたことを明らかにした。ロシア干渉の主張は虚偽だった可能性が高い。にもかかわらず、選挙結果は復活せず、2025年5月の再選挙で既成政党候補が勝利した。
2024年EU選挙(2024年6月)
2024年6月のEU議会選挙に先立ち、TikTokは大規模な検閲を実施した。2024年9月24日に欧州委員会に提出した機密報告書によれば、TikTokは45,000件以上の「誤情報」を検閲した。検閲されたトピックには以下が含まれる:
- 移民(migration)
- 気候変動(climate change)
- 安全保障・防衛(security and defence)
- LGBTQ権利(LGBTQ rights)
報告書はこれらすべてを「明確な政治的言論」(clear political speech)と記述している。欧州委員会は、スロバキア、オランダ、フランス、モルドバ、ルーマニア、アイルランドなど複数のEU加盟国選挙の前に、国レベルの規制当局、左派NGO、プラットフォームを集めた会議を繰り返し開催し、保守・ポピュリスト政党を不利にする検閲を実施した。
X罰金決定の詳細
2025年12月5日、欧州委員会はDSA下で初の罰金決定を発表し、Xに€120 millionの罰金を科した。これは法定上限である全世界収益の6%を僅かに下回る額である。決定文書はCase DSA.100101、DSA.100102、DSA.100103として、文書番号C(2025) 8630 finalで公表された。
罰金の主要な違反内容は、青チェックマークの「意味の誤用」(misappropriating)である。欧州委員会は、Xが青チェックマークを従来の本人確認の証明から有料サブスクリプションの証明に変更したことが、ユーザーを欺くものだと主張した。
より重要なのは、決定が明確にDSAの域外適用を主張している点である。DSAの研究者アクセス条項について、欧州委員会は、米国企業であるXが米国データを世界中の研究者に提供しなければならないと解釈した。これは欧州法が米国データに対してグローバルに適用されることを意味し、Jordan委員長が1年以上にわたって警告してきた域外適用の危険性を実証している。
さらに、欧州委員会は遵守しない場合、XをEU市場から排除する可能性を示唆した。この決定は2つの点で寒気を催すものである。第一に、グローバルな言論の自由擁護に対する罰則であり、第二に、DSAの域外執行を主張している。報告書はこれを”everything the Committee has warned about”(委員会が警告してきたすべて)と評価している。10年間の圧力キャンペーンの集大成である。
一次資料としての価値と限界
本報告書の最大の価値は、サブポーナによる強制開示で入手した通常アクセス不可能な企業内部文書にある。企業と規制当局の間のメール交換、内部メモ、会議議題、コンテンツモデレーションガイドなど、具体的な日付、送受信者、検閲対象の発言リストが含まれている。これらは政策立案過程の「ブラックボックス」を開く貴重な一次資料である。
しかし重大な限界がある。本報告書は米国共和党の政治的報告書であり、学術的中立性を欠く。方法論的革新はなく、主に文書のレビューと政治的分析に基づいている。欧州側の正当化——偽情報対策、民主主義保護、テロ対策、ロシアなどの外国干渉対策——についての客観的検討は限定的であり、一方的な視点に基づいている。したがって、報告書が提示する事実と政治的主張を明確に区別する必要がある。
本報告書が示唆する構造的問題は、グローバルなコンテンツモデレーションの地政学である。プラットフォームがグローバルな単一ルールを採用する構造において、一国または一地域の規制が域外効果を持つ。また、「自発的」規範と法的強制の境界が曖昧化するプロセスが、10年間かけて実現された。これらは情報規制とグローバル・ガバナンスをめぐる根本的な問題を提起している。

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