デジタルサービス法(DSA):EUの偽情報対策が米国に示す道筋

デジタルサービス法(DSA):EUの偽情報対策が米国に示す道筋 論文紹介

 本記事では、EUが導入した「デジタルサービス法(Digital Services Act, DSA)」の詳細と、特に米国における適用可能性に焦点を当てたDaniela Peterka-Benton氏の論文「Fighting Disinformation Online: The Digital Services Act in the American Context」を紹介します。日本でも、村上総務大臣が偽情報対策に積極的な姿勢を示しており、日本での対応策を考える上で示唆を与える内容です。


DSAの概要:オンライン空間の包括的な規制

1. DSAの背景

 DSAは、EUが2000年に導入した電子商取引指令の現代化を目的に2022年11月に施行されました。この法律は、以下の目的を持っています:

  • 透明性の向上:プラットフォーム運営の透明性を確保。
  • 偽情報の拡散防止:オンライン上の違法コンテンツや偽情報への対策を強化。
  • 消費者保護:未成年者の保護や広告の透明性を向上。

2. DSAの主要な特徴

  • 透明性データベース:コンテンツ削除やアルゴリズムの運用状況を記録・公開する仕組み。
  • 信頼できるフラッガー制度:偽情報を迅速に特定するための専門家グループ。
  • 巨大プラットフォームへの規制:GoogleやMetaなどの「非常に大規模なオンラインプラットフォーム(VLOPs)」に特別な義務を課す。

論文の分析:DSAの米国への適用可能性

 Peterka-Benton氏の論文は、DSAを米国の文脈で評価し、その適用可能性を以下の視点から分析しています。

1. 偽情報の脅威

 論文では、偽情報が米国社会に与える深刻な影響について次のような事例が挙げられています:

  • ロシアの選挙干渉:2020年米国大統領選挙での分断を煽る活動。
  • 健康関連の偽情報:新型コロナウイルスに関する誤情報が公共の健康対策を阻害。

 偽情報は、民主主義や公共の安全を直接的に脅かす存在として位置付けられています。

2. 米国での課題

 米国でDSAを導入する際に直面する課題として、以下の点が挙げられています:

  • 言論の自由との調和
    米国憲法修正第1条により、表現の自由が強く保護されています。「有害だが合法」なコンテンツへの規制が難しい状況です。
  • 州ごとの分権的な法制度
    州ごとに規制が異なるため、連邦レベルで統一的なルールを設けるのが困難です。

3. ブリュッセル効果

 EU規制が他国にも影響を与える「ブリュッセル効果」が、米国におけるDSAの間接的な適用可能性を示しています。グローバル企業がEU基準に対応することで、その影響が米国のプラットフォームにも波及する可能性があります。

4. DSAが示す米国の規制における示唆

 DSAは、規模の大きなプラットフォームが社会に与える影響を抑制するための包括的なモデルを提供しています。論文は、米国がDSAのすべてをそのまま導入することは困難である一方で、次のような部分的適用が可能であると示唆しています:

  1. 透明性と説明責任
    アルゴリズムやコンテンツモデレーションの可視化は、ユーザーの信頼を高める。
  2. 共同規制のモデル
    政府と企業が協力して行う規制(共同規制)は、米国でも応用可能。

まとめ

 DSAは、偽情報対策を中心とした画期的な規制であり、米国にとっても重要なモデルとして注目されています。Peterka-Benton氏の論文は、DSAの意義とその適用可能性について深く掘り下げており、国際的な偽情報対策の方向性を示唆しています。この論文が示す知見は、日本においても適切な対応策を考える上で重要な参考材料となるでしょう。

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