ドイツに拠点を置く非営利団体Alliance4Europeとオランダの分析企業Trollrensicsは、2026年9月、共同報告書From the Netherlands to Sweden: Guns For Hire CIB Network’s Third European Election Cycle(PDF、23頁)を公表した。著者はMaria Voltsichina(Alliance4Europe)とRobert van der Noordaa(Trollrensics)で、スウェーデン公共放送SVTの検証報道部門「SVT Verifierar」のLinus Svensson、Henrik Sköld、Maria Lapenkovaが協力している。調査はAlliance4Europeが運営する対偽情報の研究者ネットワーク「Counter Disinformation Network」を通じて行われた。対象は、2026年9月13日のスウェーデン総選挙を前に、X上でスウェーデン人を装いながらベナンやナイジェリアから接続していた8,505件のCIB(協調的な不正行為)アカウントである。Alliance4Europeは「欧州民主主義の防衛」を掲げるアドボカシー団体であり、Trollrensicsは自社の監視ソフトウェアを用いる民間企業である。報告書の後半は、XがEUのデジタルサービス法(DSA)に違反している可能性を主張する規範的な議論に充てられている。報告書は、2025年10月のオランダ下院選挙、2026年4月のハンガリー議会選挙に続いて、同一ネットワークが3カ国目の選挙に転用されたと結論づけている。
3カ国の選挙を渡り歩くネットワーク
起点は2025年10月である。Trollrensicsは、アムステルダム大学、AI Forensics、Post-X Societyなどが参加するオランダの選挙監視コンソーシアムHEIO(Hybrid Election Integrity Observatory)の一員として、民放RTLと組み、10月29日の下院選挙を前にX上のCIBネットワークの洗い出しに着手した。この調査では、右派・反移民・親ロシア・反ウクライナの投稿を人工的に押し上げるアカウントが550件以上確認された。所在地はいずれもアフリカと東南アジアの国々で、ハンガリー報告によれば少なくとも225件がナイジェリアに遡れたという。RTLの報道によれば、増幅は極右政党「民主主義フォーラム(FvD)」に不均衡に偏っていた。なお、オランダの総合情報保安庁(AIVD)は当時、国家主体による大規模な工作を示す兆候はないとRTLに回答している(SIDNの解説)。その後Alliance4Europeが合流し、ハンガリー総選挙を前に同じネットワークがオルバン首相支持の投稿を増幅していたことを別の共同報告書にまとめている。
アカウントの所在地は、Xのアカウント情報に表示される接続国(IPアドレスに基づく)によって判定している。報告書は、所在地がアフリカと東南アジアの複数国にまたがるという分布を根拠に、このネットワークの主な用途を、発注者に貸し出される商業的な「guns for hire(雇われガンマン)」型サービスとする仮説を立てている。同時に、所在地として現れた国の政府や組織に活動を帰属させることはしないと明記している。
資産の作り方と増幅の仕組み
報告書が描く手口は、投稿によって世論を作るのではなく、フォローと閲覧によってXの推薦アルゴリズムを動かすものである。CIBアカウント自身はほとんど投稿せず、フォロー先の投稿に反応することもまれである。大量フォローの対象は、政党や著名人よりも、小規模ながら投稿頻度の高い現地アカウントに集中している。これらのアカウントのフォロワー数と見かけの信頼性を水増しし、閲覧数を押し上げることで、投稿をおすすめ表示に乗せる構造である。増幅の方向は、これまでの事例と同じく右派・親ロシア寄りに偏っている。
アカウントの作り方にも一定の型がある。標的国に合わせた名前とハンドル、他人から盗用したプロフィール写真、ほぼ空の活動履歴という組み合わせである。スウェーデン向けの資産も、スウェーデン語の名前・ハンドル・自己紹介を持ちながら、所在地の大半はベナンかナイジェリアであった。代表例として挙げられているのが「Ingrid Karlsson」(@IKarlsson29239)で、2025年3月に作成され、2,968件をフォローし、フォロワーは255件、投稿はなく、所在地はベナンである。報告書は、ベナン系資産の多くが「病院にいる高齢女性」の写真を使っている点を、オランダ調査から引き継がれた作成テンプレートの痕跡として重視している。さらに、Xでは新規アカウントのフォロー数に7,500件の上限があるにもかかわらず、その数倍をフォローするアカウントが多数存在すると指摘する。これを、古いアカウントの流用か、レート制限の回避を示すものと解釈している。
3段階の調査手法と起点アカウント
手法はオランダ・ハンガリー調査と同じ3段階で構成されている。
- 第1段階:既知のオランダ・ハンガリー系資産のうちスウェーデンのアカウントをフォローしているものと、ネットワークから継続的にフォロー・リポストされているスウェーデンのアカウントの両方について、フォロー・フォロワー一覧を収集する。
- 第2段階:収集結果のうち、ナイジェリア、西アフリカ、東南アジアに所在するアカウントを抽出し、そのフォロー・フォロワー一覧をさらに収集する。
- 第3段階:第2段階までに得たアカウント群から、ネットワークの規模を推計する。
手法を揃えたことで、3カ国のデータを直接突き合わせて既知のハンドルとの重複を確認できる。調査の糸口になったのは、既知のベナン系資産に大量フォローされていた実在のスウェーデン人アカウント@MarkusStorangである。自己紹介には「旧メディアへのリンクはお断り、我々は何も予見できない」という文に続き、ハッシュタグ#7klövernが付いていた。「7つ葉のクローバー」を意味するこの語は、スウェーデン民主党(SD)が自党以外の主要7党を一枚岩の連合として括るために作った政治的な蔑称である。報告書は、この反既成メディア・反既成政党の枠組みがネットワーク全体の焦点と重なるとみている。このアカウントのフォロワーの所在地を調べると新たなベナン系アカウントが見つかり、同じ作業を繰り返すことで8,505件まで積み上がった。報告書は、この数を規模の上限ではなく、調査期間内に処理できた件数にすぎないと断っている。
24アカウント標本が示す国別構成と転用
標的の構造を分析するため、調査チームはネットワークの一員である確度が最も高いアカウント24件を意図的に選び出した。報告書自身、この標本は統計的な代表性を意図しない高確度の目的標本であると明記している。
| 区分 | 件数 | 内容 |
|---|---|---|
| ほぼスウェーデンのみをフォロー | 14 | フォロー先のほぼ全てがスウェーデンの利用者 |
| 調査中にXが制限 | 1 | 調査開始後に制限措置 |
| スウェーデン主体+他国 | 9 | オランダ、セルビアなどを副次的にフォロー |
副次的な対象国として目を引くのがセルビアである。@tarjarauti39512はスウェーデンの1,960件とセルビアの331件を、@vladimirov93600はスウェーデンの704件とセルビアの280件をフォローしている。他の22件には同様の傾向が見られない。報告書はこの2件について、複数の国を担当する共通の運用者がいる可能性、あるいは2027年5月1日に予定されるセルビア選挙に向けた移行期にある可能性を示している。フォロー先全体に占めるスウェーデン利用者の割合は、スウェーデン向けアカウントでおおむね50〜90%であった。リポストの実績があるアカウントは一部に限られ、大半は全くリポストしていない。報告書はこれを、スウェーデンではフォローによる増幅が主な手段であることの裏付けとしている。
転用の最も明確な事例は@BrigitteWattie4である。表示名は「Catherine Privet」、自己紹介はオランダ語の祈りの文句、所在地はベナン、作成は2021年7月で、総フォロー数1,966件のうちスウェーデンが750件、オランダが766件を占める。Trollrensicsの監視ソフトの変更履歴には、2026年7月17日、つまり総選挙の約2カ月前に、表示名が「Brigitte Wattier」から現在の名前に変わり、プロフィール写真と、海の夕景だったヘッダー画像が病院のベッドに横たわる高齢女性の写真に差し替えられたことが記録されている。2022年7月5日には、Xへの登録1周年を祝うフランス語の自動投稿も残っている。報告書はこれを、フランス語圏であるベナンでの運用設定が表に出た不整合と読んでいる。このアカウントは2024年の時点ですでにTrollrensicsのソフトに記録されていた。報告書はこれを、スウェーデン向けの資産の少なくとも一部が今回の選挙のために新設されたものではなく、休眠させたうえで標的を切り替えるインフラであることの証拠とみなしている。
所在地はベナンが最多で、ナイジェリアが2番目の集積を形成している。そのほかコートジボワール、ガンビア、ガーナ、その他のアフリカ(表示は「West Africa App Store」)、香港、ベトナム、インドネシア、マレーシアが含まれる。ナイジェリアの集団の一部は、もともとMAGA(トランプ支持運動)系だったアカウントを転用したもので、所在地はナイジェリアか米国と表示される。報告書は、米国表示の中に実在の個人が混じる可能性を認めつつも、行動の一貫性を理由に、これらをナイジェリア系ネットワークの一部として扱っている。
閲覧数とエンゲージメントの乖離
24件全てにフォローされていたのが@cajsa123である。社会民主党と同党党首マグダレーナ・アンデションに批判的な投稿を続ける、実在の利用者とみられるアカウントである。報告書は、この利用者の新旧の投稿を比べ、閲覧数に対して反応の割合が低下していることを、ネットワークの効果が数値に現れた例として示している。
| 投稿日 | 内容 | 閲覧 | いいね | リポスト | 返信 |
|---|---|---|---|---|---|
| 2025年10月11日 | 討論番組の左派出演者を批判 | 375 | 23 | 1 | 1 |
| 2025年11月15日 | 各党がアンデションに配慮していると論評 | 303 | 14 | 0 | 1 |
| 2026年9月1日 | アンデションのラジオ出演を揶揄する引用投稿 | 5,200 | 124 | 27 | 12 |
| 2026年9月2日 | アンデションを「スウェーデン版カマラ・ハリス」と評す | 10,400 | 709 | 58 | 42 |
報告書によれば、2025年の投稿では閲覧数に対する反応の比率が外れ値を除いて5〜10%であったのに対し、直近の投稿では1〜4%に下がっている。ネットワークのアカウントは投稿を閲覧しフォローするだけで反応はほとんどしないため、閲覧数だけが膨らむという説明である。
相互フォロー分析:誰が標的になったか
報告書が最も分量を割いているのが、24件の標本の中で複数のアカウントに同時にフォローされている対象の分析である。そうした重複は3,344件記録された。偶然のフォローではなく、ネットワーク全体で繰り返し現れる標的を抽出する手法である。重複フォロー数の上位100件は右派が多数を占めたが、左派も7件、政治的立場を分類できない人物も4件含まれていた。主な標的は次の通りである。
| 人物 | 立場・経歴(報告書の記述) | フォローしていた標本数(24件中) |
|---|---|---|
| Susanna Silfverskiöld | 穏健党系の論客、クリステション首相府の政治顧問 | 20 |
| Jan Ericson | 2006年からの穏健党議員、財政委員会・EU委員会 | 20 |
| Lars Beckman | 2017年からの穏健党議員、地元紙が「Xで最も攻撃的な反メディア派」と評した | 19 |
| Mats Skogkär | 保守系コラムニスト、右派媒体Bulletinで移民・統合を論じる | 18 |
| Katerina Janouch | チェコ出身の作家、親ロシア系の言説に引用されたと英紙が報じた(本人は否定) | 16 |
| Jessica Stegrud | スウェーデン民主党の議員、元欧州議会議員 | 15 |
左派の例としては、社会民主党の元社会保障相Annika Strandhäll、左翼党の経済政策担当議員Ulla Andersson、ジャーナリストのGösta Hultén、フェミニズムやSDの政策を論じる論客Stefan Jämtbäck、半匿名の反右派アカウント@SaveTheOpabiniaが挙げられている。報告書は、これらの人物が工作に関与していた、あるいは工作を認識していたとは一切主張していない。
報告書はこの分布から2つの傾向を読み取っている。第1は、穏健な論者よりも、感情的な反応を大量に呼び込む分極的な人物に標的が偏っている点である。第2は、穏健党に関係する人物が不釣り合いに多い点である。オランダでのFvD、ハンガリーでのフィデス党のように、これまでネットワークは各国で最も急進的な、あるいはロシア寄りの政党を好んできた。与党の中道右派である穏健党への集中は、この傾向からの逸脱である。報告書はこれを標的戦略の変化の兆しとしつつも、標本内でたまたま反応を集めていたアカウントを反映しているだけの可能性も残している。左派が少数含まれる点については、オランダとハンガリーでも同様の少数派が見られたことを挙げ、反対派の監視や地図化といった発注者の指示を反映している可能性を示している。そのうえで、ネットワークに固有の思想がなく発注者の目的に従うという「guns for hire」仮説と矛盾しないと論じている。検証として標本を100件に拡大すると、上記の人物は全て残り、それぞれをフォローする件数も増えた。右派・穏健党への偏りと、少数の左派・中立の標的という2つのパターンは、いずれも拡大後も維持された。
DSAの観点からの主張と執行の空白
報告書は、閲覧と反応だけを基準に投稿を押し上げるXの推薦の仕組みそのものを、このネットワークの成立条件とみている。そのうえで、DSA第34条は超大規模オンラインプラットフォーム(VLOP)に対し、推薦システムが意図的な操作をどのように拡散するかを評価するよう求めており、協調的な行動への防御策を持たないアルゴリズムはその違反に当たりうると主張する。第35条は、特定されたリスクに見合った実効的な軽減策を求めている。2024年に最初の通報があった後、Xは個別のアカウントを削除したものの、基盤となる仕組みは放置された。報告書はこの対応を第35条の義務を満たさないものと位置づけている。結論部によれば、3カ国で約12カ月にわたって公に記録されてきたにもかかわらず、既知のアカウントのうちXが制限・削除・凍結したのは1%に満たない。
選挙の結果と並行した調査報道
SVTは選挙前日の2026年9月12日、この共同調査を検証記事として報じた。記事は、政治的な投稿を続ける実在のスウェーデン人女性の約9,000人のフォロワーの中に、ナイジェリア所在のアカウントが1,000件以上含まれ、ベナン、コートジボワール、ガーナからの数百件がそれに続くという事例を冒頭に置いている。Facebookでも活動の兆候があるとも伝えた。報告書本文との違いで注目すべきは帰属に関する発言である。報告書は帰属を明確に避けているが、共著者のvan der NoordaaはSVTに対し、ロシアの資金が背後にある可能性が高いと述べ、アカウント群を「傭兵の軍隊」になぞらえた。クレムソン大学のDarren Linvill教授も、運営者は1社以上のアフリカの「マーケティング会社」であり、過激な内容を広めようとする試みは数十年来のロシアの影響工作と整合すると評価している。オックスフォード大学のMohsen Moslehは、最大の影響は世論の見え方の歪みにあると指摘した。同じSVTは9月1日、スウェーデン心理防衛庁(MPF)の報告として、東アジアの業者が国家主体の発注を受けてX上で約1,200件のAIボットを運用し、2025〜2026年に5万件以上の投稿を行った「Holiday」ネットワークも報じている。こちらも過去に台湾向けの発信に使われたアカウントの転用が確認されており、選挙前には停止していた。
確定結果では、社会民主党が28.02%(99議席、8議席減)で第1党を維持し、穏健党は19.85%(70議席、2議席増)、スウェーデン民主党は17.48%(62議席、11議席減)であった。社会民主党・左翼党・中央党・緑の党の4党が176議席を得て、与党側の4党(173議席)を上回った。報告書もSVTも、ネットワークが投票行動に与えた影響は測定していない。この結果から増幅の効果を推し量ることはできない。
評価:何が新しく、何が未解明か
以下は本稿独自の評価である。この報告書の最大の貢献は、同一ネットワークの資産が国境を越えて引き継がれる過程を、個別アカウントの変更履歴という具体的な水準で示した点にある。2024年の記録、2026年7月17日の改名と画像の差し替え、オランダとスウェーデンで二分されたフォロー構成という3点が揃った@BrigitteWattie4の事例は、「休眠と転用」という仮説を、推論ではなく観察として提示している。MPFの「Holiday」でも台湾向けアカウントの転用が報告されており、所在地も運営形態も異なる2つのネットワークで、業者が保有するアカウントを標的国ごとに付け替えるという同じ構造が独立に観察されたことになる。もう一つの論点は、標的の単位が投稿ではなく人物であり、その中心が著名人ではなく中規模の論客に置かれていることである。偽装アカウント側に投稿がほぼ残らないこの方式は、内容に基づく検知や事実確認では捕捉しにくい。
一方で、方法論上の限界も報告書の記述から読み取れる。所在地の判定はXの表示機能に全面的に依存しており、VPNやアプリストアの地域設定(実際に「West Africa App Store」という表示が含まれる)による誤差は検討されていない。8,505件という数字も、本文では「ベナン所在」の件数として書かれている一方、結論部ではCIBアカウントの総数として扱われており、国別の内訳は示されていない。@BrigitteWattie4についても、「スウェーデンのみをフォローするよう転換した」という記述と、750件対766件という内訳が食い違っている。閲覧数とエンゲージメントの乖離の論証にも弱さがある。表の数値で計算すると、2026年9月2日の投稿のいいね率は約6.8%で、報告書が旧来の水準とする5〜10%の範囲に収まる。1〜4%に下がったと言えるのは9月1日の投稿(約2.4%)のほうである。しかも対象は単一アカウントの4本の投稿にすぎず、フォローが閲覧数をどう押し上げるのかという因果の経路は、Xの推薦の仕組みが公開されていない以上、外部からは推定にとどまる。SVTの事例でナイジェリア所在のアカウントが主体だった点も、ベナンを中心とする報告書の構図とどう整合するのかが説明されていない。報告書自身が今後の課題として挙げているのは、フォロー先の定量的な構成分析、ネットワーク全体のうちスウェーデンに割り当てられた比率の推計、そして選挙後に資産が次の標的へ移るかどうかの追跡である。セルビアに副次的な焦点を持つ2件のアカウントは、その追跡の具体的な起点となる。

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