Evidence for Democracyは、カナダにおける科学的根拠に基づく政策決定を推進する非営利組織として、2026年1月に包括的な偽情報分析レポート「The Misinformation Challenge: Rebuilding Trust in a Post-Truth World」を公開した。本レポートは、2025年1月28日にカナダ外国干渉委員会のMarie-Josee Hogue委員長が「偽情報はカナダ民主主義への最大の実存的脅威」と指摘したことを受けて作成された。Evidence for Democracyは2021年に初の偽情報レポートを公開しているが、この4年間で生成AI技術の急速な発展、Metaによるニュース遮断、外国勢力による選挙干渉の高度化といった劇的な変化が生じており、カナダ固有の文脈における偽情報の影響を再評価する必要性が高まっていた。本レポートは学術論文と報告書の広範な文献レビュー、および偽情報・民主主義専門家への複数のインタビューに基づき、68ページにわたって現状分析と政策提言を展開している。
カナダメディア環境の構造的崩壊
カナダの偽情報問題を理解する上で不可欠なのは、メディア環境そのものが構造的危機に直面している事実である。従来型メディアの急速な衰退が顕著で、新聞をニュース源とするカナダ人の割合は2020年の42%から2023年には19%へと半減した。テレビは依然として主要な情報源ではあるが、CBC、CTV、Globalといった主流ネットワークの影響力も相対的に低下している。
この空白を埋めているのがアメリカ発のコンテンツである。CNNやNew York Timesといった主要メディアから、X、Instagram、TikTok、YouTubeといったソーシャルメディアプラットフォーム上で流通するコンテンツに至るまで、カナダのメディア環境はアメリカ基盤のプラットフォームと情報源に支配されている。この傾向は2023年のMetaによるカナダニュース遮断によってさらに加速した。Metaの決定により、カナダニュース媒体はFacebookとInstagram上でのエンゲージメントを85%失った。大手媒体はTikTokなど代替プラットフォームへの移行を進めたが、多くの地方小規模メディアはソーシャルメディア上で事実上沈黙を余儀なくされた。これは若年層が排他的にソーシャルメディアをニュース源とする時代において、特に深刻な問題を引き起こしている。
主流メディアへの信頼低下と並行して、右派系オルタナティブメディアが影響力を拡大している。Rebel、True North、Post Millennialといった媒体は、主流メディアへの対抗として自らを位置づけ、オンライン専業で運営されている。これらの媒体の実際のリーチに関する研究は限られているが、ある研究によれば主流放送ネットワークに匹敵する規模の視聴者に到達している可能性がある。特に2022年1月から2月のオタワ占拠(Freedom Convoy)期間中、これらの媒体のエンゲージメントは急増した。
技術的側面では、生成AIとディープフェイクの普及が偽情報作成の障壁を劇的に低下させている。第4世代ボットはマウス移動まで模倣することで行動分析ツールを回避できるようになり、「信頼できるペルソナボット」は「サスカチュワン州の農民」といった詳細なペルソナを装ってコミュニティメンバーとして振る舞う。ボットファームは大規模な自動化を通じて反ウクライナ言説や選挙干渉に利用されている。カナダ通信安全局(CSE)は2025年連邦選挙に向けて、ロシアを含む敵対的外国勢力がAIを活用した偽情報キャンペーンを通じて選挙干渉を試みると正式に評価している。中国国家支援の偽情報活動も、WeChatやTikTokといった中国所有プラットフォームを通じてカナダの中国系ディアスポラコミュニティを標的とし、カナダの選挙制度に影響を与え、中国共産党に有利な政治的・政策的立場を操作しようとしている。
Freedom Convoyと偽情報が引き起こした実害
2022年1月から2月にかけてのオタワ占拠、いわゆるFreedom Convoyは、偽情報が具体的な暴力と経済的損害を引き起こした最も明確な事例である。この占拠に先立ち、ソーシャルメディア上で偽情報が猛威を振るった。FacebookやTikTok上の「convoy influencers」が積極的に増幅した偽情報には、オタワ警察の半数が辞職したという虚偽、騎馬警官が抗議者を殺害したというディープフェイク動画、Justin Trudeau前首相が戒厳令を宣言したという虚偽、5万台のトラックが占拠に参加しているという誇張が含まれていた。
この偽情報エコシステムは参加者の敵対的行動に深刻な影響を与えた。公式証言によれば、convoy参加者はオタワ住民に対して「脅迫、恐怖、性的嫌がらせ、人種差別、女性蔑視、反ユダヤ主義、イスラム嫌悪、同性愛嫌悪、トランスフォビア、その他のヘイトと不寛容の表現によって特徴づけられる」環境を作り出した。Ottawa People’s Commission公式報告書に記録された住民証言には、物理的暴力と言語的虐待、有毒ガスと武器化されたトラックホーン、道路と交通の封鎖、敵意と攻撃性の事例、そして多くの住民が安全上の懸念から自宅を出ることさえできない恐怖の環境が含まれている。これらの有害行動は最終的にオタワ市に緊急事態宣言を発令させ、連邦政府は緊急事態法を発動してconvoy参加者を強制排除せざるを得なくなった。その後の評価では、占拠は市に3,700万ドルの直接損害を与え、売上損失と賃金損失を含めた全体の経済的影響は2億ドルを超えたことが判明している。
偽情報はマージナライズドコミュニティに対しても組織的な攻撃を引き起こしている。LGBTQ+コミュニティに対する反LGBTQ+言説はこの数年で急激に増加し、学校委員会によるプライドフラッグ禁止、レインボー横断歩道の撤去、LGBTQ+個人への医療アクセス制限、公共空間での同性愛嫌悪・トランスフォビア的スラング、LGBTQ+コミュニティに対する暴力的攻撃とヘイトクライムの事例が増加している。カナダ安全情報局(CSIS)は、反LGBTQ+オンライン運動に触発された「ローンアクター」がプライドイベントを標的にする可能性について繰り返し警告を発している。1 Million March 4 Children運動は偽情報を活用して反LGBTQ+感情を増幅・動員した具体例である。
先住民コミュニティに対しては、寄宿学校否定論と和解努力を損なう組織的キャンペーンが展開されている。偽情報戦略は、カナダの寄宿学校制度における人種差別の証拠を非正当化し、距離を置き、疑念を投げかけ、否定するために用いられている。女性と女性コミュニティも標的となっており、ソーシャルメディアと性差別が女性政治家に関する偽情報に影響を与え、女性カナダ人ジャーナリストへのソーシャルメディア攻撃、女性リーダーシップを損なう女性蔑視と偽情報、女性の権利を攻撃する情報トロールと偽情報キャンペーンが記録されている。
健康分野では、カナダ医師会の2025年調査によれば、カナダ人の35%が健康偽情報を「やや信じやすい」、40%超が「非常に信じやすい」と回答している。偽情報への曝露は公衆衛生アウトカムに持続的影響を与え、回答者の43%が偽情報が自分をより不安にさせたと報告している。約5人に2人のカナダ人が医療へのアクセス不足のためにオンラインで健康アドバイスを求め、約3分の1が実際にそのアドバイスに従い、23%がその結果として悪影響を被った。
憲法的制約と政策対応の失敗
カナダ政府の偽情報への対応を理解する上で不可欠なのは、憲法上の制約である。カナダ権利自由憲章第2条(b)は「思想、信念、意見、表現の自由(報道およびその他のメディアコミュニケーションの自由を含む)」を保障している。1992年のR. v. Zundel判例において、カナダ最高裁判所は「虚偽の言論」を禁止する条項を表現の自由に対する不当な制限として違憲と判断した。この判例は、偽情報の広範な禁止が憲法審査を通過しない可能性を示している。
この法的制約の下、カナダの法律は特定の限定的状況における偽情報の害を標的とせざるを得ない。刑法には名誉毀損、ヘイトプロパガンダ(318〜320条)、詐欺(380条)に関する規定があり、競争法には虚偽広告に関する条項がある。Canada Elections Act第91条は、選挙結果に影響を与える目的で候補者の性格や行動に関する虚偽の声明を公開することを禁止している。
しかし偽情報を広範に犯罪化しようとする試みは繰り返し憲法上の挑戦に直面している。2018年のElections Modernization Actは候補者に関する虚偽声明の公開を禁止しようとしたが、2021年にオンタリオ州上級裁判所はCanadian Constitution Foundation v. Canada訴訟においてこの条項を違憲と判断した。理由は「虚偽性の認識」要件を欠いていたためである。つまり、加害者が共有前に虚偽を知っていたことを証拠が明確に示す場合のみ起訴できると法が明示していなかった。政府は2021年5月に迅速にCanada Elections Actを修正し、認識要件を復活させて虚偽声明禁止を憲法上有効にした。
2024年に政府は2つの重要法案を提出したが、いずれも議会を通過しなかった。Bill C-65(Electoral Participation Act)は、投票プロセスや選挙結果に関する虚偽情報を有権者を誤解させる意図で故意に拡散することを犯罪化しようとした。Bill C-63(Online Harms Act)は、ソーシャルメディアプラットフォームに削除義務を課し、新たなDigital Safety Commissionを通じて執行権限を拡大しようとした。両法案とも保護された言論への過度な介入の可能性について批判を受け、最終的に2025年の議会休会により廃案となった。
Online Harms Actには有用な条項が含まれていた。Digital Safety Commissionによる事件調査とコンプライアンス執行、Digital Safety OmbudsmanとDigital Safety Officeによる連邦政府への支援と助言、そしてカナダで既に禁止されている7種類のオンラインハームコンテンツ(性的被害、児童への害、憎悪・暴力・テロリズムの扇動を含む)の特定などである。しかし法案は非同意の親密コンテンツコミュニケーションの文脈でのみコンテンツ操作(ディープフェイク)に対処し、ディープフェイクの個人への害を超えた広範な社会的リスクには対処していなかった。
実務上、カナダは既存法と並んでプラットフォームの自主規制に依存している。Digital CharterやDeclaration on Electoral Integrityといった自主的措置が存在するが、これらは選挙前に主要ソーシャルメディアプラットフォームが偽情報を緩和し透明性を改善することに署名するもので、アルゴリズムが依然として有害コンテンツを押し上げる可能性がある企業の善意に依存しているため、その有効性は限定的である。
外国干渉委員会は政府の対応について、行動の遅延、調整の欠如、透明性の不足を批判している。委員会が指摘する重大な構造的ギャップは「情報から証拠へのギャップ」である。カナダ安全情報局(CSIS)やCSEといった機関が外国干渉の支援で収集した情報は、開示障壁と法的制約により法的証拠として使用できず、政府の刑事訴訟実施能力を制限している。委員会は、国内オンライン情報環境を監視し、複数の機関や市民社会と情報を共有する権限を持つ連邦組織の設立を推奨している。
EU規制モデルと国際的政策オプション
カナダの政策的停滞とは対照的に、欧州連合は包括的な規制枠組みを確立している。2024年のDigital Services Act(DSA)は、オンライン仲介サービスとサービスプロバイダーを規制する階層化された義務を設定している。DSAは規模と役割に基づいて異なる義務を課し、最大規模のプラットフォーム(Very Large Online Platforms、VLOPs)には厳格な要件を課している。VLOPsはEU人口の10%以上に到達するプラットフォームと定義され、システミックリスク(コンテンツ操作を含む)に対処する措置の実施を含む義務的リスク評価を実施しなければならない。DSAはコンテンツモデレーションと広告における透明性を強化することでユーザー保護を改善し、違法コンテンツのより迅速な削除を義務付けている。違法コンテンツには国内法に違反する偽情報が含まれる。監視と執行責任はEU委員会と各国当局が共同で管理する。
EUは2024年にArtificial Intelligence Act(AI法)も採択し、世界初のAI使用規制を実現した。AI法はリスクベースの分類を中心とした包括的AI統治枠組みを提供し、AIシステムを4つのリスクカテゴリーに分類している。「許容できないリスク」のAIシステム(操作や欺瞞技術を展開するAIなど)は完全に禁止され、「高リスク」のAIシステム(採用プロセスや重要インフラで使用されるAIなど)は健康、安全、基本的権利への潜在的有害影響のため厳格な規制要件に直面する。Article 50はAI生成またはAI改変コンテンツ(ディープフェイクなど)に関する具体的透明性要件を概説し、ユーザーに警告する明確なラベルを含む。組織は2026年8月までにAI法要件への完全準拠が求められ、非準拠のペナルティは最大3,500万ユーロまたは企業グローバル売上高の7%に達する。
ドイツのNetwork Enforcement Act(2017年)は、200万人以上のドイツユーザーを持つソーシャルメディアプラットフォームに厳格なペナルティを課している。プラットフォームはドイツ法に従ってユーザー苦情を審査することが求められ、24時間以内に違法コンテンツの削除に対応しない場合、最大500万ユーロの罰金に直面する。研究は24時間モデレーションウィンドウが有害コンテンツの拡散を大幅に減少させることを示している。
英国のOnline Safety Act(2023年)は、既存のコミュニケーション犯罪法制を更新してオンラインで拡散される虚偽情報の範囲を拡大した。2024年の極右抗議と暴動は、3人の地元児童殺害容疑者の身元に関する偽情報がソーシャルメディア上で拡散された結果、脆弱なエスニックコミュニティを標的としたものであった。さらなる偽情報駆動の事件を防ぐため、OSAは企業にコンテンツを分類し(優先および非指定カテゴリーの「違法」および「児童に有害」)、曝露を減らし、コンテンツを削除し、リスクを削減するシステムを整備する明確な義務を実施した。OSAはソーシャルメディアサービスが「safe by design」であることに言及しているが、法の下で設計コードの要件はない。
シンガポールのProtection from Online Falsehoods and Manipulation Act(2019年)は、法的枠組みを使用して虚偽のコミュニケーションに焦点を当て、政治広告の透明性を強化することでオンラインでの虚偽情報と声明の拡散を緩和することを目指している。法の目的には有料政治コンテンツに関する情報の完全開示の義務化が含まれ、選挙干渉を排除することを目標としている。法はオンラインプラットフォームに政治広告の登録簿を維持し、有料政治コンテンツを公開開示することを要求している。
カナダへの具体的政策提言としては、以下が含まれる。第一に、既存法の強化として、名誉毀損法の拡大により他の種類の損害を含めること、そして偽情報コンテンツが実証可能に虚偽であり、悪意で作成され、社会にとって不安定化する結果をもたらすか個人やグループに物理的害を引き起こすという基準の開発が必要である。Canada Elections Act第480.1条(なりすまし)は、声や画像の操作を含む(a)から(e)の段落に記載された個人のあらゆる誤表示に適用されるべきである。刑法への修正導入により、外国勢力による偽情報の作成または拡散を犯罪化すべきである。
第二に、監視メカニズムの強化として、スウェーデンのPsychological Defence Agencyや英国陸軍の対偽情報部隊(第77旅団)に触発された政府組織による監視を含むファクトチェックエコシステムの開発が必要である。偽情報がカナダの民主的実践に影響を与える可能性のある国内オープンソースオンライン情報環境を監視する政府組織を創設すべきである。この組織は適用法に準拠するよう構造化され、情報を提供し受け取る権限を持ち、国家安全保障・情報機関や国際パートナー、関連する市民社会や民間組織と協力すべきである。
第三に、プラットフォーム規制として、EU DSAの枠組みを使用してVLOPsを指定し、これらのプラットフォームにアルゴリズムがどのようにコンテンツを優先するか、偽情報を格下げまたはラベル付けするために使用される措置を含めて積極的に開示することを要求すべきである。EU DSAとドイツのNetwork Enforcement Actをモデルとした法制により、独立組織が有害コンテンツ(ヘイトスピーチ、暴力扇動など)にフラグを立てる権限を与え、プラットフォームに24時間以内の削除を要求し、さもなければ金銭的ペナルティに直面させるべきである。罰金はシステミック失敗と繰り返し違反者に対してプラットフォーム収益に比例すべきである(DSAの下でグローバル売上高の最大6%など)。
第四に、AI規制として、EU AI ActのArticle 50から触発され、プラットフォームにAI生成コンテンツのラベル付けまたはウォーターマーク付けを要求し、論争的なソーシャルメディア投稿に対する「確認クリック」を義務付け、ユーザーがエンゲージメント駆動フィードからオプトアウトできるようにすべきである。
カナダ民主主義の防衛に向けて
カナダは偽情報に対する二重の危機に直面している。構造的脆弱性としてのメディア環境の崩壊と、政策的停滞としての憲法的制約に縛られた断片的対応である。Metaによるニュース遮断、アメリカコンテンツの支配、右派オルタナティブメディアの台頭、生成AIとディープフェイクの普及は、カナダ人が真実と虚偽を区別する能力を系統的に損なっている。Freedom Convoyが示したように、偽情報は単なる情報の問題ではなく、暴力、経済的損害、民主的機能の麻痺を引き起こす実在の脅威である。
国際比較が示すのは、カナダの憲法的制約が行動の言い訳にはならないという事実である。EUはDSAとAI Actを通じて透明性義務と罰則を確立し、ドイツは24時間削除要件と高額罰金を実施し、英国は「safe by design」義務を導入した。これらの規制モデルはすべて表現の自由と民主主義防衛のバランスを追求している。カナダに必要なのは、既存法の強化、連邦監視機関の新設、プラットフォーム透明性義務、AI生成コンテンツのラベリング要件、そして安定的な公共放送資金供給を組み合わせた多面的アプローチである。外国干渉委員会が警告するように、情報から証拠へのギャップを埋め、機関間の情報共有を実現しなければ、カナダ民主主義の防衛は不可能である。偽情報との戦いは緊急性を増している。


コメント
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