中国情報空間に響くロシアの声――NASK報告書が解明する対ポーランド偽情報、四つのナラティブと「情報ロンダリング」の構造

中国情報空間に響くロシアの声――NASK報告書が解明する対ポーランド偽情報、四つのナラティブと「情報ロンダリング」の構造 情報操作

 本稿が扱うのは、ポーランドの国立研究機関NASK(Naukowa i Akademicka Sieć Komputerowa、ポーランド国立研究所)傘下の偽情報分析センター(Ośrodek Analizy Dezinformacji)が2026年に公開した「Russian Voice in the Chinese Information Space: The Case of Poland」(中国の情報空間におけるロシアの声――ポーランドの事例)と題する報告書である。NASKはポーランドの国別ドメイン「.pl」の登録管理機関としても知られる国立サイバーセキュリティ研究機関で、同センターは偽情報・情報操作の監視と分析を専門とする部署にあたる。著者はPatrycja Krzyśpiak、内容監修はdr Agnieszka LipińskaとMichał Marekの両名、ISBN 978-83-68356-67-0として刊行された。

 報告書が設定する中心的な問いは明快である。中国共産党(CCP)の諸機関によって厳格に統制された情報空間――本文中では「Sinosphere(中華情報圏)」と呼ばれる――の中に、果たして「ロシアの声」は存在するのか、存在するとすればそれはどのような目的で流通しているのか、というものだ。この問いに答えるため、報告書は中国の情報戦ドクトリンの理論的背景を整理したうえで、2025年1月から8月までの8か月間、25以上の中国メディアチャンネルを日次で監視し、ポーランドに関する言説のうちロシア発のプロパガンダ・偽情報と内容が一致ないし酷似するものを966件抽出して分析している。さらに、これらの言説がTikTok(国際版Douyin)やRedNoteといった中国系アプリを介して欧州の情報空間、とりわけポーランド国内に環流する「情報ロンダリング」の経路にも踏み込んでいる。

中国の情報戦ドクトリンとロシア接近の背景

 報告書はまず、中国の情報戦への関心が新しいものではないことを、理論史をたどりながら示す。1995年、中国の情報戦理論の「父」の一人とされる王普豊(Wang Pufeng)は、技術発展の加速が情報空間の「全面的な奪取」を可能にすると予見し、これを「制信息権(zhi xinxi quan、情報支配権)」という概念で定式化した。この理論的系譜の上に、人民解放軍関連の専門家によって発展させられたのが「三戦(san zhan)」――心理戦・世論戦・法律戦を三本柱とする教義であり、孫子の『兵法』に思想的源流を持つとされる。2003年にはこの三戦が確定的な形を与えられ、人民解放軍の作戦体系に組み込まれた。

 習近平が2012年に政権を掌握して以降、「情報支配」の獲得に向けた取り組みは加速する。2013年に習近平が掲げた「中国の物語をうまく語ろう(Tell China’s Story Well)」というスローガンは、外部宣伝(外宣、waixuan)の拡張を柱の一つとしており、当初は多くの西側観察者から、国際的な評判向上を目指す自然な広報活動として、直接的な脅威とは見なされていなかった。2022年時点でもカリフォルニア大学のHaifeng Huang准教授は中国のプロパガンダ・偽情報技術を「稚拙(primitive)」と評していた――特にロシアの手法と比較して。しかし報告書は、ここ数年でその評価が根本的に覆ったと指摘する。ポーランド国際問題研究所(PISM)のA. LeguckaとJ. Szczudlikが2023年に公表したウクライナ戦争をめぐる中露の偽情報比較研究は「EUはロシアよりも、ロシア発の言説に免疫のない層により効果的に到達しうる中国発の偽情報に、より注意を払うべきである」と明確に警告しており、これは中国側のアプローチが素朴な楽観から警戒すべき対象へと評価を転換させた転換点として位置づけられる。

 この転換を後押ししたのが、2010年代後半に始まる「戦狼外交(wolf warrior diplomacy)」への路線転換である。ソフトパワー一辺倒では不十分だと判断したCCPは、自国の利益を損なうと見なした個人・団体・国家を公然と批判し威嚇する、より対決的な外交スタイルを採用した。COVID-19の流行はさらなる転換点となり、親中プロパガンダと偽情報の拡散が、中国ウォッチャーでない層にも可視化されるようになった。報告書はこの経緯を踏まえ、現在の中国の対外情報戦略を「ソフトパワーと戦狼外交の要素を統合した、より高度で威嚇的な行動様式」と位置づける。

 その象徴的事例として挙げられるのが、2023年に当時の駐フランス大使・盧沙野(Lu Shaye)が、バルト三国を含む旧ソ連構成国の主権の正当性そのものに疑義を呈した発言である。これはリトアニアが2021年以降、台湾との関係をめぐって中国と外交的対立を続けていたことを背景にした、明確に政治的な意図を持つ発言だったとされ、ロシアの旧ソ連圏に関する言説と軌を一にするものとして各国から反発を招いた(この発言自体はCNNなど複数の主要メディアが報じた実際の出来事である)。この盧沙野が2025年2月、対欧州問題担当特別代表に任命されたことは、北京の対欧州姿勢の強硬化を示す偶然ではない布陣として報告書は読み解く。同時にCCPは、バルト三国との関係「リセット」を公式に志向するナラティブも並行して展開しており、これは影響工作における「アメとムチ」の使い分けが継続的に洗練されている一例とされる。

 ロシアと中国の情報面での連携そのものも、この10年で着実に深化してきた。ロシア国営通信社TASSと新華社(Xinhua)は少なくとも2017年以降、協力関係を積極的に深めており、2026年5月には両者の「戦略的パートナーシップ」70周年が祝われた。この協力関係は両国首脳の会談の際に幾度も公式に更新されており、2024年5月16-17日の北京でのプーチン・習近平会談後に発表された声明でも、情報交換分野での協力継続が明記されている。さらに2025年9月2日、新華社とTASSの両トップは「2026-2030年発展・協力戦略」に署名した。この文書は内部運用プロトコルの性格を持ち一般には公開されていないが、内容にはコンテンツ検閲、ボット・トロールファームの調整、メッセージングの相互「平準化」に関する取り決めが含まれている可能性が高いと報告書は推測する。RT、Sputnik、Ruptlyといったロシア系メディアのチャンネルは、Weiboなど中国の主要SNSプラットフォーム上で合法的に、公然とプロパガンダ・偽情報コンテンツを発信しており、CCPがこの種のメディアの活動を自国の最大手SNS上で許容しているという事実そのものが、これらのナラティブがCCP政府の利益と合致していることを物語っているとされる。

 この分野の先行研究として、欧州議会が2022年に公表した「欧州情報空間における中露情報作戦の合流」に関する報告書、そしてCEPA(欧州政策分析センター)が2025年6月に公表した「外国からの情報操作・干渉における中露の収斂」報告書が挙げられている。ただし後者は政府機関間の協力の規模を示すデータマッピングが中心で、個別のナラティブの詳細分析やケーススタディを含まない。またCEIAS(中欧アジア研究所)が公表した「Echoes and Resistance」報告書はポーランドについても言及しているが、使用したGerulata Juno(監視ツール)の限界から研究コーパスが限定的であり、ポーランドが中国にとって特段の関心対象ではないかのような印象を残す結果になっていた――NASK自身の並行調査はこれが必ずしも正確でないことを示す、というのが本報告書の出発点である。

調査手法と規模――966件、8か月間、25以上のチャンネル

 調査はNASK偽情報分析センターの業務の一環として、定量・定性双方の手法を組み合わせて実施された。作業の中核は、新華社、CCTV、百度、新浪(Sina)、微博(Weibo)を含む25以上の中国メディアチャンネルを、2025年1月7日から8月31日までの8か月間、日次で監視するというものである。監視対象には、中国国内の電話番号での登録が必要な限定アクセスプラットフォーム――微信(WeChat/Weixin)、Bilibili、西瓜視頻(Xigua Shipin)、抖音(Douyin)、好看(Haokan)――から得られたデータも含まれる。専門的な監視ツールの利用が中華情報圏内では制限されているため、監視の大部分は手動、または検索エンジンを活用した半自動の手法によって行われ、既知の情報源のネットワーク分析(偽情報・プロパガンダの生成と拡散に継続的に関与していることが確認された発信源)に基づいて対象が選定された。

 研究材料の選定にあたっては重要な方法論的前提が置かれている。中華情報圏のように厳格に統制された情報空間においては「偶発的な情報流出」は存在しない、というものである。したがって、そこに現れるものはすべて、意図的な情報戦略の結果であるという想定のもとに調査が進められた。この前提のもと、2025年1月7日から8月31日の期間中に確認されたポーランド関連の情報のうち、質的に重要と判断されたものから、ロシアが公表したプロパガンダ・偽情報素材と内容が同一ないしほぼ同一のメッセージングを含むと識別された素材は合計966件にのぼった。これらのメッセージは、NASK偽情報分析センターが別途蓄積しているロシア情報空間内のポーランド関連プロパガンダ・偽情報のコーパスと突き合わせて確認されている。

 このうち過半数(523件)が微博で発信されたもので、次いで新浪ニュースプラットフォームが255件と続く。残りは新華社ウェブサイト、CCTV(放送・オンライン双方)、百度、抖音など多様なチャンネルに分散する。この総数には、同一内容の重複投稿(拡散を目的とした意図的な反復)や、後に削除された、あるいはアプリの利用制限のためダウンロードできなかった素材は含まれていない。加えて、データの選定は手動および半自動の定性的手法(反応数・「いいね」・「シェア」数、アルゴリズムによる表示順位、高度な検索オプション)に基づいており、著者は、中国のインターネットの不透明性とアクセスの制限を踏まえれば、実際にロシアのプロパガンダ・偽情報を拡散している情報の総量ははるかに多い可能性が高く、その全容を正確に把握することはほぼ不可能に近いと明記している。すなわち966件という数字は上限ではなく、確認可能だった最低限の下限値として理解する必要がある。

「ポーランドは対決的で攻撃的な外交政策をとる」――第一のナラティブ

 四つの主要ナラティブのうち最も支配的なのが、ポーランドが対決的・攻撃的な外交政策を取っているとするものであり、しばしば反NATOの言説や、ポーランド人の間に「ロシア嫌悪(ロシアフォビア)」が蔓延しているという主張と組み合わされて展開される。

 国営メディアにおいては、比較的穏健だがプロパガンダ的トーンを含む形で提示される。監視期間中のポーランド政治をめぐる出来事のうち、新華社が特に手厚く報じたのは、ポーランド・ロシア間の外交危機(クラクフのロシア総領事館閉鎖)と、ポーランド・ハンガリー間の外交関係格下げであった。両国がいずれも中国と緊密な関係を維持していることは偶然ではない。記事はロシア側とハンガリー側のコメントを強調し、関係改善への意欲とポーランドの「不当な」行動への「困惑」を前面に出す構成をとる。2025年7月12日付の新華社記事は、ポーランドがロシアのクラクフ総領事館閉鎖を決定した経緯を、ポーランド側の責任を暗に示唆する形で報じている。

 中国のSNS上では、メッセージはよりロシアの言説スタイルに近い。プロパガンダ・偽情報素材は主として、近隣諸国およびロシアに対するポーランドの攻撃的姿勢を強調するもので、しばしば同一のメッセージがバルト三国(リトアニア、ラトビア、エストニア)にも向けられる。これらの国々は「戦争屋(warmongers)」として名指しされ、ポーランドの場合には近隣国への攻撃性を「証明」するための、疑似歴史的な素材も併せて発信される。中華情報圏に持続的に現れるナラティブの一つが、ポーランドを「三度独立を失った国」として描くというものだ。この種の内容が広範に流通していること自体が、ロシア発の情報源を直接示唆している――ポーランドとその歴史それ自体は、一般的な中国のユーザーにとって強い関心の対象ではないからである。素材はポーランドと近隣諸国との緊張関係を強調し、ポーランド分割(1772-1795年)や第二次世界大戦の勃発についてまでポーランドに責任があるとする、ロシアの言説とも一致する虚偽情報を繰り返す。抖音チャンネル「暗巷追光者」(フォロワー10万人超、反西側・プロパガンダ系素材を継続的に発信)が公開した20分に及ぶ動画は、ポーランドを近隣諸国すべてから憎まれる「地域のいじめっ子」として描く内容であった。

 イデオロギーの水準では、ロシアの言説と中国側の言説は完全に一致する。ポーランドは「帝国主義的」で「敵対的」な国家として描かれ、1989年以来アメリカと同盟関係にある――すなわちロシアと中国双方にとっての「宿敵」に与する国家として位置づけられる。ポーランド・ロシア関係は歴史的に緊張含みであるためロシア側の否定的描写には一定の説明がつくが、中国側がポーランドを否定的に描く固有の理由は本来存在しない。それでもポーランドを対決的・攻撃的な国家として描くことは、中華情報圏に遍在する反西側メタナラティブの一部を成しており、これはポーランドそのものというより、アメリカを筆頭とする西側世界全体を標的とした言説である。アメリカの同盟国であるという一点において、ポーランドは「歴史の誤った側」に立つ国家でなければならず、この文脈において「対決的なポーランド」というメッセージは、CCP中央宣伝部の路線に沿ったプロパガンダ・ナラティブを補強する上で極めて有用に機能する。

「NATOが東欧の不安の元凶である」――第二のナラティブ

 ポーランドの対決的・攻撃的外交政策というナラティブは、より広範な反NATOのメッセージングと密接に結びついている。この言説の出発点にあるのは、ロシアと中国の双方が集中的に喧伝している、事実に反する前提――アメリカの主導するNATOの東方拡大がロシアを軍事的対応に追い込んだ、というものである。

 大西洋同盟の立場と能力を掘り崩すことは、クレムリンの包括的なプロパガンダ・ナラティブの一つであり、中華情報圏にも強く存在する。中国はBRICS、一帯一路構想(BRI)、上海協力機構(SCO)といった、自らに従属する新たな世界秩序の構築を積極的に追求しており、これはアメリカとの技術・軍事両面での競争と直結している。実質的な水準では、NATOの東方拡大の試みがロシアを軍事的対応に追い込んだのであり、それは「自己防衛」であるというメッセージが集中的に発信される。さらにNATOは東方戦線での挑発的行動――ポーランド、リトアニア、ラトビア、エストニアといった国々の攻撃的で「ロシアフォビア的」とされる姿勢を含む――を継続すると予想され、これはポーランドとバルト三国の「軍拡」に関するメッセージと組み合わされる。西欧諸国とアメリカがこれらの国々を利用してロシアとの対立を煽っているとされ、NATOとロシアの全面衝突(プロパガンダ素材によれば近く発生すると想定される)が起きた場合、ポーランドとバルト三国が最前線となり「最大の犠牲」を払うことになると強調される。

 中華情報圏で現在流通している素材の中で、NATOは完全にアメリカに依存し、2022年以来続くウクライナ戦争を含む現在の地政学情勢に対応できない組織として描かれる。中国はこの紛争を自らの目的のために利用しており、一方では平和の維持者・調停者として自らを位置づけつつ、他方では親ロシア的なメッセージを積極的に拡散している。このナラティブの好例が、ロシアの空爆によるキーウのポーランド大使館破壊に関する素材である。中華情報圏においてこの出来事は、NATOが第5条(集団防衛条項)の下で加盟国の利益を守ることができなかった、あるいは守る意思がなかったことの証左として提示された。同時にポーランドの歴史への言及や、アメリカによって「売られた」というほのめかしも再浮上している。

 このナラティブの視覚的な象徴例として、新浪傘下のポータルサイトsina.com.cnに掲載された記事(発信者は「半格知新小札」)には、ディープフェイク技術を用いて中国人民解放軍の劉振立(Liu Zhenqi)将軍になりすました人物が「三年間ポーランドの頭上に吊り下げられてきたこの剣が、ついに落ちてきた」と警告する動画が使用された。この動画は、ロシアとNATOをめぐる強いイデオロギー的収斂――双方がNATOを競合的かつ敵対的なブロックと見なし、両国とも(中国が主導する形で)NATOの軍事的優位に対抗しうる同盟の構築を志向している――を象徴する事例として報告書に位置づけられている。近年、中国は2001年設立のBRICSの拡大を積極的に推進しており、目標や価値観が全く異なる国々で構成される同盟でありながら、アフリカを含む地域でのアフリカにおける北京の影響力拡大に有効なプラットフォームとして機能している。BRICSはまた、8月末から9月初旬にかけてのインド・ロシア参加による上海協力機構サミット、さらに同年9月3日に予定される抗日戦争勝利80周年(対日戦勝記念日)の軍事パレードと合わせ、北京の「成功」イメージを構築するプロセスの重要な一要素とされる。反NATOナラティブの拡散という文脈でCCPがロシア由来の言説をそのまま自らの反西側メタナラティブの一部として採用しているのは、これらの理由による。北大西洋条約機構はアメリカの力と世界的指導力の象徴であり、それを時代遅れで今日の世界の課題に不適格な存在として描くことは、中国の指導と習近平の統治下での「新世界秩序」というビジョンに合致する。

 このナラティブに関連して報告書が導入するのが「情報ロンダリング」という概念である――すなわち、否定的な連想を持たない別のメディアやチャンネル(この文脈では中国のアプリ)を利用して、偽情報やプロパガンダのナラティブを「植え付ける」手法を指す。TikTokやRedNoteといった中国系アプリ、およびX、Instagram、Facebookといった中国のプロパガンダが積極的に活用する西側アプリの双方を通じて、この「情報ロンダリング」が行われていると報告書は指摘する。これはポーランドの情報空間に現れるコンテンツにも見て取れ、ロシア・ベラルーシとの関係「リセット」を訴えるチャンネルやプロパガンダ・偽情報の反復発信者は、BRICSやSCOといった組織を推進する反NATOのメッセージをしばしば複製し、中国をポーランドの潜在的な同盟国として提示する。

「ポーランドは戦争の脅威の中で軍拡に突き進んでいる」――第三のナラティブ

 欧州における全面戦争の脅威が差し迫っているという言説は、中華情報圏に一貫して存在する。これはロシアのプロパガンダと軌を一にしており、戦争への恐怖を煽ることで反戦・反ウクライナ・反アメリカ感情を過激化させることを狙う――ロシアとの関係改善を訴える一部の極右勢力にもこの傾向は見られる。このナラティブの一部を成すのが、ポーランドの「加速する」「非合理な」軍拡というメッセージである。ポーランド政府が国防費をGDP比5%まで引き上げる計画は、対決への突進であり「後戻りできない戦争への道」として描かれる。

 中国メディアは欧州諸国の防衛能力強化の取り組みを詳細に報じ、それを過度な「軍拡」として描く。多くの素材はポーランドを名指しし、この国が地域における軍事的優位への欲求よりも自国民の福祉と常識を優先すべきだとする。「軍拡」に関する素材には、ロシアと中国のプロパガンダに典型的な警告(「剣を取る者は剣で滅びる」など)も含まれ、ポーランドが意図的に地域の勢力均衡を乱していると非難する。このナラティブはしばしば反NATO・反アメリカのメッセージと組み合わされ、一部の内容はポーランドが単にアメリカに利用されているに過ぎないと示唆する。素材やコメント欄には「作死(zuosi、「死を求める」の意)」という語が頻繁に登場する。ポーランド人は、3.1節で述べた素材と同様、勇敢だが常識を欠き、ロシアへの憎悪(「反俄」というテーマが再浮上する)に目がくらんでいると描写される。このメッセージは、ポーランド・ロシア間の対立を論じる際にポーランド人の被害者意識とロシアへの憎悪を強調しがちな中国の専門家・コメンテーターの見解によって補強される。

 今年5月に中国のSNSで人気を博した一例が、清華大学ロシア研究所のWu Dahui教授が中国のテレビチャンネルPhoenix TVで語った発言である。教授はポーランド訪問時のエピソードとして、ある科学者仲間が冗談交じりに、中国はポーランドを「三度征服」すべきだと語ったという逸話を紹介した――なぜなら、それには「[ポーランド人の]ロシアの土地を六回横断する」ことになるからだ、というのがその理由である。Wu Dahuiはこの逸話を、ポーランド人の間にあるロシアへの憎悪の深さを示すものとして理解した――彼らは自らの痛ましい歴史(三度の独立喪失)についてすら、ロシアへの報復を果たすために冗談を言えるほどだ、というわけである。抖音上だけでも、この発言の断片は40万回の「いいね」を獲得した。

 同時に、ロシアの情報空間と同様に、矛盾するメッセージも並行して流通している。ポーランドと(ロシアの言説と同一の)戦争の脅威に怯えるポーランド人を描く内容であり、これはキーウ政府がポーランドをロシアとの戦争に引きずり込もうとしているという反ウクライナ的言説と組み合わされることが多い。特にトランプ大統領による欧州駐留米軍の再配置計画に絡めて、ポーランドの存亡は同国内の米軍の存在の有無に完全に依存しているとされる点が強調される。矛盾するメッセージを同一の目的――ポーランドあるいはNATOのイメージを貶める――のために使い分けるこの手法は、ロシアのプロパガンダの特徴であり、中国の情報空間でも容易に再現されている。

 視覚的な事例としては、まずニュースプラットフォーム「今日頭条(Toutiao)」上の記事(発信者「乐观看世」)が、ポーランドを「オーストラリアにも及ばず、ウクライナに派兵する勇気もない」と揶揄し、ロシアのメディアを情報源として直接引用している例が挙げられる(オーストラリアは100人を派兵したがポーランドはしていない、という趣旨)。もう一方の例では、微博上の親ロシア系コメンテーター「蜗牛柯基」がロシアのテレグラムチャンネル「Кирилл Фёдоров(キリル・フョードロフ)/ Война История Оружие」を引用し、ポーランドの「核保有の野心」を非難する投稿を行っている。報告書はこれを、矛盾するメッセージの並行流通という意味で「ダブルスピーク」を示す事例として位置づける。

 このナラティブのイデオロギー的基盤は、ロシアの場合には比較的明快である――ポーランドを敵かつ脅威として描くことに直接の利害がある。しかし中国の場合、メッセージはイデオロギーというよりも地政学的計算によって駆動されている可能性が高い。同時にCCP政府は東欧・中欧の地政学情勢を注意深く監視しており、これはウクライナ戦争と直結する――EU・中国関係における対立点の一つが、ロシアの戦争努力に対する北京の暗黙的だが強固な支持であるからだ。特定の国の気分や心理を理解することは、世論形成活動を成功させる上で不可欠であり、その一例として、駐ポーランド中国大使Lu Shanが2025年9月30日、ワルシャワ蜂起というセンシティブな話題を、中国の「抗日戦争」というプロパガンダの枠組みの中に位置づけて利用した振る舞いが挙げられる。ロシア連邦がポーランドの「軍拡」というナラティブを反ポーランド感情を煽るために発信し、差し迫った戦争の脅威というメッセージを加えることで、国家およびNATO加盟国としてのポーランドの行動への不安と疑念を高めようとしているのに対し、中国はこのナラティブを別の目的のために活用する。中国側の主眼は国内向けプロパガンダにとって重要な「海外での生活は危険である」というメッセージの補強にある。中国は平和と安全の砦として提示される一方、国営メディアは絶えず海外――特に欧州とアメリカ――で起きる暴力事件、事故、疾病その他の否定的な現象を伝える。欧州の「軍拡」と壊滅的な戦争の脅威を誇示することは、自国民に対し、平和と繁栄を保障する点で世界に類を見ないとされる体制への感謝の念を植え付ける狙いを持つ。

「EUは政治的・社会的に不安定である」――第四のナラティブ、そしてグジェゴシュ・ブラウンという媒介項

 中国側のメッセージがロシアのプロパガンダと完全に一致するもう一つのナラティブが、欧州の政治的・経済的・社会的・「文化的崩壊」というものである。この言説の核は反EUメッセージであり、多くの場合、急進的な極右チャンネル、陰謀論に共感する層、あるいは反体制を自認する層を経由して欧州情報空間に浸透するロシアのプロパガンダ・偽情報素材と内容が同一である。

 実質的な水準では、EUは加盟国の安定と安全の確保という本来の機能を果たせない、政治的に分裂した存在として描かれる。ユーロ懐疑的な姿勢をとる国――ハンガリーやスロバキアが含まれる――は中華情報圏で公然と称賛される。両国政府がプーチンのロシアとも友好的な関係にあることは重要な符合である。対照的にポーランドやリトアニアのような国は、中国の敵かつアメリカの「駒(pawns)」として名指しされる。他の反西側ナラティブと同様、中国の情報空間のチャンネルは、欧州が抱える問題に関する情報を積極的に再拡散し、それによって旧大陸(欧州)の中国に対する従属的な地位を証明しようとする。

 移民問題と市民的自由は反EUナラティブに不可欠な要素である。ロシアのメディア環境と同様、中華情報圏は移民が欧州の社会・経済問題の元凶であるというメッセージを拡散する。このナラティブは排外主義的・人種差別的なメッセージ、そしてロシアと中国双方のプロパガンダが欧州の「没落」の一因として提示するLGBTQ+関連の問題を標的とするメッセージと強く結びついている。興味深いことに、中華情報圏でロシアのメッセージを拡散するチャンネルは、しばしばポーランドを、不道徳(immoral)で非合理(irrational)な欧州の政策にいまだ屈していない「肯定的な」事例として利用する。この論点を証明するため、これらのチャンネルは移民や「危険」と見なされる他の集団に反対する極右・民族主義団体が関与する、ポーランド国内の出来事を選択的に取り上げ、「ポーランドの伝統的道徳」として提示する。メッセージと引用元の顕著な類似性から判断する限り、特に微博や新浪といったプラットフォームでこの種のチャンネルを運営する発信者の多くにとって、直接の情報源はポーランドのメディアではなく、ロシアのメディアもしくはテレグラムチャンネルである可能性が高いと報告書は指摘する。

 その具体例が、微博上のアカウント「军武大狼」(親ロシア的ナラティブの拡散でよく知られるアカウント)による投稿である。投稿された動画(AIによる生成の可能性が高い)は、ポーランド・ドイツ国境で「不法移民の流入を阻止する」ことを自称する極右系反移民団体のメンバーとされる上半身裸の覆面の男性集団を映し出し、「自発的に国境を守っている」「望む者は誰でも国境から歓迎される」という趣旨のキャプションが付されている。

 中国の情報空間は、権威主義国家に特徴的な、政治的多元性についての踏み込んだ議論の欠如によって特徴づけられる。大統領選挙や議会選挙といった民主的プロセスは、概して慎重な扱いを受け、公式発表は主要政党や候補者についてイデオロギー的な輪郭のみを提示するにとどまる。SNS上ではこの話題に関する素材が増加しているが、それらもまた「選択(choice)」の可能性を混沌と不安定さの同義語として提示する傾向が見られる。とはいえこれは、中国が特定の政党や政治家のイメージを自らのプロパガンダ・ナラティブの補強に利用しないことを意味しない。ここでもロシアのメッセージとの明確な重複が見て取れる。

 その象徴的な事例が、超保守派の政治家であり君主主義者、欧州議会議員かつ2025年大統領選挙候補者であったグジェゴシュ・ブラウン(Grzegorz Braun)である。ブラウンは同年の大統領選挙第一回投票で6.3%を獲得し4位につけた(1位ドナルド・トゥスク系候補、2位ナヴロツキ29.5%、3位メンツェン14.8%に続く結果)。ロシアのプロパガンダは、この政治家の親ロシア的・反EU的・反体制的な発言を繰り返し利用し、自らの反西側メッセージの補強材料としてきた。同様に、ブラウンは中国のSNS上でも広く報じられており、その反ユダヤ主義的・同性愛嫌悪的な行動が「(欧州における)最後の良識の声」として肯定的に描写された。親ロシア的メッセージを拡散することで知られるチャンネルは、この政治家の反欧州的・反ウクライナ的姿勢を強調し、彼を一種の「非主流の声」として提示している。2025年大統領選挙における彼の比較的高い得票率もまた、コメントの対象となっている。

 視覚的な事例としては、微博・新浪・抖音上で拡散された動画(発信元は「自动售货机C3格」――ロシアのプロパガンダ素材を継続的に拡散しているチャンネル)があり、ブラウンがEUの旗を冒涜し焼却する様子を映している。

 イデオロギーの観点からは、中国はロシアとは異なり、欧州およびEUを敵として見ているわけではない。むしろ自らの世界的影響力拡大計画にとっての障害として見ている。2026年6月に行われたEU・中国間の貿易交渉は決裂に終わり、両者の関係は理想からほど遠い状態にある。もう一つの重要な要素は、EUが中国の政治的文脈において、欠陥のあるシステムとされる民主主義を象徴しているという点である。中国国内でのナショナリズム感情の高まりと、「西側の覇権」とされるものに挑戦する新たな世界秩序を構築するという習近平の明確な構想とともに、反欧州ナラティブのイデオロギー的基盤は徐々に拡大している。CCPにとって、ロシア由来のプロパガンダ・偽情報素材はこのため極めて有用である。それらは二重の機能を果たす。一方では、民主主義と広義の西側の弱さについての国内向けの言説を永続化させ、あらゆる分野――文化を含む――における他の世界に対する中国の優越性というナショナリスト的な言説を強化する。他方では、欧州やポーランドを含む他国の情報空間に向けて、イデオロギー的に有益なプロパガンダのメッセージを一種の「輸出」することを可能にする。この意味において、これらは中国の影響工作の重要な構成要素であり、その不可欠な一部が次節で扱う「情報ロンダリング」である。

「情報ロンダリング」――中国発の経路を通じてロシアの語りが西側に還流する仕組み

 中国のメディアで作成・発表されるものはすべてCCPの内部的利益にのみ資するものであり、他地域には情報上のリスクをもたらさない、という見方は一般的だが誤りである、と報告書は明確に述べる。実際には、中国政府系メディアはほぼ全地域で活発に活動しており、欧州諸国も例外ではない。各国語版を展開し、可能な限り広い視聴者への到達を狙っている。ポーランドでは、China Media Group傘下のメディアチャンネル、CGTN、中国国際放送(CRI)がポーランド語で活動しており、ポーランド語を話す中国人スタッフとポーランド人スタッフの双方を起用している。

 報告書はこの情報流通の一般的な構造を図式化している。すなわち、中華情報圏(国家・地方の報道機関、Sinosphere内で活動するロシアメディアチャンネル、SNSプラットフォーム)から発信されたPRCのメッセージが、TikTok・RedNoteといった中国系アプリおよびテレグラムを経由し、ポーランドの情報空間(メディア各社、それをロシア・ベラルーシ系チャンネルが増幅する過程、そしてSNS)へと流れ込むという構造である。

 フランスの安全保障戦略研究所(IRSEM)のポール・シャロン(Paul Charon)は、ラジオ・フランスとのインタビュー(2025年8月)で、中国側がロシアのモデルを取り入れつつあると指摘している――その一環が、自国内だけでなく世界的に情報環境を形成しようとする取り組みの強化であり、中国は今やこのための適切な手段、とりわけ世界的に普及したTikTokアプリを保有しているという。

 TikTokの活動は、その不透明なアルゴリズムをめぐって、サービス開始当初からほぼ一貫して論争と懸念の対象となってきた。TikTokは中国政府とのつながりを一貫して否定しているが、親会社ByteDanceが中国法人である以上、中国の法律を遵守する義務を負っており、これによってCCPは情報に対する完全な統制権を有することになる。さらに、中国国内版アプリ(抖音)のコンテンツは、しばしば意図的に、国際版(TikTok)にも流れ込む。

 このため、ロシアのプロパガンダのメッセージと一致するコンテンツが欧州の報道空間に逆流するリスクが顕在化する。その際、こうしたコンテンツは「ロシアからのニュース」ではなく「中国からのニュース」というラベルを貼られることになり、受け手にとって受容しやすくなる――たとえその内容が、クレムリンと結びついた主要ロシアメディアのプロパガンダのメッセージと文字通り一致していたとしてもである。このような素材が「フリンジ」メディア、急進的運動、陰謀論の担い手によって利用され、結果としてロシア連邦の情報影響工作の目的が実質的に達成されるリスクが存在する。さらに、中露間の情報交換協力の規模についてのメディア・リテラシーの欠如は、ロシアと中国のプロパガンダ素材がポーランドのメディアで「信頼できる情報源」として引用・掲載される事態を招いている。これはアリババ・グループが所有するメディアであるSouth China Morning Postへの言及に限らず、中国のSNSからの情報が、ポーランドの公的・私的な報道チャンネルでそのまま複製される事例にも及ぶ。

報告書の結論と提起する課題

 報告書は分析結果を三つの結論に集約する。第一に、ロシア発のプロパガンダ・偽情報素材は中国の情報環境に極めてよく適合する。その一部は直接の転載(翻訳)にすぎないが、それらは中国の読者にとって理解しやすく魅力的であり(多くが大きなリーチを獲得している)、中華情報圏で活動するロシア系メディアチャンネル(RT、Sputnik、Ruptly)からの情報は、中国のインターネットユーザーにとって重要な情報源となり、欧州、アメリカ、そして世界の地政学情勢に関する認識を形作っている。これらは中国国営メディアが発する優勢なプロパガンダ・メッセージを補強するだけでなく、感情に訴えかけ「速報性」という感覚を刺激することで、より大きな視聴者を惹きつける効果も持つ。

 第二に、ロシアと中国は異なる政治的・経済的目標を持ち、それを異なる方法で追求しているにもかかわらず、ロシアのナラティブが中国のプロパガンダ機構の中で重要な役割を果たすことを可能にしているイデオロギー的絆は、反西側というメッセージであり、その核心的要素の一つが反民主主義である。中国は「中国的特色を持つ社会主義」という独自の世界観の構築を志向しており、これは民主主義と個人の自由という理念に対抗するものであるが、実態としては単一政党権威主義、規制的・保護主義的政策、そして著しいナショナリスト・イデオロギーの影響が組み合わさった、明確な定義の難しい混合体である。

 第三に、中華人民共和国は、ロシアの偽情報・プロパガンダ素材が自国の情報空間内で流通することを意識的に許容しているだけでなく、それを自らの目的のために積極的に利用している。CCPのプロパガンダ戦略の核心は、反西側メタナラティブの補強にあり、これはソフトパワー戦略から戦狼外交を経て、包括的な――ある意味ではグローバルな――行動を前提とする新たな折衷的情報戦略への漸進的な移行と整合的である。中国は自国の情報空間内だけでなく、自らの利益圏を拡張しうるあらゆる場所で言説を形成しようとしている。この種の能動的な情報戦略は今後も、おそらくより高い強度で継続すると想定すべきである。

 報告書は、本研究がポーランドに関する素材のみに基づくものであり、中露の情報面・影響工作面・ハイブリッド行動面での関係全般についてのより広範な分析の出発点にすぎないことを強調して締めくくられる。研究を地域規模、将来的には欧州規模に拡張することは、問題をより広い文脈に位置づけるだけでなく、個別加盟国の事例に基づく比較研究を可能にするとされる。最後に、CCP政府に関連する組織体が、アメリカ、チェコ、さらには台湾の市民を含む外国人をリクルートし、YouTubeやTikTok上でのプロパガンダ活動において重要な役割を担わせている実態にも言及されている。視聴者側にもコンテンツ制作者(ジャーナリストやブロガー)側にもこの現象の規模についての認識が欠如していることが、情報空間における有害な活動に対抗する実効的な仕組みの不在という状況を招いている。もう一つの問題として、たとえ自由と民主主義に公然と反する内容を発信していたとしても、SNSプラットフォームの所有者が発信内容に対する説明責任をほとんど、あるいは全く負っていないことも指摘される。世界的な地政学的変動と同盟関係の再編が求められる時代にあって、プロパガンダと偽情報に対抗する共通の欧州的・国際的なメカニズムを構築する必要性はかつてなく高まっている。そうした取り組みの柱の一つはファクトチェックとデバンキングにとどまらず、メディア教育と、中国のような「破壊的(disruptive)」な活動を展開する国家からの脅威についての啓発とを組み合わせた、能動的なアプローチでなければならない。安全保障から社会心理学まで、多様な分野のFIMI(外国からの情報操作・干渉)研究機関と専門家の連携強化もまた、現在の脅威の様相を分析するだけでなく、新技術の偽情報活動への利用について予測を立てる上で必要とされる。

情報操作研究として何を読み取るべきか

 この報告書の意義は、単に中国の情報空間にロシア由来のコンテンツが存在することを確認した点にあるのではなく、その存在様式が単一のメカニズムに還元できないことを、具体的な事例をもって示した点にある。報告書が提示する事例群を仔細に見ると、少なくとも二つの異なる経路が同時に作動していることがわかる。一つは、RT、Sputnik、Ruptlyのように、ロシア国営メディアそのものが中華情報圏内で公然と、かつ合法的に活動し、コンテンツを直接発信・転載する経路である。もう一つは、劉振立将軍のディープフェイク動画や、Wu Dahui教授の逸話、Toutiao・微博上の個々のコメンテーターの投稿のように、ロシアのメディアとは組織的に無関係な中国側の発信者が、ロシアの提示する事実認識と結論において一致するコンテンツを、独自に(あるいはロシアのテレグラムチャンネルなどを情報源としつつ)生成している経路である。前者は単純な再配信の問題として理解できるが、後者はより重要な意味を持つ。それは、対ポーランド・対NATO・対EUの否定的言説が、CCPによる単なるコンテンツモデレーションの緩和(見逃し)の産物ではなく、独立した発信者を含む形で能動的に共同生産されているナラティブ・インフラであることを示しているからである。

 この構図をさらに補強するのが、「情報ロンダリング」という第三の要素である。ByteDanceが中国法人である以上、抖音の国内向けコンテンツが国際版TikTokに流入する経路そのものが、中国国内の統制構造――政治的に敏感な内容を抑制すると同時に国家承認済みのナラティブを増幅する仕組み――を、国境を越えて欧州の受け手に届ける導管として機能しうる。CGTNや中国国際放送によるポーランド語での直接発信という「見える」経路と、TikTok・RedNoteを介した「見えにくい」経路、そしてSouth China Morning Postのような中国資本のメディアがポーランド国内で「中立的な第三国からの情報」として引用される経路とが並存している点は、単一の対策では対応しきれない多層的なリスク構造を示している。

 方法論上の留保も明記しておく必要がある。報告書自身が認めるとおり、966件という数字は、8か月間・25以上のチャンネルという限られたリソースの中で手動・半自動の手法によって確認できた最低限の件数であり、上限ではなく下限として扱うべきものである。また、新華社・TASS間の「2026-2030年発展・協力戦略」の具体的内容は非公開であるため、その中身についての報告書の記述は推測の域を出ない。他方で、駐仏大使だったLu Shayeによるバルト三国の主権をめぐる発言や、2025年大統領選挙におけるグジェゴシュ・ブラウンの得票率(6.3%、4位)といった個別の事実関係は独立した一次報道で裏付けが取れる。この報告書が優れているのは、確度の異なるこれら複数の階層――公然と確認できる制度的協力(Xinhua-TASS)、検証可能な個別の政治的発言(Lu Shaye)、そして発信者・アカウント単位まで特定されたSNS上の具体的投稿(微博の「军武大狼」、抖音の「暗巷追光者」など)――を、一つの分析の中に段階的に積み上げて提示している点にある。中国の情報統制それ自体が「何が公式の事実で、何が非公式の憶測か」の境界を曖昧にする性質を持つことを踏まえれば、それを分析する側の作業もまた、確度の異なる証拠を意識的に腑分けしながら提示する責任を負う。この報告書はその作業を、個々のイラストレーション(スクリーンショット)に発信元アカウント名、フォロワー数、URL、アクセス日を逐一明記するという実証的な形で果たしている。

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