本稿は、カナダのデジタルメディア研究機関CDMRN(Canadian Digital Media Research Network)が2026年4月21日に公表したインシデントレポート「SLOPAGANDA: The Inauthentic YouTube Network Selling Secession to Albertans」を紹介するものである。CDMRNはトロント大学に拠点を置くMedia Ecosystem Observatory(MEO)が主導する研究ネットワークであり、カナダ政府のHeritage Canadaが実施するDigital Citizen Initiativeの資金援助を受けている。著者はChris Ross、Ben Steel、Zeynep Pehlivan、Mika Desblancs-Patel、Aengus Bridgmanの5名。
レポートが分析対象とする現象は「slopaganda」と呼ばれる。低品質で高度にテンプレート化されたコンテンツを、生成AIによって量産・拡散することで政治目的を推進する手法を指す用語であり、研究コミュニティで普及しつつある。本レポートはこのslopagandaの手法を用い、アルバータ州の分離独立ないし米国への編入を正常化する言説を流布している非真正YouTubeチャンネル網を、計量的・定性的手法の組み合わせで解剖する。
アルバータ州独立論は2026年現在のカナダ政治における最も緊迫した争点のひとつである。2026年の州民投票に向けた署名運動が進行しており、X(旧Twitter)やYouTubeには独立運動に共鳴するアカウントが大規模なフォロワー基盤を持つ。CDMRNがこの報告書を「インシデントレポート」として公表した背景には、民主的プロセスが進行中のタイミングに非真正ネットワークが同問題に集中的に介入しているという判断がある。
調査対象:20チャンネル・約4000万再生の非真正ネットワーク
チャンネルの特定には段階的なフィルタリング手法が用いられた。まず、カナダ・プレスによる先行報道で既に記録されていたYouTubeチャンネル「Canadian Reporter」をシードとして設定し、そのすべての動画タイトルを抽出。これをクエリとしてYouTubeを検索し、1,000チャンネル超を候補として取得した。次にLevenshtein距離を用いたタイトルレベルのテキスト類似度計算を実施し、高い類似度閾値を適用することで、近似的な表現を繰り返し使用している35チャンネルを特定した。同一テンプレートに基づく制作を示す指標であることから、これらを精査対象とした。
その後、手動レビューにより真正アカウントおよびアルバータ独立に特化していないチャンネルを除外し、最終的に20チャンネルを分析対象として確定した。分析期間は2025年5月1日以降。一部チャンネルは最大18年前に遡るコンテンツを持つ転用アカウントであることが判明したが、問題のパターンが確認されるのはいずれも2025年5月1日以降であったため、この日付を基準とした。
20チャンネルの累計視聴回数は約4000万回に達する。最大チャンネルであるCanadian Reporterは293本の動画で1,522万回の視聴、David Fraserは226本で1,199万回、Cdn Bulletinは394本で497万回、Canadian Hubは171本で318万回、RedVox TVは242本で266万回と続く。残りのチャンネルはそれぞれ数万から数十万規模の視聴回数であり、ネットワーク全体としての規模は一部の主要チャンネルに著しく偏っている。
コンテンツ分析:苦情フレーミングと米国編入ナラティブ
4,474本の動画を文字起こしし、1分チャンクに分割した結果、72,942チャンクが生成された。各チャンクに対してQwen 3.5-27B-FP8(Alliance CanadaのGPUインフラ上でvLLMを使用)を適用し、(1)苦情フレーミング——アルバータが不当に扱われていると描写しているか(政治的・経済的・文化的の3カテゴリに細分)——および(2)米国編入への肯定的言及——アルバータの米国への合流を明示的に支持しているか——を分類した。分析の分母は「Alberta」という語が登場する動画のチャンクに限定することで、無関係なコンテンツの混入を防いだ。
結果として、非真正チャンネルにおけるAlberta言及セグメントの平均65%が苦情フレーミングを含み、約7%が米国編入に好意的な文脈を含んでいた。比較対象として設定した真正アルバータ独立派チャンネル6本では苦情フレーミングが平均40%、米国編入への肯定的言及は平均0.6%にとどまる。すなわち非真正チャンネルは真正チャンネルより約1.6倍高い苦情密度を示し、米国編入への言及は約12倍多い計算になる。
この定量的差異は、非真正チャンネルが単にアルバータ独立派の論調を増幅しているのではなく、米国による領土編入という独立運動の主流とは異なるナラティブを特異的に押し出していることを示している。Canadian Reporter(チャンネル登録者9万超、視聴1,522万回)の最高視聴動画(71万回)の冒頭は「西部諸州が第51州から第56州への移行を驚くべき権威をもって宣言し、オタワを震撼させる政治的爆弾を投下した」と始まり、50秒後には「アルバータ人の65%、サスカチュワン人の61%、マニトバ人の58%が分離ないし米国の州としての地位を公然と支持している」と主張する。いずれも公表された世論調査で裏付けられた数字は存在しない。RedVox TVでは「アルバータ、サスカチュワン、そしてブリティッシュコロンビアの一部が地震的なWEXITアナウンスメントを発表した——第51州になることも選択肢のひとつだが、いずれにせよ立ち上がらなければ引きずり回されるだけだ」といった文言が確認されている。
非真正性の証拠①:制作上のレッドフラグ
定量分析に先立ち、レポートはコンテンツの定性的精査から得られた制作上の異常を列挙している。これらは、スクリプトの読み手が内容の元々の制作者ではないことを示す時刻付きの指標として記録された。
具体的に文書化された事例として、「Alberta Prosperity Project(アルバータ繁栄プロジェクト)」を「Atlanta prosperity project」と誤読する例、サスカチュワン州都レジャイナの発音がカナダ人なら絶対にしない方法でなされている例、脚本の「咳をする」という演技指示を音声として読み上げてしまった例が挙げられる。ブリティッシュコロンビア州の無所属MLA(州議会議員)Dallas Brodieを「彼(he)」と呼んでいるが、Brodieは女性であり、BC州政治に少しでも関心があれば見逃さない誤りである。さらに「テラス、カムループス、フォートセントジョンの人々と話した——彼らはもうバンクーバーと同じ政治言語を話さない」と一人称で語るナレーターが、ペンシルバニア州を拠点とする声優であることをCDMRNは確認している。
これらは氷山の一角にすぎず、数百本の動画を通じてパターンは一貫していると報告書は指摘する。表面的にカナダ政治の語彙を装いながら、実際には当該政治に埋め込まれた者なら犯し得ない誤りを繰り返す——その累積がコンテンツの非真正性を構造的に示している。
チャンネルは当初AIボイスオーバーやAI生成アバターを主に使用していたが、5チャンネルは実際の人物が映像に登場する形式に移行している。CDMRNはこの変化が2025年7月15日のYouTubeによるコンテンツ非真正性ガイドライン改定への対応である可能性を指摘している。しかしながら、人間の声優を前面に出すことが必ずしも真正性を担保しないことは、上述の誤りのパターンが示している。
非真正性の証拠②:協調シグナルの計量分析
定性的な赤旗を補完する形で、CDMRNは5種の独立した協調シグナルを計量的に分析した。
第一に、TF-IDFトランスクリプトコサイン距離による言語的類似度。第二に、音声フィンガープリント技術による同一ニュースクリップセグメントの共有検出——チャンネル間で25,000超の同一音声・映像セグメントが特定された。第三に、pairwiseのLevenshtein距離によるタイトル類似度(類似度0.90以上のクラスタを可視化した図が報告書に掲載されている)。第四に、テンプレート化されたチャンネルイントロ動画の存在——The Canadian Politician、Canadian Reporter、Canadian Hub、David Fraserの4チャンネルが、チャンネル名・ホスト名・「フェアユース」ボイラープレート・購読促進フレーズなど全セクションにわたってほぼ同一のイントロを使用していることが並列比較で示されている。第五に、HDBSCAN(ノイズを含む確率的密度ベースクラスタリング)とHarrier 270Mの意味的埋め込みを組み合わせた約30万件の主張クラスタリングによる繰り返し主張の検出——20の反復テーマに集約された。
| 協調シグナル | 観測値 |
|---|---|
| 共有ニュースクリップセグメント | 25,000超 |
| クロスチャンネルコメント投稿者 | 11,463アカウント(3件以上投稿) |
| うち3チャンネル以上で活動 | 43% |
| 上位1%の高度協調アカウントの最大出現チャンネル数 | 13チャンネル |
コメント行動の分析では、11,463アカウントが複数チャンネルにコメントを投稿しており(3件以上)、そのうち43%が3チャンネル以上で活動している。この高度協調アカウント群(上位1%)は新規動画の投稿から数分以内に反応し、活動量が一致するランダムグループと比較して2桁多い共出現率を示す。これは独立したチャンネル間の自然な視聴者重複では説明できない水準である。
制作一貫性と語彙多様性の2次元分析では、非真正チャンネルが「低語彙多様性・高制作一貫性」の象限に密集しているのに対し、真正チャンネルが広く分散していることが示されている。真正チャンネルは動画の長さ・話速が変動するのに対し、非真正チャンネルはアップロードごとに一定の尺と話速を維持しており、テンプレートからの生成を示唆する。
ターゲットオーディエンスと意図:未解決の問題
CDMRNはオーディエンスの実態解明が利用可能なデータでは困難であることを明示している。自発的に地理的位置情報に言及したコメント投稿者は491アカウント(全体の1%未満)に過ぎず、その多数が米国の地名を挙げ、アルバータ・カナダ他地域からの言及はそれより少ない。ただしYouTubeコメント欄の自己申告位置情報はオーディエンス分析の代替にはならず、サンプルサイズも微小であるため、報告書はこれを示唆的証拠として提示するにとどめている。実際のオーディエンス分布の解明にはYouTubeが保有するプラットフォームレベルのデータが不可欠であり、現状では入手できない。
ネットワークの起源・意図に関してもCDMRNは断定を回避している。特定できた実在人物はペンシルバニア州在住のアメリカ人声優1名のみであり、ネットワークの組織主体とは考えにくい。分析中に複数のチャンネルが動画を削除してトゥルークライムドキュメンタリー等に完全転換する動きも観察された——これは新規アカウントより古いアカウントのほうがプラットフォームの信頼スコアが高い傾向を利用した、非真正コンテンツ運用でよく見られる手法である。アルバータ独立のコンテンツ以外にも世界政治・米国政治・イラン政治等に言及するチャンネルが多数存在したことから、CDMRNはこのネットワークの起源がアルバータ独立よりも広いコンテクストにあると推定している。
意図については、アルバータ独立コンテンツが高いエンゲージメントを生みやすい素材であることが一因である可能性と、苦情フレーミングと米国編入ナラティブの系統的な増幅が政治的影響工作の目的と整合することの両方が指摘されている。真正なアルバータ人が抱く実在の苦情を隠密な手法で流用することは、透明で民主的なプロセスと相容れないとCDMRNは結論づける。
プラットフォームへの要求と研究の限界
CDMRNは結論部でYouTubeおよびソーシャルメディアプラットフォーム全般に対し、5項目の具体的要求を提示している。(1)フラグが立てられたチャンネルネットワークの地理的オーディエンス分析データの開示——コンテンツが実際に誰に届いているかを研究者が検証できるようにする。(2)有料プロモーションや広告ターゲティングが特定地域へのコンテンツ誘導に使用されたかどうかの透明性確保。(3)協調的非真正ネットワークと特定されたチャンネルのアカウント作成・所有履歴の共有。(4)YouTubeへのコミュニティノート機能の導入——視聴者がCanadian Reporterのようなチャンネルが有償声優によって運営されていることを直接フラグできるようにする。(5)認定研究者に対するコメントレベルタイムスタンプ・アカウント年齢・クロスチャンネル投稿パターンへのAPIアクセス付与——有機的エンゲージメントと協調的活動を識別するために必要なデータ。
対比として報告書が参照するのが、2024年に露呈したロシア支援の秘密影響工作Tenet Mediaである。Tenet MediaのYouTubeチャンネルは1年間で約1500万回の視聴を積み上げたが、本ネットワークはその約2.7倍にあたる約4000万回を同期間に記録している。ただし両者の起源はまったく異なる可能性があり、CDMRNはネットワークへの帰属を行っていない。
なお報告書末尾には、この研究のすべての段階——データ収集、トランスクリプト分類、ネットワーク分析、文章草稿——においてAIツール(主にClaude by Anthropic)が活用されたことが明記されており、コードおよびコンテンツはすべて研究チームがレビュー・検証したとされている。2026年10月には州民投票が予定されており、CDMRNはこの研究が市民社会・政府・プラットフォームが対応を強化するための一助となることを求めている。


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