ジャーナリスト保護委員会(Committee to Protect Journalists、CPJ)は2026年1月21日、年次報告書「2025 Journalist Jailings Remain Stubbornly High; Harsh Prison Conditions Pervasive」を公開した。CPJはニューヨークを拠点とする独立系非営利組織で、1992年から世界各地での記者拘禁・殺害・行方不明事案を追跡・記録し続けている。毎年12月1日午前0時1分時点を「スナップショット日」として世界の拘禁記者数を確定するこの年次センサスは、2025年版で通算34回目を迎えた。
センサスには重要な方法論的限定がある。集計対象は「取材活動との因果関係が確認された拘禁事案」のみであり、非国家主体による誘拐・拉致事案や行方不明事案は含まない。また、「ジャーナリスト」はメディアの種別を問わず事実に基づく情報を定期的に報道・発信する者と定義される。この基準で集計された数値は、実態の下限を示すものと理解する必要がある——CPJ自身が「報告が届かないケースは数百件規模で存在する」と明記しているためである。
全体像:330名、5年連続300人超の高止まり
2025年センサスで確認された拘禁記者数は330名であり、2024年の384名(1992年以来最多)からは減少したものの、1992年以来3番目に高い数値となった。記者が300名以上拘禁されている状態が5年連続で続いていることになり、200名未満だった時代から10年以上が経過している。
拘禁の法的根拠として最も多く用いられているのが「反国家」罪であり、拘禁記者全体の61%を占める。テロリズム・スパイ活動・外国政府からの資金受領などがこのカテゴリーに含まれる。取材分野別では、政治報道が最も逮捕につながりやすい分野として記録されており、人権・汚職・戦争報道を上回っている。
拘禁期間の実態も深刻である。2025年センサスの330名のうち3分の1超が5年以上の服役中であり、半数近くが判決を受けていない。未判決拘禁者のうち26%は判決なしの状態で5年以上収監されており続けており、市民的・政治的権利に関する国際規約が要求する「不当な遅延なき公正な裁判」の原則に明確に違反する。釈放も一定数あり、2025年センサス期間中に116名が釈放されている。チュニジアのソニア・ダマニ(2025年のCPJ国際報道の自由賞受賞者)、ベラルーシのイリナ・スラウニカワら8名、エジプトのブロガー、アラー・アブドルファッターなどが含まれる。
ワースト拘禁国の顔ぶれと「外国エージェント法」の国際的拡散
2025年センサスのワースト拘禁国は、中国(50名・3年連続最悪)、ミャンマー(30名)、イスラエル(29名)、ロシア(28名・修正後)、ベラルーシ(25名)、アゼルバイジャン(24名)の順となった。アゼルバイジャンは前年の13名から24名へとほぼ倍増し、2018年以来初めてトップ10に復帰した。2023年のナゴルノ・カラバフ地域の軍事的奪還を境に独立メディアへの締め付けが急激に強化されており、独立系オンラインメディア・メイダンTVを標的とした一連の逮捕でジャーナリスト12名の裁判が2025年12月に開始された。タジキスタンも2025年に初めてワースト10に登場し(9名)、2022年以降の拘禁数増加が顕著である。
構造的な変化として報告書が注目するのが、ロシアが開発・体系化した「外国エージェント法」モデルの国際拡散である。独立系ジャーナリストや外国資金を受け取った報道機関を「外国エージェント」として登録・規制・起訴する法制度は、アゼルバイジャン・ハンガリー・エルサルバドル・ニカラグアで類似の立法が成立または審議されるまでに広がった。インドでは税務上の規制を利用した記者への法的圧力、チュニジアでは名誉毀損・安全保障法を根拠にした新たな起訴類型が記録されており、「外国エージェント」以外の法的手段による弾圧の多様化が進んでいる。
中国は「国家転覆扇動罪」など広義かつ曖昧な反国家罪を駆使した拘禁を続けており、2025年センサスで収監された50名のうち34名がこうした包括的な罪名による起訴である。香港を含む7名が「一国二制度」の形骸化の過程で逮捕・起訴された記者である。ミャンマーでは2021年2月の軍事クーデター以来のメディア環境の悪化が持続しており、30名の収監が確認された。ベラルーシでは2020年の大統領選挙不正疑惑への取材を直接の契機とした弾圧が続き、国外亡命中の記者60名超に対して刑事訴追が開始されたことも記録されている。
獄中虐待:1992年以来最多の拷問・暴行報告
今年のセンサスで特筆すべき新しい知見は、収監中の虐待報告件数である。収監記者のプロフィールの3分の1近くが虐待の申告を含んでおり、そのうち20%が拷問または殴打の申告を記録している。1992年のデータ収集開始以来最多の拷問・暴行申告数を今年の集計が更新した。申告件数が最も多い国はイランであり、イスラエル・エジプトがこれに続く。なお、CPJはイスラエルの拘禁施設における拷問報告について、現在も調査を継続中であり「集計数値が大幅に上昇する可能性がある」と明示している。
個別事案として報告書が詳細に記述しているのが、パレスチナの放送記者ファラ・アブ・アヤシュ(24歳)の事例である。2025年8月6日にヨルダン川西岸のヘブロン市でイスラエル軍に逮捕された彼女は、正式な訴追なしの行政拘禁という状態に置かれた。逮捕時には軍用犬に攻撃され、その後、漏水し続けるパイプに縛り付けられたまま一夜を過ごさせられたと弁護士に語った。「ホラー映画のような場所」と表現した西エルサレムのアル・モスコビヤ拘置所での独居拘禁は55日間に及び、医療放置・日常的な暴行・言語的虐待も受けたと申告している。続いて移送されたアヤロン刑務所では、害虫が大量発生した独房に収容されたという。
ロシアが占領するウクライナ南部メリトポリで活動していたウクライナ人記者アナスタシヤ・フルホフスカの事案は、虐待の深刻さをさらに直接的な形で示している。2023年8月に非公開の容疑で拘禁された彼女は、最初に地元企業のビルの地下室に設置された即席拘禁施設に収容された。後に同じ独房にいた元被収容者がウクライナメディアに証言したところによれば、フルホフスカの叫び声が聞こえ、本人から電気ショックによる拷問を受けたという話を聞いたという。現在収監されているキゼリ刑務所は、2025年11月に死亡が確認された記者ヴィクトリヤ・ロシチナが収容されていた施設と同一であり、被収容者への日常的な暴行が複数の報告書で記録されている施設である。
「民主主義国」という分類の内側
報告書が特に詳細に論じているのが、自由度評価機関によって「自由」または「部分的自由」に分類される国々が拘禁国として並立しているという構造的問題である。
イスラエルは2023年10月のガザ紛争開始以降、拘禁記者数を急増させ、2025年センサスでは29名(3位)を記録した。29名のうち27名が正式な訴追なしの行政拘禁という状態に置かれており、紛争期間を通じて90名超のジャーナリストが逮捕されたことも記録されている。国連人権専門家委員会は2024年9月にCPJが申請した3件の事案について、「仕事を理由とした恣意的かつ差別的拘禁」であり国際法に違反すると裁定したが、イスラエルはこの作業部会への関与を拒否した。報告書は、イスラエル国民が一定の市民的自由を享受する一方で、占領地のパレスチナ人には「根本的に異なる司法基準」が適用されていると専門家の見解を引いた上で記録している。
ジョージアでは独立系メディアNetsgazetiおよびBatumeliの設立者ムジア・アマグロベリが2025年1月に逮捕され、警察官への暴行罪で2年の実刑判決が確定した。CPJ・国際プレスインスティテュート(IPI)・国境なき記者団(RSF)は政治的動機に基づく起訴だと批判しており、アマグロベリは2025年12月の欧州議会サハロフ賞を受賞した。グアテマラでは調査ジャーナリスト・元週刊紙elPeriódico創設者のホセ・ルベン・サモラ・マロキンが2022年7月から恣意的拘禁状態に置かれており、2025年末時点で3年超に及ぶ。センサス日前に国外追放されたため最終集計には含まれないが、米国が2025年に入国管理局(ICE)による記者拘禁事案を初めて記録したことも本報告書に収録されている。
地域別動向
アジア太平洋地域は110名と全地域で最多の拘禁数を記録した。ベトナムは16名で3位に入り、2024年の指導者交代後も弾圧が深化していると人権団体が記録している。バングラデシュも4名が収監中であり、新指導部が改革を公約したにもかかわらず状況は改善していない。フィリピンでは、放送記者フレンチー・メイ・クンピオが6年近く有罪判決なしの拘禁を続けており、国連専門家が「司法の茶番」と断言した事案として記録されている。
アフリカ地域で際立つのがエリトリアである。16名全員が少なくとも20年以上収監されており、法的状況・健康状態・所在のすべてが一切明らかにされていない。CPJは1992年以来このデータを追跡しているが、エリトリアの記者たちは文字通りの「生き地獄」に閉じ込められ続けている。エチオピアでは5名全員がアムハラ地域の紛争報道に関連したテロ罪で起訴されており、うち1名は有罪なら死刑となる可能性がある。カメルーンでは4名が収監中で、大統領が公約した報道罪の非刑事化はいまだ実現していない。セネガルでは生涯刑判決が維持されたルネ・カパン・バッサーヌの事案が注目されており、CPJを含む180団体以上が釈放を求める連名書簡を発表した。ニジェールは2023年のクーデター後に法制度が変更され、5名が2025年末時点で拘禁されており、同国としてCPJセンサス史上最多を更新した。
欧州・中央アジア地域は96名で2位。ロシアが28名、ベラルーシが25名と高止まりが続くほか、タジキスタンが9名で初めてワースト10入りした。タジキスタンでは独立メディアの事実上の消滅を目指す取り組みが加速しており、2025年1月にもジャーナリストのアフマド・イブロヒムに10年の実刑判決が下された。トルコは8名で、数十年にわたる記者拘禁の慢性的な記録を今年も更新した。ジョージアでは与党がロシアに接近する形での報道弾圧が急速に進んでいる。
中東・北アフリカ地域は76名。イランは2022年のピーク55名から5名へと大幅に減少したが、経済的不正義を報道する記者や亡命メディアと協力したジャーナリストへの逮捕は継続している。収監中の処遇も厳しく、当事者や家族による詳細な申告がCPJの記録に含まれる。サウジアラビアは2019年のピーク27名から8名へと減少したものの、適正手続きを経ない形での処刑リスクや検閲行為が継続している。チュニジアでは3名が収監中であり、新たな法律が報道の刑事責任化を強化するものとしてCPJが警告している。
南北アメリカ地域は6名と全地域で最少だが、ベネズエラでは2025年2月にエディター1名、4月に記者1名とカメラマン1名が逮捕されており、いずれも選挙後の政治弾圧の文脈での収監として記録されている。起訴内容は「虚偽ニュース」と「憎悪扇動」であり、独立報道に対する刑事法の行使という点で中東・アジアと共通する類型に属する。
個人の顔——5事案の詳細
報告書は5名の現在も収監中の記者の状況を個別に詳述している。中国のDong Yuyu(董郁玉)は2022年2月に北京で日本の外交官との昼食中に逮捕され、2024年11月にスパイ罪で7年の実刑判決が下された。63歳の同氏は4年近く家族との面会を禁止され、弁護士との月1回の接見が唯一の外部との連絡手段だった。家族は2025年12月に初めて面会することができた。控訴は3度延期された末に2025年11月の審理で棄却されている。CPJは中国の習近平国家主席と王毅外相に宛てた書簡を送付し、米議会・米国務省・EU代表部への働きかけも継続している。
グアテマラのサモラ・マロキンは判決が覆された後も2024年11月に再収監され、前回収監中に受けた待遇が「拷問または残酷で品位を傷つける扱いに相当する」という内容を含む国際法チームによる国連への申請が提出されている。睡眠剥奪・不必要な拘束具・不衛生環境・サディスティックな屈辱的儀式が申告内容に含まれる。CPJは2025年にグアテマラ大統領と3度会談し、アレバロ大統領が国連総会でこの事案を政治的迫害の実例として公開言及するに至った。
報告書の主張:記者迫害は権威主義の加速装置
報告書全体を通じてCPJが繰り返すのが、「記者の拘禁は権威主義の症状ではなく、権威主義を加速させる装置である」という命題である。報告書はメディアへの攻撃と民主主義の衰退との間に明確な相関関係があることを示す複数の研究を引用し、「汚職は野放しとなり、権力の乱用は横行し、社会全体がリスクにさらされる」というCPJ最高経営責任者ジョディ・ギンズバーグの言葉を本文の中核に据えている。
CPJの支援活動は拘禁中だけでなく、釈放後にも及んでいる。CPJが収監記者に支援を提供した件数は2021年の7名から2025年の36名へと5倍超に拡大した。釈放後支援を受けた記者数も前年比2倍となっており、医療・心的外傷・法的支援が複合的に必要となる回復過程の複雑さを反映している。また、国際的な無罪判定メカニズムが存在しないことが誤った容疑で収監された記者への救済を阻んでいるとして、CPJはその創設に向けた取り組みを支援している。
CPJはワシントンD.C.の政策立案者・国務省・議会への働きかけ、EU代表部や国連機関を通じた外交的圧力、国際法専門家チームによる法廷外申請など、多層的なアドボカシー活動を展開している。その活動記録は本報告書の個別事案ごとに詳細に記載されており、単なる実態記録ではなく継続的な介入活動のドキュメントとして機能している。この点において本報告書は、Freedom HouseやReuters Instituteの報告書と異なり、アドボカシー組織が自らの活動を証拠として提示するという性格を強く持っており、読者はその視点を念頭に置いた上で参照することが求められる。

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