自由の後退20年——Freedom Houseが記録した民主主義の構造的崩壊と「守護者」の撤退

自由の後退20年——Freedom Houseが記録した民主主義の構造的崩壊と「守護者」の撤退 言論の自由

 Freedom House(米国・ワシントンD.C.を拠点とする非営利・超党派の人権・民主主義調査機関)は2026年3月19日、年次報告書「Freedom in the World 2026: The Growing Shadow of Autocracy」を公開した。1973年から継続する同報告書は195カ国・13地域を対象に政治的権利と市民的自由を100点満点で評価するもので、2026年版は2025年1月1日から12月31日を対象期間とする。今年の版は単なる年次記録にとどまらず、過去20年間の累積データを横断的に分析した構造的評価を加えており、その結論は従来の警告トーンを超えた深刻な内容となっている。なお、Freedom HouseはUSAIDや米国務省などの政府資金を長年受けてきた組織であり、米国の民主主義促進外交と連動した視点が反映される点は、本報告書を読む際の前提として留意が必要である。

2025年の概況:54カ国が後退、自由人口は21%に

 2025年、世界の自由度は20年連続で後退した。54カ国が政治的権利または市民的自由において後退を記録し、改善は35カ国にとどまった。後退が影響した人口は世界全体の40%に達する一方、改善が及んだ人口はわずか7%にすぎない。現在、「自由」カテゴリーに分類される国に居住する人口は世界全体の21%であり、20年前の46%から半分以下に縮小した。

 2025年の単年最大下落はギニアビサウの8ポイント減で、11月の総選挙が武装集団による選挙委員会への乱入・投票用紙破棄というクーデターで中断されたことによる。タンザニアは7ポイント減と2番目に大きな後退を記録した。現職のサミア・スルフー・ハッサン大統領が「勝利」を宣言した選挙では、野党候補の資格剥奪、メディア規制、反対派への強制失踪、抗議運動に対する暴力(死者数少なくとも1,000名)が記録された。エルサルバドルとマダガスカルはともに5ポイント減で3位に並んだ。エルサルバドルではナジブ・ブケレ大統領の新インデアス党が支配する議会が大統領の任期制限を廃止し、任期を5年から6年に延長する憲法改正を成立させた。ジョージアは4ポイント、セルビアは3ポイントそれぞれ減少した。

 特筆すべき改善例として、ボリビア・フィジー・マラウィの3カ国が「部分的自由」から「自由」へと昇格した。ボリビアでは2025年総選挙で野党が政権交代を実現し、フィジーでは2022年選挙後の民主化進展が継続、マラウィでは現職大統領が敗北を受け入れた。これらは20年間の後退局面における数少ない肯定的事例として報告書は位置づけている。

後退の構造:4つの駆動要因と「部分的自由」圏の消滅

 報告書は20年間の後退を規定した主因として4つを特定している。第一は「暴力と武力紛争」であり、イエメン(スコア21ポイント減)や中央アフリカ共和国のように内戦が長期化した国では統治機能が失われ、女性や少数民族への暴力が組織的に行われてきた。第二は「クーデター」で、2019年以降アフリカで発生したクーデターは2025年に9件に達した(マダガスカルとギニアビサウが加算)。マリは過去20年で世界最大の53ポイント減という記録的な下落を示しており、2012年、2020年、2021年と続いたクーデターが民主的制度を段階的に破壊した経緯が分析されている。2025年にはマリの軍事政権がすべての政党を解散させ、大統領が任期を無限に延長できる法律を制定した。タイも1930年代の絶対王政終焉以来20回以上のクーデターまたは未遂を経験しており、2014年のクーデター以降の制度的損傷から回復できずにいる。

 第三は「民主的制度の侵食」であり、選挙操作・司法の政治的支配・反汚職機関の廃止などが典型的な手口として記録されている。エルサルバドルのブケレ政権は2021年に最高裁判事を全員交代させ、メキシコでは2024年の憲法改正で裁判官を国民投票で選ぶ制度に変更した結果、司法の独立性が形式的にも失われつつある。ハンガリーのオルバン・フィデス政権は2014年選挙前の選挙区の恣意的な再画定と不均等な議席配分によって議会での超多数を確保し、その後の憲法改正・司法再編・国際機関への抵抗を制度的に可能にした。これらの事例に共通するのは、一度設定されれば自己強化的に機能する制度的罠の構築という戦略である。第四は「権威主義的弾圧」であり、アゼルバイジャンはこの20年で33ポイントから6ポイントへと低下した。アリエフ大統領一族は国営石油会社を通じた利権分配で政治的忠誠を購入し、独立した人権弁護士はほぼ全員が資格剥奪または停職処分を受けている。

 報告書が特に注目する構造的変化が、「部分的自由」カテゴリーの縮小である。2005年時点で「部分的自由」に分類されていた59カ国のうち、「自由」に改善したのは9カ国にとどまる一方、「自由でない」に転落したのは19カ国に達する。同カテゴリーの国々は予測された民主化の方向に向かわず、むしろ権威主義化しやすい「中間段階の不安定性」を抱えていることが20年間のデータで示されている。ニカラグアとベネズエラはそれぞれ2018年と2016年に「自由でない」へ転落し、20年間の累積下落はそれぞれ49ポイントと41ポイントに達する。いずれも選挙による権力獲得を経た指導者が、段階的な制度解体によって権威主義体制を確立した経路をたどった。

最も深刻な3指標:メディアの自由・個人的表現・適正手続き

 過去20年間で最も大きく後退した指標として報告書が特定するのが「メディアの自由」「個人的表現の自由」「適正手続きの権利」の3つである。この3指標は権威主義国のみならず民主主義国においても侵食が確認されており、報告書が「体制横断的な問題」として強調する点に注目する必要がある。報告書はこれら3指標の後退が複合的な効果をもたらすと指摘している。メディアの萎縮は腐敗と権力乱用に関する説明責任を消し去り、表現の自由への圧力は公論形成の空間を狭め、適正手続きの欠如は異論を封じる強制手段として機能する。3指標が同時に劣化するとき、権威主義的な支配は制度の外形を保ったまま実質的に完成するという構造が20年間のデータから浮かび上がる。

 メディアの自由に対する攻撃は、規制強化→法的嫌がらせ(SLAPP訴訟を含む)→政府系資本による買収→独立メディアのライセンス停止、という段階的なパターンで進行する。ルワンダでは2010年に約30の報道機関が停止処分を受け、中国では習近平体制の確立以降に検閲が技術的に洗練され、メディアの自由スコアは2018年に100点満点中0点に達した。ハンガリーでは独立メディアがデジタルツール・協業・革新的な資金調達手段を駆使して生き残りを図っているが、政府系資本に支配された広告市場の中で機能し続けることの困難は増している。権威主義的な環境での典型的な最終段階として、ロシアは2025年1月にメディア組織2件を初めてテロ組織に指定した。この措置は法的根拠として「テロリズム」という包括概念を用いることで、報道機関の存在そのものに刑事的リスクを付与するという従来の弾圧手法の延長上にある。

 個人的表現の自由の侵食においては、デジタル監視と起訴のリスクが社会全体に委縮効果をもたらす点が強調されている。セルビアでは警察・諜報機関が「NoviSpy」と呼ばれる固有のスパイウェアを用いてジャーナリスト、市民社会関係者、抗議活動組織者のデバイスを標的にしており、逮捕・拘留・取調べの際にデバイスを密かに感染させる手法が確認されている。被害端末数は数十件から数百件に上ると推定されるが実態は不明である。このような監視の存在が広く知られること自体が、直接の摘発を受けていない市民の間でも自主的な発言抑制を促す——いわゆる「萎縮効果(chilling effect)」——として機能する点を報告書は強調している。ベラルーシ・イラン・ニカラグア・ロシア・タジキスタン・ベネズエラは2020年から2025年の間に個人的表現の自由スコアが最低値に到達した。これら6カ国ではソーシャルメディアの監視・民間人情報提供者ネットワークの活用・より厳しい罰則を設けた新法の適用が組み合わさり、社会全体を覆う抑圧的環境が形成されている。ロシアでは反戦言論への訴追件数が増加し続け、「国際LGBTムーブメント」に関連した起訴も新たに確認された。中国では習近平体制下での検閲強化にもかかわらず、2025年第3四半期だけでFreedom HouseのChina Dissent Monitorが約1,400件の抗議・異議活動を記録しており、前年同期比45%増・6四半期連続の前年比増という数値は、監視と抑圧の強化に抗う市民社会の持続性を示している。

 適正手続きの侵害については、トルコが典型的な構造分析の対象として詳述されている。エルドアン政権は2010年の国民投票を皮切りに司法の全面的な再編成を図り、2016年のクーデター未遂後は薄い証拠や秘密証言に基づく大量起訴が常態化した。2025年3月にはエルドアンの最大の政治的対抗馬と見られていたイスタンブール市長エクレム・イマモールが複数の疑惑で逮捕・未決拘禁に置かれ、最大2,000年の禁固刑を求刑される可能性がある状況となっている。司法の政治化が進んだ状況では公正な裁判が期待できないと報告書は評価している。香港では2020年の国家安全法により非公開審理と中国本土での裁判が可能となり、2014年の雨傘運動参加者への遡及的な重罪化も進んでいる。報告書が提示する「適正手続きの侵害→政治的反対勢力の無力化」という経路は、選挙や言論規制とは異なる形で民主的競争の空間を消滅させる手法として体系的に記録されている。指導者が政治的に危機にさらされるタイミングで司法が動員されるパターン——トルコ・中国・アゼルバイジャン・ベラルーシで繰り返し観察される——は、適正手続きの欠如が権力維持の構造的機能を担っていることを示している。

「自由」圏内の侵食:米国スコアが最低水準へ

 報告書が「自由」カテゴリーに分類する88カ国の中で最大の下落を記録したのは米国(3ポイント減)であり、2002年以来最低のスコア93から81へと、20年間で12ポイントの累積下落を示した。同期間に「自由」カテゴリーにとどまった国の中でナウルとブルガリアを除けば最大の下落幅である。報告書が特定する要因は、立法機能の慢性的な機能不全(米国史上最長の政府機能停止を含む)、行政府による単独権限の行使拡大、非市民の非暴力的表現に対する政府の弾圧によって生じた表現の萎縮効果、腐敗防止制度の弱体化の4点である。これらは2025年の単年的変化というよりも、複数年にわたる趨勢の累積として位置づけられている。ブルガリアは2024年議会選挙での不正買収の余波が続き3ポイント減、イタリアも移民支援NGOへの規制強化や腐敗防止機能の後退で2ポイント減を記録した。

民主主義国による支援撤退という新変数

 2026年版の報告書が過去の版と最も性格を異にするのは、自由の後退を外部から支援・抑止する側として機能してきた民主主義国自身の行動変容を、独立した分析対象として本格的に取り上げた点である。

 米国は従来、外国援助における世界最大の二国間ドナーとして、市民社会・独立メディア・腐敗防止機構・教育・人道支援を支えてきた。2025年1月の大統領令を受けてUSAIDは事実上廃止され、国務省の民主主義・人権・労働局は大幅に縮小されて新設の外国援助・人道調整官室に統合され、両組織が管理していた約805億ドルの援助がキャンセルされた。この変更は議会の事前承認なしに迅速に実施され、少なくとも129カ国で活動していた数千の団体に即座かつ壊滅的な影響を与えた。同大統領令は米国グローバルメディア局(Voice of America、Radio Free Europe/Radio Liberty、Radio Free Asiaを監督)の廃止も命じた。欧州諸国も同様の方向にある。ドイツは人道・開発予算を35億ユーロ超削減し、英国はスターマー首相が2025年に国際援助支出を40%削減すると発表し、過去25年で最低水準とした。

 さらに報告書が詳述するのが、選挙監視慣行の放棄である。2025年7月に発出された米国務省の指令は、外国選挙での不正を指摘する従来の外交的慣行を事実上終了させ、代わりに勝者への祝辞と二国間利益の確認に注力するよう駐外公館に求めた。同省は人権報告書のフォーマットを改訂し、選挙不正・政党制限・女性の政治参加に関する第3節を廃止した。この変化は、権威主義体制が「正当性」を対外的に演出するために活用してきた「ゾンビ監視団」——モスクワを拠点とするCIS(独立国家共同体)やSCO(上海協力機構)が派遣する、明らかに欠陥のある選挙を称賛あるいは批判を避ける国際監視団——の増殖と重なる。OSCE(欧州安全保障協力機構)や米州機構(OAS)などの信頼性ある国際監視団の評価が希釈される構造が強化されつつある。

 国際機関に対しても同様の圧力がかかっている。2025年9月の国連総会でトランプ大統領は国連を「課題解決の場ではなく障壁」と描写した。米国は複数の国連機関から脱退し、国際刑事裁判所(ICC)と欧州安全保障協力機構(OSCE)に対しても改変圧力をかけた。中国・ロシア・ベラルーシ・イラン・ベネズエラらが構成する「同志グループ」は人権理事会の議席操作や市民社会の参加妨害をこれまでも組織的に行ってきたが、民主主義陣営からの対抗力が低下することでその影響力はさらに拡大する構造が生じている。

地域別動向

 地域別に見ると、ユーラシアは唯一スコア改善を記録した国がゼロという結果となった。ロシアでは反戦言論・反戦活動への訴追増加に加え、「国際LGBTムーブメント」をすでに「過激主義組織」に指定していたことへの関連で新たな起訴が続いた。アゼルバイジャンでは、アルメニアとの関係改善を主張していた博士課程学生バフルズ・サマドフ(15年禁固)と少数民族タルィシュを研究していたイクバル・アビロフ(18年禁固)の2人の研究者が謀反罪で実刑判決を受けた。学術的立場から政府の外交・民族政策に批判的な視点を示すだけで重大な刑事責任を問われるという構造は、学問の自由の圧迫と個人的表現の自由の侵食が連動する事例として記録されている。ジョージアでは、政権与党ジョージアン・ドリームに批判的な立場の教授らが大学から解雇されるなど、教育システムへの政治的統制が拡大した。キルギスでは政府が独立メディアのKloopとTemirov Liveを「過激主義組織」に指定し、所属ジャーナリストを複数拘禁した。

 アジア太平洋地域では中国が、インターネット規制とオンラインコンテンツへの締め付けの高度化によりメディアの自由スコアを2018年に0点に到達させたまま推移している。ミャンマーは2025年12月に軍事政権が支配する限られた地域で「選挙」の第1ラウンドを実施した。野党候補は事実上排除され、有権者への監視・脅迫・多数の拘禁が報告されており、スコアは3ポイント減の4点(100点満点)となった。4月にはインド支配のカシミール地方で観光客を標的にしたテロ攻撃が発生し、インド・パキスタン間の航空攻撃・砲撃の応酬という短期的な軍事衝突につながった。中東では2025年6月にイスラエルとの12日間の軍事衝突後にイランが「諜報・協力」疑惑を名目に2万1,000人超を逮捕し、加えてイランで生まれたアフガニスタン人を含む180万人の移民・難民を適正手続きなしに国外退去させた。ガザ地区のスコアは100点満点中2点であり、ハマスとの停戦合意(10月)に至るまでの死者数は7万人超に達したと報告書は記録している。

報告書の結論と政策提言

 報告書の著者であるヤナ・ゴロホフスカヤ、カスリン・グロース、エイミー・スリポウィッツは、20年連続の後退が「危険なマイルストーン」に達したとしつつも、88カ国が依然として「自由」に分類され、2005年時点で「自由」だった87カ国のうち76カ国(85%超)が20年後も「自由」にとどまっていることを「民主主義の耐久性」として評価している。政策提言は3点に集約される。第一は「民主主義国間の連携強化と地域組織・国際機関での集団的行動」、第二は「国際民主主義支援の再設計」で、報告書は公的予算の削減リスクを指摘した上で民間・財団・民間セクターを含むグローバル・フリーダム・ファンドの創設を提案している。第三は「デジタル空間での若世代との関与強化」であり、メディアリテラシー教育と国家主導の情報操作への対策が求められている。これらは報告書著者の立場からの提言であり、Freedom Houseが資金・組織的に依存してきた外交援助体制の擁護として読む視角も不可欠である。

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