2024年の振り返り:偽情報対策と民主主義のバランス ― 揺らぐ「ガードレール」

偽情報の「利用」と選挙への介入 偽情報対策全般

 2024年――この1年は「民主主義の危機」が世界中で鮮明になった年でした。民主主義は「国民の意思によって政治を決める」という理想のシステムです。しかし、民意が感情や短期的な流行に流されてしまうこと――民意の暴走は、古代ギリシャから続く民主主義の永遠の課題です。

 ソクラテスが多数決によって処刑された歴史は、民主主義が衆愚政治へ傾く危険性を示しています。そのため、近代の民主主義は、国民に「主権がある」と感じさせながら、衆愚政治に傾かないための仕組み――「ガードレール」――を構築してきました。

  • アメリカの 二大政党制:極端な主張を抑え、政治の安定性を担保する。
  • 日本の 官僚制度 と メディアの仲介:感情的・扇動的な政治を抑え、一貫した政策を実行する。

 しかし、SNSの登場によって、これらのガードレールが揺らぎ始めています。SNSは情報の流れを根本的に変え、本当の意味で国民が政治参加できる状況が現れつつあります。


SNSの台頭:民主主義のガードレールが崩れた理由

 民主主義のガードレールを支えてきた「政治」「メディア」「情報の仲介」の役割が、SNSの登場によって崩れつつあります。

(1) 政治家の直接発信とポピュリズムの加速

 従来、政治家の発言や政策は新聞やテレビといったメディアを通じて精査され、国民に届けられていました。しかし、SNSはその仲介を飛び越え、政治家が直接、有権者に訴える場を提供しました。これにより、感情的でシンプルなメッセージが拡散されやすくなり、ポピュリズムが加速しています。

例:2024年アメリカ大統領選
 トランプ元大統領は、SNSを駆使して自身の支持基盤を固めました。選挙戦中、マクドナルドで働く庶民派の姿を投稿するなど、日常に寄り添うイメージ戦略が拡散され、多くの有権者から支持を集めました。一方で、その直接的で感情的な発信は、「冷静な政策議論」を後回しにするリスクを伴いました。


(2) 情報の「仲介者」としてのメディアの弱体化

 従来、新聞やテレビは「情報の仲介者」として、政治や選挙に関する発言・情報を精査してきました。しかし、SNS時代では、真偽不確かな情報がメディアの仲介なしに拡散されやすくなり、民主主義のガードレールが崩れつつあります。

例:2024年兵庫県知事選 (関連記事: 斎藤元彦氏の兵庫県知事選:ナラティブの力、偽情報、そしてメディア信頼低下が導く新時代)
 兵庫県知事選では、NHK党の立花孝志氏がSNSや街頭演説を活用し、真偽が曖昧な情報も含めて積極的に発信を行いました。

  • 斎藤知事への批判の反論:SNSでは、斎藤氏への批判や疑惑が広がる中、立花氏がそれらに反論し、「正当性」をアピールしました。
  • メディアの影響力の低下:メディアの方向性と異なる情報がSNS上で拡散され、有権者の印象が形成されました。

(3) 偽情報の「利用」と選挙への介入

 さらに深刻なのは、偽情報や真偽不確かな情報が意図的に利用されることです。SNSを通じて国内外の勢力が選挙に介入し、民主主義を操作しようとする動きが顕在化しています。

国内の事例:2024年衆議院選挙

  • 候補者に関する捏造発言や動画が拡散され、有権者の誤解を招きました。
  • 「開票作業に不正がある」という陰謀論が拡散され、選挙そのものへの不信感が生じました。

海外からの介入
選挙への影響力を行使する目的で、外国勢力が偽情報を拡散する事例も確認されています。

  • アメリカの事例:過去の選挙では、ロシアがSNS広告や偽ニュースを用いて世論を操作しようとしたことが報告されています。
  • 日本への懸念:日本でも、SNSを通じて海外から選挙情報を歪める試みが行われるリスクが指摘されています。

政府が偽情報対策をするということ

 民主主義の安定を守るために、政府は偽情報対策に取り組む必要があります。しかし、その取り組みが国民に「情報統制」と感じられれば、「国民が主権を持つ」という民主主義の根幹が揺らぎます。

  • 偽情報対策:衆愚政治を防ぎ、選挙の公正性や情報の透明性を確保。
  • 情報統制のリスク:「真実」を誰が決めるのかという問題や、批判的な意見の封殺という危険。

 政府には、偽情報の放置による衆愚政治のリスクと、情報統制による民主主義の正当性の喪失という、相反する課題のバランスを取ることが求められています。

まとめ

 2024年は、民主主義がSNSによる情報環境の変化で新たな危機に直面した年でした。政治家の直接発信、メディアの弱体化、そして偽情報の拡散――これらが民主主義のガードレールを崩壊させつつあります。

 政府が「衆愚政治」を防ぐために偽情報対策を強化することは、必要不可欠な試みです。しかし、その対策が「情報統制」と受け取られれば、国民が「主権を持っている」という感覚が失われ、民主主義の正当性そのものが揺らいでしまいます。

 偽情報対策と国民の主権意識のバランスは現代の民主主義が抱える最大の難問であり、避けて通れない課題です。

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