本稿が扱うのは、2026年8月23日に実施されたカザフスタン共和国の繰り上げ議会選挙(Early Parliamentary Elections)について、国際選挙監視団(International Election Observation Mission、IEOM)が同月24日にアスタナで公表した「Statement of Preliminary Findings and Conclusions(予備的所見及び結論に関する声明)」である。この監視団は単一機関ではなく、OSCE(欧州安全保障協力機構)の傘下でワルシャワに本部を置く民主制度・人権事務所(Office for Democratic Institutions and Human Rights、ODIHR)、OSCE議員会議(OSCE Parliamentary Assembly、OSCE PA)、そして欧州評議会の議員総会であるPACE(Parliamentary Assembly of the Council of Europe、欧州評議会議員会議)という三機関の共同事業として組織されている。OSCE議長国により特別調整官兼短期監視団長に任命されたのはガーボル・ハイドゥ(Gábor Hajdu)、OSCE PA代表団はルツィヤ・タツェル・ペルリン(Lucija Tacer Perlin)、PACE代表団はセヴィライ・チェレンク(Sevilay Çelenk)がそれぞれ率い、ODIHR選挙監視団(ODIHR EOM)の団長は7月10日から現地に展開したヴィンセント・ピケ(Vincent Piket)大使が務めた。ODIHR EOMはアスタナに専門家15名、全国に長期監視員(Long-Term Observer、LTO)22名を配置し、投票日当日はODIHR派遣の206名を含む43か国から339名の監視員、これに加えてOSCE PAから68名、PACEから23名の代表団が投入され、監視員全体の61パーセントを女性が占めた。開票所レベルでは開所を127投票所、投票を1,327投票所、開票を119投票所、集計(タビュレーション)を91の地区選挙管理委員会(Territorial Election Commission、TEC)で観測している。
この文書は選挙の最終評価ではなく、あくまで「予備的」声明であることに留意する必要がある。投開票・集計・結果発表・提訴処理といった選挙過程の残りの段階の帰趨によって最終評価は左右されるとされ、勧告を含む包括的な最終報告書はODIHRが選挙過程の完了から数か月後に別途公表する。したがって本稿が依拠する声明は、選挙翌日という極めて早い段階で示された一次的な評価であり、数値や個別事例の一部は今後の最終報告書でさらに精査・確定される可能性がある点を踏まえて読む必要がある。声明本文は「予備的結論」(Preliminary Conclusions)と題する要約部分と、背景・法枠組み・選挙管理・有権者登録・候補者登録・選挙運動・選挙資金・メディア・選挙紛争解決・選挙監視・投票日という主題別の「予備的所見」(Preliminary Findings)部分から構成され、117本におよぶ脚注で国際人権規約・OSCEコペンハーゲン文書・ヴェニス委員会(欧州評議会「法による民主主義のための欧州委員会」)の見解など、各所見の根拠となる国際基準が逐一引用されている。なお声明の英語版のみが公式文書であり、カザフ語・ロシア語版は非公式訳とされる。
政治的背景――新憲法とクルルタイへの移行
2026年8月23日の繰り上げ議会選挙は、同年3月15日に実施された新憲法をめぐる国民投票、およびその新憲法が7月1日に発効したことを直接の起点とする。新憲法発効に伴い議会は解散され、大統領が繰り上げ議会選挙を招集した。この憲法改正はカスィム=ジョマルト・トカエフ(Kassym-Jomart Tokayev)大統領が2025年9月に「統治の近代化と最適化」を掲げて開始したもので、一部のIEOM対話者はこの過程を2022年の改革――同年に憲法国民投票と大統領選挙の繰り上げ実施、2023年には議会選挙の繰り上げ実施が行われた――の継続線上にあると位置づけている。新憲法は制度枠組みを大きく変更し、従来の二院制議会を廃止して一院制の「クルルタイ」(Kurultai)を新設する一方、これまで認められていた無所属候補の議会選挙立候補の可能性を撤廃し、大統領が任命する126名の諮問機関「人民評議会」(Halyk Kenesi)に立法発議権を付与し、副大統領職を再導入するとともに、大統領の権限を大幅に拡大した。副大統領はクルルタイの同意を得て大統領が任命・解任するが、選挙時点でその任期を定める大統領令は未発出だった。大統領はこのほか、機構人事への権限拡大、クルルタイが繰り返し反対を示した場合の議会解散権、クルルタイ議長候補への関与、議会不在時の一時的な単独立法権、国家機構全般に対するより強い権限を新たに得ている。国民投票後、憲法裁判所は7月7日付の規制決議第89号で、大統領・憲法裁判所長官及び裁判官・検事総長といった要職への就任制限に関する憲法条項について、1995年憲法下で務めた在任期間は再任制限の対象に含まれないとする解釈を示し、旧憲法下で要職にあった人物が新憲法下で再び選出・任命される余地を開いた。
この政治的地殻変動を背景に、選挙戦を実質的に規定したのが新党「アディレト」(Adilet)の登録とその急速な展開である。アディレトは国民投票後、大統領の「公正なカザフスタン」(Just Kazakhstan)構想への支持を結集する目的で登録が発表され、6月1日に登録手続を完了、5月5日まで大統領府長官を務めたアイベク・ダデバイ(Aibek Dadebai)が党首を務め、新憲法起草に関わった人物が多数党員に名を連ねた。2023年以来初めて新規登録に成功した政党であり、他の新党登録の試みはいずれも不成立に終わっていた。そのアディレトに対し、当時の与党アマナト(Amanat)は6月12日に合併の意向を表明し、6月14日に合併が完了した――これにより、アマナトが有していた組織基盤・地方支部網・党本部(アスタナ)を丸ごと引き継いだアディレトが、事実上の最大与党として選挙戦の主役に躍り出た。このほか、アクジョル(Ak Zhol)、アウル(Auyl)、人民党(People’s Party of Kazakhstan、PPK)の3党でも選挙告示直前の6月13日・23日・26日にそれぞれ指導部交代が発表されている。直近の繰り上げ議会選挙(2023年3月19日実施)では、下院(旧マジリス、定数98)でアマナトが62議席、アウルが8議席、アクジョルとレスプブリカ(Respublica)が各6議席、PPKが5議席、全国社会民主党(NSDP)が4議席を獲得し、単純小選挙区で無所属候補が7議席を得ていた。新憲法下ではこの小選挙区制部分が完全に廃止され、比例代表のみに一本化されている。
政治的多元性の乏しさは、女性の政治参加の低さとも重なる。旧マジリス98議席中女性は18議席(18パーセント)、間接選出の上院(元老院)50議席中10議席(20パーセント)、政府ポスト25のうち3ポスト(12パーセント)にとどまり、20の州知事(oblast akim)に女性は一人もいない。全政党が女性組織を有するものの、党首が女性である政党はアクジョルのみである。カザフスタンは120以上の民族集団からなる多民族国家で、カザフ人が人口の71.3パーセント、ロシア人が最大の少数民族として14.6パーセントを占めるが、少数民族の代表性を確保する積極的措置は法制度上存在せず、民族・宗教を基盤とする政党結成も禁止されている。
法枠組みと選挙制度――独立候補制の撤廃と「合算30%クオータ」の限界
選挙を規律する法体系は、2026年憲法、1995年選挙に関する憲法的法律(2026年6月最終改正、以下「選挙法」)、および2026年クルルタイ法から成り、中央選挙管理委員会(Central Election Commission、CEC)の規則・決定がこれを補完する。カザフスタンは1966年の市民的及び政治的権利に関する国際規約(ICCPR)、1979年の女性差別撤廃条約(CEDAW)、1965年の人種差別撤廃条約(CERD)、2003年の腐敗防止条約(UNCAC)、2006年の障害者権利条約(CRPD)、2002年の独立国家共同体(CIS)民主選挙基準条約の締約国であり、欧州評議会の「法による民主主義のための欧州委員会」(通称ヴェニス委員会)および「腐敗防止国家グループ」(GRECO)のメンバーでもある。もっとも新憲法は国際法の優位性を明文で否定し、国際機関の決定について憲法裁判所が違憲と判断した場合はこれを履行しない旨を規定した。
新憲法採択を受け、選挙法制は大規模に改正されたが、声明はこの改正を「限られた公開協議のもとで採択された」と評価する。憲法附属法6本を含む一連の法律群は、両院合同会議で5月20日に採択、6月5日に公布されており、法案概要は5月8日に承認された後、両院合同委員会が5月20日の第二読会に向けて準備し、議会はこの膨大な法案パッケージをわずか2週間で処理した。法案準備の作業部会には専門家共同体や独立市民社会の代表者は含まれておらず、これは議事規則上認められているにもかかわらず実施されなかった。ヴェニス委員会の「選挙に関する良い慣行の規範」(Code of Good Practice)は選挙法の基本要素を「選挙前1年未満の期間は改正すべきでない」と定めているが、この原則には反する運用となった。
新設のクルルタイは定数145、任期5年で、全国単一選挙区における閉鎖名簿式比例代表制で選出され、有効得票の5パーセントを法定阻止条項とする。小選挙区・独立候補制度は完全に撤廃され、国際基準および過去のODIHR勧告に反するとされた。選挙法は女性・青年・障害者を合算して候補者名簿の30パーセントとする「合算クオータ」を定めるが、名簿内の配置順位に関する規定は存在せず、声明はこの制度設計について「各集団の実効的な参加を十分に保障しない」と評価し、女性の政治的代表を高めるための追加的積極措置(実効的なジェンダークオータなど)を求めた過去のODIHR勧告にも応えていないと指摘する。このクオータを除けば、法枠組みは候補者指名およびクルルタイにおける議席配分・行使について政党に広範な裁量を認めており、一部のIEOM対話者はこの裁量の大きさが真正な政治参加を損なうと批判した。さらに法枠組みは「委任の一体性」原則を維持しており、議員は選出時に所属していた政党の党籍を失うと自動的に議席を失う仕組みになっている。
選挙管理――一方的任命制への移行
選挙は階層構造で運営され、CEC、20の州レベルTEC、227の地区(rayon)・市TEC、そして643の特別投票所(うち国外79か所)を含む10,423の投票区選挙管理委員会(Precinct Election Commission、PEC)が置かれた。CECとTECはそれぞれ7名、PECは登録有権者数に応じて5名から9名で構成され、8月18日時点で選管職員は総計71,270名、いずれも5年任期で任命されている。今回のCEC構成員は大統領および旧議会の両院によって任命されたが、クルルタイ選挙後は任命方式そのものが変わる。すなわちCEC議長を除く全構成員を大統領が単独で任命し、クルルタイの承認を得る仕組みに移行する一方、CEC議長については大統領が単独で任命・解任する権限を持ち、その任期は法律で定められていない。声明はこの新方式について「一つの機関が選挙管理機関の全構成員を一方的に任命することは、選挙管理の独立性を損ないうる」と明確に懸念を示している。TEC・PECの構成員は地方議会(maslikhat)が登録政党の推薦に基づき選出するが、CECによれば2026年7月時点で下位選管職員の65.3パーセントが政党推薦、32.2パーセントが公的団体推薦、2.5パーセントが上位選管推薦によるものだった。2026年の選挙法改正により、汚職関連犯罪で有罪となった人物は選挙管理業務から排除されることになった。
CECは7月1日以降11回のセッションを開催し、うち10回をODIHR EOMが観測、32件の決定を採択したが、観測されたセッションでは決定はいずれも実質的な討議や審議を経ずに全会一致で採択されており、意思決定過程の透明性は限定的だった。TECについては、ほとんどの地域でODIHR EOM監視員が「事前の一貫した告知なしにアドホックに開催された」と報告しており、これがTECの活動を観測する上での障壁となった。選管職員に対しては更新された法枠組みに関する全国的なカスケード方式の研修(試験付き、障害を持つ有権者との接し方に関する映像教材を併用)が実施され、ODIHR EOM長期監視員はおおむね肯定的に評価している。CEC主導の「若年有権者クラブ」(Young Voters’ Clubs、YVC)は2022年に発足したイニシアチブで、2026年時点で全国248クラブ、会員3,000名超に拡大している一方、少数民族向けあるいは少数民族言語による有権者啓発活動は一切実施されなかった。女性は選管職員全体の3分の2以上を占めるが、管理職・上級職では過小代表であり、CEC構成員7名中女性は2名、州TECの管理職に占める女性割合は38パーセントにとどまる。
有権者登録と候補者登録
投票権は18歳以上の市民に認められるが、裁判所により知的・精神社会的障害を理由に行為能力を制限された者、および犯罪の軽重を問わず服役中の者は選挙権を剥奪されており、これは国際基準・OSCEの約束・過去のODIHR勧告に反すると評価されている。有権者登録は永住地に基づく職権登録で、CECが管理する全国有権者名簿には8月2日時点で12,605,788名が登録されていた。名簿は8月7日から閲覧可能となり、住所を持たない市民のための「同日仮住所登録」が全国221投票所でオンラインシステムを通じ導入されたが、これは投票日当日の有権者登録を認めない国際的な良い慣行に反すると評価された。
被選挙権は25歳以上でカザフスタン国内に選挙時点で少なくとも10年間居住していることが条件とされ、この居住要件そのものが国際基準および過去のODIHR勧告に反するとされる。汚職犯罪で有罪となり前科が未消滅の者は、犯罪の軽重を問わず被選挙権を欠く。2026年選挙法改正により、候補者は登録政党がその党員の中から指名する者に限られ、無所属候補としての立候補は撤廃された。候補者登録には1人あたりKZT1,275,000(1ユーロ≒KZT540換算で約2,361ユーロ)の供託金が必要で、前回選挙の得票率に応じて全額または一部が免除される仕組みになっている。CECは7月23日の法定期限までに候補者名簿を登録し、登録を辞退した1名を除く全候補者が登録された。7党の名簿には合計545名(うち女性172名、31.5パーセント)の候補者が名を連ね、全名簿が30パーセントの合算クオータを満たし、登録候補者全体の43.9パーセントが少なくとも一つのクオータ集団に属していた。政党別の候補者数は次の通りである。
| 政党 | 候補者数 |
|---|---|
| アディレト(Adilet) | 186名 |
| レスプブリカ(Respublica) | 75名 |
| 人民党(PPK) | 72名 |
| アウル(Auyl) | 69名 |
| アクジョル(Ak Zhol) | 63名 |
| バイタク(Baytaq) | 47名 |
| 全国社会民主党(NSDP) | 33名 |
候補者名簿・政党の登録抹消事由には早期選挙運動、職権濫用、資産申告の不正確さなどが含まれ、選挙運動期間に入って2週間まで検証が可能とされているため、候補者の継続的な選挙参加をめぐる不確実性を生む構造になっている。声明はこの点について、登録抹消手続の不均衡な制裁を防ぐ十分な保障や、登録書類の不備を是正する機会が法律上用意されていないと指摘する。CECの登録・抹消決定への不服申立ては最高裁が管轄するが、今回そのような事案はなかった。
選挙運動環境――アディレトの一党優位と行政資源の流用
選挙運動期間は7月23日から8月21日までで、全体としては平穏かつ整然と進み、投票日に近づくにつれ勢いを増した。各党の政策綱領は幅広い社会経済課題を扱ったが、全ての参加政党が現職大統領の政策を支持する立場を取っており、真の対立軸を欠いていた。選挙運動そのものは全候補者に平等な条件が保障され、不当な妨害や制限の報告は実証されなかったが、資源面での格差が競争条件の実質的な平等を損なった。とりわけアディレトは2023年以降初めて新規登録に成功した政党であり、アマナトとの合併によって組織基盤・党職員・制度的経験・広範な政治ネットワークと資源を獲得し、他の参加政党とは比較にならない規模の選挙運動を展開した。
ODIHR EOMは行政資源の濫用に関する信頼性の高い報告を複数受け取っている。具体的には、公務員が選挙運動イベントへの動員に関与した事例、および地方自治体(akimat)と複数政党の選挙運動イベントとの結びつきが、アクトベ、アルマトイ、アスタナ、アトゥラウ、カラガンダ、クズロルダ、ウスカメン、ペトロパブル、シムケント、タラズ、ジェズカズガンの各都市で報告された。とりわけアディレトの大規模イベントの一部は、自治体その他の公的機関が主催する無料公開行事と時期・場所を同じくしていた。具体例として、7月24日にトゥルキスタン市当局が発表した野外コンサートとドローンショーは後にアディレトの選挙運動イベントであったことが判明し、7月30日にはカラガンダ市公園管理局が市民を無料野外コンサートに招待、その様子を伝えるアディレト・カラガンダ支部のInstagram動画には党のロゴが舞台や配布物、続くドローンショーに繰り返し映り込んでいた。8月4日にはオラルの地元メディアがドローンショー付き無料コンサートの開催を報じ、翌日にはアディレトが党ロゴを前面に押し出した同イベントの動画を投稿している。アディレトは7月27日・28日にアクタウとアトゥラウで大規模な野外集会・コンサート・熱気球・ドローンショーを伴う開幕イベントを開催したのを皮切りに、アクトベ(8月3日)、オラル(8月4日)、シムケント(8月9日)でも同様のコンサートとドローンショーを展開し、アルマトイでは自治体庁舎の敷地内に選挙運動資材が置かれている様子も観測された。8月19日にはアスタナで、平和的集会に指定されていない場所でコンサートとドローンショーを実施している。声明はこれらの要素を総合し、「国家と政党の境界を曖昧にし、アディレトに不当な優位性を与えた」とOSCEの約束に反する形で評価している。
この選挙戦のもう一つの動きとして、7月27日にアルマトイで新たな社会政治運動「11M運動」(11M Movement)が発足したことも記録されている。既存政党のいずれにも代表されていないと感じる無党派市民を代表することを掲げ、その主要な政治戦略は有権者に「全員に反対」(against all)票を投じるよう促すことで、既存の政治システムに代表されない相当規模の有権者層の存在を示すことにあった。
SNSと偽情報対策――ディープフェイクの検知とオンライン言論の萎縮
2026年の選挙法改正はキャンペーン規制をSNSにも拡張したが、その内容は既存の伝統メディア向け規則をオンライン環境に単純に延長したものにとどまり、具体的な運用は所管当局の裁量に委ねられている。政党関係者の多くはSNSが有権者への働きかけの主軸だと述べ、InstagramとFacebookが有権者接触とエンゲージメントの中心的手段となる一方、TikTokは主にブロガー・インフルエンサー主導の政治コンテンツに、Threadsはより広範な政治的議論に用いられた。ODIHR EOMは7月17日から政党・党首・候補者・インフルエンサー・ジャーナリスト・人権活動家・地方自治体など約50のFacebook・Instagramアカウントの監視を開始し、候補者・党首個人によるパーソナルな投稿の方が公式政党アカウントの投稿よりも一般に高いエンゲージメントを得ていたことを確認した。
オンライン言説の監視結果によれば、Metaプラットフォーム上の有料広告出稿は限定的で、AI生成の視覚コンテンツが明示的にラベル表示されていた例はごく少数にとどまった。政党・候補者によるオンライン発信は総じて肯定的・政策志向であり、対立的な言説は限定的だった一方、政治アナリスト・一部のジャーナリスト・人権擁護者による投稿はより批判的で、メディアの自由と表現の自由、ジャーナリストや活動家への圧力、SNSアカウントの凍結報道、政治的動機によるとみなされた司法手続、市民社会活動の空間の制約、選挙戦の競争性の欠如といった論点に集中していた。
偽情報および外国からの干渉に対抗する仕組みについては、政府・国家安全保障機関に権限が集中しているにもかかわらず、その運用実態に関する公開情報がほとんど存在せず、声明は「その効率性を評価することは不可能」と明言している。文化情報省(Ministry of Culture and Information、MCI)はオンライン空間全般を選挙関連違反の可能性も含めて監視し、大統領府直属の「偽情報対策センター」(Center for Combating Disinformation、2025年8月に中央広報局内に設置)は「虚偽情報を特定・反証し、客観的で検証された情報を提供し、責任ある情報消費の文化を育成する」ことを任務とし、選挙運動関連の虚偽情報について複数の事案を報告・反証した。同センターが特に報告した具体的な事案が、著名人の画像や発言を用い、特定候補への支持や選挙運動イベントへの参加を呼びかける「金銭的報酬」を約束する内容のディープフェイク選挙運動素材であり、センターはこうしたコンテンツおよび無許可の集会への参加について制裁の可能性を警告した。当局は国家安全保障・選挙の健全性を守るため、法制度の最適化や大手オンラインプラットフォームとの協力拡大に取り組んでいると説明したが、その協力の成果については報告がなかった。選挙運動期間中、この監視結果は公序違反(主にSNS上の卑猥な表現やその他の不適切とされる行為)の複数の事案を裏づける根拠として用いられている。
一部のIEOM対話者は、オンラインコンテンツに対する広範かつ曖昧に定式化された規制とその運用――幅広いコンテンツ削除を含む――が、政治的表現や批判的な声の抑圧につながりかねないと懸念を表明した。実際、選挙関連の投稿(当局への批判的内容を含む)が公開直後に閲覧不能になる傾向がMetaプラットフォーム(Instagram、Facebook、WhatsApp)上で複数のIEOM対話者から報告されており、その削除の仕組みは不明のままである。8月6日には内務省が、警察がSNS上の違法コンテンツを定期的に監視していると発言し、その24時間前だけでもカザフスタン市民2名がそうしたコンテンツの投稿を理由に責任を問われたと明かしている。声明はこの一連の記述を通じて、偽情報対策の制度が「検知」と「言論抑圧」の境界線上で運用されている構図を浮き彫りにしている。
選挙資金――アディレトへの資金集中
2026年の法改正は拠出・支出の上限を引き上げ、選挙資金枠外での資金調達に対する制裁を新設し、現物寄付を禁止した。もっとも選挙資金の透明性――資金源の開示、費目別支出の公表、監査報告――に関するODIHRおよびGRECOの過去の勧告は依然として対応されていない。選挙資金違反は罰金、候補者名簿の登録抹消、あるいは選挙結果の無効化につながりうるが、制裁の比例性には疑問が残る。政党への年間の国家助成は前回選挙結果に比例して支給されるが、これは政党の法定活動にのみ充当可能で選挙運動には使用できず、2026-2028年共和国予算法は2026年分としてKZT195億2,500万を配分している。選挙運動資金は各党の選挙資金口座からのみ支出可能で、候補者個人の選挙資金口座は禁止されている。資金源は党資金と市民(候補者を含む)からの金銭拠出、国内法人からの拠出に限定され、慈善・宗教団体、国家出資機関、国・地方自治体、および外国・匿名の寄付は明示的に禁止されている。2026年改正により政党はKZT12億7,500万まで、個人はKZT2,550万まで、法人はKZT1億2,750万まで、それぞれ拠出可能となり、寄付総額の上限はKZT25億5,000万、選挙資金全体の上限はKZT38億に達しうる。特別口座はハリク銀行(Halyk Bank of Kazakhstan)に開設・維持することが義務づけられた。
8月16日時点でCECが公表したデータによれば、アディレトはKZT36億を超える拠出を受け、約KZT8億2,000万を支出して最も高額な選挙運動を展開した。これに次ぐのがアクジョル(収入約KZT5億4,900万、支出約KZT5億4,800万)、NSDP(収入約KZT5億4,200万、支出約KZT5億100万)である。各党が独自に見積もった総選挙運動費用は、アクジョルKZT10億~12億、バイタクKZT20億、NSDPKZT6億~6億5,000万、PPKKZT4億、レスプブリカKZT10億で、アディレトとアウルは見積もりを提供しなかった。CECは選挙資金の監督権限を持つが、その範囲は銀行から提供されるデータに限られ、独立した検証・事実確認の仕組みは存在せず、これが監督の実効性を制約し、有権者が候補者の説明責任を問う可能性を狭めていると声明は評価する。選挙法は候補者の中間・最終資金報告書の提出を義務づけておらず、これは国際基準および良い慣行に反するとされる。政党の最終報告書提出義務は2023年に法律から削除されたが、CEC決定によって維持されており、CEC決定に基づき投票日前に2回、各党の拠出・支出情報の公表が実施されたことは肯定的に評価されたものの、集計された限定的な形式にとどまり、意味のある透明性と公的監視を確保するには至らなかった。
メディア環境とジャーナリスト訴追――刑事事件が相次いだ選挙戦
メディア市場は直接所有と不透明な予算補助を通じて国家が支配的な地位を占めており、地方メディアへの資金不足と編集内容への国家の影響が指摘される中、登録メディア数の多さにもかかわらずメディアの多元性は限定的である。テレビは依然として主要な情報源だが、SNSの普及が急速に進んでいる。2026年の国家予算は「国家情報政策の実施」にKZT670億を配分しており、メディアへの国家補助はその開示義務から除外されている(7月15日に裁判所がこれを追認)。2025年9月の調査では回答者の59パーセントがテレビを最も信頼する情報源と回答し、34.7パーセントがSNSを信頼すると回答、2025年10月時点のSNSアクティブユーザーは1,690万人に達する。2026年8月時点で登録メディアは4,869社にのぼる。
長年指摘されてきたメディアの自由に関する懸念――ジャーナリストを標的としたSLAPP訴訟(戦略的恫喝訴訟)、記者証発行の遅延、頻繁なオンラインコンテンツの削除、ウェブサイトのブロッキング――は今回も継続した。7月16日、ラジオ自由ヨーロッパ/ラジオ自由の カザフ語サービスであるアザトゥク放送(Radio Azattyq)は、外務省が今回の選挙運動における記者証発行審査を9月半ばまで延期する決定を下したため、11名の記者が記者証なしの状態に置かれたと発表した(海外メディアは8月16日までに申請すれば一時記者証を取得可能とされた)。7月19日から20日にかけて独立系ニュースサイトKazTagのウェブサイトがDDoS攻撃を受けて一時停止し、Otkir Kurekは繰り返されるコンテンツ削除について当局に調査を求め、7月29日には同アカウントが全面凍結された。7月27日には法的メディアセンター(Legal Media Center)がウェブサイトへの攻撃を公表し、これを「選挙運動期間中の独立系ジャーナリストと市民社会組織への圧力増大を示すもう一つの警戒すべき兆候」と表現した。8月1日にはOrda.kzがフィッシング攻撃とFacebookページのブロックを報告している。選挙運動最終週、文化情報大臣はMCIがSNSアカウントを直接ブロックすることはないと強調する一方、プラットフォーム各社に対し「違法コンテンツの削除努力を強化」しつつ「違法な素材と正当な意見表明を明確に区別する」よう求めた。
多くのジャーナリストがIEOMに対し、収監事例の増加、本人あるいは家族(失職の脅迫を含む)への威嚇、絶え間ない協調的なオンラインコンテンツ削除が萎縮効果を生んでいると証言し、一部はCECの公式情報の形式的な伝達にとどめる、あるいは有料コンテンツのみに専念する方針を明らかにした。国内外の団体からの再三の公的な呼びかけにもかかわらず、ジャーナリスト訴追は選挙運動期間中も是正されなかった。声明が具体的に記録する刑事事件は以下の通りである。
| 対象者 | 時期 | 内容 |
|---|---|---|
| ブロガー Adiletkhan Moldakhan、ジャーナリスト Aizhan Mamesheva(元Orda.kz編集長)、Gulnar Bazhkenova、YouTubeブロガー Azamat Omarov | 選挙運動期間中 継続中 | 虚偽情報の意図的拡散および憎悪扇動の容疑で4件の刑事事件が継続 |
| KazTag編集長 Amir Kasenov | 7月31日判決 | 虚偽情報の意図的拡散容疑で、行動制限15か月および5年間のジャーナリスト活動禁止 |
| ジャーナリスト Alexandra Alekhova | 8月4日判決 | 個人情報の拡散容疑で禁錮3年(アルマトイ検察が減刑を申立て) |
| ジャーナリスト Dinara Yegeubayeva | 8月5日発表 | 「捏造」と本人が主張する交通事故を機に刑事捜査対象となり、大規模な偽情報キャンペーンの標的にもなったと発表 |
| ジャーナリスト Lukpan Akhmedyarov | 8月12日確認 | アスタナ警察が虚偽情報の意図的拡散容疑での立件を確認 |
| ジャーナリスト Gulnar Bazhkenova | 8月18日判決 | 虚偽情報の意図的拡散および横領の容疑で禁錮8年、5年間のジャーナリスト活動禁止 |
これらの事例に対し、8月5日には「ジャーナリスト保護委員会」(CPJ)がLukpan Akhmedyarovの渡航禁止措置の撤回とハラスメントの終結をカザフスタンに要請、8月6日には「アディル・ソズ財団」(Adil Soz Foundation)がDinara Yegeubayevaを標的とした「組織的な偽情報キャンペーン」について内務省と検事総長府に公開調査と法的評価を求め、8月10日には法的メディアセンターがジャーナリスト迫害の慣行の停止と裁判における公平・独立な審理の確保を要請、8月14日には中央アジアの人権状況を監視するNGO Freedom for Eurasia が同様の声明を発表、8月20日にはCPJが「選挙を前にジャーナリストが沈黙させられている」とする第2弾の声明を公表し、国境なき記者団もカザフスタンにおけるジャーナリストへの圧力の高まりを指摘した。国際的な団体からの一連の要請は選挙運動期間中、関連当局によって対応されないまま推移した。
制度面では、国際基準・過去のODIHR勧告に反して独立した任命・財源を備える公共放送は存在せず、MCIが独立性保証を欠いた形でメディア規制機関としての役割を担う。MCIは選挙運動期間中、公表された方法論を伴わない不透明な手続でメディア・オンラインメディアを監視し、投票日の2日前に発表された結果では21件の違反を特定して検察に付託した。憲法は表現の自由を保障し検閲を禁止するが、これは「虚偽情報の意図的な拡散」に対する刑事制裁、大統領その他公務員の名誉・尊厳の侵害に関する規定、名誉毀損に対する不均衡な行政拘留、そしてジャーナリストを標的とした長期化するSLAPP訴訟の判例によって制約されている。選挙運動報道に関する規制は現行の実施状況において硬直的で、批判的な報道を含む言論の自由の保障範囲が不明確であり、明確化を求める要請に対し当局は「許容される客観的批判」という枠組みで応じた。選挙運動期間中、メディアは全候補者に対する客観的かつ平等な報道を確保することを義務づけられ、候補者・政党の名誉・尊厳・企業としての評判を損なう情報の公表を禁じられていた。7月23日、検事総長府はメディア・オンライン利用者向けの選挙報道ガイダンスを公表したが、IEOM対話者はこれを批判的報道を萎縮させるものと受け止めた。
ODIHR EOMのメディア監視は、放送局・オンラインメディアが選挙運動活動について限定的な報道しか行わず、分析的あるいは編集的な報道がほぼ皆無であったこと、その一方で政府当局に関する報道は広範であったことを明らかにした。7政党合計の放送報道量は政府・大統領・その他公的機関に関する報道量を下回り(それぞれ35パーセントと65パーセント)、放送監視ではアディレトが政治的に関連するニュース報道の6.48パーセントをやや多く獲得し、他党は4.38~5.07パーセントにとどまった一方、候補者はおおむね中立的に報じられた。オンラインメディア監視では政府・大統領・公職者に関する報道が突出しており、その86パーセントが中立または肯定的トーンであったのに対し、全候補者合計の報道シェアは約14パーセントで、その大半も中立トーンだった。女性候補者は監視対象の放送報道の34パーセント、オンラインメディア報道の約7パーセントで取り上げられている。CECに報道計画・広告料金を通知した757のメディア・オンライン利用者は、全候補者に均等な料金で有料放送枠・コンテンツ枠を提供することが認められ、アディレトが最も多くの広告を購入、次いでNSDP、アクジョルの順だった。有料コンテンツはラベル表示規制の対象だが、ODIHR EOMの監視ではそのラベルが「多くの場合、容易に認識できるものではなかった」と国際的な良い慣行との乖離が指摘されている。テレビ討論会は4回実施され、うち大半が契約ベース、1回のみCECが無料で提供、雇用・教育・法の支配など社会的論点を中心とした有料テーマ別討論には全候補者が参加し、討論会には女性候補者も全て参加した一方、無料討論会にはジャーナリストからの質問が一切設けられなかった。
選挙紛争解決と司法の独立性への懸念
市民・政党その他の選挙関係者は、苦情の性質に応じて選挙管理委員会・裁判所・検察当局への提訴権を有する。下位選管への不服申立ての第一審は行政裁判所、CECへの不服申立ては最高裁が管轄する。もっとも選挙紛争解決の仕組みは実質的にほとんど試されていない。8月21日のCECセッションでは、それまでCECに苦情は一切寄せられていないことが説明され、ODIHR EOM長期監視員によれば同日時点でTECが受理した苦情はわずか2件だった。投票日までにIEOMが把握した地方裁判所での選挙関連事案は5件で、いずれも党内紛争・候補者指名に関するものであり、選挙関連の行政違反に関する事案はなかった。アスタナで提訴された3件のうち2件はバイタク党大会での候補者指名の有効性を党員2名が争ったもの(実体判断で棄却)、1件は個人がアディレトの候補者名簿の適法性を争ったもの(管轄なしとして返戻、同一人物が司法省のアディレト登録決定も争ったが原告適格なしとして返戻)。クズロルダでは個人がアウル地方支部長を相手取った1件(管轄なしとして返戻、再提出後に取り下げ)、ジェティスでは独立候補を志望した人物の申立てが却下、控訴されたが最終的に管轄なしとして返戻された。虚偽の選挙運動投稿とSNS上での世論調査結果の公表を理由に、市民7名と民間メディア1社に対し罰金(市民にKZT64,875、メディアにKZT129,750、自白による減額を含む)が科されている。
選挙運動期間中、大統領は7月29日付の大統領令第1382号により、専門化された地区間行政裁判所・刑事裁判所・地方裁判所を含む複数地域の裁判所長を新たに任命した。一部のIEOM対話者は、公的活動・表現の自由・メディア活動への参加に影響する法律の制限的な司法解釈を批判し、政治的性質を帯びた事案における司法の公平性に懸念を表明している。ジャーナリスト・ブロガー・市民活動家が関わった複数の公になった事案は、選挙期間中の基本的自由の行使に対するこれらの規定の恣意的な適用可能性をめぐる、より広範な議論に寄与した。刑法158条(憎悪扇動)、174条、274条(虚偽情報の拡散)、375条(ジャーナリストの職務妨害)、376条(大統領・議員の名誉尊厳侵害)、378条(当局代表者への侮辱)がこの文脈で参照されている。7月21日には市民活動家Nurzhan Sembayevが刑法405条・258条に基づき禁錮6年の判決を受けた。IEOM対話者はさらに、メディア「MSU.CITY」代表Murat Nurgalimovに対する法執行機関への「不服従」を理由とした行政制裁、および交通事故を機に刑事捜査の対象となったジャーナリストDinara Yegeubayevaに対する事案の2件について、選挙期間中のメディア活動への組織的な干渉を示す事例とみなしている。
CECは不服申立てに基づき個別投票所・行政区域単位で選挙結果を無効化できるが、2026年の選挙法改正により、再投票は当該違反が全投票所・行政区域の少なくとも4分の1に影響を及ぼした場合に限定されることとなった。行政手続法典は、選挙後1か月以内に提起された選挙権侵害に関する苦情を5日以内に裁定するよう定めるが、これはCECが公式に結果を発表する前にすべての不服申立て手段が尽くされることを保障するものではなく、実効的な救済を受ける権利を損なうと評価されている。最終的な選挙結果は憲法裁判所への提訴が可能だが、この権利は大統領、首相、クルルタイ議長、あるいはクルルタイ構成員の5分の1以上に限定されており、2026年の議会選挙という文脈では議会が不在であるため、事実上大統領と首相のみに提訴資格が限定される。市民・候補者を提訴資格から排除するこの制度は国際基準・OSCEの約束に反すると評価された。
選挙監視空間の狭まり
選挙法は国内・国際選挙監視の双方を認めており、CECは外務省またはCECからの招請に基づき国際監視員を認定する。今回777名の国際監視員が13の国際機関・42か国から認定された。国内監視については、8月20日時点で265団体が認定されており、うち13団体がCEC、252団体がTECの認定による。複数のIEOM対話者は、認定された監視団体の一部の独立性・公平性に疑問を呈している。同時に、結社の自由への制限、市民社会組織(CSO)への限られた資金、当局からの圧力、団体の適格性をめぐる不確実性を背景に、独立した選挙監視のための空間が著しく狭まっていることが複数の対話者から指摘された。2026年選挙法改正は選挙関連活動全般への外国資金供与の禁止を広範かつ曖昧な形で拡大し、当局による矛盾した解釈が観測者の活動遂行に不当な障害をもたらしている。IEOM対話者によれば、CEC認定の13団体のうち今回の選挙を実際に監視しようとしたのは5団体にとどまり、その活動も主に投票日に集中し、動員規模は数十名から数千名までさまざまだった。認定された265団体のうち、市民団体による非党派的な選挙監視に関する「世界原則宣言」(Declaration of Global Principles for Non-Partisan Election Observation and Monitoring by Citizen Organizations)を承認しているのは「自由の翼」(Erkindik Qanaty、Wings of Liberty)と「カザフスタン青年情報サービス」(Youth Information Service of Kazakhstan)のわずか2団体にすぎない。
投票日・開票・集計――重大な整合性の疑義
投票日は平穏かつ整然と進行し、選挙運動の沈黙期間違反は観測されなかった。CECは投票率を含む投票状況の情報を終日公表し、暫定投票率は高水準の74.19パーセントに達したが、地域差は顕著で、アルマトイが43.23パーセント、アスタナが51.67パーセントにとどまった。しかし終日を通じ、IEOM観測員は「実際に投票する有権者を観測した数」と「公式に発表された投票率」との間に著しい差異があると繰り返し報告している。CECは投票日夜の暫定結果を公表せず、これは透明性の低下として評価された。IEOM観測員は127投票所で開所を観測し、そのうち2投票所を除く全てで肯定的に評価、1,327投票所で投票を観測し98パーセントで肯定的に評価、投票所職員に占める女性の割合は投票区選管(PEC)構成員の74パーセント、議長の68パーセントに達した。もっとも脚注が明らかにする通り、IEOM観測員は観測した全投票所について、投票者名簿に登録済みまたは投票日当日追加された有権者数、到着時点で投票を終えていた有権者数、退出時点で投票を終えていた有権者数のデータを終日にわたり収集しており、このデータの統計分析の結果、「投票した有権者の実数は公式に報告された数を大きく下回っていたことが示唆される」と明記されている。すなわち、投票日を通じて肯定的だった全体的な評価とは裏腹に、投票率という最も基本的な数字そのものの信頼性に疑問符が付いた。
障害を持つ有権者の参加を促す中央主導の取り組みにもかかわらず、観測対象投票所の約17パーセントで障害者の自立したアクセスが確保されておらず、5パーセントで施設配置がこうした有権者に適さず、3パーセントで必要な設備を欠いていた。政党代理人・監視員は観測対象投票所の85パーセント、市民監視員は79パーセントで確認されたが、一部の監視員は所属団体を明示できなかった。無許可者の存在は観測対象投票所の5パーセントで報告されたが、PECの業務への干渉報告はごくわずかだった。有権者確認手続はおおむね遵守されたが、観測対象投票所の11パーセントで1名以上の有権者が(多くは投票所を誤ったことを理由に)追い返され、投票者名簿上の連続した酷似署名(3パーセント)、集団投票(1パーセント)、適切な身分証を持たない有権者への投票許可(1パーセント)といった重大な手続上の欠陥が報告された。観測対象投票所の5パーセントでは、全ての有権者が投票の秘密を確保した形で投票用紙に記入していなかった。IEOM観測員は有権者への圧力を示す懸念すべき兆候も報告している。観測対象投票所の6パーセントで有権者が投票用紙を撮影する様子が確認され、IEOM観測員はその写真が「雇用主に対し、どのように投票したかを証明する目的で使われる」と話す有権者の声を直接聞いている(独立監視員も、労働者・学生・集合住宅居住者が投票するよう圧力を受けた事例を別途報告した)。PEC構成員以外の人物が投票所に来る有権者を系統的に記録している様子も観測された。投票中の透明性に関する問題は観測対象投票所の8パーセントという相当な割合で報告され、これには観測員が手続を明確に視認できなかった事例が含まれる。投票者名簿の目視確認が可能だった投票所では、選管職員が「投票済み」と報告した人数が、名簿上で確認できる署名数をしばしば上回っており、多くのIEOM観測員が既に投票を終えた有権者数についての情報提供を拒否された。
開票段階ではさらに深刻な問題が観測された。観測対象119投票所のうち40投票所(3分の1超)で開票が「重大な手続違反と省略」を理由に否定的に評価され、票の照合と集計に関わる重要な手続が頻繁に守られなかったことが、集計過程の整合性そのものに疑義を投げかけた。具体的にはPECが投票者名簿上の総有権者数を確定・公表できなかった事案が64件、名簿上の署名数を確定・公表できなかった事案が66件、未使用投票用紙数の確定・公表に失敗した事案が32件、不在者投票証明書(AVC)または移動投票箱使用者数の確定・公表に失敗した事案がそれぞれ29件・20件記録された。投票箱を開封した後の手続違反も観測されており、全ての投票箱内の投票用紙総数が確定されなかった事案が15件、その総数が投票した有権者数を上回った事案が8件確認された。76件の事案でPECは各投票用紙が誰に投じられたかを公表せず、投票用紙の有効性判定が法定基準に基づいていなかった事案が12件、判定基準が一貫していなかった事案が13件観測された。45件の開票で、PECは結果の数学的整合性を検証するための所定の照合公式を使用していなかった。結果議定書についても、25件の開票で完全に記入されておらず筆記具にもペン使用の規定違反があり、50件の開票で数値が議定書に記入される前に読み上げられておらず、4件の議定書はPEC構成員による事前署名が確認され、37件の開票で議定書が公衆縦覧のために掲示されず、32件の開票ではIEOM観測員が資格を有するにもかかわらず議定書の写しを受け取れなかった。政党代理人・監視員および市民監視員はそれぞれ観測対象開票の70件・72件で立ち会っていたが、多くのIEOM観測員が開票時の透明性の問題を報告しており、29件で否定的に評価し、28件で全ての監視員が開票を明確に視認できなかったと報告している。声明はこの一連の所見を総括し、「開票時に観測された問題は、これらの過程の整合性、および1990年OSCEコペンハーゲン文書第7.4項が求める通り投票用紙が誠実に数えられ報告されたかについて、重大な懸念を提起する」と結論づけている。
集計(タビュレーション)段階については、観測対象91TECのうち72TECで肯定的に評価されたが、否定的評価は主に透明性の欠如に起因する。25のTECで観測員の観測が制限され、26のTECでは出席者全員が集計過程を明確に視認できたわけではなかった。10のTEC・8のTECでそれぞれ施設の不備・過密が報告されている。手続上の問題としては、PECが正式なTEC決定を経ずに結果議定書を修正した事案が7TEC、PECがTEC到着後に初めて議定書を完成させた事案が12TECで確認され、さらに結果または議定書の意図的な改ざんが2件確認された。政党代理人・監視員および市民監視員の立ち会いはそれぞれわずか3TEC・4TECにとどまり、TEC議定書の公表や投票所別に分解した選挙結果の公表を義務づける法的規定が存在しないことが、集計過程の透明性をさらに損なっている。検事総長府は投票日に関する苦情を一切受理せず、裁判所への提訴もなかったと発表した一方、記された投票用紙の写真を投稿した市民7名に対しては違法な選挙運動を理由とする罰金が科された。
総括――「技術的に整然」という評価の内実
この予備声明が描き出すカザフスタン2026年繰り上げ議会選挙の全体像は、一見すると矛盾した二つの評価が重なり合う構図である。一方で、CEC・TEC・PECによる技術的な準備、有権者情報キャンペーン、選管職員研修、障害者アクセスへの配慮は法定期限内に専門的に遂行され、開所・投票の大部分もIEOM観測員によって肯定的に評価された。他方で、新憲法が撤廃した独立候補制度、政党への異例の裁量を残した合算クオータ、大統領による選管機関の一方的任命への移行、外国資金規制の曖昧な運用による市民社会・監視団体の萎縮、そして何よりアディレトへの資源集中と行政資源の流用は、選挙戦そのものから実質的な政治的対立軸を奪っていた。声明が繰り返し用いる「政治的多元性を欠く環境」という評価は、単なる定性的な印象ではなく、7党全てが現職大統領の政策を支持していたという事実、そして候補者登録の要件が独立候補という選択肢自体を制度上消し去っていたという事実に裏づけられている。
投票日終盤に関する記述は、単なる手続的な瑕疵の指摘を超えている。IEOM観測員が終日にわたり収集した「投票所到着時・退出時の投票済み人数」というミクロなデータの統計分析は、「公式に発表された投票率」という選挙の最も基本的な数字そのものの信頼性に疑問を投げかけている。さらに、観測された開票119件のうち40件(3割超)が重大な手続違反により否定的に評価され、投票用紙総数の不一致、集計公式の不使用、議定書の未公開・未交付といった個別の欠陥が数十件単位で積み上がっている事実は、選挙の「入口」(投票)が比較的平穏だったことと、「出口」(集計・結果公表)の信頼性が損なわれていたこととの間に、明確な断絶があったことを示している。これに、選挙運動期間を通じて相次いだジャーナリストへの禁錮刑・活動禁止処分――6件の刑事事件、うち2件が禁錮刑を伴う実刑判決――と、SNS上でのコンテンツ削除・アカウント凍結の不透明な運用を重ね合わせると、この選挙の情報環境全体が、投票そのものの技術的な整然さとは別のレイヤーで、批判的な言論と独立した検証の機会を体系的に狭めていたことが浮かび上がる。声明が予備的なものにとどまり、ODIHRによる最終報告書と勧告が数か月後に公表される予定である以上、開票時に確認された「意図的な改ざん2件」を含む個々の事案が最終的にどう総括されるかは今後の検証を待つ必要がある。ただし声明自身が、投票実数と公式投票率の齟齬および開票の手続違反を、1990年OSCEコペンハーゲン文書第7.4項――投票用紙が誠実に数えられ報告されたか――に照らして明示的に評価した以上、この論点はカザフスタンの選挙管理機関が公式にどう応答するかという、選挙後も残り続ける係争点として位置づけられる。


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